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SeA SidE  作者: 乙丑
2/18

1・汐の町

汐:夕方の干満(IMEの変換辞書より)


 静寂した教室の中、正面にある黒板の上にかけられている時計から聞こえてくる秒針の音と、テスト用紙の上にシャーペンを走らせている音、たまに芯が折れる音が俺の耳に聞こえてくる。


 「はぁ~っ」と深い溜め息。

 一応人に聞かれないように小さな音で、もう一度溜め息をく。

 俺、塔原とうのはる裕樹ひろきは、目の前に出されている抜き打ちテストに必死だった。


 鳴濱めいのはま町に引っ越してきたのは彼此かれこれ一週間前なのだが、今の学校がどこを習っているのか、前の学校よりも先だったら、必死になって追いつきたいし、それよりも前だったら、少し足踏みしてやってもいいわけだが……。


 そんな俺の考えなんぞ、知ったこっちゃねぇと、どこぞの芸人みたいな感じに云われそうな気分だった。


『まったくわからん』


 一応外国語のテストなのだが、正直に言おう。

 外国語は千差万別。普通、中学では英語を習うはずだよなぁ?


 ~Je vous assassine et vous m'assassinez encore~


 わかるか、これ?

 これって、英語じゃないよな? どこをどう見てもフランス語だ。

 こんなの前の学校じゃ習っていない。


 えぇ~っと、えぇ~っと……と、考えているうちに時間は過ぎていく。

 もしも時間が止められる力があったとすれば、すぐにでも止めたい気分だ。

 ――が、そんなのあるわけがない。

 もう一度テスト用紙を見る。

 ――筆記だから、余計にわからん。

 マークシートだったら、適当に塗っていけば、もしかしたら一問くらいは正解できたかもしれない。


 そんなことは夢のまた夢と、豊臣秀吉みたいなことを考えるが、結局一門も答えられずにテストは終了した。


 終了と同時に、うしろの席の生徒が、答案用紙を集めて行く。

 先生、採点なんてしなくていいぜ? 自分でも0点だってわかってるからな。



「終わったぁ~っ」


 と、クラスメイトの御手洗みたらい(みなと)が背伸びをしながら言った。

 胸を張ったことで、その豊満な胸が余計に大きく見える。

 どうやらFはあるようだ。


「今日のテストちょっと簡単だったね」


 信じられないことを言ったのは、委員長の()()(やま)恵子(えこ)だった。

 そりゃたしかに、普段から仏語を勉強している方からしてみれば簡単なんだろうけどさぁ……

 御手洗と一緒になって話しているが、どうやらテストでどこがわからなかったのかを確認しあっているようだった。


「あれ、裕樹くん、どうかしたの?」


 と、五ケ山が声をかけてきた。

 俺は少し咳払いをし、口を開けようとしたが、


「もしかして、テスト駄目だったとか?」


 と俺の返答を待たずに尋ねる。

 そっ、全く以て正解。

 仏語なんぞ、さっぱりわかりませんでした。と言いたいのだが、それは頭の中で呟くだけにしておこう。

 ――なんか惨めだと思ったからだ。


「別に気にする事ないわよ。わかんない事があったら人に尋ねればいいわけだし」


 御手洗が正論を言う。

 まぁ、そういう方法が一番なんだが、今は必死にそれが訊けるように勉強している真っ最中だ。

 大体仏語なんて、ボンジュールくらいしか知らない。


 それがここにきてどうだ? 単語すら覚えきれてねぇのに……テストはほとんど文章訳文。

 単語問題なんて出てきやしねぇ。


「それはそうと湊、背伸びするのはいいけど、あんまりやってると目に悪いわよ」


 五ケ山の言葉に御手洗は首を傾げる。


「ほら、この前胸元のボタンが取れて、せっかく縫ったばかりなのに、もう取れそうになってるじゃない」


 そう言いながら、五ケ山は御手洗の制服のボタンに手をかける。

 彼女の言うとおり、御手洗の制服のボタンが取れかけていた。


「あぁ、またかぁ、しかし脆いもんだねぇ。もう少し頑張れんのかねぇ」

「そんだけ胸を張ってりゃ、取れるでしょうに」


五ケ山は愚痴を零した。


「中学上がってから、急に成長しちゃったからねぇ」


 そう言いながら、御手洗は胸に手を当てた。

 制服の上からでもわかったが、相当な大きさである。


「人に見せびらかすもんでもないでしょ?」


 冷めた目で五ケ山が云う。

 俺はふと、五ケ山が御手洗に言っていた言葉を思い出した。

 そして、なるほどなと頭の中で呟き、納得する。

 まぁ、目に悪いかどうかは見る人間の見分じゃないのか?


