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二話

 秋乃の能力について考えるのに抜かせないのは、やっぱり空白の二日間。なんたって何も知らないからな。


 ここに何か秘密がある。


 ……でも、いくら考えても何が起こったかなんてわからない。


 そこでだ。少し原点に帰ろう。


 そもそも秋乃を追い出したあの日。なんでコイツはあんなにも急いでこの家に来たのか。


 本題には関係ないかもしれないけど、気になってしまったらどうしようもない。人間だからな。


「なぁ、秋乃……ってあれ?」


 ……いなくなってる。


 この短時間でいったいどこに行ったのか。この部屋には俺一人しかいなかった。


 あたりを見回してみる。

 家にはテレビに冷蔵庫、パソコンに洗濯機、電子レンジなどなど。様々な家電が完備されている。


 この中のすべての物が十年以上前であること、パソコンが動かないこと意外はなにも問題ない部屋。気にしない。


 そういえば最近、木製の床がきしみ始めたような……。これも気にしない。


 ひととおり見回したけど、秋乃はどこにも隠れていない。そんな能があるとも思えないし。


「………」


 することがなくなったてとりあえず冷蔵庫を開けたけど、そこには麦茶とプリンが一つしかなかった。


 むなしい。そして腹が減ってきた。


 どうすればいいのか分からなくなった時、玄関からドアの開閉する音が聞こえた。


 戻ってきたみたいだけど……。いつ出てったよ。忍者かお前は。


「翔、待たせたな」


 待ってないし。


 帰ってきた秋乃見ると、手に丸まった新聞紙を持っている。


 わざわざ隣にある自分の家から持ってきたと。俺が新聞とってないから……


「なぁ、これを見てくれないか」


 自分の貧乏を思い知らされた俺をよそに、秋乃は持っていた新聞紙をテーブルの上に広げる。地方新聞社だ。厚さからして夕刊だろう。


「……なんだこれ? でっかい写真だな」


 まず目についたのは、トップを飾る大きな写真。写真の横の小さな文字で俺たちの町の名前が書いてある。この近くの写真らしい。いかにも『これから家が建ちます』といった感じの場所だ。


