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生まれ出でる聖なる人

 雪原に倒れ伏したアルトリウスの姿に、ベオウルフは白く煙る息を吐きながら、構えを解く。

「おわったか……」

「ベオウルフさんっ!」

 そんなベオウルフに駆け寄ってくるのは、古代の衣服に身を包んだ少女を背負ったまりなだった。

「主……何してんの、お前?」

「え?」

 ベオウルフは慌てた様子のまりなを振り返り、にっこりと笑みを浮かべた後、

「危ないから逃げろって、言っただろうがぁああああああああ!」

「きゃぁあああああああああ!? いたたたたた、イタイですぅ!?」

 ウメボシと呼ばれる、両拳を回転させながら相手の頭を挟み込むというオシオキ攻撃を食らわせた。

「まって、待ってベオウルフさん!? これには事情が!」

「事情だぁ!? 苦労して俺たちが助けたテメェの命以上に、優先する事情ってのがあるのかよ、主っ!!」

「ありますっ!!」

「――っ!?」

 だが、まりなの口から飛び出た思いがけない強い口調に、ベオウルフは思わず攻撃の手を止めた。

「アルトリウスさんを、これ以上苦しめないためにっ!」

「何を言ってやがる?」

 ベオウルフがまりなの「苦しめないため」という主張の真意をいまいち計りかねているときだった。

「まだだ……!!」

「っ!?」

 倒れ伏していたはずのアルトリウスのかすれた声が聞こえ、ベオウルフは慌てて拳を構える。

 ベオウルフの視線の先では満身創痍になったアルトリウスが、フラフラと、しかし足にしっかり力を込めて立ち上がっていた。

「ここで止まるわけにはいかないんだ……。何のために、何のために今まであの愚か者のもとで雌伏の時を過ごしてきたと思っている。やめるわけにはいかないんだ……止まることはできないんだよぉおおおおおおお!!」

 絶叫と共にどす黒い魔力が、アルトリウスの体から放たれる。魔力を憎しみが汚染し、体内から放出されるそれを黒く染めているのだ。

 それは悪霊化の第一段階。英雄が鬼へと落ち、すべてを滅ぼす災厄の前兆。

 それを知っていたベオウルフは、まりなをかばうように背中に回し、

「てめぇ! どうやら頭を冷やしたりなかったらしいな!!」

 いまだに英雄器としての力を持っている左手を拳で叩き、パシリと音を鳴らすベオウルフ。その姿は先ほどまでの臨戦態勢の物で、目の前で立ち上がったアルトリウスにとどめを刺さんと言わんばかりだった。

 だが、

「ま、待ってくださいっ! 《ハウスっ!!》です、ベオウルフさん!!」

「なっ!? 何をしやがる、主っ!!」

「力であの人を止める段階はもう終わりましたっ! ここからは……」

 拳をふるおうとするベオウルフに、まりなは突如飛びついて、縛印すら使用しその行動を止めた。

 その行為に面を食らい、固まるベオウルフの傍らを一人の少女が駆け抜けた。

 雪の上を歩きなれていないのか、何度も何度も雪に足をとられながら、それでも前にすすむ少女は、先ほどまでまりなに背負われていた少女だった。

「あの人の……妃御子さんの仕事です!」

「妃御子?」

 見たところ一般の人間よりも保有魔力量が高く、体の構成材質も物質ではなく魔力が変換されたものだ。

 そのことからかんがみるに、

「あいつは英雄霊だろう? 誰の英雄霊だ?」

「シンドー君の話にも出てきていたでしょう? ブランシュタウナー家のお兄さんの英雄霊さんです」

「……あの虐待を受けていた巫女本人か!?」

 だとしたらなおのこと不味い。彼女だってそれ相応の恨みをブランシュタウナーに抱いているだろう。下手をするとこのままアルトリウスをたきつけて、先ほどの再現をしかねない。

――やはり縛印に逆らってでも止めるべきか。と、危機感を覚えたベオウルフは、全身に張り巡らされた縛印の拘束を、《|我が真名の宿りし辣腕《ノーマン・ネイリング=ベオウルフ》》を使用し力ずくで破ろうとするが、もう遅い。