 ――そんなことを考えているうちに、次の始業チャイムが鳴り響いた。



 授業が終わり、何とも言い難い開放感が全身に駆け巡る。


「んっ、あぁ~っと……」


 俺はゆっくりと背伸びをする。


「ねぇ、裕樹くん? 今日はこれから何か用事とかある?」


 俺の机の前までやってきて、五ケ山がそう尋ねる。


「いや、別に用はないけど?」


 それを聞くや、五ケ山は胸を撫で下ろした。

 御手洗の豊満な胸……とまではいかないが、それでも胸が手で押し当てられており、ふくらみが変形している。


「あのね? まだここにきてからそんなに経ってないでしょ? だから、この町を少し案内しようかなって」


 これって、俗に言うデートの誘いか?と考えたが――。


「恵子、町を案内したついでに、買い物につきあわせる気じゃないでしょうね?」


 御手洗が五ケ山に尋ねる。


「別にそんなつもりじゃないけど……。そりゃ、スーパーのタイムセールで、卵1パック79円お一人様ひとつ限りに付き合ってもらおうとかそんな気は」


 最後の方はほとんど小言で、ハッキリとは聞き取れなかったが、ようするに、最終的にはそれに付き合ってほしいという魂胆であろう。


「当然、湊も一緒にね」


 五ケ山が言うや、御手洗は顔を歪めて「はぁっ?」と驚いた声を挙げたが、上目遣いで見つめ返される。


「はぁ、わかったわよ。一緒に行けばいいんでしょ? 行けば」


 御手洗は五ケ山から目を逸らす。


「んふふっ、これだから湊は可愛いんだ」


 五ケ山にそう云われ、御手洗の顔が少しばかり赤くなった。

 こいつ、スタイルはいいが、結構初心(うぶ)なのかもしれない。



 俺と五ケ山、御手洗が上履きから靴に履き替え、校舎から出ようとした時、うしろから「先輩、今帰りですか?」となにやら明るい声が聞こえたので、そちらに振り返ると、ふたりの女性が立っていた。


「あら、渚に千恵じゃない? これから部活?」

「はい。今度試合があるので、連日応援の練習なんです」


 小柄な方が生家ゆくえなぎさ

 身長はざっと見繕って百五十あるかないかくらい。五ケ山や御手洗と一緒になって話をしているのをよく見かける。


「もうちびっとうちらが頑張れへんと、応援してるチームが勝てへんって、先生から言われとるんよ」


 京都弁みたいな言葉で話しているのが酒殿さかど千恵ちえ

 身長は生家と変わらないが、ストレートパーマが何ともかわいらしい。

 京都弁を話しているというイメージからか、着物とか似合いそうだよなぁと勝手に想像してみたりする。


「そっか、もうすぐ野球部の試合があるもんね」


 五ケ山がそう言うや、生家と酒殿は頷いた。


「ほして、皆はんはどこにいきはりますん?」

「ああ、五ケ山の提案でな。俺に町を案内してくれるらしい」


 俺は酒殿の質問に答えた。


「町をですか……。そらまた楽しい事で、うちも一緒に行きたかったんやけど」


 そう言いながら、酒殿は生家を一瞥する。


「まぁ、試合がありますから、私と千恵は落ち着くまで遠慮しておきます」


 一応断っておくが、まだ誘うとは云ってない。


「そうか、残念だったなぁ……この前美味しいケーキがある店見つけたんだけど」


 御手洗の言葉に生家が耳を傾ける。

 漫画的表現だったら、耳をピクつかせるといったほうがわかりやすいか?


