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硝煙と黒猫  作者: 黒雪姫
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それぞれの戦闘

銃を向けられたくらいでは、璃夜は動揺しなかった。

殺気にはある程度敏感だが、璃夜は気配を探るのはあまり得意ではない。

(ゆえ)に、こういう状況に陥ることはよくあった。

「そこまで」

女とも男とも取れる声。

不思議な響きを持って、静寂を切り裂いた。

振り向かずに、背後に向かって早撃ちする。

手応えは無かった。

つまりは、避けられた。

それでもあくまで冷静に、敵の姿を探す。

僅かな殺気を感じる。

恐らく発砲したのだろう。

璃夜は殺気を感じた方に向けて、撃った。

キンッ

軽く金属音がして、その後に相手の銃が破壊される。

相手は何が起こったのか、理解が追いついていないようだった。

まず、撃った弾は相手が撃った弾を掠め、璃夜に当たらないように逸らした。

そうすると、璃夜が撃った弾も逸れる。

その逸れた弾を、更に相手の銃の銃口に入れた。

そうすれば、相手の銃は壊れる。

つまり先ほどの刹那の時間で、璃夜はそうなるように発砲し、神業をやり遂げたのだ。

まさに、銃の天才だった。

薄暗くてよく見えないが、相手は眼鏡を掛けていた。

もしかしたら、この人が?

