五話
「な、なんだあれ!?」
青空さえも突き破りそうな赤黒い火柱が、俺の前で立っている。熱い空気がと伝わってきて、目が焼けるように痛い。
「避けたわね。死にかけのバッタみたいなヤツッ」
少女が呟くように言った。
本当にどこかのお嬢様? ってくらいの、低レベルな比喩表現。少しは自重して欲しい。
「くっ。誰だっ、離せ! 私に触れるな!」
言うまでもなく、これは秋乃だ。周りが見えていないのか、俺の上でギャーギャー騒いでいる。
全く、迷惑極まりないヤツだ。
「落ち着け!」
「ごわぁっ」
救われない馬鹿に、拳で一撃。
「うぅ……。おぉ、なんだ翔か。驚かすなよ」
「………」
どうやら我に返ったようで、真下にいる俺にやっと気づいた。
「驚かすなよ」と言う秋乃だけど、どちらかといえば俺が驚かされたんだけどな。
にしてもムカつく。一体誰が助けてやったと思ってるんだよコイツは。
「おい、そこの……えっと……少女! 何するんだよ! 危ねぇじゃねえか!」
「あら、ごめんなさい。逃げられないように力ずくで、ね」
少女は少し頭を下げてから怪しく笑う。不本意ながらとてもかわいらしい。
「大丈夫、安心して。死んだりはしないわよ。大火傷くらいで済むと思うから」
……とても安心出来ない情報だな。
「アホが。大火傷なんてしてたまるかよ」
「それじゃあ、大人しく捕まってね」
「誰がっ!」
片目を閉じてウインクをしてみせる少女。
ふざけんな、冗談じゃない! っていうか、何故俺が捕まらなきゃいけない!
「残念ですね、お兄さん。じゃあ次こそは……はずさないわよ。フンッ!」
少女が小さな両手を振り下ろす。すると、俺達の足下に直径二メートルくらいの赤黒い円が出来る。
「ん? うわぁ! なんなんだこれは!?」
これを初めて見た秋乃は慌てふためいている。正直な所、俺だって驚いている。
「ってアホ、早くどけって! 俺が動けないだろ!」
秋乃が俺の上に乗っかっているせいで、起き上がろうにも起き上がれない。
早く逃げないと……早く――
「む? そういえば、何故お前がここに?」
よし、諦めよう。
俺は一瞬で思考を切り替える。
まず両足で秋乃を円の外へと蹴り飛ばす。思っていたより軽々と飛んでいった。
そして両手足に全力を注ぎ、その力で地面を押し出して赤黒い円から――
クソッ、間に合えっ!
空中に跳んだ直後、左足に熱気が伝わった。
「熱っ」
足に集中力を持っていかれて、着地が成功するわけがない。腕と膝に小石が刺さり、地面との摩擦で露出部分が熱い。
痛みをこらえながら目を開くと、そこには火柱が立っている。次いで足を見ると、靴の底の部分が焼け焦げていた。
俺の靴……。危なかった、ギリギリか。
これなら軽い火傷で済むかな。安堵のため息をつくと、全身の感覚を確かめるようにゆっくりと立ち上がる。手足に力が入りにくい。
「おい、大丈夫か!」
いつの間にか消えていた火柱の向こう側から秋乃が走り寄ってきた。
「見ての、通りだよ」
「……うむ。大丈夫そうだな」
「んなわきゃねーだろ! 見ての通り重傷だよ」
重傷ではないけど、全身が痛い。
「何!? よく見ると血だらけではないか!」
すり傷でな。
「すまん、今なんとかする」
秋乃が俺に手を伸ばす。ほんわかと光る青白い光が、俺の全身を包み込む。
「させないわよ!」
不意に少女のかわいらしい、けれども意志のこもった声が聞こえた。俺たちがその方向を見ると、少女の両手はすでに地面に向けられていた。
足下に違和感を感じて下を見る。何度か見た、あのクソ忌々しい円ができている。
クソッ、まだやるのか。少しくらい休ませろよ……!
