表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
硝煙と黒猫  作者: 黒雪姫
9/39

顔合わせ

この家は、『クロウズ』のアジト兼黒瑠とノアの家だ。

その日は結局皆で泊まった。

翌日、自分を呼ぶ声で璃夜は目を覚ました。

「起きテ!もうすぐ菖蒲ちゃんと駒希ちゃんが来るヨ!」

眠い目を擦り、起きると少し腰に痛みが。

璃夜はソファで寝ていたのだ。

時計は午前9時を指しており、テーブルにはご飯や味噌汁といった家庭的な料理が並んでいた。

璃夜が欠伸をしながら起きると、シエナはすぐ真横にいた。

テーブルの朝食は二人分、シエナは璃夜が起きるのを待っていたようだ。

「おはよう…」

いつもよりワントーン低い眠気たっぷりの声で挨拶をする。

「おはヨ!」

対してシエナはワントーン高い声だ。

璃夜は起き上がり、テーブルについた。

「いただきます…」

シエナも手を合わせ、いただきますと元気に言って味噌汁を啜る。

約15分程度で朝食を済ませ、璃夜は全ての食器を洗った。

因みにその間、黒瑠とノアはテレビを見ていた。

不意にインターホンが鳴る。

「はーい」

と言いながら出るのは黒瑠。

「二人共来たみたいだネ」

リビングに来たのは二人の女性。

1人は片目を前髪で隠し、栗色の毛をポニーテールにしたTシャツに短パンの女性。

凛々しい顔立ちで、スタイルも結構良い。

だが後ろに刀の柄が見える。

もう1人はボサボサの白い短髪の女性。

マフラーで口元が見えず、明らかにサイズの合っていないぶかぶかのダッフルコートを着ている。

可愛らしい顔立ちで、翡翠色の瞳が目を引く。

「あー…初めまして。私は渡 璃夜…もとい黒猫です」

璃夜は一応敬語を使う。

そんな璃夜にシエナは少し驚いていた。

勿論平静を装っていたが。

「貴女が黒猫殿でありますか!自分は当麻(とうま) 菖蒲(あやめ)であります!以後お見知りおきを!」

後ろで手を組んだポニーテールの方、菖蒲が自己紹介を大声でする。

ひらひらとコートの袖をふり、もう1人も口を開いた。

郷間(ごうま) 駒希(こまき)だってー。ま、よろしくねってー」

性格が正反対だ。

黒瑠が紙とペンを出し、何か書く。

「二人共の名前の漢字は『当麻 菖蒲』と『郷間 駒希』なんだけどね、本当はこうなんだ」

さらさらと『当麻 菖蒲』『郷間 駒希』と書く。それからその下に書いた漢字は『討魔 殺』と『業魔 古磨鬼』。

「二人共敵同士の家系だからか、喧嘩ばかりなんだ。全く困ったものだよ」

魔を討ち殺める当麻の家系と、自身が魔、つまり鬼である郷間の家系。

性格も、家系も真逆なのだ。

「黒猫さんは気にしなくていいことだってー。当麻なんぞに討伐されることはないってー」

「今は『クロウズ』だから休戦しようと言ったのはどちら様でありますか!?」

放っておいたら喧嘩が始まるだろう状況で、璃夜は黒瑠に歩み寄った。

「どしたの、黒猫ちゃん」

「銃、見繕って」

「完璧に二人に無関心だねえ。今日はまだ来る人もいるし、後でね」

黒瑠は笑顔で対応する。璃夜は諦めてシエナの隣に座った。

「本当は業魔なんかと共闘など御免なのであります!討魔の者として、やはり今ここで…っ!」

「やるんだってー?業魔の家系はそんなに甘くないってー」

菖蒲は刀に手をかけている。

駒希も何処からか釘バットを出してきた。

「いざ尋常に───うわっ!?」

見兼ねたノアが菖蒲をフライパンで叩いた。

「怒られてやんのってー」

「駒希…も…」

ノアは駒希にもフライパンをお見舞いした。

「熱っ!?これ熱いやつだってー!?なんか当麻のより酷いってー!」

ぎゃあぎゃあと騒ぐ駒希を無視し、菖蒲は璃夜に向き直る。

「取り乱してしまい、申し訳ないであります。黒猫殿、これからどうぞよろしくお願いするであります!」

「ええ、よろしく。ところでその刀、名前は?」

背中から鞘ごと取り外し、説明する。

「これはかつて自分(とうま)の先祖、討魔(とうま) 叉斬(さぎり)が、其処の(ごうま)の先祖、業魔(ごうま) 阿鬼(あき)を斬り伏せた刀、斬業鬼丸(ざんごうきまる)であります」

