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硝煙と黒猫  作者: 黒雪姫
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そして──は現れる

まずは、ユーゴ・ブィックスが話した情報の裏付けから始め、全て真実であることを確認した。

議論すべきは、その後。

協力するのか、しないのか。

何せ相手は警視庁の一員だ。

話していたことが本当だったとしても、クロウズを捕まえる罠である可能性も否定できない。

「どう、する…の?」

ノアはちらりと黒瑠を見上げた。

「じゃあこういうのはどうかなあ?」

黒瑠は提案した。

その案は、皆が納得するものだった。

流石はリーダーだ。

「…じゃあ、一旦ユーゴ・ブィックスに会い、罠かどうかを見極める。会いに行くのは…二人、だ。いいかな?」

皆が頷く。

それ以上の案が思いつくとは考えられなかったからだ。

「武闘派である二人に会いにいかせる。一人は璃夜。誰もが見惚れる銃の腕、それに加えて冷静さもあるという観点からだ。璃夜、いいかい?」

璃夜は考える素振りを見せたが、すぐに頷いた。

問題は、後一人。

「後は菖蒲、駒希、僕、の誰かだ。僕は戦闘は専門じゃないし、菖蒲か駒希か」

「いきたいってー!!」

元気に挙手するのは駒希。

「却下」

冷静に判断するのは愛斗。

「やっぱリ、取引とか話し合いなら菖蒲の方が向いてますヨネー」

シエナはもっともな発言をする。

駒希は心底残念そうな顔をするが、仕方ない。

「では、自分が行くであります」

方針は、大体決定した。

ユーゴに電話したところ、早いほうが良いというので落ち合うのは、明日、10時となった。

場所は、この近くから二駅先の駅。

「じゃあ頼んだよ?璃夜、当麻」

黒瑠は二人に確認を取る。

「ええ」

璃夜は腕組みをしながら答え、

「了解であります!」

菖蒲は元気に敬礼した。

その日は、他に何もせずに就寝となった。

次の日、9時という珍しく遅い時間に起きた璃夜は慌てて身支度を整えた。

といっても、時間のかかるものではない。

メイクなどをする訳でもなく、別段洋服に気を使うこともないからだ。

しかし、慌てなければならないことに変わりはない。

璃夜は焦りながらも着替える。

適当に銃を取って、リビングに。

皆既に起きていた。

何も食べずに急いで家を出て、菖蒲とともになんとか言っていた駅に到着した時には、もう約束の時間の5分前だった。

ユーゴは目印に紫色の傘を持っているらしい。

少し辺りを見れば、簡単に見つかった。

それもそのはず、降水確率が10%と低い今日に、わざわざ傘を持つ人などいないからだ。

「ユーゴ・ブィックスさん、でいいのよね?」

璃夜は警戒しながらも後ろから声をかける。

男性は突然かけられた声に少し驚いたようだったが、すぐに肯定の返事をした。

「え、ええ。私が、ユーゴ・ブィックスです」

「自分達はクロウズの一員であります。自分は“討魔”、彼女(こちら)は“黒猫”であります」

璃夜は軽く会釈をした。

本名を言わないのは、やはり裏の人間としての警戒心だろう。

「立ち話はなんですし、何処かの店に入りましょう」

そのユーゴの一言で、三人は近くの喫茶店に入った。

落ち着いた雰囲気の店で、なるべく人の少ない席を選んで腰掛ける。

「罠…ではなさそうね」

勘付かれないように、そっと菖蒲に耳打ちする。

菖蒲は声を出さずに、小さく頷いた。

誰かが隠れている気配も無く、殺気もない。

少しだけ警戒を解いた。

「今日はひとまず会いに来ただけで、まだ協力すると決まった訳ではありません」

念の為、(あらかじ)め断りを入れておく。

余計な期待をさせないように。

「ええ。話を聞いて下さるだけでも」

ユーゴは軽く微笑んだ。

菖蒲と璃夜は、改めて彼を観察する。

スーツにベージュ色のコートを着ていて、同色の帽子を今脱いだ。

その中に武器が仕込んである、なんてことはないようだ。

警察官として銃は持っているようだ。

ちらっと見えたのはベレッタM92。口径9㎜×19、装弾数15発。使い勝手が良い銃だ。