俺は急いで円から出ようとする。――が、
「うっ」
うまく歩けない。体に力が入らない。足が上がらず、一歩目でつまづいてしまう。
「おい、しっかりしろ!」
倒れかかった俺の腕が秋乃の手に掴まれて、引き戻される。
「馬鹿野郎……。早く、逃げるぞ――」
掴まれた手で。逆に秋乃を引っ張る。やっと進む重たい一歩。
しかし次の瞬間、俺達を中心に火柱が立った。
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
青い空が見える。白い雲も見える。……俺は仰向けで寝ているのか。
体中の傷からか、視界の隅に見える家が少し青みを帯びている気がする。
……視覚がおかしくなる程の重傷を負ったのか? いや、考えてみればあの火柱が直撃したのかもしれない。
という割には、体の傷はそこまで痛まない。むしろ痛みが引いていくような……
「翔、大丈夫か?」
聞き慣れた声だ。
声のした方へと顔を傾けると、案の定と言うべきか、そこには秋乃がいた。
「……あれ、ここは?」
ここは……さっきの空き地ではなさそうだ。またさっきとは違う場所にいる。
「大声を出すなよ」
秋乃は唇と人差し指で十字を作って、聞こえるか聞こえないかくらいの小声で言う。
俺が無言で頷くと、何故か秋乃も俺に頷き返した
「まぁまぁ酷い怪我だな。だが、任しておけよ」
秋乃の掌は俺に向けられていて、俺の体は青白い光に包まれていた。
痛みが引いていく理由がよく分かった。怪我まで直せるって、どんだけ便利な能力だよ。
「スマンな」
「気にするな。これもプリンのお詫びだ」
静かに笑う秋乃。
安いプリンだな、なんて言えないな。むしろ高すぎるプリンかな。
「そういえば、お前は大丈夫なのか? 火柱で火傷とか」
秋乃の体には、火傷どころか怪我すら見当たらない。
「ギリギリで逃げたさ。私を馬鹿にするな」
無用の心配だったようだ。また能力で逃げたのか。
っていうか、俺も最後の火柱はくらってなかったのか。
「じゃあ、あの二人は?」
「あの二人とは、強面のサングラスと、かわいらしい女の子のことだな」
俺が頷くと、秋乃は笑いをこらえるようにニヤケ顔になった。
「あれを見てみろ」
そして俺から見て左側の方向を指差す。
言われた通り、秋乃が指差した方向を見てみると……
「……どっかのお嬢様とガイモンじゃん」
「ふうむ。アイツ、ガイモンと言うのか」
少し離れた所にあの二人がいる。あそこが空き地の上だとすると、ここは空き地の前の歩道か。
ここから見えるのは後ろ姿で、むこうはこちらには気づいていないようだ。妙に慌てているのは、俺達を見失ったからだろうか?
騒がしい会話が聞こえる……
「ガイモン、お兄さん達どこにもいないわよ……。やっぱり灰になって死んじゃったんじゃ……」
「だ、大丈夫でございます。え、えっと……殺人の証拠何もも無いですから。何せ火柱で――」
「や、やっぱり火柱で死んじゃったの? 私が殺しちゃったの?」
「あ、いえ、そういう意味ではなくてですね……」
「ど、どうしよう……。目的も達成出来なくて、おまけに人を殺しちゃったなんて……もしかして死刑!?」
「た、多分大丈夫でございまた! たしか、青少年保護法? とか言ったような法律が――」
「せ、精少女は保護されないの?」
「あ、いえ、そういう訳では……」
「どうしようどうしよう、明日からどんな顔をして生きていけばいいの? 人を殺しちゃったのよ! ねぇ、ガイモン。助けてよ」
「はいっ! しかしどうやって……いや、お嬢様のためならこの命など誰にでもくれてやります」
「えっ、ガイモンが死刑!? だ、ダメよ。死んだらダメよガイモン!」
あたふたしながら話すガイモン。怯えている少女。
……なんと言うか、話の内容がぶっ飛びすぎててツッコミ所がありすぎだな。大体、精少女って何だよ。
「……うぅ、泣かせてくれるじゃないか。あのガイモンとかいう少女、よく分からないが大変そうだな」
「全てに関して激しい勘違いしすぎだ秋乃! 絶対今の話理解できてねぇだろ!」
どこにガイモンなんて名前の少女がいるんだよ!