「しかもそのお店、和菓子も豊富で、蜜豆なんかもあったりで」


 今度は酒殿の耳がピクつく。


「でも二人とも来てくれないんだねぇ。お姉さん悲しいよ、しかたないよねぇ、大事な試合の前で、こんなカロリーの高い、料理は食べられないよねぇ」

「わ、私と千恵は今試合に向けて、支えてくれる人に負担がかからないようダイエットもしてますからね」


 悪魔の誘いを振り払うように生家が断りを言ったが、どこをどう見ても強がっているとしか思えなかった。

 結局、生家と酒殿は練習があるため、校庭のほうへと駆けていった。



 校舎から出ると、潮の香りが鼻をくすぐってきた。

 俺の通っている鳴濱中学は海沿いにあり、教室にいた時も、潮の香りはしていたが、外に出るとその香りはいっそう強く感じられる。


「んん~っ、なんか泳ぎたくなってくるな」

「それはまだいいんじゃないかな? まだ五月だし」


 俺は潮の匂いをかいたからそう思っただけで、実際に泳ぎに行こうとは思っていない。

 しかし、五ケ山と御手洗、そしてさっきの二人(生家と酒殿)を誘って海に行くのもまたいいかもしれない。

 ――いや、やましい気持ちがあってではない。一応……。


「それじゃ、どこに行こうか?」


 五ケ山に促され、俺は御手洗を見やる。


「そうだね、やっぱりあそこはどうかな?」

「あそこ? そうだね。やっぱりあそこは行かないと」

「――『あそこ』ってなんだよ?」


 俺がそう尋ねると、二人は互いを見るや「行ってみてのお楽しみ」と云い、歩き出した。

 俺は少し疑問に持ちながらも、二人の後をついていった。


 校門を出ると、左側からパトカーがサイレンを鳴らしながら走っていくのが目に入った。


「裕樹くん、どうかしたの?」


 五ケ山にそう云われ、俺は二人に追いついた。

 二人に町を案内されながら、いつしかパトカーのことなんて忘れていた。


  * * * *


 俺は、五ケ山と御手洗のふたりに連れられて、海沿いの小さな丘へとやってきた。

 どうやら俺に見せようと思っているものが、この先にあるらしい。

 海に近いためか、潮の香りが、学校にいた時よりも強く匂ってきている。


「裕樹くん。どうかした?」

「二人が見せたいのってなんだよ? 見たところ何もねぇけど」


 俺は周りを一瞥しながら言った。

 目の前に海が広がっているのはわかるが、それ以外は特に目移りするようなものがない。


「あそこ。ほら、あの岩肌に小さな祠があるでしょ?」


 五ケ山は俺に教えるように、崖下を指差した。

 彼女の言う通り、岩壁に洞穴(どうけつ)があり、その中に小さな祠らしきものがある。

 あれが一体なんなのだろうか?


「あれはね。哭沢女神なきさわめのかみっていう神様が祭られているんだって」


 ――誰だそれ?


 そう思ったのが顔に出たのか……。


「哭沢女神は伊邪那美いざなみ火之迦具土神ほのかぐづちのかみを生んだ際に、陰部ほとを焼いて死んでしまったの。それを嘆き悲しんだ夫である伊邪那岐いざなぎの涙から生まれたと伝えられてる」


 五ケ山はそう話すが、俺にはさっぱりわからなかった。


「二人が俺に見せたいのってそれだったのか?」


 俺は確認するように尋ねる。


「う~ん、それもあるんだけど、やっぱりこの町の風習みたいな事も教えておいた方がいいかなと思って」


 ――風習? しきたりかなんかか?

 あそこに近付いてはいけないとか……。


 俺は五ケ山に教えてもらった祠を見た。

 俺たちが立っている場所から百メートルほど離れた岸壁に、まるで体長二メートルはあるかもしれない怪鳥が入れるくらいの大きな穴の中に祠が建てられている。

 余り人が入らないのか、そもそも人が入れるのかと言いたくなるくらいの絶壁にあり、しかも、波がギリギリのところまで上がっている。

 これじゃ風が強い日なんて、すぐに波にさらわれて、壊れるのがオチじゃないのか?


