召喚
――― …どの位の時間、オレは眠っていたのだろう… ―――
オレは不意に目が覚めた。ただ本当に目が覚めているのかは定かではない。もしかすると夢の続きではないのか? と思うほど身の回りの状況が変化しているからだ。オレは今、部屋全体が木で造られているログハウスのような建物の中に居る。今までに見たことがない場所だ。
状況が理解できなかったオレは、自分の体を抓ったり、軽く叩いてみたが、どうやら夢ではないらしい。とりあえず寝起きということもあり、働かない頭で今の状況を考えながらベッドの上に腰をかけた。余りにも意味がわからず呆然としていると、入口のドアが開き、誰かが部屋に入ってきた。
ドアから入ってきたのは一人の少女だった。ハロウィンの仮装の如く魔女の格好をしている。しかも、かなりリアルだ。本物の魔女にお会いしたことはないがオレはそう思った。街で売っているような安っぽい生地ではないというのは一目でわかる。コスプレイヤーなのか? いや、そんなことよりも、今、自分が置かれている状況を彼女に聞こうと考えたのだが、オレよりも先に少女が口を開いた。
「お主は本当に『伝説の魔人』か?」
「 は? 」
思わず口に出してしまった。ヤバい…この子、完全に中二病をこじらせている。どう考えても『伝説の魔人』とか無いでしょ! てか、無いわぁー。とにかく余り深く関わらないようにしてこの場を去ろう! うん! そうしよう!
「いや、申し訳ないけど、自分は『伝説の魔人』では無いですねぇ…。
ところで、ココはどこなんでしょうか… ?
なんでオレ、ココにいるんですかねぇ~?
とりあえず家に帰りたいんですけど… 」
相手の機嫌を損なわないよう様子を伺いながら尋ねてみた。特に機嫌を損ねたということは無かったようで淡々と少女は答える。
「… やはり『伝説の魔人』では無かったか…
ちなみに、ここは『ルーシアン帝国』領、東部に位置する大森林の中。
しかも大魔導師の住処じゃ。
そして何を隠そう! ワシがその『大魔導師』ミウ様なのじゃ!
どうだ! 恐れ入ったか! わははは! 」
(じーーーーー)オレの冷たい視線が少女を突き刺す。
(コホン! )少女は軽く咳払いをして話を続けた。
「で、じゃ。
『伝説の魔人』を召喚しようとしたらお主が現れた。
召喚が失敗したようには思えんかったが、見たところお主は普通の人間。
しかも、召喚された後、お主はずっと眠りっぱなしだったので、そこのベッドに寝かせておいたのじゃ。
あと、聞きたかった事は何だったけかのぉ~…
あ~、そうそう!
家に帰りたいと言っておったな…
残念じゃが、お主を元の世界に戻すことはできぬ。
可哀想だから、ワシの弟子にしてやろう! 」
「はぁ…、そうなんですね…。
せっかくのお誘いなんですけど、オレ、家に帰りたいんで、弟子になるのはお断りします。
申し訳ないんですけど… 失礼しますね… 」
やっべ! 全然話にならん! なんだよ『ルーシアン帝国』とか『大魔導師』って! とにかく外に出てまともな人に聞いてみよう。そんな事を思いながら外に出る準備をする。準備といっても身の回りには何も無いが、ズボンに入っている携帯電話と財布を確認できた。携帯電話はバッテリーが切れていて電源が落ちているが、財布はそのままで何も盗まれてはいないようだ。これで十分だろう。
「では。なんかお世話になりました~」
そう言って外に出るためドアに向かおうとすると、真剣な顔で少女が言った。
「お主、外に出たら多分死ぬぞ。
この周辺にはワシが結界を張っているから『魔物』が近寄らないだけじゃ。
結界の内側なら大丈夫じゃが、外に出てしまったら命の保証はないぞ。
本当に良いのか? 」
オレは笑顔で会釈し、その言葉を無視するようにドアを開いた。そこに広がっていた光景は確かに大森林と呼べるような森の中だった。整備された道はない。ただ、長年使われていないであろう道が一本、先へと続いている。超ド田舎じゃねーか!
それにしても今日は天候も良く、心地よい日差しである。周りには小さな花々が咲いていてピクニックをするには最高のシチュエーションだと思った。ん? てか今は春だったっけ? ま、いいか。それにしても、あの女の子、中二病じゃなかったら可愛いかったのになぁ…。声も可愛いかったのにあの喋り方は残念だ。あと、ピンクの髪の毛は染めたのかなぁ? など考えながら歩いている。
とりあえず、オレは一本道の先を目指した。