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硝煙と黒猫  作者: 黒雪姫
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黒二人

黒猫。

闇の世界で名を馳せている、殺し屋だ。

しかし他の殺し屋とは違い、年齢はおろか性別までもが知られていない。

正体は謎に包まれている。

本人に会ったことのある人は勿論いた。

しかし、その情報を売るような命知らずじゃなかった。

流せば黒猫は、情報源を潰す。

知らない者は、どうせ筋骨隆々の中年男性だろうと推測する。

その推理は、外れも外れ、なのだが。

その黒猫を、買ってしまった人が一人。

「俺は偶に依頼とかをする側だ。まあ、そっち側には詳しいっちゃ詳しいが…完全にハマってはいない」

ルシアの言うそっち側は、所謂闇の社会だった。

闇の社会はまるで泥沼。

飲み込まれたが最後、戻ることは出来ない。

ルシアはその泥沼に片足を突っ込んだまま、踏ん張っている状態。

璃夜のように、泥沼にハマってはいない。

璃夜は、闇の社会での生き方しか知らない。

「いや、あの黒猫様に会えると思わなかった。まさかこんな少女だったなんてな」

人は見かけによらないんだ、とルシアは一つ学んだ。

「様はやめて下さい。黒猫じゃなくて璃夜でいいですよ」

ところで、と話題を変える。

「そんなに流暢な日本語、何処で覚えたんですか?」

割と今更な言葉だが、もっともな質問だ。

「一時期日本へ留学してたことがあるんだ」

案外普通な理由だった。

璃夜はふと、窓を見た。

「…二人」

ルシアの胸倉を掴み、耳元に口を寄せた。

「拳銃はありますか?」

最低限の声量で、そう囁く。

ルシアも同じようにして答える。

「ベッドの下だ」

そこからは素早かった。

自然な動きで教えられたところから拳銃を出す。

同時に、二人の男が窓を割って侵入してきた。

璃夜は拳銃にサイレンサーが付いていることを確認し、発砲。

たった二発で、二人の男を戦闘不能にしてみせた。

一人には寸分違わず額に撃ち込み、もう一人には急所を外して撃った。

璃夜は、生きている方の男のこめかみに銃口を突きつけた。

「依頼人は誰?」

綺麗な英語で、そう問う。

「加藤…」

この男性に依頼したのは、加藤という人。日本人だ。

「グッド・バイ」

なんの躊躇もなく、拳銃のトリガーを引く。

銃口を下唇に垂直に当て、硝煙を吹いた。

返り血を浴びても表情一つ変えない璃夜に、ルシアは呆然としていた。

「部屋を汚してしまいましたね。すみません」

拳銃を元の場所に戻し、ルシアに目を向ける。

「いや、それはかまわない。死体は掃除を頼んでおくよ。…にしても、凄いな」

凄い。そうとしか形容できなかった。

闇を駆ける猫のように柔軟な動き、美しささえ感じる殺し方。

どこをどう取っても、黒猫という通り名は、彼女にぴったりだった。

「お風呂、借りても?」

髪を手ぐしでとかそうとしながら、璃夜は褒め言葉を一切無視して許可を取った。

「着替えは…俺の服を使え。まだ新品のがあった筈…」

そう言って視線を泳がせる彼に、璃夜は一言礼を言った。

シャアァァア────

水と共に流れていく、紅い液体。

お兄様──

璃夜が兄と過ごした日々の一片が蘇る。

頭を振ってそれを思考外へと追いやり、浴室から出てバスタオルを巻いた。

置いてあった服は、どちらかといえば好みの部類に入るデザインだった。