 妃御子はすでにアルトリウスの前に到達していた。

 最後の最後で雪に躓き、アルトリウスの前に倒れ込むという情けない姿を見せたが、それでも彼女はたどり着いた。

「……おまえ」

 そして、突然現れて目の前で倒れ伏した少女の姿を見て、アルトリウスはぼろぼろになった顔の中で、わずかに目を見開かせる。

 だが、その変化もすぐに消え、ベオウルフと戦っていた時の怜悧な表情が、再びアルトリウスの顔に張り付いた。

「どけ……俺は復讐をせねばならん。お前はもう自由なのだから……こんなバカげた戦になど関わらず、ここからすぐに離れろ」

「……!!」

 しかし、そんなアルトリウスの冷徹な声音の言葉に、妃御子は必死に首を振り、アルトリウスのグリーブを弱々しく握りしめた。

 まるで、もう動かないでと言いたげに。

 アルトリウスは怜悧な表情のままだったが、その手を力づくでその拘束から抜け出そうとはしなかった。

 その気になればあんな弱りきった少女の手など、払いのけることは造作ないだろうに……アルトリウスは固まったままだった。

「どういう……ことだ?」

 それどころか、先ほどまでは結界の中を埋め尽くさんと言わんばかりに広がっていたアルトリウスの黒い魔力が、見る見るうちに収束していく。

 まるで毒気を抜かれたように、空気中からピリピリとした雰囲気が消えた。

 まりなもそれを感じ取ったのか、ほっと一息ついた後、

「よかった……」

 心底安心した表情で、にっこりとほほ笑むのだった。

              ◆         ◆

――何のつもりだ?

 自分の足にそれ以上はいくなと言いたげに弱々しく縋りつく少女の姿に、アルトリウスは混乱する。

 いつのまにか復讐に濁っていた思考が、やけにクリアになっている気がしたが、今はそんなことよりも眼前の少女の目的の方が問題だった。

「鞘で安全は確保されているはずだ。この迷宮にいる限り、レイヴェルの縛印は効果を発揮しない。おまけにお前はこの迷宮でシンドーの捨て駒となる予定だったのだろう? レイヴェルからくみ上げる魔力を最小限にして、死んだという風にふるまえば、お前はもう自由にこの迷宮で過ごせる。我のことなど気にせずに、さっさと迷宮の町に紛れるなりなんなりすればよかろう?」

――なのにどうして。と、アルトリウスは心の中で、

「どうして」

 口に出して、

「どうして我を止めようとするのだ!?」

 悲しげに叫んだ。せっかく助けた命を無碍にするようなまねをするなと。自分の復讐のために、人を殺そうとするような危険人物の前に立つなと、アルトリウスは絶叫する。

 だが、そんな彼の声を聴いてなお妃御子はグリーブを握った手を離すことはなく、そのままゆっくりと顔を上げ、

「っ!」

 精一杯の笑顔を、アルトリウスに向けた。

 そして、彼女の口はゆっくりと動きだし、

「あ……ア゛」

 枯れ果てたはずの喉から、声が出る。

「あい゛がどう……。たずげでぐれで。でも、もうい゛い゛。もう、い゛い゛よ。ごれい゛じょう自分を、ぎずつげないで」

「……お前」

 一言発するたびに、喉を引き裂かれるような痛みを覚えているだろうに、妃御子は必死に笑いながら、アルトリウスにその言葉届けるためだけに……ここに来たのだ。

「馬鹿者め……。一番傷付いているのはお前であろうに……。ここに来るのにも苦労したろうに……。こんな誰にでもわかるような浅はかな間違いを犯した王のために、お前はここまでやってきたのか」

