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硝煙と黒猫  作者: 黒雪姫
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「ようこそ、ホウカーへ」

妖艶な笑みを浮かべるのは、ゼノヴィア。

自分とよく似た用紙を持つクロエを、値踏みするように眺めていた。

三人掛け白いソファに身を委ねたゼノヴィアの正面、同じく三人掛けの黒いソファに座るクロエ。

ゼノヴィアの後ろからは琉無が顔を出し、クロエの隣には我関せずというように目を閉じたルシアが座る。

体の至る所に包帯やガーゼのある、痛々しいケイは何処か不機嫌そうに部屋の隅にある一人掛けのソファにいた。

PCメガネを掛け、パソコンの前の回転椅子でくるくると回るコーマックは、監視しているかのようなカメラに視線を向けている。

「カンゲーすんぜ、元クロウズさん」

目を細めニヤリと笑う琉無に、クロエは無表情を貫く。

「私は、」

「ルシアと共に来ただけー、でしょー?」

言葉を遮られ、役目を失った口は、しばらく開いていたがやがてため息と共に閉じた。

コーマックは未だにカメラを気にしている。

『では、任務(クエスト)コード“取捨選択(choice)”の結果を聞こう』

カメラの横のスピーカーから、ワイトは静かに報告を求めた。

僅かな緊張感が走る。

この任務、成功とは言えないのだ。

かといって、失敗かと問われればそうでもない。

どう説明したものか、とゼノヴィアは頭を悩ませながら重い口を開いた。

「ルシアの方は無問題なんだけど…」

言葉を濁したが、やがて腹をくくる。

「オリオン・ヴィクストロムは逃してしまったわ。琉無ちゃんの方も、黒猫と討魔には傷を負わせたものの、始末は出来なかったみたい」

ゼノヴィアは、落ち着こうと紅茶を一口含んだ。

ワイトは、たっぷり10秒言葉を選んでから、評価した。

『幸い、オリオンの握る情報は大したものではない。黒猫、討魔の始末も、出来ればの話だった。しかし、まあ…』

そう怒るような口ぶりでないことに、ゼノヴィアは安堵する。

『どういう了見だ、道化師(ピエロ)?手加減しただろう』

いくらか低くなったワイトの声。

責め立てるようなそれに、琉無はちっとも臆さなかった。

「黒猫とは、一対一(タイマン)で正面切ってやり合いてぇっつーことで納得かぃ?」

声の明るさとは裏腹に、鋭利な刃物のような目を琉無はカメラに、否、カメラの向こうのワイトに向けた。

琉無はホウカーでも指折りの実力者だ。

その発言力は決して弱くない。

『そんな性格だということは織り込み済みだ。(いず)れ討つというのなら、それを待とう』

強者の余裕とでも言うように、ワイトは悠長に構えた。

ルシアはそれまで閉じていた目をゆっくりと開いた。

「足元を掬われるぞ」

ワイトはその言葉を一笑に付した。

『焦ることはない』

ルシアはまた目を閉じた。

言い草が気に食わなかったのだろう。

「そういやー、ケイ、負けたんだってー?」

コーマックは、椅子を回してケイの前で止めた。

ケイの不機嫌オーラが増したような気がするが、コーマックに遠慮の二文字は無い。

「業魔に負けたって聞いたよー」

可笑しそうに口角を吊り上げる彼に、ケイは冷め切った視線を返す。

「ノルマは果たした」

これ以上言えば怒られる(キレる)

それはこの場にいる誰もが悟っていた。

にも関わらず、

「でもー、結局トレインジャックは失敗でしょー?」

分かっているのに口に出すのは、最もタチが悪い。

「そのくらいにしときなさい」

ゼノヴィアが、呆れ半分で宥めた。

部屋の中に殺気が充満していては居心地が悪い。

「はーい」

椅子をくるりと一回転させ、反省した様子が微塵も無い。

そんなコーマックだが、これが彼の普通である為誰も文句は言わない。

お互いの自由はある程度尊重しているのだ。

ケイはというと、下らないとばかりに溜息を吐き、目を閉じた。

「苦労するねえー、ゼノヴィアの姉さん」

琉無はニヤニヤとゼノヴィアを見ている。

揉め事を仲裁するのはゼノヴィアの役割だ。

彼女がいなければ、今頃ホウカーは戦場と化していただろう。

否、もう既に壊滅していたかもしれない。

内部抗争による壊滅は、そう珍しい話ではない。

潜入(スパイ)がバレたり、裏切り者の存在を仄めかされ疑心暗鬼になったりという理由が大半を占める。

大きな組織を潰すのには、内部抗争を狙うのが最も良いといえるだろう。

大きな労力を使うこともなく、手軽にできるからだ。

「そう思うなら琉無ちゃんも自重しなさいな」

呆れが混じっているものの、母親を彷彿とさせる慈愛の眼差し。

琉無はその目を、少し悲哀の籠った視線で見つめ返した。

ゼノヴィアがしたような母親らしい言動は、琉無には初めての経験にして幼少期に一番求めていたものだった。

「やなこったい」

いつも通りの底抜けに明るい声。

さっきの視線に入り混じった感情は、既に跡形もなく霧散している。

彼女は道化師(ピエロ)の仮面を被るのだ。

道化師は、常に明るくなくてはいけないから。


「少し外す」

短く言って席を立ったのはルシアだ。

「じゃあ私も行くわ」

語尾にハートマークが付いてもおかしくないような声音で、クロエも後を追う。

二人が完全に部屋から出ると、ワイトは口を開き確認する。

『今回の任務は決してあの二人に悟られてはいけない。いいな?』

ケイは閉じていた目を開き、コーマックは笑みをより一層深める。

琉無はニヤニヤと怪しげに笑い、ゼノヴィアは妖艶に目を光らせた。

『舞台の用意はまだか?』

盗聴されていても問題の無いように、敢えて詳細は省く。

「もうしばらく待ってほしいかなー」

コーマックは困ったように苦笑した。

そんな表情は彼にしては珍しかった。

聞き慣れた音を立てて扉が開き、クロエのみが部屋に入る。

ルシアはまだ外しているようだ。

「撒かれちゃったわ」

ヒールを鳴らしてソファに歩み寄り、勢いよく座り込む。

「嫌われてんじゃねーのー?」

琉無は未だに警戒心の残る視線でクロエを射抜いた。

クロエは沈黙し、不機嫌そうに足を組む。

『今日はもういい』

ブツリと回線が切れる音がした。

ワイトは部屋の様子を見ながら、静かにほくそ笑んでいた。

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