世界的にも信頼性が高く、知名度も高い。

それはともかく、ユーゴ自身は物腰の柔らかい、好印象な男性である。

璃夜はブラックコーヒーを、ユーゴはエスプレッソを、菖蒲はキャラメルラテを頼んだ。

「道化琉無に会ったのは、本当のことでありますか?」

「もちろん。無邪気に笑う彼女は、とても、恐ろしかった」

表情を強張らせ、言葉を区切りながらそう答える。

相当な恐怖を刻まれているようだ。

璃夜は運ばれてきたコーヒーを啜ると、口を開いた。

「それは、この人で間違いない?」

確認用に持ってきた道化琉無の写真がテーブルに置かれた。

ユーゴは、血の気の引いた青い顔でなんとか頷く。

「私が不甲斐ないばかりに、部下が…!」

そう言って頭を抱える様は、結構追い詰められているようだった。

「落ち着いてください」

冷静な声で、璃夜は彼に声をかけた。

それで我に返ったのか、エスプレッソを飲み干して気を取り直した。

「貴方の所為ではないのであります!」

それは気休めなどではない。

部下が殺されたのは、部下自身の所為だ。

警戒を怠り、ボロを出したその甘さが命取りになった。それだけのことだ。

「潜入では、決して気を緩めないこと。出過ぎた真似はしないこと。自分の命は自分で守ること。子供じゃないんですから、自分の命は自分で守らないと」

何の感情も無いような声で、現実だけを見据えて発言した。

璃夜はあくまで単独での活動をし続けてきたため、誰かが死んだのを他人の所為だと思うことは考えられないことだった。

「人が殺されるのは、自己管理を怠ったその慢心の所為でしかありません。慢心のみが、人を殺す」

菖蒲は内心驚いていた。

璃夜の思考の一端を、見たからだ。

しっかりとした価値観を持っている。

その価値観を垣間見たような気がしたから。

人は慢心にのみ殺される。

どれだけの重みを感じてその言葉を言っているのだろうか。

「そう。貴方が責任を感じる必要は、無いのであります」

宥めるように、言葉を紡いだ。

菖蒲は少し、拳を握った。

「ありがとうございます。それで、その…協力の件は」

「まだもう少しお待ち頂きたいのであります」

自分の独断では決められない。

グループになったとき、無責任な行動は自分達の首を絞める。

ふと、痛いくらいの殺気を感じた。

「ッ!?」

菖蒲、璃夜の二人は、ある一つの方向を同時に向いた。

白いワイシャツに黒いネクタイ、そしてキュロット。

白金(プラチナ)色のセミロングの髪に、闇に輝く黄金の瞳。

右目の下には赤いハート、左目の下には黒い逆三角形。

頭には、黒いミニシルクハット。

通常ならリボンが巻かれている所は、代わりに白い包帯が巻かれていた。

そこだけ周りから切り離されたような風にも思える。

それくらい、異質だった。

ゆっくりと、少女は口を動かす。

『み、い、つ、け、た』

不審に思ったユーゴも、そちらを向いて固まった。

「ど、道化琉無…!」

菖蒲は代金を雑にテーブルに置いて、追う。

璃夜も同じくだ。

琉無は、くるりと背を向けて駆けていく。

見失うものか、と眼を凝らす。

璃夜は拳銃の有無を確かめる。

大丈夫だ、ある。

璃夜は一層加速した。

やがて琉無は狭い路地に入る。

そのまま追跡していくと、ちょっとした空き地に出た。

人気もない、違法取引にでも使われそうな場所だ。

どこか孤立したような印象がある。

璃夜は、目にも映らない速さで銃を抜き、正確に3発撃った。

脳天を狙ったが、琉無は少し頭をずらしただけで避けた。

璃夜は面食らいながらも、銃を構えた。

菖蒲は日本刀に手をかけた。

「それでは少々分が悪いであります!!」

そう叫ぶと、琉無に一瞬で距離を詰める。

「なッ…!?」

そして刀を振り下ろし、さらに刃を上に向けて振り上げる。

琉無は間一髪で避ける。

しかし、前髪が若干斬られたようだ。

それでも笑っている。

楽しんでいる。

璃夜は援護射撃に回った。

回避できないコースを選んで二発。

一発はナイフで切られたが、二発目は腕を掠った。

菖蒲は重心とともに体自体を低く落とし、右手に刀を持って薙ぎ払う。

屈んでも飛んでも避けられない、微妙な高さ。

