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プロローグ あこがれた英雄の名は……

世界観に関しては……知っている人は知っている。

 ベオウルフ。英文学最古の伝承の一つ。英雄ベオウルフの冒険を語る叙事詩である。

 怪物グレンデルの討伐に始まり、老境の域に至っての竜討伐など、様々な英雄譚を持つこの英雄は、長きにわたって親しまれ、多くの人々にその名前を知らしめた。

 そんな物語が記されたとある一冊の本。

 とある戦乱の時代に燃えた図書館から流出したその本は、売れば金になる貴重なものとして、とある海賊船の木箱に保管されていた。

 だが、

「な、なんだこいつは!?」

「ば、化物ぉおおおおお!?」

「く、クラーケンだぁあああ!?」

 どういうわけか、その海賊船は本来その世界では伝説上の生物だったはずの、巨大なイカの化物――クラーケンに襲われ大破。

 船に積まれていた積荷は海の中へとぶちまけられ、ベオウルフの物語が入った木箱もまた海流に流され遥か彼方へと流された。

 それから数日後、無数の船の残骸が流れ着く浜辺で遊んでいた一人の少年が、いまだ無事であったその木箱を見つけた。

 持ち主に返すために、何か木箱の中に持ち主がわかるものがないかと、木箱を開いた少年は、その中におさめられていた酷く豪華な一冊の本を見つけ出す。

「なんだ、この文字は? うちの国の文体に似ているけど……べ、《ベオウルフ》? って、読むのかな?」

 とある騎士の子供だった少年は、自分の国の文字に似ていた英文をかろうじて読み解き、その物語の名を告げた。

              ◆         ◆

 それからさらに時は流れ、浜辺で遊んでいた少年は立派な青年となり、とある怪物との激闘を繰り広げていた。

 緑色に染まった肌を持つ巨大な体躯に、大地を殴り割る丸太のような両腕。獅子のような咆哮を上げる乱杭歯だらけの口を開く怪物に、青年騎士は、

「おるぅああああ!!」

「グゥァッ!?」

 籠手に包まれた鉄拳をためらいなく叩き込み、その歯をすべてへし折った。

「ルゥアアアアアアアアアアアアアアア!?」

 悲鳴を上げのた打ち回る怪物に、

「ちょっ!? 騎士なんだから剣ぐらい使ってくださいよ大将っ! 何のために、騎士フェイルスさまから魔剣ルーティンをもらったと思ってんっすか!?」

「はぁ? うるせぇよ、ウィラーフ! どうせ素手でも殺せるようなザコだぜ? せっかく使った魔剣使うのは惜しいだろうがっ!! それは額縁に入れて飾るっ! ようやく、フルティングと似たような性能を持つ魔剣を見つけたんだ。崇め奉らないともったいないだろうがっ!」

「ふざけろっ! こんな場合になってまだあの英雄譚に傾倒するのかクソ野郎がっ!? 後俺の名前は、レイヴィアだっつってんだろうがっ!」

「ちょ、お前仮にも自分の上司に向かってひどくねェ!?」

 盾と剣を構え、自分の背後を守る部下の罵りに、青年騎士が思わず目をむいた瞬間、

「ルゥオオオオッ!!」

「うるせぇっ!!」

 まだ倒し切れていなかった怪物が青年騎士に襲い掛かった。

 だが、そこは歴戦の勇者である青年騎士。部下と言い合いながらも一切油断をしていなかった彼は、口から紫色の血を垂れ流し襲い掛かってくる怪物の頭を、右手に持つ盾で殴りつけ、