 俺がそのことについて尋ねると、「ああ、大丈夫よ。あの祠は壊れないから」と御手洗は云った。

 祠が流されないように頑丈な造りになっているのだろうか?


 そのことも尋ねたが、それに関しては二人とも知らないようだ。

 そもそもあの祠が建てられたのは、なんと百年以上前のことで、それから一度も波にさらわれて壊れたことはなかったと伝えられているらしい。


 これ以上見るもんもないなぁ……と、俺が息を吐いていると、御手洗が、五ケ山の方に視線を送った。


「それじゃそろそろ行こうか? 恵子、帰りに買い物行くんでしょ?」

「そう云えば、教室で言ってたな。『タイムセール。卵1パック79円お一人様ひとつ限り』だっけ? 三人で行けば3パックか? 急がねぇとやばいんじゃないか?」


 そう云われ、五ケ山は腕時計を見やる。


「うん。後20分で始まるから、早く行かないと」


 五ケ山を筆頭に俺と御手洗の三人は、急ぎスーパーへと駆け出した。

 ――その道中、またパトカーがサイレンを鳴らしながら走っているのを見かけた。

 その事で、校門の前を走っていったパトカーのことをふと思い出す。


 穏やかな町と思っていたが、一日に二台もパトカーを見てしまうと、この町も都会と一緒で、穏やかじゃないのかもしれないと思ってしまった。



 スーパーの中に入ると、その雰囲気に圧倒されていた。

 開始まだ十分前だというのに、すでに小母おばさん連中が卵売り場のところに集まっている。

 言い方はあれだが、あんたたちは角砂糖に群がる蟻か?


「だ、だいぶ出遅れたみたいだな?」


 開始十分前だが、明らかに遅れてきた俺たちは不利な状況である。

 しかも親子連れが多く、しかも何パック限定という文字も見当たらない。

 近くに店員らしい男性が立っており、ジッと時計を見ている。


「このお店のルールでね。おじやっていうのがあるの」

「おは『押さない』。じは『邪魔をしない』。やは『破らない』って意味なの。タイムセールの中にはお菓子の安売りなんてのもあるから。商品の袋が破れたら、定価の倍で買わないといけなくなるの」


 なるほどだから最後に『破らない』が入るのか。

 たしかに、安売りなのに破いてしまったら、定価の倍は取られても仕方がない気がする。


 そう云えば、何かのテレビで聞いたことがあるが、万引きした商品は店側からしてみれば、その商品を十個ほど購入してもらえないと、その値段にはならないらしい。

 買う前に商品を破かれてしまっては、それは万引き行為にあたる。


 それを考えたら、定価の倍なんて、良心的な設定じゃないのか?と考えているうちに、五ケ山と御手洗の姿が見えなくなってしまった。


「裕樹くん! 早くしないと買えなくなるよ?」


 いつのまにか、二人は小母さん連中の波の中に入っていた。

 俺は急いで二人のところに駆けつけた時、丁度笛が鳴り響いたと同時に地響きが聞こえてきた。

 タイムセールが始まると同時に、俺は小母さん連中の肉波に揉まれていくのだった。



「ぜぇ、ぜぇ」と、俺は荒い息を挙げていた。

 俺の手にはしっかりと卵十個入りのパックが入ったレジ袋が持たされており(というよりいつのまに取ったんだろうか?)、今仕方、会計を済ませたところだった。

(この時もほとんど記憶はなかった)


