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二十五話

「はぁ、はぁ……ちくしょ」


 もう勝負が始まってから十数分がたったと思う。


 俺は家々の陰を点々としながら逃げ、ようやくあの少年の気配を近くに感じなくなった。


 夏の高い太陽の光が、軒下にほんの小さな日陰を作っている。息を切らしている俺は、暑さから逃れようと体を壁にピッタリとつけるけど、ちっとも涼しくない。


 これまでの十数分、あの少年(もしかしたら少女かもしれないけど)は俺を追いかけながらいたる所に火をつけてきたから、それも手伝ってさらに暑い。


「まぁ、『熱い』じゃないだけありがたいけどな」


 ため息がまじってしまった。


 ……そこは自分でも諦めてるんだな。でも、暑いのも寒いのも、我慢するのは苦手じゃない。


 暑さと疲労でだるい体を、息を整えながら休ませる。俺はその場に腰をおろした。


 さてと。


 いいかげん俺も、このまま防戦一方というわけにはいかない。それにここらの家を焼かれたら、俺は隠れる場所がなくなって炭にされちまう。


 だから勝負は早めに着けたい。しかし、どうやって?


 迷っていても始まらないのは分かってる。いや、なにをすればいいかも分からないから、なにもできないんだ。


 て、言ってても仕方がないか。


 効果があるかどうかは別にして、まずは荷物の整理から始めよう。


 斜めがけのカバンのチャックを開けると、雑巾三枚、チャッカマン一つ、自分で作った即式の盾が一つ、そして黄色く細長いロープが出てきた。


 この中で、燃えない方の油対策として持ってきた雑巾とロープは役に立たない。なんせ燃えるのだから。


 チャッカマンは……まだわからない。でも、あって損をすることはないだろう。


 そしてナベ蓋とペットボトルで作った盾は、油でなく火の玉が飛んでくるなら意味がない。


「……まったく、なんでこんなものを作ったかなぁ」


 盾なんて、小学生のような発想だ。まさに子供だまし。


 カバンの中身はもちろん知っていたけど、今更ながら役に立たないものしか出てこない。


 完全に失敗したな。過去の話を振り返るものではないけど、もっとまともな道具を持ってくればよかった。


 とりあえず、いらないと判断した雑巾とロープと盾をカバンの中に入れて、軒下にそっと置く。チャッカマンはポケットに入れる。


 重く感じる体を持ち上げて立ち上がる。カバンがないだけ、多少楽な気がした。


 しかし体が軽くなったとはいえ、生身で戦えばそれこそ北京ダックならぬ北京ヒューマンになってしまう。


 ……北京ヒューマンは中国人か。


「どうですか、もう降参しませんか?」


 不意に聞こえた声に、体中に緊張が走る。アイツの声だ。声は家を挟んだ向かい側からだった。


 その息づかいからは疲れなど微塵にも感じず、余裕にあふれている。体力に自信があるのか、それとも歩いて来ているのか……


 改めて声を聞くと、やっぱり少年なのかもしれないな。俺は勝手に結論づけた。


 女の子よりは戦いやすい。けど、だからと言って勝てるわけじゃないから困ったことだ。


「いるんですよね? 早く出てきて下さいよ。てゆうか、出てきた方がいいですよ。逃げ回っててもそちらが不利になるだけですから」


 ニヤリ、と向かい側の顔が歪むのを想像した。


 やけに意味深な言い方だな。俺が逃げ回っている間に何か仕掛けて来たのか? だとしたら何か対策を、そうでなくても情報が欲しい。そもそも、その言葉自体が罠か――


 ……わかってる。今出て行っても炭にされるだけだ。


 深呼吸をして頭をゼロに戻す。


 しばらく沈黙していると、向かい側で踵をかえすような足音が聞こえた。


 やっぱりカマかけてただけか。あちこちで同じような演技をしているのだろうか。


 家の陰からそっと少年の姿を覗いてみると、さっきと違い、頭にはヘルメットを、腕には圧力式の強力な水鉄砲をもっていた。


 あれ、まんま少年兵じゃないか! 水鉄砲の中身が水だったら嬉しいなあ。


 顔を引っ込めて体を完全に隠し、家の壁にもたれかかる。