 そして写真の隣には一回り小さい写真、二階建ての一軒家の写真がある。


「なんだこの写真?」


「これかのことか? これはだな。つい先日起きた……そういえばお前には話してなかったな」


 秋乃は「む~」とうなると、勝手に頷いて話し出した。


「これは二日前の話だ。距離はこの家から一キロ程。ある一軒家が全焼したというのだ」


「全焼、か。……全く知らなかった。消防車も来てなかったし」


「当然だろう。消防車が来る必要などなかったのだからな。だが驚くのはまだ早い。いいか、驚くなよ?」


 驚いて良いのか悪いのか分からない。しかしあえてそこにはツッコまず、秋乃の話に集中する。


「これが不思議なことなのだが……その家はただ燃えたんじゃない。一瞬で燃えたんだ。跡形もなくな」


「はぁ? 火事だよな、それ」


 もう一度新聞を見てみると、なるほど、と分かったことがある。あの二つの写真はビフォーアフターだ。小さな写真が燃える前の、何もない台地が燃えた後の。


 記事の題名には『一軒家が一瞬で燃えた?』と書かれている。


「どんな火事だよ」


「いや、違う。実は火事ではないそうだ。目撃者は皆、口をそろえてこう言ったそうだ。『天にも届きそうなでっかい火柱が立ったんだ!』……とな」


 秋乃の言葉。どこか凄みがある。


「火柱……。それってすごいのか?」


「……分からん」


 重い沈黙が俺の部屋に訪れる。俺も秋乃も「なんか凄いことが起こったらしい」くらいにしか知らないらしい。


 だけど、これで秋乃が二日前に俺の家に来た理由が分かった。ようするにこれを伝えに来たわけか。野次馬予備軍だったのか、コイツは……


「そこで、なのだがな……」


 秋乃が一気に椅子から立ち上がる。


「どうだ、今から一緒に行ってみないか」


「はぁ? なんで?」


 秋乃の目がキラキラと輝いている。悪い予感しかしねぇ……


「なんでって、当然、見てみたいからだろ。なんせでっかい火柱だからなぁ直径十メートルはあったらしい。こんなのだ」


 両手を上げてぴょんぴょんと飛び跳ねて、その凄さを伝えんとしている。残念だけど、これだとむしろ小さいものしか想像できない。


 まぁでも、仕方ないか。秋乃も実際に見たことはないだろうし。


「それで、なんで見に行くんだよ」


 質問をする俺を尻目に、秋乃はカメラやらノートやらをカバンに詰め込んでいる。


「っておい、見に行くだけなのに、なんでそんな物まで持って行く!」


「ははは、まったく馬鹿だなぁ翔は。こんなことがあったのに、わざわざカメラにおさめないでどうするのだ。研究するんだよ。そしてあわよくば私も火柱を作りたい!」


「馬鹿はお前だろ! 気付けよ、それが無理だってことに!」


 秋乃は俺の話など聞いていない。大体、カメラなんて俺の家にはない筈なのに……。いつの間に持ち込んだんだか。


 じゃないだろ! 理由が理解不可能だから!


「さっさと行くぞ」


 ブォンブォンとエンジンを鳴らすバイクのように、まだかまだかと俺をせかす。秋乃の目がキラキラしすぎて眩しい。


「俺は明日の学校の予習があるから無――ってわぁ!」


「旅は道連れ世は問答無用ってやつだ。さぁ、行くぞ!」


 秋乃、それは違う! 世は情けだ。そこまで酷くない!


 まるで犬の散歩でもするかのように、俺の右手を引っ張る秋乃。今なら飼い主に無理矢理に引っ張られる犬の気持ちがよく分かる。……分かりたくはなかったけど。


「はぁ、仕方ないか」


「ほぉ、やる気満々だな」


「そう見えたのなら、良い外科医を紹介するけど?」


「むぅ、それは遠慮したいな。痛いのと苦いのは勘弁して欲しい」


 そう言いながらも、握力を弱めない秋乃。「ガキかよお前は」と毒づく俺も、なされるがままに連れて行かれ、ついには家の外に出た。


 俺はもう諦めた。人生諦めも肝心だ。


 それに火柱に興味があるのは否定出来ないし。実際この二日間は退屈してたし。ちょっと気晴らしさ。うん、そうだ。



 ……ところで直径十メートルの火柱って……凄いの? かっこいいの?