「失せろっ。テメェは俺と戦うには力不足だ」

 その巨大な頭を開いた左手でわしづかみにし、勢いよく地面にたたきつけた。

 たったそれだけで、怪物の頭は地面に埋没し、柘榴のようにはじけ飛ぶ。

 それによってべったりと籠手についた紫色の血液に、青年騎士は嫌そうな顔をしながらも、

「俺は将来、英雄――ベオウルフの名を受け継ぐ男――ベオウルフ・N・ネイリングだっ!!」

 海から流れてきた叙事詩。その中に描かれていた一人の英雄に憧れた青年騎士――ベオウルフは、高らかに叫び怪物退治の終了を告げた。

 これが、のちに様々な戦場を駆け抜け、邪悪な竜や、巨人たちを打倒した伝説を作る《辣腕王》ベオウルフの叙事詩の始まり。

 後に彼は伝説として語り継がれるようになる。

              ◆         ◆

 それから数十世紀の後。

 現代。極東の島国であり、多民族国家である《日ノ本議国》にて、

「はい。それでは降霊科の中間試験を行います」

 過去の人物の魂――亡霊と語り合うことを主とした研究テーマにしている、国立漣大学さざなみだいがく付属・私立漣高校・交霊科で、中間試験が始まろうとしていた。

「課題はみんなの知ってのとおり、《英雄霊の降霊》です。君たちには、過去の英雄たちの霊を呼び出してもらい、現世へと固定。使いファミリアとして使役する契約を結んでもらいます」

 頭に兎の耳を生やした女性教員教師が言葉を放つと同時に、宙に浮くチョークが高速で黒板に文字を書いていく。まじめな生徒はそれをノートに記載し、それ以外の生徒はこれから起こる初めての体験にワクワクした様子で、眼下に作られた魔法陣を見つめている。

「それではまず……刑部おさかべまりなさん。前に」

「は、はいっ!」

 そんな静かな興奮に包まれた教室の中に響き渡ったのは、明らかに緊張していると思われる震えた声。

 それと同時に立ち上がったのは、典型的な修道女の服を着た一人の少女だった。

 彼女はよほど緊張しているのか、まるで油の切れたブリキ人形の様がぎこちない動きで、一歩、また一歩と魔法陣に向かって歩いていく。

「おい、あれって……」

「《落ちこぼれシスター》じゃない?」

「まだ学校にいたのか?」

「いいかげん恥ずかしくなって出て行ったかと思っていたけど?」

「うぅ……」

 狐の尾や、猫の耳。魔族の翼に、カラフルな頭髪……そんなさまざまな個性が入り乱れる教室から飛んでくる悪意溢れる囁き声を聴かないように、シスター――まりなは必死に耳を塞ぎながら、魔法陣の前に立った。

 手に握りしめるものは、英雄を呼び出すために必要な《捧げサクリファイス》。英雄霊ゆかりの品を見つけられなかった彼女が昨日、最後の望みをかけて訪れた古書店で、ようやく見つけた物。いにしえの王の物語をつづったその本の名は『辣腕の王』。

「では刑部さん、始めなさい」

「はいっ!」

 そしてまりなは、外野のささやきを耳から追い出し、

「ぶ、起動ブートっ!!」

 眼前の魔法陣に、ありったけの魔力を注ぎ込んだ。

              ◆         ◆

――あぁ? なんだ?

 水底のような空間で、倦怠感に縛られる体を沈めていた一人の英雄が目を覚ます。

――これは、上から聞こえてくるのか?

 英雄が目を開けると、そこには巨大な光を放つ魔法陣。

――ったく。人が気持ちよく寝ているときに。何してくれてんだ。

 鬱陶しいなぁ。と思いながらも、英雄はそのまま目を閉じた。

 どうやらあの魔法陣は、生前聞いたことがある《降霊魔法》の魔法陣らしく、アレをくぐれば現世へと舞い戻ることも可能なのだろうが……そんなもの自分には関係ない。自分はこの心地よい微睡に、少しでも浸っていたいのだ。だから、外からの声なんかに答えてやる義理はない。と、英雄は魔法陣からの呼びかけを無視した。