「お~い、子供兵士。お察しの通り、俺はここにいるぞ~」


 ザザッ、という音を立てて足音が鳴らなくなった。


「やっぱりいるんじゃないですか。無視するなんて酷いですよ、こっちは大声出してるのに」


「あぁ、悪い、寝てた」


「そうですか。そういえば、授業中に居眠りをしてしまったとき、教師はこんな気分になるんでしょうか? そうだ、この家燃やしましょうか?」


 容赦ないな、この子供先生は。火の用心。


「まぁ待ってくださいよ、子供先生。家の中のおばあちゃんが死んじゃいますよ」


 人なんていないけど。いたとしても、それはおそらく偽物だ。


「さっきから子供子供って馬鹿にしてるんですか?」


 いえいえ、めっそうもございません。


 子供と言われることに腹を立てる子供は、結構かわいくて困るなぁ……


「馬鹿にはしてないよ。ただちょっと、聞きたいことがあって」


「それは奇遇ですね。僕もあなたに聞きたいことがあるんです。ドラマでよくやるお先にどうぞ合戦は嫌いなので、お先にどうぞ」


 さいですか。俺はお言葉に甘えることにした。


「それじゃあまず質問。お前男だよな?」


「いえ、僕は女ですけど」


 え、マジで?


「嘘です、男です」


 なんて紛らわしい、一瞬信じちゃったじゃないか。


 自分の中でよく分からない気持ちがぐるぐる回って、結局安堵のため息となって出てきた。


「男子か……。残念」


「何を期待してるんですか!」


「冗談だって。もしお前が女の子だったら、ここから始まる恋もあるかもなあ……なんて思ってないから」


「下心ありすぎですね、気持ち悪い」


 だから冗談だって。


「それは置いといて、本題に入るが、もし良かったそっちの能力を教えてくれないかな?」


 俺は、良かったら名前を教えてくれないかな、と言うぐらいのテンションで言った。


 少々ストレート過ぎたようで、向かいの少年驚いたのか戸惑ったらしい。少年はしばらく唸っていた。


「そうですね……。見てわかりませんでしかたか?」


「他には無いのか? それが知りたいんだけど」


「そんなに知りたいですか?」


「もちろん!」


 意地悪っぽく言う少年に、俺は声を弾ませて言う。もちろん演技。多分向こうもだ。


 対して少年は、フフフと不適に笑っている。……というアピールをした。


「残念ながら、今まで見せたものだけですよ」


 ふうん。じゃあ半分信じよう。


 もともと教えてくれるなんて思ってはいない。本当は少年の言動から他にも能力があるのかどうかを割だそうと考えていたのだけど、特に収穫はなかった。


 はぁ、名探偵みたいになれたらなぁ……


「じゃあ最後に聞くけど、子供兵士、お前は何のために戦ってるんだ?」


「だから子供とか言わないでください。その質問は興味に基づくものですか?」


「まぁ、そうなるかな」


 確かにこの質問は興味本意な部分もあるけど、もしも俺がその理由の起因を取り除けるなら、それで勝負はつくと考えたからだ。例えば、秋乃の能力で解決する問題とか。


「そうですね……。単刀直入に言ってしまいますと、お金が欲しいんですよ」


 この少年、そういうキャラなのか?


 ちょっとしたギャップに驚いた。


「僕はこんな能力を授かったじゃないですか。で、貰ったとき最初に思ったんですよ。この『油』売れるなって」


 確かに、俺でもそれは思う。それで貧乏生活とおさらばできそうだなぁ。


 あぁ羨ましい。あの時俺が『油』の能力を貰っておけばよかったよ! なにが好きでこんな使えない能力を選んでしまったんだ……


 悔やまれるのは、あの青髪から能力を貰ったときのこと。


 涙が涸れるように、もう出なくなるほどため息をついた。あぁ息苦しい。あぁ生き苦しい


「でもですね、売るって言ってもそう簡単にはいかないんですよ。例えば、この石油を買ってくださいって言って買ってくれるのはご近所さんくらいで、業者とかに持って行っても取り合ってくれないんですよ。石油の取引って、結構大がかりで難しいんです。だから今は根回ししてる最中なんです。怪しまれてもいけないですから、結構時間がかかるんです。つまり、理由はこういうことです」


