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171話

「ワイナリー、ねぇ? 本気?」


 顔は暗闇で見えないが――いや、昼間でも見えないのだが。


 いぶかしんだ声で反芻される。


「本気だが? 少なくともそれ以外に長期的な生計の立て方は思いつかないな」


「それだけ戦えたらハンターとして十分やっていけるのに?」


 確かにその言葉の通り、ワイナリーの資金を稼ぐのもモンスターを狩って得るなら、そのままハンターを続ける方が分かりやすい。


 ただ、それは体が動く限り現役で居られて、貯蓄をキチンと出来る事が前提だ。


 この眼の問題も有って、正直そこまで楽観的には成れない。


 一番大きな理由は3人をずっとハンターで居させるつもりが根本的に無いから、でもある。


 態々、命懸けの仕事を何年も何十年も続ける意味なんて無い。


 そして、まともな人生を送るチャンス位は作ってやりたいと思う。


 過保護な気もするが、ここまで情を交わしてしまっては手遅れだ。


「爺に成るまでモンスター相手にしたくないよ」


 そう笑って、このまま納得して帰ってくれないものかと考えてしまう。


 正直この正体不明で、神出鬼没な人物は最大の警戒対象だ。



「まあ、気が向いたら声を掛けてよ」


「ああ、そうする」


 そう答えるとミューズは窓枠に手を掛けて出て行こうとする。


 別に、ドアから出て行けば良いのに、と思うが宿の人間に見咎められる訳にはいかないのだろう。


「あ、そうそう。クエーカーの途中は治安が悪いから」


「そうなのか、面倒だな」


「Lv20のハンターはカモだから、気を付けてね」


 そう言い残して姿が消えた。


 その身軽さを考えるとやはり騎士と言うよりも諜報の人間なのだろう。


「本当に、Lvいくつなんだか……。敵には回したくないもんだ」


 相手のLvやステータスは分からないし根拠は無いが、勝てる気がしない。


 最初に会った時には感じなかった感覚だが、俺のLvが上がって差を認識し始めているのかも知れない。


 まあ、敵対する予定も無いから良いのだが。


 そんな事を考えながら窓を閉じて寝直す事にする。


 時計が有る訳でも無い為に今が夜中の何時なのか分からないが、まだ寝る時間は有るだろう。


「治安が悪い、か……」


 ベッドに身を投げ出しながら呟く。


 今度は盗賊夜盗の類らしい。


 騎士団の移動に付いて行けば安全だったが、傭兵達の脅威が潜在的に成って余計に対処出来なくなっただろう。


 その代わり、安全な移動の機会を失った訳だ。


 本当に、色々と考えなければならない事が山積みで頭が痛い。


 そんな事を考えながら俺の意識は再び眠りに落ちて行った。



 コンコン……。


 ドアがノックされる音に反応して意識が浮いてくる。


「タツヒト様、朝です。そろそろ起きられますか?」


 アンの声が外から聞こえる。


「ああ、起きた。今起きた」


 乾いた喉を振るわせて声を上げた。


 首を回しながらベッドから降りてドアに向かいカギを開ける。


「おはようございます、タツヒト様!」


「おはよう……、くぁ……元気そうだな」


 溌溂とした声に欠伸交じりに挨拶を返す。


 窓を開けて日光を部屋に入れて繰り返し欠伸を噛み殺しつつ用意を始める。


「「おはようございます、タツヒト様」」


 エミリーとジュリアもこっちに来たらしい。


 枝楊枝で歯を擦りながら手を上げて、口の中をすすいでから声を掛ける。


「おはよう、3人共元気そうだな。朝食を食べて狩りに行くか」


「「「はい!」」」


 揃った声には力が有った。


 吹っ切れたのか、空元気なのかは分からないがそれが本物の元気に成る様に俺も乗っかる事にする。



 階下に降りて朝食を済ませて、その足で宿を出た。


 途中、屋台で昼食を買ってから城門を出る。


「今日から動きが遅い鰐狩りでLvを上げて行こう。目標はLv25、クエーカーまでの道中には盗賊? 山賊?が居るらしい。あれこれ備えて街を出たいと思う」


 方針、と言うには大雑把だがワイナリーの話も大雑把な方針でしかない。


 この世界の常識に疎い、情報を集めるのが難しいのだから仕方が無いが。


 今考えるべきなのはLvを上げる事と、道中の安全確保の手段だろう。


 なかなか難しいとは思うが、と言うよりも――3人娘が居るのだし十中八九襲われるだろうが無傷で圧勝する方法を考えるしかない。


 日本でもキャンプを数回した位だ。


 それなのにこっちでは生き残りって意味の強いサバイバルをする事に成る。


 食料の類はインベントリを活用すれば良い。


 むしろ、安全な休息をどうするか、の方が問題だ。


 少し前までは幌馬車でも買ってのんびり、と思っていたが今は箱馬車で最短で移動するしかないと考えている。


 馬車のなんて言うんだ? 操縦じゃないな、操舵でも無い、運転でも無いし、操作か?


 まあ、何でも良いが、やった事も無いのが問題だ。


「なあ、3人は馬車を扱えたりするか?」


 城門を出て、狩場に向かいながら質問を発した。


 誰も出来なければ、馬車を御者ごと雇うしか無い。


「申し訳ありません、わたくしは出来ません」


「ワタシも、触った事も有りません‥‥・」


「えっと、随分触ってませんし自信は無いですけど、何とか……」


 アンとジュリアは未経験、エミリーは昔やっていたと言う事か。


「それは助かる。俺も教えて貰えるか?」


 エミリーは葡萄農園の農奴だと言っていた。


 その時に収穫した葡萄をワイナリーに運んでいたのだろう。


 エミリー一人に移動を任せる訳にはいかないし、俺も出来るかは分からないが教えて貰おう。


 後は箱馬車の値段だが、馬と一緒と成るとかなり高いのは予想出来てしまう。


 流石に、日本で競走馬を買うのとは違うだろうが、それでも安い買い物では無い筈だ。


 可能なら中古の箱馬車を買って、クエーカーで直ぐに手放す位の方が良いだろう。


 レンタル馬車なんて都合が良い物は流石に無いだろうからな。



 そんな事を考えていると川沿いの狩場が見えてきた。


 さて、集中して狩りに専念するとしよう。


 憂いも無くなったのだ、こんな所で気が抜けて転びたくは無い。


 俺が転ぶって事は、3人が怪我をすると言う事だから。


 それだけは絶対に許容出来ない事だ。


 ここまで来て、娼婦を辞める事が出来て、3人の手を汚させた。


 こんなつまらない所で躓いたなんて、我慢出来ない。


 頭のどこかでスイッチが入った気がした。


 視界が開けて、色彩がハッキリした気がする。


 まあ、見えている視界はいつもと変わらないのだが。


「でも、ドット絵」


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