37話
真っ直ぐ娼館に向かう。
汗もかいたし、何より鱗粉で焼けた肌を洗い流したい。
街に入った段階でブレストプレートとチェインメイルは外してインベントリに収めている。
鎖の擦れる音がした、どうやら音殺しの紐も焼け切れたらしい。
今夜は紐通しとコバルトの製粉作業をしないとだな。
「明日はガラス工房と服屋に行く感じか」
糸玉の買い取り価格次第でポイズンモスを狩るか、次のモンスターに移行だろう。
「後、二、三回コバルトを売ったら製法も売ってしまいたいな…」
実際、コバルト50個で青硝子がどれだけ造れるか分からないが、商人や貴族の目に留まり始める頃だ。
青硝子の製法を買い取って無い内は、俺が余所に売り込むのを咎められる理由も無い。
無いが恨まれるのは確実だ。
そんな事を考えていたら娼館に到着した。
日が暮れて、客引きの男が門前に居るのが見える。
軽く手を上げて「今日も頼む」と短く要件を告げる。
「こりゃリュート様、いらっしゃいませ。ささ、中にどうぞ」
今日でこの世界に来て四日目で、娼館三回目って我ながらどうなんだろうな?
自嘲気味に笑ってしまう。
ソファーに案内され、腰掛けて数分で声を掛けられる。
昨日がアンだったから、今日はエミリーだろう、多分。
取り合えず確認はするが。
うん、エミリーだ。
「御待ちしていました、リュート様」
「ああ、今日も頼む、先に風呂に入りたいな」
食事は部屋に持って来てもらう事にする。
部屋に案内されて、風呂の用意が出来るまでの間にチェインメイルの紐通しをする。
インベントリから余った紐とチェインメイルを出してテーブルに置く。
湯の入った瓶を娘達に運ばせながらエミリーが話し掛けてくる。
「リュート様? 何をされてるのですか?」
「ん? 今日の狩りで鎧のメンテナンスをしないと行けなくなってね」
エミリーの問い掛けに顔を上げて答える。
下働きの少女達が重そうに瓶を運ぶのが見える。
後でチップを渡そう。
チップの額を考えながらエミリーに尋ねる。
「お湯汲みは何人?」
「えっと、6人です」
「分かった、運び終えたら来るように伝えてくれ」
そう言って引き続き手探りで鎖の擦れる場所を探して、肩口の紐が無くなった箇所に紐を通して行く。
目を閉じて、指の感覚だけで作業を進める。
鎧の音は死活問題なのに、
もう1つの死活問題の視覚は未だに解決出来ないのが困る。
せっかくの本物のチェインメイルなのに。
今日も今日とて叫びたい。
でも、ドット絵。