 危険な臭いがするような、しないでもないような……




〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓




「一キロって、そこそこあるよな?」


「さぁな。歩いていればそのうち着くだろう」


 なんて無責任発言なんだか。一キロくらいだから文句は言わないけど。


 俺と秋乃、例の火柱が立ったという場所へと向かっていた。さすがにもう手は離してもらっている。


 家を出てから正直どこへ行けばいいのか分からなかったけど、秋乃の持っていた新聞の写真を見て、なんとなくの場所は掴めた。少し探せば着くだろう。


 ところで、ここに来てまだ謎のことがある。秋乃の能力についてだ。


 まだ四分の一も来てないけど、ここに来るまでに何度かその能力を見せてもらった。


 それはまた驚きの連続だった。


 秋乃の放つ青白い光は、ブロック塀をキレイにし、俺の服のしわを取った。


 いやまぁ、しょうもないことばっかりしてるんだけど、これは本物だ。ブロック塀については少し黒ずんでいたけど、一部だけキレイになって逆に目立った。


 これを見て、あとで家の家電全般を新しくしてもらおうと密かにおもった。実に万能能力であったわけだ。


 ただ、今はそれよりも聞きたいことがある。


「秋乃、一つ聞いていいか?」


「あぁ、なんでも聞くぞ」


「そうか。それなら、俺の家を出て行ってからのことを聞きたいんだけど」


 そう問いかけると、秋乃は手を顎につけて「むぅ~」とうなった。


「少し長くなるが、いいか?」


「そこらへんはお構いなく。最初から最後まで頼む」


 さっきみたいに、ばっさりと説明されても困るし。


「ふむ、分かった。じゃあ、この家を出てすくまのことの話なるな」


 秋乃は歩みをそのままに話し始める。


「もう言ったと思うが、私はプリンを返すための旅だっただろ?」


「そうだったんだ……」


 動機が意味不明だった。コイツの失踪は旅をしていたからだった。


「だがな、家を出た瞬間に……スリに遭ってな」


「流石、秋乃だな。お約束を忘れない」


 秋乃に訪れる定番にして定石パターンの出来事に、ただうんうんと頷く。


「むっ、失礼だなぁ。たまたまだろう。まぁいい。それで、仕方なくソイツを追う事にしたのだ」


 財布をスられたのなら当然か。真っ昼間からスられるなんて、どんだけヌケた顔をしてたんだか。


 でも秋乃の財布の中なんてたかが知れてるんだけど。千円札とポイントカード以外は、何も持ち歩かないらしいし。


「まったく。私から塩昆布を奪うとは、いい度胸だよな」


 財布じゃないのか!


 それはスった人も驚いただろうな。お金じゃなくて塩昆布だったんだから。


「それにアイツ、私が追いついた時に何をしていたと思うか? 私の塩昆布を『ふざけるな!』と言って、思い切り地面に叩きつけたんだぞ!」


 あぁ、うん。気持ち分かる。勇気を出してスった物が塩昆布だったら……確かに投げ捨てたくなる。



「勿論ボコボコにしてやったがな」


 鼻を鳴らして、自慢げに語る秋乃。


 そこまでする必要はなくね?


 それに塩昆布が関わった時の秋乃は最強だし、容赦ないし、その人もただで済んだとは思えない。救急車を呼んだ方がいいかも。……いや、もう遅いか。二日前だっけ。


「自分で取っておいて、捨てるとは。塩昆布を愚弄するのにも程がある! だいたい、塩昆布は――」


「おいおい、話がズレてるよ。それで、ボコボコにして、そのあとどうなったんだ?」


「あ、あぁ。そのあとなんだが……実は道に迷ってしまってな」


「迷った? いや、いくら何でもここらへんの地図くらい覚えてるだろ」


 いくら秋乃でもそこまで馬鹿か?


「そりゃそうだが、アイツが逃げるものだから……」


「あぁ、そういうことか。それを追っていたら迷ってしまったと」


「うむ。その通りだ」


 秋乃は開き直るように頷く。違う、そこで開き直っちゃダメだろ。


 それで行方不明か。でも、それだけで二日も帰って来れなかったのか? 少なくとも人に道聞くとかすればなんとでもなると思うけど……。


「そこでな、せっかく迷った事だし、どうせなら行けるとこまで行ってみようと思ったんだ」


「はぁ!?」


 秋乃の意味不明な発言に、思わず大声をだしてしまった。


「なんでだよ!」


「理由はさっき言ったろう?」


「え? ……あぁ。そうだったな。プリンを返すためか」


 旅にでるのとプリンを返すという理由とは直結してないけど、それで旅に出るって覚悟は凄い。俺には理解は及ばない。


 でも、時間を操るって、人間をはずれるのもいいとこだぞ。一体何が……


「続き、話していいか?」


「あぁ、うん」


 取り敢えず、なんでそんな能力を手に入れたのかが気になる所。黙って聞くことにしよう。


「よし。えっと……迷った所まで話したか。そうだな、正直それからが辛かったんだ……」


 秋乃はどこか遠くの空を見つめながら話し出す。


「これまた珍しいな。お前が辛かったなんて言うのは……」


「あぁ、そうかもな。でも崖登りをした時は本当にキツかったな。手足が棒になりかけたぞ。後は火山が噴火して、岩石やら粉末やら火山なんとかが降ってきたり。そして飼い主のいない猛犬達に襲われたりで大変だった。それに、大グマに襲われた時はかなり危なかった。死ぬかと思ったぞ。まぁ、なんとか――」


「ちょっと待て、待てよ止まれよおかしいだろ絶対! その話って作り話じゃないの? そんな少年マンガみたいなことがありえるのか?」


「一言一句、間違えてないぞ」


 どんだけ波乱万丈なんだよ! よく生きて帰ってこられたな。


 驚きながらも少し感心する。いくら秋乃でも、ここまでの不運はそうあるものではない。


「それで、大グマとはどうなったんだ?」


「倒したさ。絶壁に追い詰められた時はもうダメかと思ったが、死んだらもう塩昆布が食べれなくなると思ったら……不思議と力が湧いてきた。……不思議だな」


 ……ホントに不思議。


 てか『死んだら塩昆布が食べれない』なんて考え方すれば、コイツ無敵じゃね?


