40話
街から一時間程街道を進み、そこから横に暫く進むと河川に出る。
さて、ここからが問題だ。
バイト・アリゲーターが川原に居るのか、それとも河の中なのかで戦闘の難易度が違うからだ。
一度川原を歩いてバイト・アリゲーターと遭遇するか試して見る。
革の靴底で石と砂を踏みながら少し歩くとワニが居た。
デカイ。
2m位か、余り居て欲しくない類のサイズだ。
このサイズに成ると剣の刃が立たなそうだ。
メイスで撲殺の1択だろう。
えっと、ワニの攻撃方法は噛み付きと尻尾の打撃、か。
首の稼働範囲と尻尾の稼働範囲を見極めてメイスで頭部への攻撃、なんてそれ以外無いだろう戦闘プランしか浮かばない。
「センスが無いんだろうな、闘いの……」
気落ちした自分を立て直してゆっくりとバイト・アリゲーターの範囲に近付く。
腰の剣はインベントリに収納する。
BGMが戦闘BGMに成る。
まずモンスターの攻撃パターンを見る為にメイスをインベントリから取り出して受けの構えを取る。
バイト・アリゲーターは腹を擦る様に体をくねらせて突進してきた。
「意外と速い」
右に飛び退いて突進を回避する。
ガジッと激しく口を閉じる音に嫌な汗が背中に浮く。
一呼吸置いてバイト・アリゲーターは体を反転させる為か、猛烈な勢いで尻尾を振る。
真後ろに飛び退いて尻尾も回避。
それから2度3度同じ攻撃を回避し続けて、回避方法を体躯に馴染ませてから反撃に移る。
軸足を残して体を開き、突進を躱しつつ頭にメイスを叩き込む。
一撃を入れて急いで真後ろに飛び退く。
「固い、脳震盪を起こす程脳ミソ大きくないか」
尻尾が目の前を通過したらまた頭にメイスを打ち付ける。
手応えから余りダメージが出ていない気がする。
「弱点は当たり前に腹だが、引っくり返す術が無い」
どんな動物も腹の皮は薄い。
それはモンスターも同じだろうが、だからこそ弱点を剥き出しにはしないだろう。
暫く考えるも妙案は出てこないので、諦めてメイスで滅多撃ちにする。
脳震盪ではなく、頭蓋骨を粉砕するつもりで殴り続ける。
4回5回と繰り返して居るとバキッと頭蓋骨が割れる音がする。
脳を守る骨が無くなった所に止めの一撃を入れるとバイト・アリゲーターは小さく藻掻くと絶命した。
「固い、これは長柄の方が適してる感じだな……」
ドロップアイテムを回収しつつ少し考えて街に戻る事にする。
長柄の間合いと攻撃力が今回のモンスターには必要で、最適だと判断した。
無理をする意味が根本的に無い。
往復の時間が勿体無いが、意図的にコボルトの郡生地を通過してコバルトを不自然に成らない範囲で金
策が出来ると考えよう。
コボルトの群れを殲滅しながら街に戻る。
殲滅に時間を取られて結局、二時間程掛かってしまった。
結果、コバルトが40個程手に入ったので問題は無いが。
街に着くと武器屋に直行する。
いつもの武器屋に入るとカウンターから嫌そうな声が投げ掛けられる。
「またお前か……」
失礼な、これだけの頻度で武器を購入する客が早々居るものか。
まあ、その都度ギリギリまで値切られたら当然だろうが。
「ポールウェポン、長柄の武器を見せてくれ」
「あ? お前、もうあれこれ武器を買ったじゃねえか」
「ワニ退治には片手メイスも槍も威力が足りない、長柄で遠心力が乗る武器が欲しい」
「……分かった、待ってろ」
少し間を開けて店主が奥に消える。
しばらくすると店主と店員が長い何かを持ってきた。
やはり「何か」としか分からない。
「ヘビーモール、サイズ、ハルバードだ」
一本一本手に持ってバランスの確認をする。
ヘビーモールの先端の重みからワニの頭は容易に砕けそうだ。
触ってサイズの形を確認すると所謂鎌の形ではなく、刃が逆向きの薙刀みたいな感じだろうか。
確か草刈り農具から発展した武器だった気がする。
「コボルト駆除に最適か?」
ついつい独り言が溢れる。
柄を握ってみると直角にグリップが付いている。
腰溜めで薙ぎ払いが容易に出来るのが良い。
次はハルバードを手に取る。
「クッ、重い……」
右手で掴み上げようとした瞬間かなりの重量を感じ持ち上がらなかった。
「柄まで鋼鉄拵えだからな、そいつだけ別格だな」
店主の声色にしてやった感が乗っている。
些か癪に障るので持ち換えずに右腕に力を入れてそのまま持ち上げる。
全力で扱えば片手で持ち上がらないでも無いが、振り回すにはステータスがまだ足りない。
「うん、これなら鰐だろうが大抵のモンスターの頭は割れるな」
言いながら両手で握り直して腰を落として構えてみる。
正しく重さを武器の形にした、そんな感じだ。
「悪くないな、こいつとサイズを貰おうか」
「……サイズが銀貨30、ハルバードは銀貨70だ」
値段を聞いて少し考える。
大体適正価格だと判断して金貨1枚を支払ってサイズとハルバードをインベントリに納める。
さて、余り時間が無いがバイト・アリゲーターでLv上げを再開しよう。
「しかしお前さん、もう歩く武器庫だな」
店主の呆れた声を聞きながら店を後にする。
確かに武器のストックは増えたが、結局俺にはドットの棒にしか見えないのだから滑稽な話だ。
だから口の中だけで呟く。
……でも、ドット絵。