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硝煙と黒猫  作者: 黒雪姫
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運命のハジマリ

次の日、ルシアの家。

璃夜は混乱していた。

きっかけは、この一言。

「さっき、俺の妹が殺されたらしいんだ…。何か知らないか?」

…おかしい。

ちゃんと死体処理はしたはずだ。

せいぜい行方不明として扱われる、はず。

璃夜は重々しく口を開いた。

「殺されたことを知っている、ということは死体見つかったんですね?なら、同業者の仕業では無いかと」

ルシアは、否、と発言を始める。

「それが、俺のライバル…“小鳥遊”という奴から電話が来てな。『お前の妹を殺した』とな」

何かわかったら教えてくれ、とルシアは言う。

璃夜は罪悪感に(さいな)まれた。

「…分かりました」

そう言うことしか出来なかった。

だが。

「…何で、言わないんだ。お前が殺ったんだろ?璃夜」

びくりと璃夜が強張る。

「……」

「小鳥遊が、言ってた。殺ったのは黒猫だと」

璃夜は沈黙を突き通す。

「何で、否定しないんだよ!」

ルシアは、声を荒げた。

「私、あの人がルシアさんの妹なんて、知らなくて」

「部屋に行ったら、写真が落ちてた。あれで、知ったんだろ?殺った後に。なら、なんで俺に言わなかった?なんで、黙ってたんだよ」

「…違っ」

「違わないだろう?言い訳なんて、聞きたく無い」

ルシアは璃夜を睨んでいた。

いつもより、声を数段低くして。

「言ったらルシアさん、私を恨んだでしょ?」

最悪、黒瑠のところに行く覚悟で、俯きながら反論した。

「でも、正直に言ってくれたら、今以上には恨まなかった。信じられ無いんだよ、もう」

ルシアはまだ続ける。

「璃夜と過ごして、楽しかったよ。(メリー)といるみたいで、とっても。本当の家族みたいに思っていた。でも、もう終わりだ。家族ごっこはお終いなんだ」

璃夜は嗚咽をぐっと堪え、声が震えないように発言する。

「さようなら。私も、ルシアさんと過ごせて、楽しかったです。本当に家族みたいで、だからこそ、こんな形で終わるなんて、嫌ですけど。もう、戻れないんですよね。壊れてしまったんですよね。…じゃあ、さようなら」

