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硝煙と黒猫  作者: 黒雪姫
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勢力図の変化

璃夜と黒瑠の二人は、三階で合流した。

お互いの無事だけを確認すると、何も言わずに進んでいく。

黒瑠は奥の方に気配を感じ、璃夜を手招いた。

無骨な鉄製のドアの前で一度顔を見合わせ、突撃する。

薙刀と拳銃を、一気に向けられた相手は…

まっすぐに、こちらを見据えていた。

空のように美しい青髪に、黒縁の眼鏡。

子供、というわけではないんだろうが童顔で、中学生でも通じそうだ。

彼は微笑しているが、それでも二人は警戒を崩さない。

しばらくは、両者微動だにしなかった。

「よく来たね。来ると思ってたけど」

決して標準をずらさないまま、璃夜も口を開く。

「来て欲しかったの?」

彼は笑みを深めた。

「まさか。期待はしていたけど」

黒瑠は一言も発しない。

「僕はフアンっていうんだけど」

「僕は便利屋の黒瑠。ここのメインコンピュータを見せてくれない?」

その言葉を無視し、フアンは璃夜に顔を向けた。

璃夜は少し躊躇った。

そう簡単に教えていいのだろうか。

だが、意を決する。

「私は黒猫。殺し屋の、黒猫よ」

「よろしい」

満足したようだ。

「メインコンピュータを見せるのはいいよ。金を払ってもらうけど」

「それはできないかな。君、ホウカーのコーマックの弟子、でしょ?」

なるほど、だから襲撃したのか、と璃夜は一人納得した。

「へえ。そんなことまで知ってたんだ。まあいいけど」

黒瑠はおもむろに移動を始め、フアンの後ろにあったコンピュータに手を付ける。

だが、パスワードの入力画面で手が止まる。

「…パスワードは何かな?」

「答えると思う?死にたくはないけど」

しばらく沈黙を決め込んでいた璃夜は、ようやく口を開く。

「言って」

「かわい子ちゃんには教えてあげようかな?まあ、教えないけど」

「ふざけないで」

フアンは貼り付けていた表情を変え、つまらなさそうな顔をした。

「どーせ殺せないでしょ?そのパスワードを解ける可能性のあるクロエは、今連絡が付かない。違うかな?合ってると思うけど」

黒瑠は歯嚙みした。

先ほどフアンが言ったことは、全て本当だ。

どうしようもないのか。

「黒瑠、変わって」

璃夜は交代を申し出た。

これにはフアンと黒瑠も面食らっていたが、案外素直に交代した。

「これは流石に想定外だ。嬉しい誤算だけど」

そう言ってフアンは笑い、コンピュータの方を興味深そうに見た。

璃夜は、今は亡き兄である璃久に勉強などを教えてもらっていた。

大好きな兄様の教えを、璃夜が忘れるわけもなく…

流石に他人のコンピュータを見るような(すべ)は教わっていないが、要は知識の応用だ。

軽くハッキングまがいのことをして、わずか数十秒足らずで解除してしまう。

「わお」

フアンはその一言だけを言って、嬉しそうに目を細めた。

「黒猫ちゃんには驚かされるね」

黒瑠はフアンが黒猫の本名を知らないことを配慮し、あえて前の呼び名である黒猫ちゃんと言った。

「それで、どうすればいいの?黒瑠」

「アリシアの情報引き出して」

黒瑠は璃夜に任せることにしたようだ。

正しい判断といえるだろう。

璃夜はコンピュータの扱いを心得ているのだから。

当然黒瑠は知識の応用であることを知らない。

もちろん、フアンも。

それを知れば、二人はもう少し驚いたかもしれない。

マウスとキーボードを操作し、璃夜は膨大なデータの中からアリシアの情報だけを選ぶ。

“Alicia”と書かれたフォルダがあったので、見つけるのは容易だった。

「印刷」

黒瑠の指示通り、全て印刷をする。

「これは流石にお手上げ、かな。良いもの見せてもらったわけだけど」

ページ数200にも及ぶ資料を抱える。

「さて、このフアンとかいう奴はどうしようかなー」

心底楽しそうに、黒瑠は薙刀をフアンの首筋に当てた。

「見逃してほしいなー、なんて。素直に願いを聞き届けられるとは思わないけど」

冷や汗が滲み出ているのが見える。

ただで見逃すはずがない。

「じゃあこの建物でも貰おっかな?もちろん、コンピュータごと」

「はは、勘弁してほしいな。最初から素直に見逃してくれるとは思ってなかったけど」

困り顔だが何故か笑っている。

どういう処置を取っても、その隙を突かれそうだ。

璃夜はメリットを得るにはどうするのが最適なのかを考える。

「コンピュータにも保存してないとっておきの情報あげようか?信用するかは別だけど」

「内容によってはそれで手を打つ」

