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15話『艶』

『体』と『躰』は誤字ではありません。

 娼館、つまりは売春宿だ。


 感覚で言うとキャバクラとソープとラブホテルを合わせた性風俗と言った所だと思う。


 高級な所だと政治、経済まで語れる高級娼婦も居たらしい。


 この辺りは江戸時代の花魁と似ているか。


 まあ、ここはその観点で言えば高級では無い様だ。


 金も払ったし、ここで顔を赤らめるほど初心でも無い。


 俺の視界には欲情出来る光景でも無い。


 顔から下全部肌色の平面にしか見えないのだから。


 面倒に成り浅いバスタブに横たわる。


 半身浴に成るのだろうか?


 全くもって中世ヨーロッパだ。


 温かいお湯に背中を浸すとエミリーが俺に何か布を被せる。


「ん?」


 なんだ?と顔を上げると湯瓶から手桶でお湯を布に掛けていく。


 確か、中世だと湯衣帷子(ゆかたびら)を着て入浴したんだったか。


 ここでは湯衣帷子か布、どちらも有りなのか。


 奇行と言う程でも無いだろう。


「熱すぎませんか?」


 エミリーが確認する様に問い掛けて来る。


「問題無い、時折掛けてくれれば有り難い」


 エミリーは畏まりましたと返事をして、布に触れながら冷めたらお湯を掛けて、を繰り返す。


 暫くして十分体が温まると上体を起こす。


「体を洗いたいのだが」


 そう告げとエミリーは俺の背後に回って背中を布で擦り始める。


 背中、首筋、肩とエミリーの柔らかな指が触れる。


 妙にこそばゆい、一日中狩りをして強ばった体が楽に成った気がする。


「立って頂いた宜しいでしょうか?」


 促されるまま立ち上がると脚、尻、腰も擦られる。


 仙骨の辺りを擦られるとゾワッと痺れる様な快感が走る。


 流石に男の躰を知っている、と思った。


 躰が反応し始める。


 今日一日戦い、喰い、呑んだ。


 昂ぶらないはずが無い。


 当然の生理現象だ。


 ゆっくりと下半身に火が点り始める。


「前もお洗い致しますね」


 そう言うとエミリーは俺の前側に回りバスタブに入る。


 俺の体に張り付いた布を剥がして首筋、胸、腕、腹とゆっくり、艶かしく手を添えて擦り上げて行く。


 脚を擦られると丁度エミリーの顔の辺りに下腹部が来る。


 これは流石に気恥ずかしい。


 時折エミリーの吐息が掛かるのは絶対にわざとだ。


 硬度を増した下腹部が主張を始めるのは開き直るしか無い。


「終わりました、お体拭きますのでこちらに」


 促されてバスタブから出て体を拭いてもらう。


 ゆっくり、指が這う様に躰を拭かれる。


 全身を拭われた後に、何か液体を染み込ませた手拭いで再度体を拭かれる。


 強いアルコールの臭いに顔を顰めると全身が一気に冷えて汗も引いて行くのが分かる。


 しかし、煽る様に体を拭くのは止めて欲しい物だ。


 肩にガウンを掛けられると俺はローテーブルに向かう。


 タンブラーの中味を煽って一息吐くと、ベッドに潜り込む。


 駄目だ、完全に敗けだ。


 逆らうのも、誤魔化すのも無理だ、余計に格好悪い。


 諦めて委ねよう、欲望に躰を。


 そう躰をだ。


「明かりは消しましょうか?」


「頼む、明るいと眠れない質だ」


 半分は嘘だ。


 フッとエミリーは数ヶ所の蝋燭を吹き消してベッドに入って来る。


「失礼致します」


 そう言うと柔らかな躰を押し付けてくる。


 俺は酒と香水と体温に酔う事にした。


 触れるとしっとりとした肢体の柔らかさを全身で感じる。


 触れた素肌は湯気で湿って文字通り張り付く様な肌だった。


 ガウンの隙間から指を這わせて、甘える様に、煽る様に胸板を撫でられる。


 暗闇の中だけが確かな現実を感じられる。


 この娘の肢体は確かに、現実だ。


 抱き寄せて重ねた唇から艶やかな吐息が漏れる。


 俺の汗とエミリーの汗を混ぜる様に何度も何度も躰を重ねた。


 興奮する自分と確かな温もりに安堵する、


 形容しがたい夜を俺は溺れた。


 今俺は確かに、柔らかくて温かい安堵と悦びをエミリーに感じている。


「でも、ドット絵!!」

大丈夫だろうか、不安だ…。

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