すこし大きい服を着て、リビングに戻ると、既に死体は片付けられていた。

「あの…今って何時ですか?」

東の空から太陽が登ろうとしている。

「朝の5時半だ。眠いか?」

璃夜が素直に首を振ると、ルシアは一つ欠伸をした。

「んー…俺だけ寝るわけにも行かないから…コーヒーでも飲むか。璃夜は?」

「いただきます」

ルシアがキッチンに向かうのを片手で制し、璃夜は自らコーヒーを二人分淹れにいった。

ルシアはコーヒー好きの為、本格的な物まで揃っていた。

それを使ってコーヒーを淹れる。

璃夜もまたコーヒー好きで、ちょくちょくこういう風に飲んでいたので使い方はわかる。

室内に、なんとも言えぬ良い香りが漂った。

白いコーヒーカップに注がれたコーヒーを、ルシアはゆっくりと口に運んだ。

「んん、美味い」

璃夜は、褒められた事に安堵し、胸を撫で下ろした。

そして自分も一口飲んでみる。

序でに璃夜は、フレンチトーストを作っていた。

中々の出来栄えで、納得のいく出来だった。

璃夜の家庭的な面に多少驚きつつも、それを平らげるルシア。

久しぶりの食事を食べ終え、璃夜はペロリと自分の指を舐めた。

トン、トン

軽快なリズムで、ドアがたたかれた。

「はぁーい…」

ルシアはドアノブを捻る。

「ルッシアーーッ!」

さらりと流れる金色の髪。

赤い瞳が印象的な女性───クロエは、いきなりにルシアに飛びついた。

そんな光景に目をぱちくりさせている璃夜。

「んもー会いたかったんだからぁー!連絡くらいしてよねッ!」

敵かと思い銃に手を伸ばしたことを誤魔化しながらに、璃夜は口を開いた。

「え、と…彼女は?」

クロエを迷惑そうに引っぺがし、ルシアは答えた。

「クロエって名前のハッカーだ」

「あーんもー!つれないんだからぁ♡」

彼女がルシアにどんな感情を抱いているのか──────

一目瞭然だった。

「あれ?この子だれ?…この浮気者ーッ!」

朝っぱらから騒ぐものだから、璃夜は次第に怒りを募らせた。

今にも怒りが爆発しそうになるのを抑えながら、自己紹介。

「初めまして、璃夜です。貴女に逢えて光栄ですよ、ミス・メリザンド」

メリザンドは、闇の社会でのクロエの名前、だった。

それを一瞬で、璃夜は見抜いた。

クロエは顔から表情を消し、訝しげに璃夜をみた。

「貴女、何者?」

反面、璃夜は不敵な笑みを浮かべた。

「殺し屋の、黒猫です」

ルシアにもしたように、スカートを摘んで軽くお辞儀。

「あの…黒猫!?黒猫が少女!?」

混乱のためか、声を張り上げる。

「そうですが、何か?因みに16歳ですわ」

笑みを崩さずに、普段は使わないお嬢様口調で暴露。

暫く固まっていたが、直ぐにクロエは硬直から解かれた。

「ルシアの何?」

璃夜が殺し屋であると知っても、クロエは態度を変えなかった。

「同居人です」

誤解を招く言い方だが、深い意味で言った訳ではない。

「お、おいッ!違うんだクロエ!此奴は…」

ルシアは必死に弁解を試みる。

が、それも虚しく。

「ど、ど、どどど同居人!?そんな、ルシアに私以外の女が!?」

クロエは別にルシアと付き合っている訳ではない。決して。

「いや、これはだな…」

必死にルシアが誤解を解いている間。

ルシアの家の電話が鳴った。

それには璃夜しか気付いていなかったので、仕方なく受話器を取る。

「はい、もしもし」

「黒猫ちゃんかい?小鳥遊だよ。どうやら仕事でそっちに行く事になりそうなんだ!僕は君と会ったことがないし、どうだい?仕事の話もある。まあ、日程とかその他諸々は後日決めるとして…会ってくれないか?」

