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硝煙と黒猫  作者: 黒雪姫
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敵対組織

「『ホウカー』……」

その呟きめいた声にいち早く反応したのは黒瑠だった。

『クロウズ』のリーダーとして、敵対する組織の動向は知っておきたいのだろう。

『ホウカー』、『クロウズ』の仕事用携帯の電話番号、メールアドレスは公開されているため、知っていてもおかしくない。

「電話?」

黒瑠は神妙な顔つきで、ノアを見た。

頷いたのを確認すると、携帯をひったくって出た。

「もしもし?」

皆、水を打ったように静まりかえる。

『やあ、クロウズ』

スピーカーに設定していたらしく、他の者にも相手の声が聞こえた。

「君は『ホウカー』のリーダーかな?」

『そう。是非“ワイト”と呼んでくれ』

璃夜は目を見開く。聞こえた声は、確かに自分を攫ったあの男だ。

名前も一致している。

偶然ではないだろう。間違いなく、本人だ。

「俺はクロウズのリーダーだ。そうだなあ。“クロ”でいいよ」

本名の一部なのに、偽名であるかのように上手く間を空ける。

「で、何の用?」

黒瑠は随分と警戒しているようだ。

『いやあ、僕ら(ホウカー)に怯えて手も足も出ない鴉達(クロウズ)に、ちょっとした宣戦布告さ。そろそろ本腰入れて潰させてもらうよ』

最後の一言は、ワントーン声が低く、その場の空気を凍りつかせた。

しかし、黒瑠はそんなこと気付いていないように饒舌に振る舞う。

「平和主義の(クロウズ)を、ビビって遠巻きに観察していたのは君達(ホウカー)だろう?鷹は鴉に勝てるのか、見ものだねえ」

電話越しでは顔も見えないというのに、挑発的に笑いながら言葉を返した。

『はは、口だけは達者だな。いつその舌を噛み切ってやろうか』

「それはこっちのセリフだよ。能ある鷹は爪を隠すというけど、能が無いくせに威張り散らすのも考えものだね」

口論は白熱しているが、一向に終わりが見えない。

『そうやって軽口を叩いてられるのも、今のうちだ。じゃ、またいつか』

「そのいつかの時に、君が(しかばね)になってないといいけど」

その後しばらくして黒瑠が舌打ちしたところからして、通話は切られたらしい。

数秒の沈黙を破ったのは、璃夜だった。

「ワイトって、男…私、多分会ったことあるわ。でも、完全に同一人物かって訊かれると、証拠がない。それに、会った時の顔が素顔だとは限らない」

その時の璃夜の心情は、ただ、ワイトを殺したいということだけだった。

手を伸ばせば届きそうなくらい近いのに、絶望的なほどに遠い。

存在の確認は出来たのに、その姿を視認することは出来ない。

単にいえば、もどかしかった。

「どう、して…?」

ノアが、恐る恐るといった風に口を開く。

「私は、ワイトに攫われて、人間オークションに出品されたわ。そこでルシアさんに買われたの」

愛斗が、その瞳をすっと細めた。

「璃夜の中で、同一人物であることは何パーセントくらい確信してる?」

そんなことを訊かれるとは思っておらず、少々面食らったが、璃夜は考えてから答える。

「95%」

それを言った時の様子。

思考時間も含めて、愛斗は判断する。

「なら恐らく同一人物だ」

そう言って、微笑んだ。

まさか常に仏頂面の愛斗が笑うなんて、と周囲は目を見開いた。

「その時の容姿を教えてくれ」

すっと。その途端、流れるように璃夜に視線が集まる。

「黒に近い茶髪で、瞳の色はダークブルー。案外整った顔立ちだったわ。身長は、180〜190㎝。声はさっきの電話の声で間違いなかった。ベージュのコートを着ていたから、体型までは。でも、肥満ではなかった。罠に嵌った私を、見下して笑ってた」