 冷たく固まっていたアルトリウスの顔が、初めてクシャリと歪んだ。

 同時に、死んでも立ち上がるといわんばかりだったアルトリウスの膝がはじめて折れ、アルトリウスは崩れ落ちる。

 何かに安心したように、何かに救われたように、安らかな笑みにいくつもの涙をこぼしながら、

「あぁ、だがようやく分かったよ。我がしたかったことは……復讐でもなんでもなかったんだなぁ」

 アルトリウスは妃御子の手を取り、

「我は、お前が安心して過ごせる世界を……ただ作りたかっただけなのだな」

 そのために彼はシンドーの死を望み、彼の兄――レイヴェルの死を望んだ。

 万が一にも、妃御子が生きていると聞いて、あの二人が妃御子の平穏な生活を汚さないように……後々の禍根を断とうとした。

 自分の、本当の戦う理由をようやく自覚したアルトリウスは、こちらをじっと見つめるベオウルフたちに、笑いかけ、

「迷惑をかけたな、《辣腕王》。最後に一つ頼みがある」

「……なんだ?」

「この子のことを、よろしく頼む」

 はるか昔……国を愛し、民を愛し、何よりも人を愛した国王の顔になりながら、

「い゛ぐの?」

「あぁ……最後まで面倒を見てやれなくてすまない。私はもう……」

――お前の笑顔が見れただけで、満足だよ。と、かすれた声で告げながら、アルトリウスは輝く魔力の粒子となって世界にとけて消えた。

              ◆         ◆

 自分の手の中で、アルトリウスの大きな手が消えてしまったのを見た妃御子は、光の粒子が完全に消えるまでは、必死に笑顔を取り繕っていた。

 だが、その光が消えたと同時に、

「―――――――――――――!」

 顔をゆがませ、声が出ない喉を必死に振るわせ、無音の泣き声を世界に響かせた。

 悪魔のような主のもとに望まぬ召喚をされてしまい、地獄のような生活を送り続けていた少女。そんな彼女が、初めて自身を助けてくれたあの聖剣王にどのような感情を抱いていたのかは、流石のベオウルフも予想できなかった。

 ただこれだけは言える。

「あいつは、あの娘にとって大切な奴だったんだな……」

「えぇ。そしてアルトリウスさんにとっても、妃御子さんは絶対助けたい人だったんでしょう……幸せに、なってほしい人だったんでしょう」

 だからこそ、こんな悲しい間違いは、二度と起こさせちゃいけないんです。と、まりなはギュッと拳を握りしめ、

「よ、ようやく死んだか! あの出来損ないの使い魔(ファミリア)め!!」

 やぶの中から、シモンに拘束されているシンドーが出てきたのを、振り返って見つめる。

「ベオウルフよくやった! お前があの鞘を砕いてくれたおかげで、ようやくアルトリウスとの魔力パスを切ることができたよ。あの寄生虫め……主に逆らっておいて魔力だけ持っていくとか、盗人猛々しいにもほどがあるよねェ! まぁいいさ。あいつがいなくなって鞘の効力も切れたから、妃御子にもさっさと消えてもらおう。不良品の処分は完璧にしておかないと……また事故を起こされてもこま」

 全く反省などしていない、愚か者の極致としか取れない口汚い言葉が、シンドーのよく回る口から次々と吐き出される。

――いいかげんこいつのよく回る口を針と糸で縫い付けてやろうか? と、ベオウルフとシモンが視線を交わして、意思確認をとろうとする。

 だがそれよりも早く動いたのは、いつものような穏やかな笑みを浮かべたまりなだった。

「シンドーさん?」

「あぁ、なんだよ、刑部。あぁ、そうだ! 今回僕を助けた報酬として、兄さんにお前用の新しい英雄霊を」

 彼女はいつもと変わらない笑顔を浮かべたまま、手に握っていた聖杖を力いっぱい握りしめて、

「悔い、改めてください!!」

「へ?」

 杖をそのままフルスイング! 先端の十字架がシンドーの左頬にめり込み、勢いよく彼の体を吹き飛ばしたっ!