一方的に話す小鳥遊氏。

会う、というのは少々気がひけるが、仕事があるのなら…

などと璃夜は悩む。

その間も、必死にルシアは弁解中。

もうすぐそっちの話も終わりそうだ。

「そうですね…まあいいでしょう。いつも小鳥遊氏には、お世話になっている訳ですし」

「本当かい!?ああ、楽しみだなぁ。是非ドレスを───」

妙なことを口走ろうとしたので、璃夜は受話器を素早く置いた。

「初めまして、黒猫さん。私はクロエよ。貴女に話があるのだけれど…」

落ち着いたらしいクロエは、そう言って璃夜に近付いていった。

「ええ、いいわ。ごめんなさい、ルシアさん。席を外して頂けませんか?」

ルシアは多少心配そうな顔をしながらも、外に出た。

「で、話って?」

ソファに腰を下ろし、璃夜は話を促した。

「どうやって、私がメリザンドだと見抜いたの?」

そう来ると思っていた、とばかりに璃夜はニヤリと笑った。

まだ幼さの残る少女の顔には、余りにも似つかわしくない不敵で不気味な笑い。

「さあ、何故でしょう?ふふ、ふふふっ」

何がここまで、少女(りよ)を狂わせたのか。

見た目だけなら中学生とも取れる、この可愛らしい少女を。

「はぐらかさないで」

対してクロエの表情は、真剣そのものだった。

だが、クロエがいかに真剣なのかを知っても、璃夜の態度は変わらなかった。

「対価を要求するわ」

そして在ろう事か、取引を持ち掛けた。

「何がお望み?」

少女(りよ)の異常性を認識しながらも、クロエはその取引を受けようとする。

「ある人物を調べて欲しいの。偽名かもしれないけど、名前は分かるわ」

少し考えるそぶりを見せたが、やがて頷く。

「成立、ね。…私が貴女をメリザンドだと思ったのは、ある人が貴女の写真を見せてくれたから」

クロエには、心当たりが幾つかあった。

「小鳥遊氏」

心当たりの内の一人を、璃夜は挙げた。

「まあ、ぶっちゃけそれだけなんだけど」

「小鳥遊さんね…後で文句言ってやるわ」

顔を顰めたクロエ。

「呉々も情報源は御内密に」

念のため釘を刺す。

璃夜は、子供っぽく人差し指を立て、唇に当てた。

「で、対価なんだけど…その人の名前はワイト。多分偽名。185㎝くらいの長身で、黒髪。ああ、性別は男ね。あと瞳はダークブルーだったから日本人じゃないと思うわ」

顔から笑みを消して、さらりと情報を出した。

「ん、そうそう…私が黒猫であることを誰かに流したら、その時はクロエと流した人を殺すわよ」

凍りつくような笑みと一変、無表情になった。変わり身の早さにクロエは冷や汗をかく。

彼女は、敵に回してはいけない。

理性がそう叫んだ。

「分かったわ。調べ次第伝える。…外に放っておいたらルシアが可哀想だわ」

この話は終わり、ということだろう。

ドアを開けて、猫なで声でクロエはルシアを呼んだ。

「私は少し散歩してきます」

黒いコートを羽織り、肌寒い外を璃夜は歩いた。

道に迷わぬよう、複雑で入り組んだところには行かないようにする。

人気のない住宅地。

後ろから、爽やかな声がした。

「やあ、お嬢さん」

周囲に人が居ないので、お嬢さんとは自分のことだと判断し、振り向く。

「何かしら」

青年は、眉目秀麗な日本人だった。

「どちら様?」

少しだけ、璃夜は警戒する。

「名前、かな?僕は黒瑠(クロル)だ。因みにクロルというのはドイツで塩素という意味らしい。職業は便利屋ってとこかな」

黒瑠と名乗った青年は、和かに訊いていないことまでいった。

「そんな警戒しなくても怪しくはない…って言っても信じないか。まあいいや。というか其方も名乗ってよ」

璃夜は直感で感じていた。

青年(クロル)は、私の名前を知っている。そして、私が黒猫だということも。

「分かってるんでしょ」

クロルの笑みには、不気味なものが混じっていた。

「まあね。君は黒猫。本名は…(わたり) 璃夜」

饒舌に、一方的に、黒瑠は喋る。

「…狂ってるのね」

そう、黒瑠は狂っている。

常時不気味に笑い続け、饒舌に相手を語る。

その全てを、見透かすように。

「まあね、君と同じ位異常だよ。ああ、でもその若さで人を操り、不気味に笑う恐ろしいくらいに変わり身の早い君のほうが異常かなぁ?」

何を、何処まで知っているのか。

答えは全てだ。

璃夜の過去も現在も、そして璃夜自身が気付いていないことでさえ知っている。

「それ、褒めてる?」

「そんな訳ないだろ?脳内お花畑か?勘弁してくれよ、面倒くさい。異常と言われて喜ぶ奴はマゾヒストだな」

ペラペラペラペラと、饒舌に話し続ける。

本心を嘘で塗り固めた、喰えない青年。

「…貴方の方が狂ってるわよ、サディスト。そうやって人を弄ぶの?あと私は断じてマゾヒズムは持ってないわ。よってマゾヒストではない。残念でした」

璃夜も負けじと言い放つ。

その表情は、絶対零度だった。

凍りつくような、という表現でさえも生ぬるい、見るもの全てを凍傷にさせるような、そんな表情。

絶対零度という言葉が相応しい。

だが、黒瑠がそんなものに屈する訳もなく。

「残念ではないよ。というか勘違いしているようだから言うけど、僕はサディストじゃないよ。因みに君は冗談で言ったようだが、人を弄ぶのは趣味だよ。実に愉しい最高の遊戯(あそび)さ。子供には分からないかもだけど」

璃夜は思わず顔を顰めた。

本当に狂っている。反吐がでる程に。

「子供だけじゃなくて大人も分からないわよ、それ。分かりたくもないわ。本当に異常ね。異端、というべきかしら」

皮肉を交えても、黒瑠は顔色ひとつ変えない。

「その二つの言葉の違いは詳しく知らないからなんとも言えないな。あと別に愉しさを分かって欲しい訳じゃない」

本当に、気味が悪い。

「貴方と話していると疲れるわ。じゃあね」

「光栄だよ、君とはまた会うきがする」

私は会いたくないわ、と璃夜は小声で呟いた。

最低最悪で卑劣な奴に出会ってしまった。

最近の出会いの多さに感嘆し、最悪の気分になった璃夜はそのまま家路についた。

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