 ――そう云えばお釣りもらったっけ? 百円玉を出したところまでは覚えているんだけど……


「はい、裕樹くん。お釣り。21円」


 五ケ山がそう言いながら、俺に小銭を渡す。

 十円玉二枚に一円玉一枚。確かに21円だ。


「二人は買えたのか?」


 そう尋ねると、二人はレジ袋を見せる。

 ――どうやら買えたようだ。


「それにしてもどうするんだよ? 卵3パックも……」

「あ、大丈夫。恵子の家はケーキ屋で、結構卵使うからね」


 御手洗の言葉に、俺は少しばかり疑問を持った。


「卵とか専門の業者にお願いするんじゃないのか? 何もこんなスーパーで買わなくても」

「うちはこの町の酪農家にお願いして、卵とか牛乳の提供してもらってるよ。少し離れた丘の方に牛小屋があるの知らない?」


 ――そういわれても、今はじめて知った。


「それにこの店の卵とか牛乳もその酪農家から提供してもらってるんだって」


 なるほど同じ酪農家なら、味の品質はさほど変わらないって事か。


「さてと、そろそろ帰ろうか? そうだ。二人にうちのケーキご馳走するよ」


 五ケ山にそう云われ、俺と御手洗はそれに甘えることにした。


 五ケ山の家は可愛らしいケーキ屋で、目の前に出されたケーキはまた格別だった。

 一緒に出された紅茶も飲んでみたが、すっきりとした味わいで、ケーキの甘さを邪魔しない丁度いいものだった。

 訊けば、紅茶も店で作っているらしく、味を損なわないようバランスをとっているらしい。


 ケーキを頬張りながら、俺は御手洗が言っていた事を思い出した。


「なぁ? たしか生家と酒殿に新しいケーキ屋が出来たって云ってなかったっけ?」

「うん、駅前にね。国内産卵を使用した本格ケーキなんて謳い文句つけてたからどんなもんかと思って食べてみたのよ」


 友達がケーキ屋をやっていることもあるためか、御手洗は敵情視察も兼ねて店に入ったらしい。


「それで感想は?」

「全然美味しくなかった」


 まるで蔑んだ表情で御手洗は言う。


「――美味しくなかった?」

「いや、味自体は美味しいのよ。申し分ないくらいにね。ただこの店と違って、全然心から美味しいとは思えなかった」


 一体何を云ってるんだろうか?

 ただ御手洗は味自体は美味しいといっていたから、それ以外のものがこの店にはあって、駅前にある店にはないと言うことだろう。


「そう云えば、この町にしきたりみたいなものがあるっていってなかったか?」

「しきたりって、そんな大層なものはないよ。あるとすればひとつだね」


 厨房の方からケーキを持ってきた男性が俺の質問に答えた。

 彼は五ケ山の父親らしく、脱サラして今はケーキ屋に勤しんでいるらしい。章平という名前らしい。


小父おじさん。今日は砂糖少なめだね?」

「ははは。湊ちゃんには敵わないな。今日は紅茶の出が若干甘かったからね。ちょっと砂糖の量を少なめに設定してみたんだ。さすがに卵や牛乳がもつコクと甘味を変えることは出来ないからね」


 章平さんはそう言いながら、俺の目の前にチョコケーキを出した。

 長方形のケーキにチョコがコーティングされており、その上にはラズベリーが乗せられている。


「今度出そうと思っている新作なんだ。ぜひ感想を頂きたいところだね」


 章平さんにそう云われ、俺と御手洗はケーキを頬張るや、『美味い』と声をあげた。


「小父さん。このケーキ美味しいよ。チョコの苦味が中に入っている甘いスポンジと調和して、全然気にならない」


 御手洗の言う通り、コーティングされたチョコだけを食べると、苦味が強い。おそらくビターチョコだろう。

 それでも、スポンジにほどよい甘さがあるため、一緒に食べると調和されて、全然気にならなくなってくる。


「そうかい。それじゃこのケーキを店に出してみるよ」


 章平さんはそう言いながら、笑みを浮かべながら厨房に戻っていく。


「あ、そう云えば、さっき言ってたのって?」


 俺が呼び止めると、章平さんは立ち止まり、俺を見る。


「ああ、さっきのやつだね。この町では決して自殺をしてはいけないんだよ。神様が怒ってしまうからね」


 章平さんはそう云うと、厨房へと戻っていった。


 ――自殺? また物騒な……。


 そう考えながらも、俺はケーキの美味しさに顔を緩める始末だった。


さて、いよいよ本編です。まったりと行きましょう。感想お待ちしております。

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