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163話

 腹の底から声を上げた。


 自分でも驚くほど大きな声が出た。


 少し喉が痛い。


 盛大に機嫌を悪くして、ドスドスと荒れた足取りで城門に向かった。


 武器を入れ替えて腰に竜骨刀を差し直す。


 防具屋に向かい、今日の戦果を売り払う事にする。


 城門を潜り、商区に入り連日通っている防具屋のドアを押し開く。


 カウンターにアーマー・メガラニカの硬皮とアーマー・メガラニカ・ボスのドロップアイテムを乗せる。


「こちらはアーマー・メガラニカの硬皮30枚ですね、こっちは……。ボスの高硬皮ですか。しかも番で、良く倒せましたね」


「2体同時だったら食われていたかも知れない」


「どうされますか? こちらの高硬皮は金貨2枚で買取いたしますけれど、良い盾材にも成りますよ」


 その言葉に、既に1枚盾を駄目にしている事を思い出した。


 1枚を売り、もう1枚は盾に仕上げてもらう事にした。


 皮鎧の材料には向かないし、ワイバーンの革の方が硬くて軽いと言うのも理由では有るが。



 不機嫌さも合わさって神経過敏に成っているのだろう。


 防具屋を出て、宿に戻る間に2方向からの視線を感じる。


 宿のドアをくぐる時には視線が増えた気がした。


 つまりは傭兵がマークしている、と言う事だ。


 流石に髪の色を変えただけでは誤魔化せなかったらしい。


 面倒だが、処理しなければならなくなった。


 不思議だ。


 傭兵を処理する事を意識した途端、不機嫌さが鳴りを潜めて思考が凪いだ。


 この不自然さも武人の効果なのだろうと思うとまた苛立ちと暗澹たる気分に成る。


 今なら解る。


 狂戦士や武人は精神面で明らかに人としての感性を殺しているもしくは抑制している。


 流石にこんな環境に追いやられても1ヵ月で日本人としての感性を失うほど酷い世界ではない。


 それが自衛の為とは言え、割り切れてしまうのは確実に異常だ。


 ここまでドライに受け流せる時点で現代人の価値観では無い、と断言出来る。


 本当におかしな事に成ったものだと思う。



 そんな事を考えながら階段を上る。


 2階の3人が居るであろう部屋をノックする。


「はい」


「俺だ、今戻った」


 室内からエミリーの声がして、それに返す。


 ドアが開いて部屋の中に促される。


 部屋を見回すとどうやら3人でテーブルを囲んで双六をしていたらしい。


 引き籠って出来る事は限られているから当然だろうが、ジュリアの体調も悪くないらしい。


 顔色もだいぶ血色が戻ってきている様だし、問題なく復調しているのだろう。



「ジュリア、体調はどうだ?」


「はい、もうだいぶ良いと思います。眩暈ももうしませんし」


 4日目にしては体調が良いらしい。


 レバーの造血効果だろうか。


 まあ、モンスターのドロップが普通の肉と同じとは限らないし、料理の材料として既に薬並みの可能性も有る。


 俺自身こちらでは風邪等で体調を崩した事も無いし、機会が有れば体感で検証する事も有るだろうと流す事にした。


「明日から修行再開、で大丈夫か?」


「はい、大丈夫です! 流石に引き籠ってるのにも飽きてしまって……」


「それもそうだな。運動は大事だな」


 モンスター狩りが運動に入るのか自分でも疑問では有るが、まあ、体を動かすのは良い事だ。


 さてと、食事には少し早いがと思った所でアンが口を開く。


「タツヒト様、お疲れのご様子ですし、先に湯で寛がれてはいかがですか?」


 3人に苛立っている所を見せる必要は無いと表情を作っていたつもりだったが何か色々と見抜かれていたらしい。


 パタパタとサンダルの音を立ててジュリアが浴室に入り早速お風呂の用意を始めてしまう。


 またこのパターンか、と思うが3人に風呂の湯を任せているのだし、回避は不可能なのだと学んだ。


 とは言え、ジュリアの近くで着替えると言うのは当然抵抗感が強いし、なくなる事は無い。


 数分で用意が出来たらしく声を掛けられて浴室に入る。


 ジュリアに礼を言って浴室から追い出して鍵を掛けた。



 腰に差した刀と砂と埃まみれの鎧を外して軽く払ってからインベントリにしまう。


 身に付けている物を全て脱ぎ捨てて掛け湯をして全身を洗う。


 3人の目が無い事を良い事に、作っていた表情筋を緩めて不機嫌面に戻る。


 戦闘そのものはボス戦の割に完封のノーダメージだったが、鼻の奥に爬虫類特有の生臭さが残って不快だった。



 髪や全身の泡を洗い流して湯に浸かり、出来るだけ気持ちを宥める事に努めた。


 茹る前に湯船から出て浴槽の栓を抜いて汚れた湯を排水する。


 まあ、汚れているかは見て分からないが、そのまま3人に使わせる気にも成らないしな。


 全身を拭いてウォッカを擦り込んでから着替える。


 体を拭いて濡れた手拭いでボディースーツを拭きあげてインベントリにしまう。


 洗濯して干されたブリオとブレにサンダルと言う寛ぎスタイルに着替えて少しだけ気分が和らいだ気もする。


 まあ、気がするだけなのだが。


 浴室を出て窓の外に視線を送るともう夕暮れの赤さが部屋に入っているらしい。


 3人に声を掛けて階下に降りる提案をする。


 一つ溜息を吐いてドアに手を伸ばすと後ろから声が掛かる。


「タツヒト様、お疲れ様ですね、大変でしたか?」


 エミリーのねぎらいの言葉に苦笑を浮かべる。


「ボス戦が連続したせいで疲れた……」


「やはりボスは大変ですか?」


 ジュリアの質問は至極当然の物だろう。


 最近モンスターと戦う環境に身を置かれたのだし、いずれ自分も直面する事なのだ。


 気になって当たり前だ。



「サイズが大きいのがな。行動パターンが同じでもサイズが違えばこちらの回避も難しく成るし、タフさも跳ね上がるからな」


 とは言っても、俺の場合はボスだろうが普通のモンスターだろうが急所を狙っている為、本当にサイズ感しか違わないのだが。


 今日のアーマー・メガラニカ・ボスを急所を狙わずに倒そうと思ったらどうやれば良いか想像も付かない。


 生物としての急所を狙うのは武人・狂戦士に成る前からだが、わざわざHPを削り切る様に戦う意味を当初から感じていなかったしな。


「まあ、顔とか頭を狙い続ければ良いってだけだから、あまり違わないんだがな」


 そう大して違わない、大きさ以外は。


 いや、大きく成れば成るほど見た目も鮮明になり威圧感や嫌悪感が湧いて厄介ではあるのだが、3人は最初からリアルに見えているからその分可哀想なのか、当たり前を切り離された俺の方が可哀想なのかは微妙ではある。


 本当に、気が滅入る話だ。


 階段を下りながら呟いた。


「でも、ドット絵……」


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