精一杯、璃夜は笑う。

レッグホルスターと拳銃をテーブルに置いて、外に出た。

どんよりとした雨雲の下を走る。

走って走って走って走って走って────

少しずつ、速度が落ちていく。

やがて、歩は止まった。

今まで押しとどめていた涙が、ぼろぼろと溢れてくる。

堪えていた嗚咽が、喉を通っていく。

「あ、うぅ…っなん、で………うあぁぁぁぁぁあ!!!」

ポツポツと、雨が降り出す。

雨足はしだいに強くなっていく。

「う、うぁ、…あぁ」

パシャ、パシャ。

水溜りを踏む足音。

璃夜が顔を上げる。

その視線の先には、黒瑠がいた。

「黒、瑠…私っ、」

ふわりと暖かく包み込まれる。

黒瑠が璃夜を抱き締めていた。

「風邪ひくよ、行こう?」

泣きながら、何度も何度も頷いた。

暫くすると黒瑠は離れた。

璃夜は黒瑠に手を引かれて、濡れるのも厭わずに進んでいく。

お互いに無言で進む。

その状況が、今の璃夜にとってはとてもありがたかった。

少し進むと一軒家の中へ入る。

「ノア、タオルちょーだい」

少し声を大きくして、黒瑠が奥に向かって話す。

すぐ近くのドアからノアが出てきた。

璃夜に驚きながらも、あまり大仰なリアクションはしなかった。

「ん」

渡されたタオルで、黒瑠はまず璃夜の頭を拭く。

その間もずっと俯いていた。

「黒猫ちゃん、お風呂入っておいで」

「あー…黒瑠、風呂……シエナが、使ってる…」

「げ」

頬を引きつらせる黒瑠。

玄関から二番目の扉が開いた。

そこから出たのは、アルビノの少女、シエナだ。

「帰ってきたんでスネ。そちらが黒猫サン…もとい璃夜さんでスカ?」

「そうだよ。それより来てたのか、シエナ。まあいい、彼女を風呂に案内してあげて」

璃夜は顔をあげてシエナと目を合わせた。

「なにこの子かわイイ!案内してきマス!」

シエナの白い双眸が輝く。

同性に興奮しているシエナに若干引きつつ、黒瑠は璃夜を引き渡した。

璃夜はなされるがままに風呂場へ。

「ワタシの服、貸しまスヨ。身体も冷えているようですシ、早くお風呂へ入っテハ?」

ただ璃夜は黙って頷き、シエナが脱衣所から出たのを見ると、服を脱いだ。

熱いシャワーが上から降り注ぐ。

「ルシア、さん」

蚊の鳴くような声でそう呟き、涙を零すまいと唇を噛んだ。

もう、黒瑠のところへ行こうか。

そんな思考さえ渦巻いていた。

今はただ、熱が欲しかった。

シャワーと共に、彼女の迷いさえも流れていった。

一方、リビングでは三人が話していた。

「クロルさん、あの子どうしたんでスカ?元気なさげでしたケド」

「ちょっと傷心中みたいだよ。詳しいことは何にも」

お手上げ、という風に黒瑠は肩を竦めてみせた。

「でも…良い、機会…このまま、こっちに……来てくれ、れば」

「そう上手く行きますカネ?協力はしまスガ」

好都合だという風に、黒瑠は笑った。

「今がチャンスだよ、丸め込もう。黒猫ちゃん、随分と傷付いてるみたいだし」

「ホント、性格悪いですヨネ。考えることがワルモノでスヨ」

「本当…別に、悪い…組織…じゃ、ないのに……黒瑠の、せい」

ノアは不満そうにそう言う。

シエナも嫌悪の目を黒瑠に向けていた。

「クロルさんのせいで胡散臭さに拍車がかかってまスヨ。ああ、ヤダヤダ」

「態度がちょっと酷くないかい?心が折れそうだよ」

ちっとも思ってない癖に、とシエナとノアは密かに思った。

ガチャ、と音がして璃夜が入る。

「ドライヤー、何処?」

風呂に入ったぐらいで戻った璃夜の調子に、黒瑠は面食らいながらも棚の上を指差した。

「ん、ありがと」

そう言うとドライヤーを持ってまた戻った。

「何カ、調子戻ってマス?」

「…落ち着いて色々考えたんじゃないかな?」

シエナもあまり表情に出なかったが、驚いていたようだ。

「にしてモ、まだ日本なら学校に通っている段階の子なのに、しっかりしてまスネ。あれ?学校行ってるんでしたッケ?」

「いーや、行ってなかったと思うよ。僕も彼女があの黒猫だって知った時はそりゃあ吃驚(びっくり)したさ」

シエナは疑いの目を黒瑠に向けた。

「やだなぁ。本当に吃驚したよ?」

ヘラヘラとしながらの発言なので、やはり信憑性に欠ける。

この男は何を言ってもいまいち真実味がない。

何を考えているか分からない、掴み所の無い男だ。

ガチャ、と扉を開けて、タオルを首に掛けた璃夜がリビングに戻ってきた。

黒瑠の隣に腰を下ろす。

「ねえ、黒猫ちゃん」

「ん?」

璃夜は顔だけを隣に向けた。

「こっち側に来る気、ない?」

すると少しだけ間を空けて、

「…ある」

と言った。

「やったァ!ヨロシク!ワタシ、シエナって言うノ」

「璃夜よ。よろしく、シエナさん」

シエナは飛び上がって喜ぶ。

その様子に璃夜は少し微笑んだ。

「シエナで良いヨ!ワタシも璃夜って呼ぶかラ!」

ハイテンションなシエナに、璃夜は尋ねた。

「シエナっていくつなの?」

「19だヨ!璃夜はいくつなノ?」

年上だったことに驚きつつも、答える。

「16よ。年上だったのね」

「気にしなくていいヨ!」

すぐに打ち解けられそうだ、と璃夜は思う。

「何かあったの?黒猫ちゃんのテンションの変化がいまいち理解出来ないんだけど」

「気に…なる…」

ノアも真剣な目で璃夜を見た。

「ルシアさんに追い出された。それだけよ」

少しだけ俯く。

丁度前髪で顔が見えにくくなったため、その時の彼女の表情を知る者はいなかった。

パン、と乾いた音がする。

シエナが手を叩いた音だった。

「璃夜にも言いたくないことだってあるわヨ!…それよリ、こっち側の説明、まだしてないんですヨネ?クロルさん」

暗い雰囲気は、彼女によって緩和された。

ふわりと笑って黒瑠の方を向くシエナは、どこか寂しそうにも見えた。

「そうだねえ。まず、こちら側、というのは『クロウズ』という組織の事だ。基本便利屋みたいなものさ。ま、荒事専門だけどね。ただ、変わった奴が多くてね。全員戦闘には十分使える輩なんだけど、面白いことが大好きなんだ。自分から面白そうな事件に片っ端から首を突っ込んでいったりする奴もいる。それを咎めることはしないんだけど。ファミリーとかマフィア、ギャングといった類でもあるのかな?非合法組織だし」

璃夜は興味をそそられ、気持ち程度に身を乗り出した。

「興、味…持った?」

ノアが訊くが、表面上は素っ気なく振舞っている。

しかし、漫画ならキラキラという擬音が付くであろう、という位目が輝いていた。

シエナは心底嬉しそうにニヤついた。

「てことは敵対組織なんかもいたりして、最近はもっぱらそいつらとの抗争さ。組織名は『ホウカー』。これがまた厄介で、強い奴らをどんどん組織に入れてる。武力の塊だね。だからこっちは、武力も味方に付けるけど、知力も付けることにした。情報屋(ちしき)武器屋(かいはつ)薬屋(けんきゅう)闇医者(ほけん)

指折りで数えながら挙げていく。

「今はお互い様子見って感じかな。ああ、殺しはしない、というのはノアの意向だから、別に否定はしないよ」

やはり笑顔が胡散臭い。

だが、璃夜は興奮していた。

これから始まるかもしれない、スリルある強者との戦い。

組織に入ることにより分かる、闇の世界の事情。

その全てが、璃夜の気持ちを昂らせていた。

「今んとコ、当麻(とうま) 菖蒲(あやめ)郷間(ごうま) 駒希(こまき)にはもうすぐ会えると思うヨ。二人とも日本人だシ、同性だから仲良くなれるんじゃなイ?」

カチリ、カチリと物語の歯車は回る。

璃夜を次第に巻き込んで、回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る────

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