二人の間で交渉が進んでいく。

懐の探り合い。

一言でも間違えれば、相手にこちらの情報を渡すことになるかもしれない。

「その情報と、コンピュータに入った“ホウカー”に関する情報。これで手を打とう」

にやり、と。

不気味に黒瑠は笑った。

璃夜は少し背筋が寒くなった。

何かを企んでいる。

そうはわかっても、内容は探らせない。

「ああ、分かった」

フアンは何か諦めたように答えた。

黒瑠は、このままフアンを帰しても良いと思っていた。

黒猫がクロウズに入った。

その情報を、敢えて握らせた。

そうすれば、ルシアもしくは上手くいけばワイトを釣れると考えた。

しかしただで帰せば怪しまれる。

コンピュータにない情報まで得られるというのは一石二鳥だ。

しかし黒瑠の考えはそこまで甘くなかった。

何らかの企みがあるのではないか。

敵の言葉は信じないに越したことはない。

「交渉成立」

警戒心を残しながらも黒瑠はさあ喋れと促す。

「“カイツ”、という第三勢力の話だ。といっても、秘密主義なのかあまり情報は得られていないけど」

「カイツ?」

黒瑠は聞き返した。

至って真面目な表情で、フアンは話す。

緊迫感が伺える。

「話によれば、ホウカーとクロウズの争いの、漁夫の利を狙っているらしい。まだ表立って行動は起こしてないけど、正体がわからないため危険視するべきだ。既に今、二つの勢力が密かにぶつかっているのですら、把握されてるかもしれない」

璃夜は眉をひそめた。

「本当か?」

璃夜の聞きたかったことを、黒瑠は先に訊く。

「考え過ぎだと思うかもしれないが、あまり楽観視できないのも事実。じゃあ警戒レベルMAXにしておいたほうが、対策はしやすいと思うけど」

どこからどこまで信用していいのか、分からない。

だが、警戒しておいて損はないだろう。

正直璃夜は、この話を疑っていなかった。

だが、信用もしていなかった。

ただ無償でもたらされた情報として、ある程度耳は傾けていた。

話しているうちに、ホウカーに関する情報データのコピーは終わっていた。

「行こう、黒猫ちゃん」

何も言わずに璃夜はついていく。

黒瑠は薙刀をさげ、出て行った。

璃夜もフアンを一瞥し、後に続く。

帰ると皆、すでに起きていた。

アリシアは床に座ったシエナの膝の上で頭を撫でられている。

愛斗とノアはソファでのんびりしていた。

菖蒲、駒希は互いに睨み合いながら立っている。

「はい、資料」

といって、黒瑠は璃夜の持っていた紙の束を愛斗に押し付けた。

びっしりと字の書かれた資料を、愛斗は1枚1秒足らずのペースで読んでいく。

数分すれば資料を閉じた。

「遅かったね。暗号化でもされてた?」

「まあね」

あれで遅いと言えることに、璃夜は感心した。

あのスピードで、(ほどこ)されていた暗号まで解いたのだろう。

資料を読んでいた数分のうちに、黒瑠はコーヒーを淹れていた。(アリシアにはココアだった)

ちなみに今はノアの横に立っている。

璃夜は壁にもたれかかった。

「さて、皆。新しい情報だ。ちゃんと聞いてよね」

黒瑠は手を叩き、皆の注目を集めた。

「まずはその資料にない話だ。敵から聞いたわけだから、話半分で聞いて」

そう前置きしてから、第三勢力の話を始めた。

「これは僕も、少し前に噂程度で聞いていた話でもあるんだ。マナなら知ってるかな。“カイツ”の話」

愛斗は何も言わなかった。

しかし、それが肯定であると誰もが察していた。

「クロウズ、ホウカーの戦いの漁夫の利を狙っていると聞いた。なら、一つ可能性が浮上してくる。もしかしたらこの争いは、仕組まれたものなんじゃないか。だとすると疑問もある。そうまでして得たい“利”は何なのか」

程よい緊張感のなか、静かに黒瑠の声だけが響く。

「はじめは2組織を潰そうとしているのかと考えた。でも、俺たちを潰したところで、何が得られる?名声?でも、クロウズもホウカーも、表立った組織じゃないからあまり注目は集められない」

だから、と黒瑠は続ける。

「ホウカーの情報も欲しいけど、当面はカイツについても調査して欲しいんだ。カイツの情報は少なすぎる」

「カイツは、都市伝説みたいなものなんだ。正体は全く掴めてない。企みすら分からない。探らせないんだよ」

愛斗が口を開き、補足する。

「なるべく調査は隠密にね。さて、マナからホウカーとアリシアの情報を聞こう。こっちが本題だ」

アリシアは、真剣な表情でじっと愛斗を見ている。

自分に関することだ、少しでも知りたいのだろう。

「じゃあ期待に沿ってアリシアの話から」

璃夜は黙って目を閉じ、話に集中することにした。

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