咄嗟に琉無はナイフで受け止める。

しかしそんなことは、菖蒲も見透かしていた。

刀を瞬時に左手に持ち替えると、姿勢を整えて右足で頭部を狙った蹴りを放つ。

討魔の家系に伝わる流派、斬業討魔(ざんごうとうま)流。

剣技と体技を組み合わせたような、独特な技が数え切れないほど伝承されている。

途中で技を改めたり、追加したりしているうちに色々な武術がごっちゃになった流派だ。

ゆえに、一つ一つの技に統一性が無く、全くもっての別物。

対処することが困難だ。

討魔の家系だけが教わる流儀なので、あまり知られてもいない。

先ほどの菖蒲の技は、そのうちの一つ、一縷(いちる)という技だ。

一縷のそのものの意味はひとすじの細糸。

大腿から腰にかけての避けにくい部分を狙って薙ぎ払い、その隙にさらに蹴りを放つというちょっと壮絶な技だ。

璃夜は援護射撃を試みたが、琉無がうまく菖蒲と被っていて、撃つに撃てない。

「にゃあははぁッ!!」

そんな奇妙ともいえる笑い声を上げると、琉無はなんと菖蒲の靴を噛んで止めた。

「…!?」

驚いて距離を取ろうとする菖蒲が、足を掴まれて態勢を崩した。

そんな隙を見逃す琉無ではない。

ダーツの矢を、三本の指の間に挟み、一気に投擲する。

一本は辛うじてやり過ごしたようだが、一本が菖蒲の左肩に突き刺さる。

「討魔!!」

本名を出さないように、璃夜は菖蒲の無事を確認する。

両手に持った銃で、続けざまに二発撃つ。

今日使っている銃は、小さな短機関銃、Vz61。スコーピオンとも呼ばれている。

入っている弾は全部で15発だった。

迂闊にも、急ぐあまりに弾倉(マガジン)を忘れてきた。

出る前にリロードした訳でもなく、15発しかないのを璃夜は家を出てから確かめた。

真逆こんなことになるとは、と後悔する。

15発、と言ったが、正確には先ほどから数発撃っているので残りは8発だ。

なるべく節約しなくてはならない。

奥歯を噛み締め、2発追加で撃つ。

避けられたが、撃った弾はさらに電柱で跳弾し、また琉無を追う。

弾は直前で躱され、琉無の頬を掠めた。

残り6発。

菖蒲は刃先を下に向け、土を抉って砂埃を巻き上げる。

地面が乾いていたのは幸運だった。

璃夜は目を細めながらも3発撃ち込み、砂埃が晴れるのを待った。

菖蒲は刀を水平に構えて突きを繰り出した。

バックステップで逃げられるのは、想定の範囲内。

そのまま刀を地面に突き立て、それを軸に空中で一回転してドロップキック。

両手でガードされたが、勢いを殺しきれずに後ろに退がった。

これも討魔の技、旋風(せんぷう)だ。

軸として刀を使う飛び技。

やがてはっきりと見えるようになる。

菖蒲の息は荒い。

琉無の表情は、とても嬉しそうに歪んでいる。

しかし璃夜の銃弾は当たっていたようで、右足と左腕から血を流している。

琉無はマジシャンが(うやうや)しく礼をするように、自然とあのミニシルクハットを取ってみせた。

中から飛び出したのは、何処に隠していたのかというくらいに大量のダガー。

道化師のナイフ投げなんかに使われるようなナイフだ。

咄嗟のことに反応しきれず、菖蒲は刀でいくつか弾くも右の脇腹と左の大腿に喰らう。

璃夜だって例外ではない。

残りの3発を使い切って防ぐも、頭を庇った右腕に二本刺さった。

「…うッ…!」

何とか声を堪えようとするが、微かに呻き声が漏れた。

璃夜は弾切れを起こしている。

さらに菖蒲の方も、痛みは感じないといえども酷い傷だ。

ふと菖蒲は懐から、何かを取り出した。

琉無には見えないように出されたそれに、璃夜は考えを悟る。

閃光手榴弾(フラッシュバン)

それは、爆発時の爆音と閃光によって一時的に視覚、聴覚を奪うものだ。

菖蒲がそれを投げたと同時に、璃夜は背を向けて目を瞑り、耳を塞ぐ。

暫くして目を開け、菖蒲と璃夜は目を合わせる。

一斉に、同じ方向に走る。

戦略的撤退(にげたの)だ。

殺しにかかったところで、殺気で気づかれる。

なら、早めに逃げたほうがいい。

取り敢えず、ユーゴを待たせている喫茶店まで走った。

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