鞘から漆黒の刀身を半分ほど抜く。

見えにくくはあるが、刀身の(つば)の近くに八芒星が描かれている。

「業魔の血筋は鬼と悪魔が半々なんだってー。(わらわ)のご先祖様は討魔に、末代まで続く呪いをかけたんだってー」

駒希は嬉々として語る。

璃夜は璃夜で興味津々にその話をきいている。

「その印がこれであります!」

対して少し怒ったように、菖蒲は前髪をかき上げた。

隠れていた右目は赤黒く、中心に白で“封”と書かれていた。

「ご先祖様は死に際に、末代まで痛覚を封じる術をそれはもう強力にかけたんだってー。どんな陰陽師でもその術は解けなかったんだってー」

駒希はケラケラと笑いながら説明する。

「痛覚を封じる?それって、そんなに困るの?」

璃夜は首を傾げて説明を求めた。

「痛覚が無いということは、脳の危険信号がないってことだってー。病気になっても痛みがなければ気づかないってー。それに、力加減が分からないから自分で自分の身体を傷つけることもあるんだってー」

大分苛つきながら菖蒲が続きを補足する。

「お陰で舌を噛み切りそうになったり、骨折や打撲、脱臼を何度も繰り返したりと、大変だったのであります。ですが今は随分と慣れたのであります!」

笑い転げている駒希の鳩尾を、菖蒲が刀の柄で思い切り殴った。

ぐがぁ、と唸って駒希はうずくまった。

「仲が良いのね」

「こんな悪魔と自分が仲良しなんて考えたくないのであります!」

菖蒲はとことん拒絶しているようだ。

「よくもやってくれたってー!」

バッ、と起き上がり、駒希はまた何処からか釘バットを取り出した。

「ヤル気でありますか!?」

菖蒲も斬業鬼丸を抜いている。

シエナは苦笑い、璃夜はため息を漏らしている。

黒瑠はニヤニヤと楽しそうに笑っていた。

「喧嘩…両、成敗……」

ノアがフライパンで二人の頭を叩く。

先ほどよりも威力が強いようで、鈍い音が響いた。

ピンポーン、と軽やかにインターホンが鳴る。

「開いてるから勝手に入ってー!」

黒瑠が玄関に向かって声をかけると、ドアが開く音がした。

入ってきたのは、白衣の青年。

タバコを加えており、青髪で碧眼だ。

ただ身長が低く、童顔であるためタバコが似合うとはお世辞にも言えない。

「勢揃いじゃないか。賑やかなのは好きじゃないよ、僕」

明らかに不機嫌な顔をしている。

「ん、新顔かい?今日はその子を紹介しようと呼んだ訳?」

璃夜の方を見ながら言う。

「黒猫こと、渡 璃夜です。えと…失礼ですがおいくつですか?」

見た目が確実に未成年である為、璃夜も不審に思ったようだ。

新垣(にいがき) 愛斗(まなと)。免許無しの闇医者だ。歳は16。あと敬語は気持ち悪いからやめてくれ。殺すよ。あと騒ぎ立てても殺す」

未成年にも関わらず、タバコを吸っていることに、璃夜は少なからず驚いた。たいして表情には出なかったが。

「はは、腕は良いんだよ。免許無いけど」

黒瑠は笑いながら補足する。

「愛斗、ね。分かったわ。よろしく」

「そこの当麻や郷間、シエナみたいに騒がしくないから、君とは仲良くできそうだ」

うっすらと微笑を浮かべ、愛斗はよろしく、と言った。

「マナが仲良くできるのはノアくらいだと思ってたよ。黒猫ちゃん、良かったねえ」

菖蒲と駒希は未だに言い争っている。

シエナはそれを見て楽しんでいた。

流石にもうフライパンで叩かれたくないのか、武器は出していない。

「その黒猫ちゃんっての、やめてくれない?」

璃夜はうざったそうに言う。

黒瑠は少しだけ驚いてから、頷いた。

「じゃあ璃夜、此処に集まったのが『クロウズ』の主要メンバー。幹部ってとこかな。因みに日本人が多いのは、『クロウズ』を作ったのが日本だったからだよ。他にもメンバーは結構いるけど、全員呼ぶ訳にもいかないから…今はこれだけ、覚えといて」

愛斗は口喧嘩をしている二人に冷たい視線を向ける。

「煩い、殺すよ」

その一言で喧嘩がピタリと止まる。

不意にバイブ音がして、ノアが携帯を取り出した。

「『ホウカー』……」

そっと呟く声が、嫌に沈黙の中に響いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