「ん? どういう意味だ? って阿呆! そんな大声を出すな、アイツ等にバレるだろうがぁあああ!!」
お前の声の方がデカい!
「バレる……? もしかして私の事がもう警察に……ってあっ、あなた達!」
あ~あ、見つかっちゃったじゃん。
「ほら見ろ、バレたじゃないか阿呆」
「半分はお前のせいだ馬鹿野郎」
半分と言わず、八割は秋乃が悪い。これだけは譲れん。
「ちょっとあなた達、よくも私を騙したわね!」
片手を腰につけ、もう片方の手の指で俺達を指す少女。ガイモンの方も、無表情ながら計り知れない怒りを感じる。
ちょっと待て。俺達が一体何をした!
「もう許さない。この私に恥をかかせるなんて、アリを踏み潰すように殺してあげるわ!」
「人を殺しちゃったとかわめいてたくせに、今更殺せるのか?」
俺は立ち上がり、ニヤケながら言う。
「そんなの私の知ったことじゃないわ。死刑だってなんだって受けてやるわよ。……ここにいるガイモンが」
「えぇ! 私がですか!?」
「おいおい。さっきは『死んだらダメよガイモン』とか言ってたじゃねぇか」
似てないながらも、少女の声真似をしてみる。
「うるさいミジンコ!」
顔を真っ赤にして怒鳴る少女。
そしてその隣では、幸せでとろけてしまいそうなそうな顔をしているガイモン。「死なないで」の一言が相当嬉しかったのかな。男って単純だわ。
そんなガイモンの表情を見てか、少女はさらに激怒する。少し大人びているようにも見えたけど、今はいかにも子供らしい。
「みんなみんな殺してやる!」
両手を振り上げる少女。
また火柱だ。体は……もう痛まない。大丈夫だ。
「どうする秋乃。相手は『殺す』の意味も知らなさそうなガキんちょだけど……逃げるか?」
「まさか。人様に一方的な攻撃をしたんだ。いくら小さな女の子でも、覚悟はしてもらいたい」
「おぉ、怖い怖い。泣く子も逃げ出しそうだ」
秋乃は「私はそんな強面じゃない」と言うと、フッと笑って少女を見据えた。
少女が頭上の手を力任せに振り下ろす。それに連動するように、俺達を中心に赤黒い円が出来る。もう……いい加減見飽きたな。
「それじゃ、秋乃。また頼むぞ」
「あぁ、勿論だ」
秋乃の放つ光が俺達を包み込む。
そして火柱が立ち上る一瞬前、俺達はその場から消えた。
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
全く、気が利きすぎだ。移動した先が、またしてもあの二人の後ろだとは。
秋乃がこんな高等技術を駆使出来るとは、わるいけど思ってない。たまたまだじゃないか?
しかしどうしたものか。後ろをとれたのはいいんだけど、次に何をすればいいのかがさっぱりだ。
考えてみなくても、ガイモンを倒すのは無理だろ。後ろから二人で襲いかかっても、全く勝てる気がしない。
かといって距離をとっても、少女の火柱に一方的にやられる。突っ込んでも殺されるだけだろうし。
さて、どうしようか……。そもそも、何をどうすれば俺達の勝ちなんだ?
無い頭で考えて浮かんだ答えは、少女を捕まえて降伏させること。殺したり怪我をさせるつもりは無い。そんなことしても意味がないし。
不利になりそうだけど、こちらには秋乃のチート能力がある。どんな怪我も治して貰える、どんな保険より安心できる能力が。しかも、前より発動までの時間がかなり短縮されている。これは強い。
そういう訳で作戦は決定だ! ……あれ?