璃夜は殺すのを躊躇った。

しかし、その隙を相手は突いてくる。

隠し持っていたらしいナイフを手に、璃夜に向かう。

一瞬の躊躇(ためら)い。

そのせいで、璃夜は反応が遅れた。

咄嗟にナイフを横に移動して避ける。

しかし、頬が浅く切られた。

この人が例の殺してはいけない人だったなら。

璃夜は殺せない。

ナイフを撃ち落とそうとしたが、正面に構えているため、相手に当たる可能性が高い。

人体急所の知識は生半可な璃夜は、脳天を撃てば確実に死ぬということしか頭に入れていない。

つまりは、下手に撃って相手に当たれば死なせてしまうかもしれないのだ。

だから、璃夜は撃てない。

「……ッ!」

スペツナズナイフを知っているだろうか。

鍔のところにあるレバーを押すと、刀身が前に射出されるナイフだ。

もっとも、再装填は難しくほぼ使い捨てなのだが。

射程範囲は5メートル程。

璃夜と相手の距離は、約3メートル。

向かってこないと油断していたうちに、射出された刀身が璃夜に迫る。

咄嗟に腕で庇う。

腕にナイフが突き刺さった。

璃夜がナイフの種類に気づかなかったのは、知識が浅いのと薄暗さのせいだろう。

新しいナイフを出した相手は、ゆっくりと璃夜に近づく。

窓から僅かに漏れる光で、相手の顔が一瞬照らされた。

その時、璃夜はニヤリと笑ってしまった。

───青髪では、なかった。

つまりは、殺してもいいということ。

それを判断した途端、躊躇いなくあの早撃ちを敢行する。

相手は驚いたような表情のまま、絶命した。

加減なしなら、璃夜は簡単に始末することができる。

加減ができないために、制約を受けると弱くなってしまう。

まだまだ未熟だ、と璃夜は自分に評価した。

上の階から、爆発音が聞こえてきた。

少し黒瑠が心配になったものの、気にしないようにする。

大丈夫だ、と信じて。

足音を立てないように階段を上がり、壁に隠れて周囲の人を確認する。

視認できる範囲には、少なくともいなかった。

慎重に全ての部屋を確認する。

人は居らず、ただただ不気味に風の音だけが響いていた。

それに恐怖を感じることもなく、璃夜は更に上の階、3階へと進む。

黒瑠は五階の部屋を確認していく。

気配は無い。

恐らく、五階にはもう誰もいないのだろうと判断する。

そっと四階へ降りる。

窓ガラスの破片を踏みながらも、音は一切立てない。

常に気配には注意していたはず、なのに。

気がつくと、目の前に男性が立っていた。

「な…ッ!?」

急いで距離を取る。

恐ろしいくらいに、その男は気配を消すのが上手かった。

まるで、気配なんて最初から無いみたいに。

舌打ちしたい衝動を抑え、構える。

男の姿は見えているのに、そこにいないようだった。

本当にそこにいるのか、いないのか。

それすらも区別がつかなかった。

頼れるのは視覚だけ。

…やれるか。

自問自答をする。

やがて一つの結論に辿り着いた。

やれるかやれないか、なんて愚問だ。

〔やるしかない〕んだ。

その考えに至ったとき、すでに黒瑠の迷いは吹っ切れていた。

下の階で頑張っている璃夜のためにも。

薙刀を構え直す。

最初に黒瑠が突進した。

男はそれを簡単に捌いてみせた。

それでも動揺せずに、突くのではなく薙ぎはらう。

もともと薙刀はこういう使い方がメインなのだから、当たり前といえば当たり前なのだろう。

しかし、目の前に夢中になりすぎた。

いやな火薬の匂いがして、黒瑠は足元を確認する。

そこにはプラスチックでできた、パイプ爆弾と呼ばれるものが転がっていた。

おそらく、時限発火装置で爆発するものだ。

ギリッ、と奥歯を噛み締める。

横に飛んで回避。しゃがみこむ。

直後に爆発が起きる。

轟音に聴覚が襲われる。

必死に耳を塞ぐも、その音は抑えられるものではない。

爆発による煙に視界を奪われる。

鼻につくのは火薬の匂い。

爆風は(すさ)まじいもので、周りに落ちていたガラス片が飛んでくる。

いくつかは、黒瑠を掠めていった。

幸い直撃することは無かった。

何より気にしていたのは、璃夜にもこの爆発音が聞こえているだろうということ。

心配して突っ込んでくる、なんて馬鹿なことをする訳がないが、それでもやはり少しは心配してくれているだろう。

…多分。

……してくれてるよな?

一人でちょっと不安になりつつも、璃夜の優しさを知っている黒瑠は信頼することにした。

璃夜なら大丈夫、と。

偶然にもそれは、璃夜が黒瑠なら大丈夫だと考えたのと同時だった。

ヒュッ、と空を切る音がして、ナイフが飛んでくる。

間一髪、薙刀で防ぐ。

向こうはこちらの気配を察知しているかもしれない。

そう考えた黒瑠は、気配を消した。

それと同時に落ち着きも取り戻し、冷静に思考する。

いつの間にパイプ爆弾なんてものを置いたのか。

相手の一挙一動には気を配っていたつもりだったが、死角でもあったか。

いや、無かったはずだと黒瑠は再度思考する。

元から設置していたか。

いや、最初は無かった。

自問自答を繰り返す。

おかしい。何かが引っかかる。

男は完璧に気配を消していた。

なら何故、わざわざ姿を現した?

確実に侵入者を殺るなら、不意打ちで仕留めればいい。

さっきのようにナイフでも背後から投げてくればいい。

なのに、何故?

頭の中で、パズルのピースを組み立てる。

足りないところは、辻褄合わせや推測で補う。

いつの間にか出現した爆弾。

姿を現した襲撃者。

パズルが組み上がっていく。

「…そういうことか」

立ち上がった。

煙が晴れたその先を見る。

男は、悠然と立っていた。

「もう一人、いるんだろう?」

ポーカーフェイスだった男の眉が、僅かに動く。

それを見逃す黒瑠では無かった。

もう一人、気配を消すのが上手い奴がいる。

すぐに黒瑠に近づけるような位置にある遮蔽物は限られてくる。

前提が間違っていたのだ。

一対一なんていう、根拠のない巫山戯(ふざけ)た前提は、思い込みだった。

わかってしまえば後はもう一人を炙り出すだけ。

あらかじめ目星をつけておいた壁に、薙刀で攻撃する。

案の定、別の男が出てきた。

「男と(たわむ)れる趣味は持ち合わせてないんだよ……っと」

簡単に首を取ってみせた。

最初から戦っていた男が明確な動揺を見せた。

その隙をついて

心臓をひと突き。

少しの声と多くの血を流して、男は絶命した。

「トリックさえ見破ればこっちのもの…冥土の土産は必要かな?」

黒瑠の顔には、いつも通りの飄々とした笑みが浮かんでいた。

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