166話
ようやく引っ越し後、ネット環境が整い投稿が再開出来る様になりました。
お待たせいたしました。
大盾の前に陣取って傭兵達の動きを観察する。
リーダー格の男を残して4人が俺目掛けて向かってくる。
一番足が速く、先頭を走る男に狙いを定めて間合いを詰める。
革鞘は刀身に密着している分剣速が鈍ってしまう。
鈍ってしまうが、鎬を削る様な達人では無い為に支障はない。
「しっ!」
目の前にまで踏み込んで鞘を払い1人目の傭兵を上下に分断する。
踏み込みの勢いを殺さずにそのまま右方向に走り込んで2人目に躍りかかる。
俺の動きに驚いたのか走る速度が鈍ったのが分かる。
その隙を逃さず竜骨刀を持ち替え、左手で柄頭を握り込んで左脚で踏み込んで刀身を突き入れる。
鎧を微かな抵抗しか感じさせずに背中まで貫通させて、切り払いながら刀を抜く。
2人目と頭の中でカウントした所でゴゥともボゥとも取れる音がする。
振り返ると後ろから迫って来ていた2人の傭兵の頭部が赤くなっている。
エミリー達の魔法攻撃だと直ぐに分かり、言いつけ通り顔を狙ったのだと察した。
絶叫が辺りに響いた所でこの2人の傭兵は3人に任せて大丈夫だと判断して、最後の1人に挑みかかる。
「なんなんだ! てめえは!」
リーダー格の声は上ずり、裏返り、焦りと驚愕に満ちていた。
「お前の敵だよ」
何を今更言っているのかと相手の言葉を切り捨てて、相手其の物も切り捨てにかかる。
相手が剣を構えて切りかかってくる。
本来刀で受けると刀身の薄さから簡単に刃毀れするのが日本刀だが、この竜骨刀はその心配は無い。
そのまま刃で受け止めて鍔迫り合いに持ち込む。
両手で柄を握り相手の圧力に耐えるが、正直押し込まれる程の力は無かった。
Lvの差と言うより、ステータスの差だろう。
膂力が違い過ぎるのか、苦には成らない。
が、力比べでは勝っていても、体は何が有ろうと鉄には敵わないのは承知している。
万が一刺されでもしたらLvに関係なく殺されるのは解っている。
刃と刃を当てて均衡させながら次の手に移る。
刃を立てて剣を押しやりながら滑らせる。
不快なギャリッと言う音を立てて刀身が剣の柄頭まで背べり落ちる。
そしてボタボタと音が地面からした。
所謂――指落とし、だ。
昔から不思議だったのが、西洋剣の鍔ってなんで刃の向きにしか無いのだろう?
複数本の指を切り落としながら内心で首を傾げる。
「ぐぎゃっ! 俺の指がぁ! 俺の手がっ」
リーダー格は剣を取り落とし、蹲って両手を抱え込む。
「そうか、ガントレットで手元をカバーしてるからか……、なら鍔は要らないだろうに」
そんな事を呟いて軽く竜骨刀を振り下ろす。
何の抵抗も無く男の首を落として、急いでエミリー達の下に戻ろうと踵を返す。
振り返ると2人の傭兵が地に伏している。
立ち込める悪臭から魔法で仕留めたのが分かる。
さて、初めて魔法とは言え、自身の手で敵を殺した3人の精神状態が心配になる。
この世界の人間はどの位衝撃を受けるのか、それともあっさりと割り切るのかが読めない。
もしも深刻なダメージを追っているなら数日ケアし続けるしかないかとも思う。
流れるBGMも平常時の物に切り替わっている事から、俺自身のスイッチも切り替わっているらしい。
「3人共、怪我は無いか?」
「はい、ワタシ達は大丈夫です!」
ジュリアが元気よく返事を返してくる。
そう、不自然に感じる位元気に。
つまりはそう言う事なんだろう。
竜骨刀を鞘に納めて、インベントリから槍を出して止めを刺して回る。
槍の穂先を深々と刺し貫いて死亡確認をしてからインベントリに放り込む。
ひっ、と呻く声が聞こえた。
その声に少し考えて、インベントリがどう言う理屈で成立しているのか分からないが、確かに死体を身の回りに納めているというのは相当に異常な事だなと自分でも思う。
「今から河に行く」
そう言って大盾を回収して、3人を引き連れてバイト・アリゲーターの生息地に向かう。
道中、3人は無言、時折大きな溜息とえずく音が背中越しに聞こえる。
3人共かなり不味い状態だと判断する。
「これが終わったら宿に戻ろう」
河にぶつかった所から林の方向に下っていくとバイト・アリゲーターの生息地に到着した。
インベントリから死体だけを取り出して河に投げ込む。
全ての傭兵の遺体を投げ込んでから3人を促して街に戻った。
背後ではバシャバシャと激しい水音がしている。
その音で状況は理解出来ているだろうが、わざわざ説明する必要も無い。
と言うよりも、説明をしたらストレスを増やすだけだ。
この娘達を追い詰める価値は傭兵達には無い。
傭兵達の面子や評価なんて俺達には塵ほども関係が無いのだから。
今日の所は思い切り甘やかして、心の滓にしない様にしてやりたいと思う。
俺が壊れずに済んだ様に、ケアしてやらなければな。
我ながらサイコパス全開だと自覚しているが、これも武人の効果なのだろう。
3人を害しそうになった時にはガタガタになったのに、敵として認識した人間を殺した事に欠片も動揺をしない自分が逆に怖かった。
離れた所から俺達に対する視線が不快では有ったが、害がないのを確認して無視する事にした。
時折歩くペースを緩めて3人と並んでは少し乱暴に頭を撫でる。
表情は見れないが、時折上がる小さな悲鳴には明るさが少しずつ増している気がした。
何か話しかけるべきかとも思うが、何を話題にしても地雷に成りそうで口が開けない。
食欲が湧くはずも無いし、むしろその場で吐く可能性の方が高い。
腹立たしい事に、自衛行動で苦悩する事のは理不尽だ。
実際問題、襲い掛かってくる傭兵と盗賊とに差異は無い。
自己防衛は否定されるべきでは無いし、力ある者が生き延びるのが世の常だ。
こんな事で心病む意味も価値も無い。
エミリーを殴って組み伏せようとした傭兵も、その仲間達も俺の敵なのだし。
それでも人間の心、精神はそんなに簡単に切り替えられる物でもない。
こんなに簡単に割り切って切り捨てられる程に俺は壊れているのだと思う。
しかし、そんな小さな葛藤と3人娘の心とは秤にかけるまでも無い。
そう考えて交互に頭を撫でて笑いながら街に戻る。
城門を潜り、街中を抜けて宿に戻ってきた。
宿のスタッフに部屋の掃除が終わっていないと言われて、ロビーで暫くの間待たされる。
「さっき出てきたばかりだから、当然だな」
そう苦笑して3人に笑い掛ける。
もっとも、3人が笑い返してくれているか、表情を強張らせているか、俺には分からないのだけれど。
普段より顔色と言うかドット顔が青白い気もするから、笑えていない気もする。
こんな時に相手の表情が読めないのは痛い。
本当に難儀な事だと思う。
だから、毎日、事ある毎に思う。
「でも、ドット絵……」