「なっ!?」

「おいおい……」

 唖然とするベオウルフたちに対し、

「よくやったわ、まりなっ!」

 アルトリウスが消えたことで、《勝者導く選定の剣(エクスカリバーン)》の拘束から脱出してきた奏歌だけは、手を叩いて喝采を上げた。

 そんな外野の様子など気にした様子も見せず、まりなは穏やかな笑みのままシンドーにちかづき、

「な、い、いきなりなにを!? 刑部のくせに生意気……」

「主はおっしゃられました。『左の頬を殴られたのなら、右の頬も差し出しなさい』と」

「ひぃっ!?」

 杖を構えたまりなの姿に、シンドーは慌てて身をすくませる。

「その言葉の意味は、『他者に対する寛容さと、愛情をもって接しなさい』ということです。自身にやましいことがないのであれば、人はいくら殴られようとも、痛くはありません。悪いことはしていないのですから、いずれ殴った人たちも間違いに気づいてくれると信じているから……。ですがあなたは差し出さなかった。それはあなたがやましい心を持っているから。殴った相手が間違っていると、心の底から思えないからです!」

「……」

 まりなの説教の中に、心に突き刺さる言葉があったのかシンドーはさらに身を縮め、ガタガタと震えを強くする。

「シンドー君、いくらあなたでももうわかっているはずです。今回の事件、あなたならば未然に防げた。あなたがほんの少し、アルトリウスさんを人として扱い、あなたのお兄さんに妃御子さんの虐待を辞めるように言うだけで……こんな悲しい事件は起こらなかった」

 いつのまにか、まりなの声は震えていた。

 先ほどまで浮かべていた笑顔は悲しげに歪み、目じりからは真珠のような涙がぽろぽろとこぼれる。

 杖にすがりつき祈るように手を合わせながら泣くまりなの姿は、宗教画の聖母のごとき迫力を放っていた。

 常人では到底出せないその迫力。まるで神でも降り立ったかのような、英雄ですら黙らせるそれに、ベオウルフたちは思わず体を固まらせる。

 それほどまでに、いまのまりなから放たれているそれは苛烈で鮮烈……それでいて、絶対不可侵を想わせる清浄さを持っていた。

 静かになった周囲を不審に思ったのか、シンドーも恐る恐るといった様子で丸めていた体から顔をだし、

「あ……」

 涙を流す、聖母のようなまりなの姿から、目を離せなくなった。

「お願いです、シンドー君。これ以上間違え続け無いように……これ以上過ちを犯さないように。あなたのお兄さんの居場所を、私たちに教えてください」

 まるで聖母のような深い嘆きと、それ以上の深い愛が感じられる言葉。その言葉に、今までアルトリウス・ベオウルフ・シモンといった面々に恐怖と暴力で押さえつけられていたシンドーは、心の癒しを求めるように縋りついた。

「に、兄さんは……いつも地下の研究室にいる。兄さんの執務室の右から四つ目の本棚、三段目の右五つ目の赤い本を押すと隠し扉が開いて、地下に行けるようになっているんだ」

「ありがとうございます。シンドーさん」

 あなたに主のご加護があらんことを。と、まりなは最後にそう言い残し、シンドーから離れベオウルフのもとにやってくる。

「ベオウルフさん」

「なんだ?」

「もう一仕事、いいですか?」

「…………………」

 アルトリウスとの戦闘で、魔剣はすべておられた。魔力で構成される物体であるがゆえに、再生することは可能だが、それには少々時間がかかる。

 奥の手である《我が真名の(ノーマン・ネイリング)宿りし辣腕(=ベオウルフ)》も、まりなの保有魔力からしてもう使えないだろう。

 つまり、今のベオウルフはほかの英雄霊よりもほんの少し筋力値が高いだけの、凡庸な男に成り下がっている。

 だが、

「あぁ、いいぜ」

――ここで下がっちゃ、《辣腕王》の名が泣くよな。なによりアルトリウスに、あの子の子と頼まれちまったし。と、ベオウルフは珍しくやる気な主の言葉に、にやりと笑って返事を返した。