不意に下を向くと、そこにはあの円が……
「って何でぇええ!」
地面を蹴って円から離れる。やっぱり見慣れたくはないな。
後ろから、すさまじい熱気を感じて背中が熱い。
「あ、危なかった」
逃げて今更だけど、冷や汗がにじんでくる。それと着地した時に気づいたけど、怪我だけではなく、焼け焦げた靴までもが元通りとなっていた。
「なんだよ、今度はもう見つかったのかよ」
「馬鹿にしないでよ。同じ手を何度も食らうわけないでしょう」
前を見ると、鼻を鳴らす少女と、その隣でボディーガードのように立っているガイモン。
確かに少女の言う通りだ。浮かれてた俺が馬鹿だったな。
「翔、何をぼうっと突っ立っていたのだ。阿呆か」
いつから隣に立っていたのだろうか、秋乃が声をかけてくる。
「うるさいな。これからどうするべきかを考えてたんだよ。どうだ、珍しいだろ。どうせお前には無理だろ、そんなこと考えるの」
「何を言う。そんなの簡単じゃないか。倒せばいいんだろ?」
よかった。秋乃に任せなくて正解だった。
「馬鹿か。俺達が二人で行っても、あの二メートル超えてそうな巨体には勝てないだろ。それに火柱も危険だし」
「……ふうむ、それもそうか」
秋乃は少し考えた後、顎に手を当てて頷く。
「そこで、だ。力の弱い少女を、今度は俺達が人質に取る。俺が捕まえるから、お前は俺の援護をしろ。単純だろ?」
「あぁ、分かった」
「本当に理解したか? 念のために言っとくけど、火柱が来たりガイモンが襲ってきたら俺を守れよ」
「……あぁ、そっちか」
危なかった。言わなかったら死ねてたかもしれないな。一体何をするつもりだったのか……
「お兄さん達。作戦会議は終わった?」
少女の声が聞こえる。
「あぁ、たった今終わった。……お前、意外に不意打ちしてこなかったな」
「どうせ逃げられるんだし意味がないでしょう? それに、こちらも少し時間を貰えた」
ガイモンと目を合わせて、不適な笑みをこぼす少女。
なるほど。あちらにも策があるらしい。余裕たっぷりだな。
「それじゃあ、始めましょうか」
「そんな楽しいものじゃ――」
「望む所だ、ガイモン!」
俺の言葉を遮るなよ。
「用意バッチリ、って感じね。さぁガイモン、行きなさい!」
「了解致しました!」
少女への返事と同時に、疾風の如く走り来るガイモン。
「仕方ねぇな。秋乃、頼むぞ」
俺はそう言いおくと、ガイモンをかわすため、大きく回り込むようにして少女の所まで走る。
すると俺の動きを見たガイモンは、やはり俺の方へと方向転換してくる。
「秋乃!」
「おぉ!」
あっという間にガイモンとの距離が縮まる。どんだけの速さだ、と思った時には、青白い光と共にガイモンの姿は消えていた。消えたガイモンは気にせずに走り続ける。
「うおぁあ!」
後ろで秋乃の声がする。首だけをひねって後ろを見ると、空に伸びる火柱と逃げている秋乃が見えた。
むこうも本気みたいだ。……サポートは期待できないかもしれないな。
再び前を向いて走り始めようとしたが、目の前にガイモンの巨大が飛び込んでくる。
ヤバい、と思ったけど、次の瞬間にはガイモンの姿は消えている。
俺の進む先に赤黒い円が出来たと思えば、軌道を変える前にそれは青白い光に包まれて消える。
振り返りはしないけど、秋乃は忙しく動いているみたいだ。なんだかんだ言ってアイツは土壇場には強い。こういう時は何より信頼できる。
「もうっ、しつこいのよ! ハッ!」
前に見える少女が、腕を振り下ろす。さらに続けて二回。
「おい、三回もかよ!」
間髪入れずに、三つの赤黒い円が、俺と少女を遮るように広がる。
火柱の円は消え――ない? 秋乃は大丈夫か?