「迷子になって崖登り。噴火に遭い猛犬に襲われ、さらには大グマに出くわす。そんな波瀾万丈、不幸満載な旅も……秋乃なら有り得なくもないか」


「本当に失礼だな。たまたまだろう」


「まだそう思ってるのか? いい加減認めたらどうだ? そういう星の下に生まれたんだって」


「そんなことあってたまるか」


 そう言う秋乃だけど、実際は悲しい程巻き込まれ型なヤツだ。


 退屈しない人生だから悪くは無いと思うけど……。最終的には生きてるし。


 コイツは俺やその他を巻き込むトラブルメーカーでもあるけど、実際巻き込まれてる方が多い。

 ……俺には分からない悩みってことか。


 普段は穏和、というか馬鹿な秋乃だけど、これについておちょくり続けるとさすがに怒る。


「それからの一日の事に関しては、割愛させていただこう。なにも(・・・)無かったからな」


 秋乃は明らかなアクセントをつけて説明する。


 あったんだな、色々と……分かりやすすぎて対応に困る。


 俺は平然を装う。


「で、だ。その後、やっとのことで砂漠を抜けたんだ」


 なんで砂漠? 話飛びすぎだろ! しかもこの地方にはそんなもの無いし。一体どこまで行ったんだよ……


「本当に長く、厳しい道のりだった。……ふぅ、やっとここまで話したな。あと少しだぞ」


 秋乃は小さく息を吐くと、また話し始める。


「しかし、いま考えても、あそこにいるとは思わなかったなぁ。コンビニ……サー〇ルKにいるとは」


「それだけ沢山のものをを超えてたどり着いたのがサー〇ルK!?」


 いろんな意味で近すぎる!


「気になったのもそうなんだがな。丁度腹も減っていたし、取り敢えず入ったんだ」



 確かに、そんな所に場所にコンビニがあれば、俺でも気になる。


 それに、腹減ってちゃな。……ん? 今考えたら秋乃ってそれまでの二日間何も……いや、塩昆布を一袋だけしか食べてないのか?


 山の奥地で塩昆布をしゃぶる……浮かんで来る映像が悲しすぎる。


「一応、そこで塩昆布を三袋買おうとしたのだ」


 まだ食うのかぁああ!


 胃袋や舌の前に脳がイカレてるのではないか。


「しかし、塩昆布をレジに出した時に、何故かその女店員に大爆笑されてな……」


 それは当然じゃね?


 ……? いや、違う。確かに塩昆布を三つ買う人間は変かも知れない。けど、初めて見る人間がそんな事思うのか? 買い溜めをしているだけに見えるんじゃいか? しかも大爆笑って……


「あまりに笑うものだから『何がおかしいんだ?』と聞いたんだ。そしたらその女店員が『君ってよく塩昆布だけで生きてられるよね』と……」


 ……? それは少なくとも、秋乃の旅を見ていないと分からない筈……まさか!


「ずっと見られていたのか!」


 なんだよそれ。監視か? ストーキングか? どちらにしろ普通じゃない!


「その店員が笑い終えると、今度は私を見て言ったんだ」


 秋乃の瞳に鋭さが増す。そして、その女店員の言ったであろう言葉を口にした。



「『君は神様を信じる?』……と」

 なかなかストーリーが進みませんね……


次の次くらいでしょうか? ちょっと物語が動き始めます。


更新が速くない理由は、書くスピードが遅いこと、推敲に時間がかかること。きっとどちらも致命的。


こんな感じですが、どうかよろしくお願いします。

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