 ベオウルフが返した不敵な返答に、まりなは少し申し訳なさそうな顔になりながら、

「では、シモンさん。早く迷宮から出ましょう。朱辻先生と合流して、下界に帰還……そのあと私は」

 杖を握り締め、涙をぬぐい、

「この悲劇の根源を、止めに行きます!」

 事件にかかわったものとして、聖職者を目指すものとして、この悲劇の根源と立ち向かう覚悟を決めた。


『現代史において、もっとも偉大な人物はと問われると多くの人間が上がるだろう。

 歴代リメリカ大統領。名だたるノルベル賞受賞者。紛争の終戦に活躍したNGO所属のある青年に、日ノ本陸上自衛隊の頂点に立つ不死の剣士。


 だが、最も直近の英雄として名があげられるとするのならば、それは間違いなく――《教説(きょうせつ)の聖女》刑部まりなであろう。

 彼女の伝説は日ノ本にて非道の実験を行っていた、ブランシュタウナー家の鎮圧より始まった。

 当時日ノ本上層部に太いパイプを持っていたブランシュタウナー家は、神階迷宮にて発生した《聖剣王反乱事件》によって明るみに出た罪から逃れるために、日ノ本上層部を利用し警察の捜査線を攪乱。

 まんまと日ノ本警察の包囲網から逃れ、海外への逃亡を企てた。

 だが、空港にやってきた当時のブランシュタウナー家当主――レイヴェル・ブランシュタウナーを待ち受けていたのは、《辣腕王》ベオウルフを従えたかの聖女であった。

 そこで起こった一戦は凄まじく、刑部まりな率いるベオウルフは、レイヴェルの手によって召喚され、理性失った《ヒュドラ殺し》との戦闘を余儀なくされ、当時はまだまともな神聖術を戦闘で扱えなかったまりなは、当時の仲間とともに世界最強の魔法使いに数えられるレイヴェルとの直接対決を強いられた。


 だが、それでも彼女はレイヴェルに勝利した。

 仲間たちをたった一人で蹂躙し、刑部まりな自身にも深手を負わせたレイヴェルに……彼女は勝利したのだ。

 そこで使われたのがのちの彼女の代名詞となる、彼女固有の術式――《教説(ドクトリン)》であった。

 この術式は、聖書に記載された主の言葉を借り、ほんのわずかでも罪悪感を抱いている者の精神を矯正する、精神感応術式であった。


 これによって自身の非道な行いを心の底では悔いていたらしいレイヴェルは、涙を流しながら戦意を喪失。のちにようやく捜査態勢を立て直し、空港へとやってきた警察の捕縛を、おとなしく受けたのだという。


 それによって彼女の新たな神聖術の価値は世界各地で爆発的に広まり、現在彼女はその術式を発明した第一人者として、世界中を飛び回っている。

 彼女の手によって改心した凶悪犯は数知れず、刑務所内にいた犯罪者たちも今はほとんどが模範囚になったと聞く。

 まさしく彼女は現代に降り立った聖女であるといえるだろう。


 とはいえ、彼女の行いを疑問視する声も多い。どれほどきれいごとを並べようと、どれほど世のため人のためになろうと、彼女が行っているのは洗脳……は言い過ぎかもしれないが、それに準ずる人格の改変であることはれっきとした事実なのだから。


 実際彼女にも欠点がないのかといわれるとそういうわけでもなく、レイヴェルとの戦闘の際出た損害賠償などによって、彼女は多額の借金を追っている状態だといわれている。

 なにせ日ノ本一の国際空港を半壊させた大事件だ。借金の総額もそれはべらぼうな額になっているらしく、彼女は時折日ノ本自衛隊の外部協力者として、犯罪者たちとの戦いを演じつつ、借金の返済を行っているのだとか……。


 だがしかし、そんな彼女のおかげで救われた命があったのもまた事実。それを否定する人間は世界のどこにもいないだろう。

 それゆえに、彼女が昨日法王猊下から直々に下賜された生きているイリス教教徒が授けられる最高位の勲章――《第二位階聖人勲章》の授与は非常に正当な物であり、また彼女が主・イリスの加護を受けた新たな聖母だという意見もあながち間違いではないのかもと、私はつい考えてしまうのだ』


(『週刊・現代偉人伝 2015年4月号 《教説の聖女》刑部まりなにせまる!』より抜粋)

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