火柱に突っ込むわけにはいかなりから、進むのをやめて一度振り返る。
「私は食えないぞぉおお!」
「食べはしませんので大人しく捕まって下さい!」
秋乃はガイモンに抱えられながら、手足をばたつかせて抵抗している。秋乃は捕まっていた。
「ガイモン、早く。もう一人も捕まえて火柱に!」
ガイモンは「はいっ」と返事をすると、秋乃をかかえたままこちらへ走ってきた。
上にいる秋乃は急な動きに反応出来ていない。
「んな訳にはいかねぇよ! 秋乃、ガイモンをどっかに飛ばせ!」
「私は死なんぞ。もっと塩昆布を食わなければ!」
無理な体勢で体をひねって、ガイモンに手のひらを当てる。秋乃の手が青白く光ると、ガイモンの体も青白い光に包まれる。
しかしガイモンは止まらない。
「馬鹿野郎、こっち来るな!」
「ガイモン、早く!」
何と叫んでも、ガイモンはどんどん近づいてくる。
ヤバい、逃げ道がない!
後ろでは赤黒い円が三つある。もうすぐ世界一高い壁になる円だ。
ほんの少しだけよそ見をすると、ガイモンはすぐそこまで来ていた。
そしてその大きな手を伸ばせば届きそうな距離にまで縮まって――フッと消えた。
今までガイモンが見えていた視界には、民家の立ち並ぶ背景となった。
支えをなくした秋乃は速度をそのままにして落下する。そして、丁度俺の上に落ちてきた。
「うぉおおぐほぁ!」
ひ、肘が腹にぃ……
予想していたのとは違う方向からの痛みに、体を丸めて座り込む。
「あぁ痛かった」と肘をさすっている秋乃に殺意がわいてくる。痛いのは俺だ!
怒鳴ろうか。そうしようとしたけど、その前に響いた叫び声が俺のそうさせてくれなかった。
「ガイモン早く、早く逃げて!」
少女が必死になって声を上げる。
「なっ!」
その状況に先に気づいたのは秋乃だった。
なんだ? と思って秋乃の視線を追って振り返ると、さっき少女がつくった三つの円の中に、何かが見える。
それがなんなのかが分かった時、俺はぞっとした。
そこには、消えたガイモンがうつぶせで倒れていた。
ガイモンは地面の異変に気づくと、両手足を使って体を少し浮かし、足をバネのように使って少女の方に飛ぶ。
立ち上った火柱でその姿は見えなくなった。
ガイモンが火柱を避けれたかどうかは、分からない。
視界に炎の塊が広がる。目が焼けそうで、目を細めてしか見ることができない。
秋乃が立ち上がったのか、俺にかかっていた体重は消えた。俺も続いて立ち上がる。
火柱が消えて、熱気だけが残った。
聞こえるのは悲痛な叫び声。
「うぅ……ああぁぁぁああっ!」
「ねぇ、ガイモン大丈夫!?」
火柱の向こに、両足を焦がしたガイモンが見えた。少女はその隣で肩を揺らしている。
なんだよあれ……。大火傷どころじゃすまないのかよ、真っ黒焦げじゃないかよ!
「大丈夫か……。秋乃、あれ狙ってやったのか」
「いや、私もよく分からないのだが……」
なんだよそれは!
