はっぴぃめりぃくりすます
「よき、くりすますってなーに?」
もう12月も下旬にさしかかろうとしていたある日、朝食を食べながら花が尋ねてきた。
町は既にクリスマスムード一色であり、世に言うリア充は胸をときめかせながら当日の予定をスケジュール帳に書き込んでいることだろう。
かくいう與鬼は原稿の締め切りに追われ、クリスマスどころではなかったのだった。
「ねーよきってばー!くりすますってなーーにーー」
花の頭は既にクリスマスでいっぱいなんだろう。目の前の朝食に見向きもしないことなど今までなかったことだ。
「・・・誰から聞いた」
「えみせんせいからきいたよ。こんどくりすますぱーちーやるんだって」
「パーティーな」
「ぱー・・ちー?」
「パーティー」
「それよりくりすますってなーにー?花もくりすますやりたい!」
どうやら週2で通っている託児所の先生から聞いたようだ。さすがに週に2回だけとなると託児所のイベントに参加することもできないし、飾りつけを見ることもないのだろう。
ちらりと花を見やると期待に満ちた目で俺を見ていた。
・・・俺はどうもこの目に弱い。
・・・めんどうだが、やってやるか。
「クリスマスはな・・・プレゼントがもらえる日だ」
正確には違うのだが、花に神の誕生日だと言っても理解しないだろう。
「え、プレゼントもらえるの!?」
「いいこにしていた奴にだけ、サンタって野郎が来るんだってよ」
「花、いいこだよ!サンタさん来る?」
「来るんじゃねぇ?お前の場合、そのトマト食ったらな」
皿の隅に寄せられているトマトの山を指差すと、花の表情は歪んだ。
「トマト食わねーとサンタは来ねーぞ」
「う、むむぅ・・・・」
渋面のまま首を捻る花の姿に思わず吹き出しそうになる。どうしようかという顔だ。恐らく頭の中でトマトを食べる苦しみとプレゼントを天秤にかけているのだろう。
「・・・たべるよぉ」
5分ほど唸り続けてからようやく花はトマトに手を出した。サンタの教育ってのはなかなか使えそうだ。と、與鬼は心の中で呟いた。
まるでこの世の終わりとでも言いそうな顔でトマトを食べてから、花は與鬼に言った。
「これでサンタさん来てくれる?」
「アー多分なー」
「やったーーー!!」
・・・俺にサンタ役をやる日が来るなんてな・・・・。
喜ぶ花を尻目に、與鬼は小さくため息をつくのだった。
ーーーーーーーーー
「あら、不知火さん。そんなもの見るなんて珍しいですね」
週末、花と公園に行き、ベンチで雑誌を広げていると聞きなれた声がした。
顔を上げるといきつけの食堂の女将、野乃歌がいた。
「いや・・・花がサンタを待ってるから・・・」
「あぁ、クリスマスですものね。私も弧太郎に何か買わなきゃなぁ」
野乃歌には6つになる息子の弧太郎がいる。やんちゃ盛りだが母親をよく手伝っている。
「今日は、こた・・いないんですか」
「えぇ、アクトセイバーが見たいんですって。家でお留守番しています」
「そうすか・・・」
アクトセイバーとは今流行の戦隊もので、役者を目指す若者が悪を倒すというストーリーだ。
花もはまっていて、ライトグリーンは裏方で根暗だけど良い奴、なんだそうだ。
「花ちゃんに何をプレゼントするんですか?」
「それが・・・まだ決まらなくて。意外と難しいんすね、プレゼント選びって」
「ふふ、そうかも。それなら花ちゃんに聞くのが一番早いんじゃないんですか?」
「それやるとばれるでしょう」
「手紙で聞くんですよ。サンタさんへの手紙、書いてもらうんです。弧太郎もそうしてますよ」
サンタへの・・・手紙か・・・。
あいつは字を書けただろうか。いや、確かこの前教えてもらったとはしゃいでいたな。
確かに訳の分からないまま適当なもん買うより、あいつのほしいもん聞いたほうが手っ取り早いな。
「・・・そうっすね。そうしてみます」
「参考になったのならよかった。二人での初めてのクリスマス、楽しんでくださいね」
野乃歌さんはそういうと軽やかに歩いていった。
「よきーーてぇあっためてー」
真っ赤な手を伸ばして駆け寄ってくる花を抱き上げる。
「花、手紙書くぞ」
「てがみ?」
花の手は氷のように冷たくなってる。帰ったらココアでも淹れてやろう。
ーーーーーーー
クリスマスイブ前日の夜、花の枕元には桃色の手紙。
あの後書かせた手紙はずっと大事に持っていたようだ。そっと居間に持って行き広げてみる。
ミミズがのたくったような、文字の範疇ギリギリの字がめいいっぱい書かれていた。
「サンタさんへ・・・」
『おおきなけーきたべたいです
まじょっこめるちゃんのふくがほしいです
あと、よきとずっといたいです
よきがにこにこしてると、はなもいーーーっぱいうれしーです
だから、よきとずーっとずーっといっしょにいて、にこにこしていられますように!
おねがいします
けーきわすれないでください
はっぴぃめりー』
・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・なんだこりゃ。口説き文句かっての。つか、俺がニコニコて、気色悪いだろうが普通。
しかも最後には食欲が勝ってんじゃねぇか。どんだけ念押してんだよ。つーか最後のハッピーメリーってのは何だ?新種の挨拶か?
ツッコミどころ満載な娘の手紙に毒づきながらも、與鬼は眠る娘の頭をわしわしと撫でるのだった。
ーーーークリスマスの朝、花が覚ますと居間のテーブルには巨大なケーキが置かれていた。少し、いや、かなりぶかっこうなイチゴのショートケーキである。ここまで書いたのだから詳細は読者の想像にお任せしよう。
だがケーキはケーキ。しかも特大。花は文字通り飛び上がって喜び、「うっきゃあああああ!」と奇声を上げながらまだ眠る父親の腹へダイブしたのだった。
「さんたさんキターーーー!サンタさんキタよーーーー!!」
「・・・おーそりゃよかったな、つー訳でもうちょい寝かせろ」
「えーーやだー!はやくケーキ食べよーよーーー」
揺さぶられる與鬼からはバニラエッセンスの甘い香り。
手には小さな火傷の痕があるのは、ご愛嬌。
不器用なサンタが舞い降りたクリスマスの朝の話。