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エピローグ


 ガレウス帝国の帝国軍に配属された者は入隊してから凡そ3年以内にとある商会を訪問するという慣習が設けられていた。その商会は帝国内にある8の迷宮の内の1つを有する都市にあり、アポト伯という貴族が経営しているという特殊なものであった。そして、その商会に入ってまずすることは、誓約書を書く事だ。主に秘密の漏えいはしないということ。これに反した場合は帝国軍から除隊の上、刑罰が下ると書かれていた。ご丁寧に皇帝の裁可印まで添えて。全く事情の知らない人間が居たら驚くどころではないだろうが、帝国内において、特に戦闘に関わる職についている者はこの誓約書を見ても驚くどころかごく普通に受け入れサインをする。そう、なにせこのアポト伯の経営するイーニス商会はかの有名な皇帝陛下唯一公認の商店であるのだから。


 この商会の経営者であるアポト伯については、帝国軍に入隊するとすぐに学ぶ内容だ。伯は鑑定のスキル持ちであり、伯曰くそれぞれ個人の能力をステータスなる形で表示するものだと。そして、各人の才を見抜き適切な成長をさせる上で必須なのだと。それゆえ、軍人として強くなるには伯の指導を受け入れることこそが成長への第一歩であると。ゆえに、伯の言葉は素直に聞き入れ決して機嫌を損ねてはならないと。こんな注意事項まで添えられるようになるまでにはいくつか問題があった。それは、魔法の才のない人間や希望するスキルを手に入れられない人間等が伯につめよったり、しまいには殴りかかったケースがあったがあったのだ。どの事例に置いても近くに居た剣帝によって接触しかけた瞬間に気絶させられた上、不敬罪を適用され投獄されることになったのだが。いずれにせよ、アポト伯は最高の教育官であると帝国軍内では真しめやかに囁かれていたのだった。


 かのアポト伯についてはさまざまな逸話が流れているがその中でも最も有名なものが国内最強の人間ではないかというものだ。伯の職務の性質上、彼の手元には帝国内8の迷宮の魔石のみならず、隣国等の迷宮から入手した魔石も多く持ち込まれる。そして、鑑定し、その能力の実証のために自らや側近で試すことも多々あるのだ。ゆえに、国内で、下手をすれば皇帝よりも魔石を摂取している可能性があるという。普通、それだけの能力を持てば内乱等の危険を感じて粛清の対象になりかねないが、アポト伯の場合、皇帝並びに皇族からその野心を疑われた事はなく、むしろ各国から最優先暗殺対象としてリストに載っていることもあり魔石の摂取は皇帝自ら進めているという話だ。それゆえ、決して戦場に出る事がないにも関わらず最強と呼ばれているという。


 そんな最強と呼び声高いアポト伯であるが、本人はどうも争うという事を嫌っている風潮がある。その能力の希少さと代替可能性が存在しないゆえに誰も彼をやすやすと排斥することはできないのだ。本人が望めば宮廷闘争で勝利しある程度の地位までなら食い込むことが可能といえた。しかし、本人は皇帝や皇族に対する鑑定作業ならびに儀式や式典を除き積極的に参内することもなく、したとしても皇帝に対して魔石を献上し、挨拶をすると早々に宮廷を後にするというのだ。かといって、名誉欲や権力欲の代わりに金銭欲が強いといった訳でもないらしい。伯の経営するイーニス商会は拡大の一途を辿っているが、それはあくまでも帝国兵の強化を始め伯の能力無くしては成り立たない業務に限られていた。本人が望めば、軍事関係の業務に割り込むことは容易だったのにも関わらずだ。


 無欲なきらいがあるアポト伯にも唯一といって良い趣味がある。それは旅行だという。ただ、彼の旅行はなかなかに大変な一大事業になるようで事前に皇帝陛下の承認を得ないと旅立つ事はできないという。それもそのはずだ。彼は帝国内で皇帝の次に重要な人物なのだ。鑑定のスキルについては伯が幼少時にたまたま発現したスキルだという。伯の鑑定の能力をもってしても潜在的に鑑定のスキルを持っている人物は今まで3人しか会った事はないという。皇帝陛下は、その3人の人物に鑑定のスキルを得る事ができる可能性のある魔石を摂取させたという。結果は全員死亡。彼らはいずれも貴族の子弟であり、帝国の礎となったとして名誉貴族位を贈られたという。いずれにしろ、鑑定のスキルは得られる才能がある者は少なく、また才能があっても成功する確率は極めて低かったのだ。ゆえに、伯が外出する際には、護衛兵が一個小隊規模で付き、旅行となれば一個中隊までその規模は増員されるという物々しい警備体制がしかれることとなっていた。


 その警備体制にアポト伯はいつも減員するように要請を出していた。曰く、外が護衛で見えないとか。曰く、観光する時に周りを固められたら雰囲気を楽しめないとか。曰く、国外旅行にも行ってみたいのに警備が許してくれないとか。などなど。そしてこの要請が受け入れられることは決してなかった。だって、彼は帝国にとって最重要人物なのだから。




 国立迷宮研究所所長の手記より抜粋

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