「あれほっといたら死ぬぞ! 早く助けないと」
「あ、あぁ」
生返事をする秋乃の前を走ってガイモンの元へと駆け寄る。
「来ないでよ!」
「「は?」」
少女の、腹の奥からしぼりとったような声に押されて立ち止まる。
両手の拳を握りしめ、歯を食いしばりながら少女は立ち上がった。
「よくも、ガイモンを……!」
「いや、だから、俺達はそのガイモンを助けようと――」
「うるさい! 許さない……」
もう止まらなさそうだ。握り拳をぷるぷると震わせて、キッとこちらを睨みつけている。
「助けてやると言ってるだろ。何が不満なのだ」
「うるさい、うるさい!」
これは、聞く耳なさそうだな。
少女は我を失っている。その反応に秋乃は「なんなのだ」と額に皺を寄せる。
「おい、あんまり刺激すんなよ。怒らせても意味ないだろ」
「あ、あぁ。すまん」
……とは言ったけど、どうすればいいか。
「許さない……死んじゃえ、二人とも死んじゃえ!」
少女は両手を上げた。俺はいつでも走り出せるように少し腰を落とし、周りに目を配る。
少女は右手を振り下ろし、次いで左手を振り下ろす。
赤黒い円が二つ。――三つ、四つ、……は? なんだこれ!?
直径二メートルくらいの赤黒い円が、どんどん増えていく。
「このミジンコッ、ミジンコッ、キノコッ、ツチノコ!」
少女は一回や二回では終わらせず、声とともに右手、左手、右手、と交互に振り下ろし続けている。
その姿は振り下ろすと言うより、空気をずたずたに引き裂こうとするような、地面を叩きつけるようだ。
こんなに出せるのかよ……
「これって、逃げられるのか?」
俺は分かりきった疑問を口にして、秋乃を見る。
狂ったように手を動かし続ける少女。目は血走っていて、足下のガイモンも見えてないかもしれあに。
赤黒い円は増えて重なり、広がってやがて、空き地の中に巨大な円を形成する。地面に穴が開いたようで、足下に草や土の色はない。
「これって……。あ、秋乃、逃げるぞ。早く瞬間移動してくれ」
「あ、あぁ。分かっている」
秋乃が手を前に出すとその手は青白く光り。俺の視界も同じ色に染まる。
狂ったように手を動かし続ける少女を、ガイモンが上半身だけを使って必死に止めようとしている。
それだけならまだ自然だ。……だけど何か、何か違和感を感じる
――あの二人も円の中にいる!
ここまできて俺達はあの二人が円の中にいることに気づいた。
多分ガイモンは気づいているんだ。だからあんなにも焦っている。当たっただけで体が黒こげになる火柱なら、全身やられたら即死か。
けど遅かった。助けないと、と思った時には、俺達の視界は変わっていた。
なんだよこれ、これはどういうことなんだよ……
まだ火柱が立ったわけじゃない。少女はまだ腕を動かし続かしている、あの二人も無事だ。
でもこのままだと……
「翔、あの二人を早く助けなければ! おい、聞いているのか、何とかしろ、早く!」
秋乃が俺の肩を思い切り揺らす。性別詐称をしているのかと疑われる力で揺らされて、頭がガンガンと痛い。
それでも、俺は別のことを考えていた。
「おい秋乃……下見ろ、下」
少し怯えた声になってしまった。でもこれは仕方がないというか、この反応が普通だと思う。
普通じゃない俺の声に気づいたのか、秋乃は焦りながらも下を向く。そして驚愕の表情を露わにした。
「な、何故だ! 何故私達が円のど真ん中にいるのだ!?」
そんなこと俺が聞きたいくらいだ。
なんで俺達まで赤黒い円の中にいるのか、意味が分からない。
けど、ただ一つ、ここにいる全員が危険なことだけはよく理解できた。
どこかで火柱が立った。
あけましておめでとうございます。やさきはです。
このあいだ、当のサイトの小説検索で「ファンタジー」「プリン」「週間ユニークアクセスの多い順」で検索してみたら、この小説は最後から四番目にありました。悲しくなんか……はい。ありますね(笑)
……ただでさえここまで読んで下さった人は少ない(いないかな?)というのに、こんなことを書く意味はあるのでしょうか?
これは気にしたら終わりですね。取り合えずば完結目指します!
もしここまで読んで下さった読者様がいれば、可能なら、その趣旨を伝えて頂きければ嬉しいです。元気出ますので。
ps,プロローグから、準々に改稿中です。