『お願いです。答えてください』

 そんな呼びかけも無視して、

『そんな、これでも足りないんです? じゃぁ、あ、ありったけを!』

 魔法陣がより眩しく輝いても、

『も、もう魔力が……』

 何やら魔法陣から聞こえてくる声が危ない色を帯び始めても、

『うぅ。やっぱり私じゃ……。ごめんね、お父さんお母さん』

 そんな後味の悪い言葉が聞こえても、

『せめて、命を――魂を使い切ってでも……この魔法だけは、成功させて見せるからっ!』

「って、さすがにそこまではやめろよっ!?」

――これで無視したら後味悪すぎるだろうがっ!? と、なにやら手持ちの魔力だけでなく、自分の魂すら燃焼して魔力の変換しようとするバカの声に、英雄は慌てて飛び起き、

「まて、早まってんじゃねェ! すぐ行くから、魂なんかに手をかけんなっ!」

 慌てて心地よい微睡の空間から急速浮上。頭上に輝く魔法陣に、勢いよく飛び込んだ。

 なんやかんや言って彼は英雄。自分のために命まで捧げようとするバカを放っておけるほど、賢い人間ではなかったのだ。

              ◆         ◆

 そして、その大魔法は結実した。

 爆発するかのような莫大な魔力の膨張。それによってあたり一帯には暴風が吹き荒れ、

「「「「「「きゃぁあああああああああああ!?」」」」」」

 それによってスカートをめくられた女子生徒たちは、悲鳴を上げてスカートを抑え、

「「「「「「おぉおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」」

 長らく見ていなかった女性の下着を生でおがめた男子生徒たちは、目を血走らせながら立ち上がり、怒り狂った女子たちから鉄拳制裁を食らう。

 そんな阿鼻叫喚の教室の前方では、暴風の原因になった人物が、自分を見上げてしりもちをつくまりなを、細めた眼で睨みつけていた。

「……はぁ。問うぞ?」

 その人物は、狼のような鋭い目をした、茶髪の青年だった。

 身にまとうのは鈍色の甲冑。その中で籠手だけが赤く染まっており、腰に下げられた剣からは得体のしれない威圧感が放たれている。

「……え? あ、はい! どうぞっ!?」

 そんな青年のなにやら疲れ切ったため息に、「何かまずいことをしてしまったのです?」と、冷や汗を流しながらまりなはとりあえず青年の問いかけに肯定を示す。

「我が名は《辣腕王》ベオウルフ。お前が俺を呼んだクソバカ魔術師か?」

「く、くそば? と、とにかく、はい。私があなたを呼んだ魔術師です……た、たぶん?」

「そうか……」

 ベオウルフはその答えに満足したかのように、満面の笑みを浮かべて一つ頷いたあと、

「てめぇ……人様呼ぶのに、自分の命にまで手をかけようとしてんじゃねぇぞコラァっ! あんなもんほとんど脅迫とかわんねぇだろうがァッ!!」

「へぶっ!?」

 情け容赦ない鉄拳を、へっぽこシスターの頭上に叩き込んだ。

 そして、同時に、

「あとなんだこの犬の耳と尻尾はぁああああああ!? 生まれたときから俺はこんなもんついていた記憶がねぇぞっ!? どうなってやがるっ!!」

 この世界で目覚めたと同時に感じていた違和感の正体をわしづかみにしながら、頭を押さえてうずくまる、まりなの胸ぐらをつかむ。

「ちょ!? 何してんですかアンタっ!?」

 慌てて教師がベオウルフの暴挙を止めようととびかかってくるが、そんなもの辣腕の王にとっては知ったことではないのか、教師のとびかかりなどなんのその。ガックンガックンまりなを揺らしながら、ベオウルフは詰問を続ける。

「どうなんだおいっ!? 何で俺にこんな珍妙なアクセサリーがついてんだコルゥァアアアアアアアアアアア!?」

「きゅー」

 さきほどの鉄拳制裁で、既にまりなが意識を失っていることも知らずに……。

 それが、古の戦場を駆け抜けた一人の王と、現代を生きるへっぽこシスターの初めての邂逅。

 伝説へといたった王が、初めて現代へと降り立った、歴史的瞬間だった。


本筋進めないで何やってんだとか言わないで……ちゃ、ちゃんと……土日の間にはあげるからっ!!


あ! 一応、あれを知らなくても楽しめるように書く予定ですので、よろしくお願いします!


でも、できればあっちも読んでほしいな……。

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