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169話

 料理を口に運ぶ度に目を閉じて味覚と嗅覚に集中して食事をする。


 具材は……エビとイカと何だろう何か緑色の野菜なのだが分からない。


 ただ、味は美味だ。


 ニンニクが効いていて胃袋にガツンと来る。


 まあ、明日の臭いが不安では有るが、4人全員だし諦めが付くか。


「ワインのお代わりは要るか? ああ、ジュリアは駄目だぞ」


「え? 駄目ですか?」


「ああ、まだ血が足りてないと思うからな。後は果汁にしておきなさい」


 生理明けで、いくらこちらの法的に問題なくても今日は控えた方が良い。


 取り敢えずワインのお代わりと果実を搾った物を追加で注文をし、そして俺達は食事を終えた。



 人殺しの後にしては全員元気である。


 逆上せるほど湯に浸かり、たっぷり寝て気分転換は成功した、と考えて良いのだろう。


 現代日本の価値観で考えたら間違いなく倒錯していると思う。


 ただ、ここまで武器が身近で、理不尽が隣に居座る様な社会だ。


 当然、人一人の価値は安くなるのだろう。


 今思うと、色硝子の件と対処に温度差が有り過ぎると自分でも思うが、連中は街のゴロツキと言った感じだった。


 傭兵とは比較にも成らないし、現に俺の前に現れる気配も無い。


 あの程度まで駆除していたらきりがないし、俺の人間性が死ぬ気がする。


 いや、既に日本人、守宮龍人の人格は死んでいる様に感じる。


 どこの時点からだろう?


 守宮龍人と乖離し始めたのは。


 リュートを名乗った時点で切り離されていたのだろうか?


 ゴロツキを締め上げて、握り潰した時だろうか?


 傭兵達を殺した時だろうか?


 もう自分でも分からないが、自分自身で別人だと認識している。


 3人から特に言及がない所を見るとこの世界では許容範囲内なのだろうが。



 全員が飲み物を飲み干した所で部屋に戻る。


 階段の上がりながら眠気が全くない事を確認して迷った。


 2階の2人部屋に1人で戻るか、4人で3人部屋に取り敢えず行くか。


 少し考えて、寝汗と言うか、3人に囲まれて汗を掻いているし、風呂に入り直したい気もした。


「エミリー、何度も申し訳ないんだが、風呂頼めないかな? 寝てる間に結構汗を掻いてて……」


「はい、分かりました。直ぐにご用意いたしますね」


 エミリーが請け負ってくれて安堵するが、3人もそれなりに汗を掻いていると思うので、まあちょうど良いのだろうと思う。


 そのまま3階まで上がって部屋に入る。



 ソファーに腰掛けて力を抜く。


 エミリーはジュリアを伴って湯の準備をしに浴室に入っていく。


 何となく手持無沙汰に成ったので久しぶりにステータスの確認をする。


 Lvが33に上がり、一番高いステータス値の筋力が116まで上がっていた。


 ここまで来るとLvも上がりにくくなっている。


「アン、3人はLvどこまで上がっている?」


 傭兵に追われる心配は無くなったが、彼女等が元娼婦だと知っている男もこの街では多いだろうし、あまり長居はしたくないのが本音だ。


 この宿も後6日分は支払ってはいるが、その先は未定だ。


わたくしはLv17です。2人も同じだと思います」


 この宿を引き払うまでの間に、3人が取り敢えずLv20を超えていれば次の街に移るべきだろうな。


 所持金も金貨60枚は有るし、狩りのペースを掴むまでに生活に困る事は無いだろう。


 本当はあまり切り崩したくは無いのだが、元々色硝子の案件でのあぶく銭だ。


 正味、狩りだけで稼いだのは3~40枚程だ。


 この街周辺のモンスターより強いモンスターが居るなら十分に稼げるだろう。


 武器屋の親父や酒場のハンターの話を聞いている限り、Lv20を超えた連中は次の街に移っている様だし。


「街を離れる準備もそろそろ始めないとだな」


「そう――ですね……」


「何か心残りでも有るのか?」


「いえ、故郷の村とこの街しかわたくしは知らないので、少し怖いな、と」


 アンの言葉に納得して頷く。


 確かに、移動が徒歩か馬車の世界なら街の移動なんて商人などごく少数。


 感覚として街を移るって大事なのだろう。


 アンの不安はエミリーやジュリアにも有るか。


「それでも、この街に長居するのも面倒だしな。次の街で思い切り好き勝手に、自由にやっていこう」


 ここ数日で何度か、街の男達が3人を見てひそひそと話しているのは耳に届いていた。


 こんな環境に彼女達を置いてはおけない。


「3人が絡まれたら、どうせ俺がブチキレて居辛くなるだろうしな?」


 そう笑い掛けるとアンは短く溜息を吐いた。


 きっと呆れて、苦笑して、しかねないと思ったのだろう。



「タツヒト様が街から追放される前に渡るとしましょう」


 笑いながらエミリーが浴室から戻ってきた。


「タツヒト様が本気で殴ったらLv1の街の人なんか本当に死んでしまいますし」


 ジュリアも乗っかって笑う。


 本当に一発で死んでしまうかは分からないが、向こうのボクサーより質の悪いパンチの威力には成ってそうではある。


 自重、手加減が必要な生き物に成ってしまったらしい、と苦笑した。


「タツヒト様、お湯が冷めてしまう前にどうぞ」


 促されて浴室に向かう。


 洗濯物を籠に入れて掛け湯をして無患子の小袋で体を擦る。


 日に2回も風呂に入る、この世界でもかなりの贅沢な気がする。


 浴室の湯気の中、機嫌良く体を擦っていると案の定ドアが開けられ3人がゾロゾロと入ってくる。


 またか、と溜息を吐くと3人が声を揃えた。


「「「今日は思い切り甘える事にしました」」」


 本当に今更だし、見てやましい気持ちに成る事も無いから問題は無いのだが。


 無いのだが、ジュリアは拙いだろうと思う。


 ジュリアだけ追い出すと拗ねて手に負えなくなるから諦めたが、やれやれである。


 誰が悪いとか、何が悪いとは言わないが、日本の法的に悪い。


 まあ、こっちで日本の法律も何もないのだが、俺の意識と認識的に拙い。


 そして、下手におののけば泣くか拗ねるか面白がるか、結局面倒な事に成るから我関せずで通すことにはしているが。


「なんで訳分からない世界に来てまで、気苦労せにゃならんのか……」


 3人に聞こえない様に小さく呟いて、泡を落としてから湯船に浸かる。


 浴槽の端に浸かり目を閉じる。


 楽しそうな3人の声を聞きながら、見ても楽しくないどころか落ち込む裸体ってなんなんだろう? と思いながら呟いた。


「でも、ドット絵……」


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