三話
……神、か。
正直言うと、俺は信じていない。もしいるとしたら、もっと世の中平等だろうし。
例えば……。俺も貧乏じゃなくなったり、色々な運がよくなったりとか。結局、幸せまでもが平等じゃない。
ったく、もっと俺に金と幸せをよこせよ。
……など、おおいなる神様を批判をしている内に、写真にあった目的地に着いたみたいだ。
「ここ……なのか?」
「あぁ、間違いないぞ」
新聞に載っていた、焼け焦げたらしい家の場所まで来た。家から本当に一キロくらいの場所にあった。
「あの旅よりこちらを優先すべきだったかもしれないな」
あの旅とは、例の能力を得た旅のことを言ってるのか。どちらも優先されるようなことじゃない、とは言わないでおく。
秋乃の生体については、塩昆布を中心に生きていること以外は謎だらけ。十年来のつきあいの俺でも全てを予想することは不可能、ってくらいに。
いや、この際秋乃の生体などはどうでもいい。そんなことより……これはどういうことだ?
「どういうことだよ。家の面影どころか、消し炭一つ残ってねぇじゃんか」
俺達の目の前には、火事のあった家など見当たらない。家が建つ前の土地のように、小石や草があるだけ。
よく警察が使ってる『立ち入り禁止』の標識も見当たらないし、この場所に家があっただなんて到底思えない。
見た目はただの空き地。本来なら庭一面に茂っていたであろう草々も、土地の中心から、まるで円形脱毛症のように消えていた。火柱が立ったのは本当なのかもしれない。
「跡形もなく、とは書いてあったのだがなぁ……。むぅ、これは予想以上だ。これでは調査にならんじゃないか」
「調査じゃないだろ……。それに人の不幸を調査なんて、最低だって」
「なぁに、私が火柱を作れるようになったら恩を返すさ」
火柱を立ててどう恩返しすんだよ。むしろ仇で返してるんじゃないか?
秋乃のふがいなさにため息をつくと、同時に「ギュルル~」とお腹まで鳴ってしまった。
……三時まで待つか。
冷蔵庫の中の悲しいリアル。プリンが一つしがない現状。
今日の三時に一つ食べるとして、明日からの分が無い。これはかなりまずいことだ。何回か言ったけど、三時のおやつはプリンと決まっている。色々な事情から、明日の分は今日買わなければならない。
秋乃が帰って来たとき、実は丁度買い物に行こうかと思っていて……忘れてた。
その時からずっと財布は持っていたんだけど、さっき確認した財布の中身は八十二円。三個百円で売っているプリンは買えそうにない。
そういえば秋乃って財布持ってたよな? コンビニで塩昆布を三袋買ったらしいし。
……借りるか。
そうと決まったら早速行動だ。確か、こういうのを善は急げって言うんだっけ?
「なぁ秋乃、金持ってない? ……ってあれ? どこいったんだ?」
少し目を離した隙に、秋乃は風のように消えていた。いや、やんちゃ盛りのガキみたいに、の方が合ってるか。
秋乃め、一体どこに行った……。……あっ、いた。あの土地の中か。
どこから持ち出したんだか、凄いでっかいムシメガネで何か観察してる。帽子を被ればどこかの探偵みたいになるかも。
お前の頭じゃ何やっても無駄だって、なんて言っても効果は無いだろうし、止めはしない。
「秋乃、なんか見つかったか?」
しゃがみながらムシメガネを覗いている秋乃に聞く。あくまでも無駄だとは言わない。効果無いから。
「あぁ、少しな。これだ、この小さいのが見えるか?」
秋乃は落ちていた物を摘むと、それを手のひらの上に乗せた。それは光に反射して白く光っている。
どこからどう見ても、ただの砂。秋乃さん。砂っていうものがなんなのか、じっくりと説明して差し上げましょうか?
光るものは全て怪しいとカウントされるのだろうか?
