魔法
――― …どれ程の疑問をオレは抱いているのだろう… ―――
オレたちは『春の森』に入った後も一本道を歩き続けた。道の遠く先に小さな灯りが見える。しばらくすると小高い丘の上にあるログハウスがうっすら視界に入ってきた。オレたちが目的地に辿り着いたのは真夜中であった。ドアをノックすると中から返事が返ってきた。
「まさか生きて戻ってくるとは思わなんだ。まぁ、中に入ってくるがよい」
オレたちは家の中に案内され席に着いた。中央には年季の入った大きな木製のテーブルがあり、オレたちが座っている椅子以外にも十席程の椅子がある。オレが最初にこの家で目が覚めた時は一刻も早くこの場を去りたかった事もあり、この家の事情は何も知らない。だが、今は妙に落ち着くというか安心感がある。そんな事を思っていた。魔女コスプレの『ちびっ子』は紅茶を作ってくれていたらしく三人分のティーカップと、マドレーヌを持って来てくれた。
「さて、まずはお主の名を聞かせてもらおうかのぉ」
確かに。最初にここで目覚めた時、オレはこの『ちびっ子』に関わりたくなかったから名前すら教えていなかった。『ちびっ子』の名前はミウだったかな? など今朝の事を思い出しながらオレは言った。
「オレの名前は風牙。今朝はせっかくの忠告を聞かず、すみませんでした。」
「まぁ、よいよい。で、そちらのお嬢ちゃんは?」
おいおい…『ちびっ子』がリサに対して「お嬢ちゃん」はさすがに無いんじゃねーか…
「はい、私はリサと申します。」
「ふむ、ではワシの自己紹介の番じゃな! 皆の者! 聞いて驚け!
ワシがあの超有名な、そして生きる伝説と言われている大魔導師ミウ様じゃ!!
………
……
…
なんで驚かないのじゃ…?」
オレもリサも、ミウが大魔導師であるということは道中の話の中である程度確信していたのだが…
「ミウよ… 敢えて正直に言おう… 見た目とのギャップが有りすぎてウソ臭い… てか、イタい… 」
(ガーーーーン)
思いっきり凹んでるな…。てか半泣きじゃねぇか。そこまで凹むか? オレが大人気無かったのか? ふとミウから視線をズラすと(あ~あ、やっちゃいましたね… やれやれ… )みたいな目でオレを見ているリサと目が合った。そんなにオレが悪かったのか! でもどう考えても中学生、下手したら小学生にも見えなくないし、この喋り方だし仕方ない! うん! 仕方がない! これは事故だ! 真実は時として非常に残酷なものなのだ… 。
ま、そんな茶番は置いておいて、ミウとリサから聞いた話を元に、オレの疑問に対する答えをまとめてみる。
まず、この世界はオレの知らない完全な異世界だということだ。オレがいた世界とは地図も名前も違う。また、文明も発達していないようだ。携帯電話を見せても、単なる鉄の板という認識だった。まぁ、電源が入らなけりゃ確かに薄っぺらい鉄の板に間違いない。ただ、携帯電話の機能を説明したところテレパシー系の魔法と似たようなものだと二人揃って納得していた。
そう! つまり、この世界では魔法は当たり前に使われている! ということがわかったのだ! 無いわー! 異世界から召喚された上に、魔法が使える世界とか! ベタすぎるわー! 凹むわー! ま、嘆いていても仕方ない。
で… だ。実際に見てはいないが、話を聞いていると、文明レベルは中世ヨーロッパの様な感じだと思う。そして、この世界には三つの大国、つまり三大勢力があり、現在は休戦状態にある。だが、いつ戦争が再び起きてもおかしくない状態だそうだ。もうこれって国の争いに巻き込まれるフラグ立ってんじゃね? なんか悲しくなってきたわ…
あと、三大勢力以外にもいくつかの国は存在するらしいのだが、言語・文字・通貨は全て共通である。つまり、オレが普通にミウたちと会話ができているということは… 、なんと! この世界の言語は日本語なのである! ただし、文字と通貨は異世界のものである。
また、未だに開拓されていない土地も多く存在するらしく、正にこの大森林がそれに当たる。そういう未開の地には魔物などの凶暴な生命体がいるので、踏み入る際は注意しないといけないそうだ。ま、オレの世界でいうところの狼とか熊みたいな感覚で話していたな… ははは… てか、スケルトンって生命体なのか??
