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172話

 狩場直前で立ち止まって3人に戦闘の流れを説明する。


「ここの鰐、バイト・アリゲーターなんだが、当たり前に皮が硬いから攻撃も魔法も効果が薄い。で、これも当たり前なんだが、大抵のモンスターは口の中まで頑丈って事も無い。俺が前で3人が後ろ。タイミングを計りながら口の中に魔法攻撃を叩き込んでほしい。攻撃を回避するのに射線を遮る事が多いと思うから、俺が後ろに飛び退いた時に頼む」


 4人での本格的な連携戦闘だ。


 先ずは互いの攻撃の邪魔に成らない事、高度な連携はその後だ。


 そんな簡単に出来たら世話も無いしな。


 俺は俺で、後方から聞こえる詠唱を聞き分ける訓練をする。


 まあ、詠唱そのものは何語か分からない言葉だから、響きを覚えるだけなのだが。


 インベントリからハルバードを取り出した。


 ベビーモールでも良いのだが、あれは一撃必殺脳髄粉砕に成ってしまって、3人の訓練に成らない。


 それなら矛先の有るハルバードの方が良い。


 緊急の際には下顎を地面に縫い付ける事も叩き割る事も出来るから。


 膝を折って地面から砂利を一握り掴んで川に投げ込んだ。


 ボチャボチャと連続した音の後でBGMが変わった。


 砂利を投げ込んだ場所にちょうど潜んで居たらしい。


「来るぞ」


 短く3人に警告を発してハルバードを構える。



 戦闘BGMを聞きながら川から上がってくるバイト・アリゲーターを見据える。


 完全に川から上がったバイト・アリゲーターは目の前で構えている俺を敵と認定したのか、大顎を開いて威嚇をしてくる。


 後方では2人の声がズレて聞こえてくる。


 矛先で鼻っ面をガシガシとその場に押し留める為に牽制を続ける。


「タツヒト様っ!」


 ジュリアの声が耳に届いた所で最後に一突きを入れてから真後ろに飛び退く。

 エミリーの詠唱が終わりを告げてオレンジ色のドットがバイト・アリゲーターの咥内に飛び込んだ。

 咥内を焼かれ暴れに暴れる。

 口を開けて悶えた所に詠唱を終えたアンの火球が再び叩き込まれる。

 声に成らない声と言うのだろうか?

 身悶え、暴れている所にジュリアの魔法が炸裂する。

 尻尾をバタバタと地面に叩き付け続け、そして徐々に力無く動かなくなる。


 エミリーの魔法か、アンかジュリアかは分からないが口の中だけでなく、肺まで焼かれたのだろう。


 動きを止めて少しすると貨幣とドットの板を残して消滅する。



 案の定と言うか、モンスターも動物と同じ理屈が通じるらしい。


 脳が破壊されれば死ぬし、心臓が破れても死ぬ。


 そして肺が焼ければ死ぬ。


 これで3人の魔法でも十分に通用する事が確定した。


 まあ、Lv17の渾身の一撃が弱い訳がないか。


「お見事、3人で十分倒せるな。まあ、安全に戦うには壁役、盾役が必要だけど」


 緊張していたのだろう。


 複数の大きな溜息が耳に届いた。


 内心では、悲鳴を上げるタイプのモンスターで無くて幸いだと安堵していた。


 これで絶叫なんて上げられたら3人共心が折れていたかも知れない。


 そんな事を考えて俺も安堵の溜息を漏らした。


「さて、十分通用する事が分かった所で、MPが切れる所まで狩りを続けよう」


 Lv17のMPで何回火球が放てるか分からないが、それは今から計れば良い。


 まあ、単純にMPが切れた段階で鰐皮を数えれば分かる。


 今日まで1人でやってきた事だ。


 無傷で乗り越えてきた狩りだ。


 そして今日は4人居る。


 回避と攻撃を同時に意識するよりも防御に専念する方が精神的にも楽だ。


 その楽さは油断とよく似ているから喜んで甘受する訳にはいかないが。


 己の中の意味不明なシステム、武人が俺の精神を引き締める。



「タツヒト様、MPが限界です」


 戦闘を終えた所でエミリーが声を上げる。


 回収した鰐皮は32枚、金貨1枚と銀貨60枚。


 時間としては3、4時間で32体なら良い回転率だろう。


 まあ、俺一人ならもう少し数を稼げる気もするが、ノルマが有る訳でも無し。


 十分だろうと思う。


「よし、じゃ安全圏に移動して休むとしようか」


 空腹感も有るし、昼にちょうど良いと思う。



 川から離れた丘の上まで移動して、周囲にモンスターが居ない事を確認してから腰掛ける。


 空を見上げると絵の具を塗りたくった様な青空。


 もしかしたら多少は雲も有るかも知れないが。


 顔に当たる風が少しだけ肌寒い気もするが、まだ冬までは少しありそうだ。


「こうして寛いでいるとただのピクニックだな」


「本当にそうですね、私達の格好もですけど」


 3人は鎧の上からロングチュニックを着ている事も有って、戦闘用? な感じらしい。


 まあ、そのチュニックも丈夫なモンスターシルクなのだが。


 外見は荒事用には見えないのだろう。


 何はともあれ、昼食にしよう。



 屋台で購入した串焼きのパンと串焼きの肉で昼食にする。


 少し灰が付いているがインベントリに入れておいたお陰で焼き立てが楽しめる。


 串焼きの肉も旨いが少し不思議に思う。


 この世界の小麦の生産量が多過ぎる気がしたのだ。


 稲と違い、生産効率はそこまで良くないと聞いた記憶が有った。


 そう言う世界だ、と言われてしまえばそれまでだが、違和感は有る。


 肉類はモンスターから供給出来る分、畜産に力を入れていないからと言われればそうなのだろうが。


 まあ、魔法で補える分、文明の発展具合が地球と違う可能性も有るか。


 そして、こんな事を3人に聞いてもどうにも成らないだろう。


 もうそろそろ米が恋しくなってきたが、この調子だと稲作はやっていない気もする。


 故郷が恋しくないと言えば嘘に成るし、帰りたい気持ちはある。


 だが、3人を放り出す事は出来ない。


 気持ちの整理の難しさや苛立ちを八つ当たりの様に串焼きにぶつけて噛み千切る。


「タツヒト様、わたくし達なにか至らぬ所が有りましたでしょうか?」


 アンが気遣わしげに声を掛けてくる。


「いや、色々と調べる事が多くて忙しいな、とな」


「「「調べ物、ですか?」」」


「ああ、葡萄農地の購入がどこで出来るのか? とかな」


 娼婦以外の生きる術の話、希望有る未来の話だ。


 3人も暗くは成らない話題として最適だろうと思う。


「あの、農地を買い取るのは凄く大変だと思います。貴族様、領主様から買う事に成りますから、あの……」


 領主次第で吹っ掛けられたり、コネが必要にも成るか。


「コネ、か……」


 こちらで権力とのパイプに成りそうな人脈など無いしな、と溜息を吐こうとして思い当たる。


 ああ、あの娘にそれなりの土産を用意出来ればもしかしたら。


 これはこれで難しい、と言うか軍人に成るのも嫌なのだがな。


 祖国でも無いこの国の軍に所属して、言われるままに戦い殺す、そんな面倒な事はしたくない。


 3人を守る為、3人が笑って暮らせる為にも考える必要が有るのかも知れない。


 まあ、笑顔なんて俺には見れないのだけれどな。


 食事を終えて、原っぱに背中を預けて空を見上げる。


「……でも、ドット絵」


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