秋乃のアホっぷりを見て絶対に何も見つからないと確信した俺は、さっさと本題に入ることにする。
「なぁ秋乃。お前金持ってたよな?」
「金? ……あぁ、そういえば持っていたな」
秋乃がズボンのポケットに手を入れると、コイツには絶対似合わない、かわいいピンクの財布が姿を現した。しかもかなりミニサイズ。
「流石秋乃だぜ。んで、いくら持ってるんだ?」
「ふむ。……十九円」
全ての希望が砕けた。
両膝から崩れ落ちるようにして倒れ込み、地面に手をついた。漫画だったら、俺の周りを黒いオーラが渦巻いる所だろう。
82+19=101
100+消費税>101
……足りない。
だが、そんな俺などいざ知らず、秋乃はムシメガネを覗き込んでいる。
「おぉ、十円が落ちている」
「よこせぇええ!」
秋乃の拾い上げた十円を、早速取り上げる。
「なんだ、そんなに欲しいのか」
「そりゃもちろん。そして秋乃、お前の持ってる十九円もくれないかな?」
「それだけでいいのか? 私はかまわないが」
「いいのかって、十九円しか持ってないヤツが言う言葉じゃないだろ。まぁ、ありがたく頂戴するけどな」
「ははは。翔にはプリンの件があるからな、断るわけにはいかんだろ。いいぞ、その十円はやるよ。なに、気にするな。これでチャラってヤツだ」
秋乃は、グッと親指を立てる。
チャラだ? 随分と安いプリンだな、と少し怒りを覚えたことは無視しといてやる。ありがたく思え。
「あぁ、ありがとう」 明日お前の家から塩昆布が消えてないといいな。
心の中でそう毒づいて、この場を後にすることにした。
秋乃が「おぉ!」やら「何!?」やら叫んでいるけど、もう何も気にしない。
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昼時だというのに、カラスはせこせことゴミを食い漁っている。
カラスに散らかされた生ゴミの臭いに顔をしかめながら、俺は早足でゴミ捨て場を抜ける。
焼け焦げたらしい家の跡地を出発してから約十秒。勿論気分はあまりよろしくない。
臭いんだよ!
とりあえず、ゴミの管理くらいは徹底してほしい。何やってるんだ町内会。
秋乃に貰った金は財布に入れた。落とすのはもったいないし。
俺は歩道のない、小さな車道の端っこを歩いている。
ここは一軒家が立ち並ぶ住宅街と言ったところだ。ちなみに、俺と秋乃の家はこの一帯のはじっこにある。
この一帯は整備された歩道が少ないから、車やらなんやらに気をつけるのがすごく面倒くさい。雨の日だと、車に水をぶっかけられることもしばしば。……秋乃と歩けば、の話だけど。
それにしても今日は天気がいい。柔らかく吹く向かい風が、この季節にはぴったりだ。髪を持って行かれるこの感触もけっこう好きだ。
そんなことを考えながら、車もまだらなのどかな道を歩いていると、前方遠くに二人組が見えた。
右側にいるのは背の小さい女の子。黒の髪で、ロングヘアーだったからすぐに分かった。
右側は……デカくて、丸刈りで、男で、スーツ着てて、黒いサングラスかけてて……ってSPかよ!
一つ際だって目立つのは、あの二人の身長差。五十センチはありそうだ。
……ちょっと観察しすぎたかな? 女の子はまだしも、坊主の方を見続けるねはアレだったから、俺は視線を下にした。
気にすることでもない。別に襲われるわけではないし。利益なさそうだし。
考えすぎかな、と心のなかで呟いて歩き続ける。
しばらく歩く。彼らとの距離感は分からないけど、俺は自然と道の隅に寄っていた。
もうすぐすれ違うか――
「うっ」
俺は立ち止まった。
いや、立ち止まらなければぶつかっていた。
なぜなら俺より顔一個分低く、そして俺の顔からリンゴ一個分の距離。そこに顔が現れたからだ。
下を向いて歩いていた俺の目の前には、いきなり現れたの形となって、内心かなり驚いた。
この子は、さっきの女の子だ。黒髪を肩の下まで伸ばして、なかなかかわいい女の子。
近くで見ると、そこまで小さくはないことに気づく。
……よかった。目の前にいるのが強面じゃなくて本当によかった。
「えっと……こんにち――」
「とりあえず離れて貰えませんか?」
「あ、はい」
無表情のまま追い返された。何知れない圧力に押されて、一歩さがる
っていうか、なんで俺敬語使ったんだ?
妙に違和感を感じたけど、考える前に顔の筋肉が固まったのを感じた。
俺はぞっとした。
見下ろしている……。身長二メートルはありそうな、黒サングラスの坊主頭。そいつは確かに俺の方を向いていた。
「あ、いや……無罪ですよね俺?」
少女と大男を交互に見る。その身長差から、片方に見上げられ、片方に見下げられている。
……俺、何かしたっけ?
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