ざっくりだが、大体この世界がどういう感じかはある程度わかってきた。
次にリサについてだ。なぜ彼女が大森林にいたのか? それは大魔導師に会わないといけない理由があったからだ。リサはこの世界について非常に詳しく、様々な文献について調べていくうちに、この大森林に大魔導師が実際に存在する可能性が極めて高いと判断した。そこで大魔導師に会うべく大森林へ入って来たものの、スケルトンに襲われオレと出会った。
ちなみに、リサも魔法を使うことができるらしいが、回復・治癒系の魔法しか使うことができないそうだ。最初はオレの事を大魔導師だと思っていたようだが、此処にたどり着くまでの道中にオレの今までの経緯を説明したこと、そして、ミウに直接会ったことから誤解は解けた。
ミウと出会ったリサは、ミウこそが大魔導師であると確信した。その結論に至った理由は魔法にある。魔法を発動させるには魔法詠唱を行わなければならない。要するにお経みたいなものだ。オレも実際に軽く見せてもらったけど何かをぶつぶつ言っていた。高度な魔法になればなるほど魔法詠唱も長くなり時間がかかるそうだ。
魔法を発動させるには魔法詠唱だけではなく、マギアウラというものが必要らしい。また、魔法には階位、つまりレベルの様なものが存在していて、数字が大きければ大きい程、高度な魔法であるとされている。一般の魔術師が第二階位魔法を使用すると、数日間は何も魔法を発動できなってしまう。つまり、マギアウラとは精神力から生み出される気の様なものだと思って良い。ま、単純にゲームで言うところのMPだ。半信半疑だったオレに対し、ミウは「試しに… 」ということで、第三階位魔法を二回連続で発動してもらった。しかし、彼女は何事も無かったように平然としている。
なぜミウは第三回位魔法を連発して平然としていられるのか? それは彼女が人間ではなく、いわゆるヴァンパイアと人間のハーフだからである。ちなみに、陽の光や十字架、にんにく等の類は全くもって効果がないらしい。普通にヴァンパイアとか言ってるオレって… もう諦めるわ… 。ミウのマギアウラは元々が上位魔族級なのであるが、更にその力を蓄える事ができるらしい。
あと、ミウが大魔導師として伝説になっているのは、四百年以上生きている事もあるが、普通の人間では扱えない魔法を発動させることができるからである。現在、人間が把握しているのは第四階位魔法までである。六年前の大戦時、当時の最高位魔術師であった四名が一堂に会し、ようやく発動できたという記録が残っているそうだ。しかし驚くことにミウは、それを遥かに上回る第七階位魔法を実際に使っている。それがこの結界だ。そりゃ、普通の魔物は近寄らないわけだよ… ミウさんマジ無敵っす!! リサが古代の書物を調べたところによると、古代には更に高度な第十二階位魔法までが存在していたという。
最後にオレのことだ。スケルトンに襲われた時の出来事をミウに尋ねてみたが何も知らないと言っている。オレはてっきり、彼女が救ってくれたものだと思っていたのだが… 。しかし、話を聞いてみると、確かに他人の体から魔法を発動させることはマギアウラの事を考えると無理だと思う。仮に発動させることが可能であったとしても、あの時、魔法詠唱を行う時間は無かった。そして、オレが聞いた声も謎だ。その場に居合わせていたリサは全く知らないと言っている。更に言えば、一本道さえもリサには見えていなかった。何がどうなっている?? なんだか疲れた。
とりあえず、オレは寝ることにした。