21話『艶』
主人公、男過ぎ(笑)
食事が運ばれて来るまでの間にインベントリから出したチェインメイルに紐を通す作業を始める。
このまま着用すると鎖の擦れる音がして狩りに支障が出かねないからだ。
見え無い鎖の輪に紐を首回りから手探りで通して行く。
俺の目には銀色のTシャツにしか見え無いから、かなり能率が悪い。
「リュート様、何を為さってらっしゃるの?」
アンは不思議そうな声で問うて来る。
「鎖の音殺しに紐を通してるんだが、難しくてね」
もう見るだけ無駄なので話ながら指先で確認して紐を通して行く。
「失礼ですが、リュート様は目がお悪いのですか?」
「ああ、なんと言うか……、色は見えてるが、輪郭、こうした輪は全く見えていない」
ドット絵に見えてるとは言えず、変則的な弱視だと伝える。
「でもリュート様はハンターですよね?」
「モンスター相手なら問題はない」
話ながら紐を通して首回りを通し終える。
紐を足しながら作業を続けて行くとノックが聞こえる。
食事が届いたらしい。
作業を中断して食事にしよう。
やはり1日闘い続けると腹の減りが早い。
テーブルに並べられた料理に「君は?」とアンは食べないのか確認する。
そう言えば昨日、エミリーには聞きもしなかったな、と罪悪感が湧く。
「私は先に頂きましたから」
隣に腰掛けたアンはグラスにワインを注いで給仕に専念する様だ。
ナイフとフォークで切り分けて口に運ぶ。
今日はチキンステーキらしい。
パンとチキンステーキと何か、多分スープ。
チキンは表面がカリッとしていて旨い。
肉厚で食べ応え有るボリュームだ。
スープは甘いスープでカボチャかニンジンのポタージュの様だ。
見た目が伴わないからどちらかは分からなかった。
カボチャとニンジンの判別が出来ない時点でかなり問題だと思う。
ワインの最後の一口を飲み干して咥内の余韻に浸る。
目を閉じていたら前と変わらない実感を得られる世界なんだが。
ウィスキーをタンブラーに注いで貰い、チェインメイルの紐通しを再開する。
目を開けていると目元が猛烈に痛むし、閉じて居ると眠くなる。
何か話していないと寝てしまいそうだ。
「グラスやワインの壜が有るけど、色ガラスって無いのかな?」
顔料の使い道の可能性を確かめたくて問い掛けてみる。
「色ガラスですか?見た事はありません。最近ですから、透明なガラスが出回り始めたのは」
石英の鉄分除去段階か、上手くしたら使えるか。
アンからガラス工房の場所を聞いて明日訪ねるとしよう。
駄目だ、ウィスキーを呑みながら目を閉じて作業していたら眠気が酷い。
ウィスキーを一口呑んで顔を洗いに行く。
ついでに歯も磨いて作業に戻る。
輪に通して紐を引っ張って、輪に通して紐を引っ張ってを繰り返す。
駄目だ、起きて居られない。
続きは明日にして休むとしよう、目が疲れてしまった。
首を回してチェインメイルと剣をソファーに置いてベッドに横たわる。
「すまないが、明かりを頼む」
ベッドに潜り込むと部屋の明かりが一つ一つ消える。
この世界の明かりは蝋燭なのかランプなのか、魔法的な何かか判らないが、しっかりした光源なのは助かる。
真っ暗に成ると安堵の溜め息が零れる。
衣擦れの音が止むとアンもベッドに入って来る。
抱き寄せてアンの香水の香りを嗅ぎながら背中を撫でる。
背中から首筋に上がり、首筋から腰に撫で下げる。
擽ったそうに身を捩るが逃げはしない。
腕枕をしながら引き寄せて躯を重ねる。
時間を掛けてゆっくりと互いを昂らせて唇を吸い合う。
舌を絡めながらアンの準備をして行く。
湿り気が溢れるに変わるまで撫でて、吸って、噛んで煽る。
準備が出来た所で互いに求め合った。
暗闇の中で触れ合うのはとても安心出来る時間に成っていく。
アンの肢体も蕩けた顔も見れないのが残念で成らない。
この理不尽に叫びたい。
「でも、ドット絵!!」
湯、飯、酒、女の為に稼いでるな、主人公(笑)
娼館が癒しなのは仕方がない気もするが(苦笑)