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硝煙と黒猫  作者: 黒雪姫
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京極 麻美

なかなか更新が進まないので一旦投稿します。

申し訳ありません

黒瑠の処置は一通り終わったが、彼は未だ目を覚まさないでいた。

黒瑠の目覚めを待たずに、早く話を伝えるべきだと考えた璃夜は、自室で眠る黒瑠以外の皆を一部屋に集めた。

皆、何事かと真剣な目で運命を見る。

リーダーである黒瑠を差し置いてでもすぐに話す必要がある話。

それだけで、この話の重要度は伝わる。

皆の顔を見渡してから、運命はゆっくりと話し出す。

「あのビルを出てくる時、ある人に会った。その人は、僕の高校時代の友人で」

「あれ、一体運命さんっテ、おいくつなんでスカ?」

シエナは序盤で盛大に話の腰を折った。

思わず喜劇のようにずっこけたくなる璃夜だが、そんなことができる雰囲気ではない。

「それはまあ置いときましょう」

璃夜も内心思っていたことだったが、ひとまず話を続けさせた。

「あー、その、僕の会った人は高校時代の友人で、普通の高校生だった。少なくとも、僕の知る限りはね。でも、ビルで会った友人は、自分がカイツの一員であると話した」

カイツ。その名前がでてくると、部屋の空気が僅かに緊張した。

謎の組織。敵対しているのかどうかすらもわからない。

その手がかりが、掴めるのかもしれないと。

「正直、信じられなかった。あいつは、本当にただの平和ボケした日本人で、そんな危ない道に首を突っ込むようなやつじゃなかった」

苦しみを必死に抑えるような表情で、運命は話す。

璃夜はその様子を見て、代わりに話そうかと考えたが、口をつぐんだ。

「そいつに、カイツに入らないかと誘われた。────ひどく、苦しそうな顔で」

運命はわかっていた。

自分よりも、きっと彼の方が辛く苦しいのだと。

「口では勧誘しながら、顔は“入るな”って強く訴えてた。…きっとあいつは、何か理由があってカイツにいるんだ」

信じられる人が誰一人いない場所で、独り何かと戦っている。

それがどれだけの苦痛なのか。

だから、と運命は続ける。

「あいつを、ハルトを、…助けたい。頼む、協力してくれ!」

運命は深々と頭を下げて頼み込む。

璃夜は静かに誰かが発言するのを待っていた。

「…メリットが、ない」

璃夜はその声の主に驚いた。

「く、ろる…?」

まだ、目を覚ましていないはずではなかったのか。

全員の視線が、黒瑠に集中した。

「何で無茶して起きてきてんのさ」

愛斗は不機嫌そうに言った。

「それはどうでもいい。…話は聞いたよ、途中からだけど。あのねぇ、君の話からすると、自分の利益のためだけにこちらを利用しようとしているとしか思えないんだよね。そんなので、本当に協力が得られると?」

黒瑠は運命を見据えて話した。

確かに、黒瑠の言うことは正論だ。

こればかりは、璃夜も口を挟む訳にはいかないだろう。

「見返りを求める、と…?」

運命は少し不安げに黒瑠を見上げる。

「ああ、といっても大したことじゃない。京極麻美について、洗いざらい話せ」

黒瑠にしては、珍しく余裕がなかった。

らしくない。

本当にらしくない要求だ。黒瑠の利にしかならない要求だ。

「…わかった」

運命は、その要求に、少し戸惑うような素振りを見せてから頷いた。

京極麻美。

璃夜はその名を、一度黒瑠が口にしていたことを思い出す。

日本人らしい名前のその女性は、一体何者なのだろうか。

これほどに黒瑠が執着する人だ、会ってみたいとも思う。

「えっと、今?」

黒瑠はその運命の問いに、最初から答えを用意していたかのように言葉を紡いだ。

「どこで何をしているか、とりあえず今はそれだけ教えてくれない?」

それ以外は後で聞く、と言外に伝えているのがわかる。

運命は少し面食らったような顔をした。

「知らないのか…」

その顔は、悲しそうにもみえる。

「随分と昔に、死んだよ。…交通事故で」

死んでしまっているのか、と璃夜は残念に思う。

会ってみたいと思ったが、それは叶わぬ願いだったようだ。

ふと気になって、璃夜は黒瑠の顔を伺う。

黒瑠にとって、京極麻美は大事な人なのだろう。

そんな人が、自分の知らない間に死んでいたら。

当然、辛いのではないだろうか。

「そう、死んだんだ、あの人。早死するとは思ってたけど、交通事故は予想外だな」

表情は、全く変わっていなかった。

しかし、その瞳の奥が冷め切っているように感じて、璃夜は目をそらしてしまう。

部屋に流れた重い空気を、どうしろというのだろう。

璃夜はこの空気を作り出した当人(くろる)を、じとりと睨むように見た。

しかし、またしてもその瞳の奥の感情に気圧され、何もできなくなる。

「…どんな関係、だったの?」

璃夜は、かろうじてそんな質問をすることしかできなかった。

「その、麻美さん…と」

黒瑠は相変わらず冷めた目をしている。

璃夜はなんとなく息苦しさを感じた。

「んー…悩むね。俺の大切なヒト、かな」

意外だった。

『大切なヒト』と言う時だけ、目の奥の冷えが引いていた。

柔らかい声だった。

璃夜は、心に小さな穴が空いたような気持ちになって、何も言えなくなった。

璃夜にも、いた。

その人のことを話すだけでも笑顔になれるような、大事な人が。

その人は、もうこの世にはいない。

この辛さが、璃夜には痛いほどわかっていた。

黒瑠の言葉を聞いた運命が、何を思ったのか、口を開いた。

「悪い、ちょっと誤魔化した。…麻美さんが事故に遭ったのは、僕のせいなんだ。僕が、あのとき飛び出したから、」

「違うよねえ。君のせい、な訳がない。だって、あの人は、自分の(ボート)が一人乗りだとわかっていながら水に飛び込んで、舟を溺れる他人に譲るような人だ。自分を犠牲に、他人を助けようとする善人だ。あの人が早死するのは、避けられないことだった」

少しずつ見えてきた京極麻美の片鱗は、まるで優しさを具現化したような存在だった。

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