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硝煙と黒猫  作者: 黒雪姫
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真実と偽りと

自分が死んでいるはずだった。

そんなことを聞いて、冷静でいられる人がいるのだろうか。

少なくとも璃夜は、顔に出さずとも狼狽していた。

「どういうことだ?」

意外にも、話の続きを促したのはルシアだった。

「ルシアおにいさんは、ずっと後悔してるの。わたしがいた未来で、ずっと。りよ姉を殺したことを」

アリシアは顔を歪めて訴えかけるように言葉を紡ぐ。

「りよ姉を想って泣くルシアおにいさんを、見てられなくて。過去を変えにきたの」

嘘だとは、誰も思えなかった。

幼さなど微塵も感じさせないくらい真剣で、意志の強い目をしていた。

「過去を…変えても、いいの?」

過去を変えることでアリシアが消えてしまうかもしれない。

そんな不安に、璃夜は襲われた。

「もうすでに変わってるんだよ?」

璃夜の問いに答えたのは、運命(さだめ)だった。

「でも…」

璃夜は少し俯いた。

「わかってないなぁ。過去を変えることでアリシアが産まれる未来が無かったことになり、消えてしまうかもしれない。…そう考えてるんだろ?アリシアだって、そのことを分かってたはずだ。……つまり」

運命は一度そこで言葉を区切る。

「そんだけの覚悟持って、君らを助けに来てるってことだろーが」

1オクターブ低くなった声。

鋭い、しかしわずかに悲しみの滲んだ視線を向けられる。

どうしてそんな視線を向けられているのか分からないほど、璃夜は鈍くない。

「…ルシアさん。もう、やめましょう?」

「バカ言うな」

そう言いながらも、ルシアの瞳は揺らいでいた。

「ルシアー、自分の気持ち、分かってんだろ?」

運命が後押しするように訊いた。

「一つ。ひとつだけ、聞かせてくれ」

璃夜を映すその瞳にもう迷いはなかった。

ほんのすこしだけ、ルシアは悲しそうに眉を下げた。

「メリーが、俺の血縁者だと知っていたら、どうしていた?」

それは璃夜が何度も考えたことだった。

「絶対、絶対に…殺したりなんかしませんでした。…知っていればと、何度も何度も後悔しましたから」

どうか信じてほしいと、顔をあげて目を合わせる。

「そうか」

ルシアは泣きそうな顔で無理やり微笑んで、ゆっくりと目を閉じた。

「それが聞けて…良かったよ」

アリシアが、安堵したように微笑んだ。

「敵であることに変わりはない。だが、お互いを傷つけ合うことだけはしないよう、誓おう」

そう言って笑ったルシアに、もう敵意はなかった。

璃夜もそれに応えるように笑いかける。

「じゃあ、ゆびきり!」

え?、と明るく放たれたアリシアの言葉に、ルシアと璃夜は揃って首を傾げた。

「約束破らないように、ってことだろ」

運命は見守るような笑みで、そう解説した。

「やりましょうか、ルシアさん」

璃夜はそっと小指を差し出す。

それに、ルシアは遠慮がちに自分の小指を絡めた。

「ゆびきりげんまん、うそついたら針千本のーます!」

アリシアは、嬉しそうに歌った。

その笑顔を見て、璃夜はこれでよかったんだと改めて思う。

ルシアと璃夜は一瞬だけ見つめ合い、そして小指を離した。

いきなり、いままで傍観していたキュウラが進み出てきた。

「目的は果たしたんやろ?もう元の時代に戻るんか?」

唐突に、キュウラは狐面の下からアリシアに問いかけた。

これでアリシアの願いは叶った。

それならもう、アリシアが留まる意味もない。

そういえば、とふと璃夜の頭に疑問が湧く。

「アリシアが未来の時の巫女(アイオーン)なら、今の時の巫女は?」

もしかしたら、と予想はついていた。

アリシアと同じ色の髪を持つ、少女。

それは────

「それやったら、自分やで?」

軽くそう応えるキュウラの表情は見えない。

まだ見慣れない狐面が、なんだか少し不気味さを帯びている気がした。

それなら説明がつく。

イロウドのところに最初に行った時、璃夜たちを部屋の外に追い出してアリシアと何かを話していた。

その時の話は、きっと同じ時代に二人いるアイオーンについて。

アリシアが、前に愛斗に聞いていたことを思い出す。

‘同じ時代に二人の巫女がいるとどうなるか’

僅かに震えた声で、確かにその質問はアリシアによってなされていた。

愛斗が出した結論は、死ぬことはないだろうがわからない、という曖昧なものだった。

死なないとはいえ、何か体に異常はないか、それを二人で話して確かめていたのかもしれない。

「キュウラ・アイオーン。それがホンマの名前や」

大したことではなさそうに、キュウラは言う。

驚いているのは、ルシアだけだった。

運命は璃夜と同様に、アリシアが未来から来たのだと言われた時点でアタリをつけていた。

キュウラは、狐面を横にずらし、顔を見えるようにした。

アリシアのような天真爛漫な笑みはないものの、その顔はアリシアと瓜二つだった。

「なんやあんまり驚いてへんみたいやなあ」

キュウラは、つまらなさそうにそう言う。

その時だった。

ドォオオンッ

上から、轟音が聞こえた。

パラパラと少し崩れた天井の破片が降ってくる。

「黒瑠…っ?」

心配げに呟いた璃夜の声が、やけに反響した。

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