目を閉じれば、網膜に焼き付いたワイトの卑下た笑顔。

璃夜はこれほど、誰かに殺意を覚えたことはなかった。

「よく…覚え、てる…ね…」

視線を斜め下に向け、璃夜は言葉を紡ぐ。

「当たり前よ。この手でアイツを殺してやると誓ったもの」

僅かに殺気を含んだ声に、空気がピリッと引き締まる。

そのまま暗い雰囲気になってしまい、しばらく沈黙が流れた。

パンッ、と乾いた音が沈黙を破る。

突然だったので、数名は肩を跳ねさせていた。

「暗〜い話しても仕方ないってー。『ホウカー』への対策を考えるってー」

先ほどのは、駒希が手を叩いた音だった。

「業魔と同意見とはいささか気に食いませんが、その通りであります!」

菖蒲も便乗する。

その場の空気は、大分和らいだ。

こういう時は息が合う二人だ。

「ほラ、リーダー。こういう時はリーダーが纏めなきゃいけませンヨ?」

シエナの声も、少しおどけたような声色だ。

「そうだね。ノア、資料。マナが読んで?」

ノアは何処からか紙の束を取り出す。

それを愛斗が手に取り、目を通す。

「向こうの幹部、というか主要メンバーは、リーダー含め6人。そこはこっちと同じだね。僕の知識(じょうほう)も合わせて報告するよ」

愛斗に読ませるのは、適任だ。

声がよく通る。

高くも低くもない、少年のような声。おそらく声変わりがまだ来ていないのだろう。

充分美声だが。

黒瑠が彼に読ませたのには、もう一つ理由があった。

愛斗は独自に情報を持っている。

自分で調べた、もしくはもとから知っていた情報も織り交ぜて、資料よりも詳しく話すことができる。

黒瑠はそんな所を評価していた。

「まず、リーダー。通り名とかは無いから、ワイトで行こうか。身長186㎝。そこそこ細身ではあるみたいだよ。年齢は不明。容姿は、取り敢えずさっきの璃夜の話を反映しよう。彼は情報が少ないね。職業は、特定の物をしている訳じゃないんだね。あと声は───さっきの声、覚えてるよね。覚えてなかったら殺す」

流石リーダーと言ったところだろうか。

情報が極端に少ない。

「こっちの情報は、ノアが念入りに潰してる。璃夜が入ったことも、誰にも言うな。この中だけの秘密だ」

黒瑠にしては珍しく真面目に、メンバーに忠告する。

「…続けるぞ。コーマック・アクトン。男だ。“狂気の情報屋”と呼ばれているようだ。中肉中背で、20歳前後。容姿は、黒髪に黒目。たまにPCメガネを掛けているらしいね。自分が面白いと思ったらコロリと寝返る変人。さらに人を(そそのか)したりするのが大好きだ。だから信用は無いのかと思ったら、情報だけは正確無比で、能力面では信用できるみたいだ」

それから間を空けて、次の紙に目を通す。

道化(どうけ) 琉無(るな)。分かるとは思うが女。好んでピエロと名乗ってるから、本名の特定には苦労したよ。身長は152㎝だから、璃夜より3㎝高いんだね」

「何で私の身長知ってるのよ」

璃夜は呆れながらに言う。怒ってはいない。

愛斗の発言の前半から、本名は愛斗からの情報だろう。

「14歳で、細身…ていうか動きにくいから裏の世界に肥満はいないか。名前から分かるように、日本人だよ。ワイシャツに黒いネクタイ、あとキュロットを愛用してるらしい。職業は殺し屋。奇妙な殺し方ばかりらしい。道化師(ピエロ)の演目と称して、時にはナイフを投げて殺したり、時には口から火を吹いて焼き殺す…サーカスみたいなモンだよ。黒猫ほどではないけど、そこそこ名は売れてるみたい。一番の特徴は、常に笑っていること」

黒猫の名は、裏の世界を知る者なら誰でも一度は耳にする。

知らない人などいないのだ。

「んで、次はケイ・ブラッドフィールド。ハーフで、ケイは計算の計と書くらしい。ああ、ちなみに男性。身長は162㎝。小さいのは気にしている。20歳前後で黒髪に碧眼。無口で無表情、俗に言うクールというやつだね。身長を少しでも高く見せるためか、常に帽子を被ってる。職業殺し屋。クロスボウや狙撃銃、弓を愛用。近距離は得意じゃないと思う。結構顔立ちも整ってるねえ。あ、写真があるみたいだ」

そう言いながら、資料に挟んでいた写真を見せる。

若干童顔で可愛げがあるが、大人びた雰囲気もある。

ワイト以外の他の人物は写真があるようで、忘れていたという風に愛斗が机に並べる。

きちんと説明した順に並んでいるのが、彼の几帳面さをうかがえる。

「次に、ゼノヴィア・ボスフェルト。女性だ。22歳の175㎝。武器は刃物をよく使うようだ。結構スタイルもいいね。天然の金髪に、赤目が特徴だ。姉御気質で大人の女性といった風貌。女性にしては背が高いのを気にしてはいるようだが、コンプレックスという程でもないみたいだ。職業は主に護衛任務をしているみたいだ。一部の人物には『姉貴』と親しまれている。通り名は───確か、“殺し屋殺し”。聞いたことあるかもしれないね」

璃夜以外は反応があった。

強さとともにその名を聞いた者だ。

殺し屋殺しも有名である。

───黒猫ほどではないが。

「最後は──────ルシア・セスナ。彼はこのメンバーの中で、最も強い」

ルシア、という名前。

聞いただけで、璃夜は動けなくなった。

指の先まで、力が入らない。

喉が渇いて、声が出せなくなる。

まだ同一人物とは限らない。

そう言い聞かせる。

すっと並べられた写真。そこに写っていたのは、すでに見慣れた漆黒。

間違いようもなく、あのルシア本人だった。

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