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硝煙と黒猫  作者: 黒雪姫
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蒼き罠への潜入

同じ青にも関わらず、空の色と絶妙なコントラストの青色のビル。

然程高くはないそれは、ぽつんと何処かに取り残されたような印象を与えた。

人が入ろうとしないため、避けられているように感じるのだ。

それに立ち向かう人が二人。

黒瑠と璃夜は、小型無線機を耳につけ、ビルを睨んでいた。

先日決めた作戦通りに、アリシアを救い出す。

それが今回の目的だ。

「行こうか」

黒瑠の言葉を引き金に、璃夜は素早くビルに侵入した。

このビルには地下もあるらしいが、取り敢えずは可能性の高い最上階に二人で上がることになっている。

璃夜はエレベーター、黒瑠は階段だ。

階段で誰かが待ち伏せている可能性があるため、それを黒瑠が引き受けることになった。

エレベーターは閉じ込められる危険がある…が、逆に何も無いのではないか、と考えた結果、使用すると決定した。

璃夜は無線機の調子を確認しながら、誰もいないフロントを通った。

最上階のボタンを押し、扉が閉まるのを待った。

「久しぶりだな、黒猫」

閉まる直前、乗り込んで来たのはあの漆黒だった。

それが誰だか分かった瞬間、璃夜は壊れた時計のように息をも止める。

「ボタンは本当に書いてある数字通り、だと思ったか?」

漆黒が言う。璃夜はようやく息を吹き返した。

「ま、さか…!」

エレベーターが進んだのは、下だった。

階数のボタンに細工されていたようだ。

舌打ちしたくなる衝動を押さえ込み、璃夜は奥歯を噛み締めた。

「黒瑠!ルシアに嵌められた、先に上へ!」

無線機で黒瑠に叫んで、ルシアを警戒する。

璃夜は銃に手を伸ばし、次の行動を考えた。

不用意に発砲する訳にはいかない。

ここは既に相手のフィールド。

どんな仕掛けがあるか、分からないのだ。

地の利は完全にルシアにある。

「遠慮は必要ない。全力で、殺す」

その目は冷や汗を流す璃夜を映し、

「だから璃夜も、全力で俺を殺しに来い」

(くれない)に染まる、そう遠くない未来を見た。

「ルシアか…厄介なのに当たったな」

黒瑠は早速崩れた計画を捨て、階段を上がった。

無線機から流れる嫌な沈黙。

向こうで何が起きているかは分からず、不安を煽る。

「もうちょい策を練っておくべきだったか…」

「ほらほら、危ないわよ?」

黒瑠は僅かな殺気を感じ、咄嗟に横に跳んだ。

サイレンサー付きの銃口から飛び出た弾丸は、さっきまで黒瑠のいた地面を削った。

階段の上に立っていたのは、長身の女性。

金髪と、血を連想させる赤い目を持った彼女は。

「ゼノヴィア・ボスフェルト…!」

どうやら璃夜ばかり心配している場合でもなさそうだ、と黒瑠は密かに嘆息した。

柄まで金属製の、従来よりも重みのある薙刀の切っ先を、黒瑠はゼノヴィアに向ける。

ゼノヴィアは、銃を仕舞って不気味に輝く片手剣を静かに構えた。

彼女の本来の武器は、この片手剣らしい。

黒瑠は目を細め、刀身を見た。

何かが引っかかる。

僅かに睨み合ったあと、黒瑠は階段を駆け上がる!

キィィンッ

互いの武器が、交差する。

その時にようやく気付く。

ゼノヴィアの剣に、何かが塗られている。

「毒か…?」

呟いたつもりだったのだが、ゼノヴィアはしっかりと聞き取っていた。

「剣に触れたら死ぬかもね?」

クスリと笑うゼノヴィアに対し、黒瑠は笑いながらも内心冷や汗を流していた。

何方(どちら)からともなく飛びかかる。

交差した刀身を軸に、黒瑠はゼノヴィアの上をひらりと跳んだ。

そして振り向きざまに薙ぎ払う。

一瞬反応が遅れたゼノヴィアは、後ろに跳んで回避しようとする。

しかし腹を真一文字に斬られる。

それほど深くはなかったが、ゼノヴィアは少しの間笑みを消した。

刃先から血の滴る薙刀を手に、黒瑠はにやりと笑う。

ゼノヴィアの服に、赤い染みが広がっていく。

「この服、お気に入りだったのに」

そんな彼女の軽口を、黒瑠は勝利を確信した笑みで受け止めた。

ゼノヴィアが、表に出さずに戦慄する。

勝つための何かを、黒瑠は持っている。

なら、それさえ凌げばこちらに分がある。

ゼノヴィアはそう判断し、注意深く黒瑠を観察する。

何も分からないことに苛立ちを覚えつつ、片手剣を構えた。

ピン、と糸を張ったように空気が張り詰める。

外部からの少しの刺激でも切れてしまいそうなほどに、脆く細い糸。

黒瑠は薙刀をくるりと回す。

その隙を狙い、ゼノヴィアが攻撃に出る。

ガラ空きの胴体を狙い、ゼノヴィアは鋭い突きを放つ。

ギィィインッ

刃のついている方の反対側の先で、黒瑠は剣の切っ先を捉えた。

男女の力の差を覆さんとばかりに力を込めるゼノヴィアだったが、やがて黒瑠が片手剣を弾いた。

ゼノヴィアの手から、いとも簡単に剣が離れる。

カラァンッ

剣が床に落ちると同時に、彼女の手から力が抜けた。

「あ…?」

「君が思いつくことを、僕が思いついていないとでも?」

黒瑠はもう戦う必要はないとでも言うように構えを解いた。

「ま、さか…!」

ゼノヴィアと同じく、黒瑠もまた刀身に毒を塗っていたのだ。

致死性の無い麻痺毒(まひどく)ではあるのだが。

身体に毒が回るまでに多少の時間を要したが、時間稼ぎ程度なら黒瑠にとっては簡単だった。

「ホウカーもこの程度か。たかが知れているね」

言い終わるが早いか、とうとうゼノヴィアは膝を着いて立ち上がれなくなった。

それを黒瑠は、冷めきった(あざけ)るような目で見る。

「馬鹿、に……しな、いで!」

痺れて動きにくい手で、彼女は最初に使っていた銃を取り出した。

銃口を黒瑠に向ける。

黒瑠は微動だにせずに、その様子を他人事のように眺めていた。

何度かの銃声が響く。

ドサリ

人が倒れる音が、確かに耳に届いた。

音を立てた人物は……ゼノヴィアだった。

身体を回りきった毒に耐えきれず、とうとう気を失ったのだ。

弾痕は周りばかりで、黒瑠は全く動いていない。

麻痺毒により精密な射撃のできない人間が、人に当てるのは無理があった。

黒猫ほどの名手でもあれば話は別かもしれないが、ゼノヴィアはそうではない。

銃口を押し付けない限り、銃弾が黒瑠に届くことはない。

「ウォーミングアップにもなりゃしない」

黒瑠は吐き捨てるようにそう言って、上へと進んでいく。

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