 少年は一度言葉を切った。


「僕は能力を失いたくない、そしてお金を稼ぐ時間が欲しいんです」


 なるほどと頷いていると、


「治療費も入院費も、馬鹿にならないんですから」


 と、聞こえるか聞こえないかぐらいに小さい呟き聞こえてきた。


 わざと聞こえるように言ったのか、それとも本音なのか。聞いてまで知る必要はない。


「これが僕が戦う理由です。よくわかったでしょう?」


 あぁ、よくわかった。少年は慎重で準備周到な人間だということである、ということが。それに、頭が悪いということはなさそうだ。


「答えてくれてありがとう。あんまり役に立たなかった」


 それはよかった、少年はそう言うと、二歩分の足音が聞こえた。


「じゃあ次は僕の質問です。内容は、あなたの質問をそのまま返させていただきます。まず、あなたは女性ですか?」


 そうきたか……


「そうなのよ、私実は――」


「では質問です」


 あれ、今の下りはなんだったの? ツッコミもなしかよ、せっかくなりきったのに。


「あなたの能力、名前だけは仙人から伺っております。『時計』だそうですね」


 ウム、と少年に聞こえないぐらいの小さな声で頷く。


「抽象的な表現なんでしょうか? 内容がよくわからないんです。どんな能力なのか教えて貰えませんか? それから、僕との戦闘が始まってから一度でも能力を使いましたか?」


 少年の足音は聞こえないし、声が聞こえる方角にも変化はない。だまし討ちをしようとしている訳ではなく、本当に質問に答えて欲しいらしい。


 これは俺の予想だけど、アイツは俺の能力を相当警戒している。当然と言えばそうなのだけど、これを利用して少しでも優位に立てれば……


 さてさて、なんと答えたものか。

「黙ってないで何か言ってくださいよ。それとももう逃げちゃいましたか?」


 わかりやすい挑発には乗ったわけじゃないけど、答えてやろうか。


「じゃあ、俺の能力を紹介しよう。まず一つ、『時計』の名前にふさわしく、現在の時刻が正確にわかる」


 使い物にならない能力だけど、最近では時計を見ることがほとんどなくなった。


 少年の反応を探るために耳をこらすと、彼の独り言がぶつぶつと聞こえてきた。しかし、ここからだとよく聞こえない。


「すみません、今何時ですか?」


 少年が唐突に質問をしてきた。


「今? 二時十五分三十六、七、八――」


「僕の時計とずれていますが……。僕の時計がずれているのでしょうか?」


 まぁ、絶対そうでしょうねぇ。自分の能力の正確さには自信があるし。悲しいがな、そんな自信はいらないんだ。


 まぁ、これは少年の質問、戦いが始まってから能力を使ったかという問いに答えにもなっただろう。能力は常に発動中なわけだ。


 風がかすかに吹いてきて、汗が冷やされる。


 俺は少年の独り言が収まるのを待って、次の説明を始める。


「じゃあ二つ目の能力の説明だ。簡単な話、俺はスーパーなコンピューター並みの計算能力を手に入れた。ただし単純計算に限る、だけど」


 この能力があれば、数学のテストも満点を取れる! という考えが浅はかであったことは、この前の期末テストでわかっている。数学では公式や解き方などが大切で、四則計算が完璧にできても、あまり点数は上がらなかった。それに、xとかyとか、どうしても計算できないんだ。


 それでも、おかげで赤点は回避でたんだっけ。


「じゃあ問題です。18502×365154×0,06982-1235はいくつになりま――」


「4715859,56726だ」


 少年は感嘆の声を上げた。それはどうも。


 それにしても、計算するのは変な感じだ。頭の中でビビッと電気が流れるように思考が進み、あっという間に答にたどり着くことができる。しかも計算過程の数字を記憶できているから、メモを取る必要もない。


 確かに便利だ。しかし、なくても生きていけることは事実。


「では、次をお願いします」


 この能力に特に危険を感じなかったのか、少年はあまり時間をおかずに次の説明を催促した。


「三つ目の能力。ここまでくるとかなり時計離れしてくるけど、例えば、俺がある時刻を思い浮かべるとする。そうすると、その時刻の記憶を正確に思い出せるんだ。要するに、その時々に置ける正確な記憶があるわけだ」


 例えば昨日の三時を考えると、俺はプリンを食べていた……とか。その時見ていた映像が鮮明に思い出せる。


 特に秋乃の能力で過去に飛ぶとき、この能力は正確な到達地点を知るのに役立っている。


「丁度ビデオカメラみたいなものさ。ただし、視覚で得た情報、つまり映像(ビジョン)しか思い出せないけど」


 この能力の使える所は、テスト前日にテスト範囲の問題集を一度見ておくだけで、簡単に高得点が取れる所だ。馬鹿な俺がいきなり高得点を取ると怪しまれるだろうから、政経のテストだけに限定したけど。


 それとこの能力は、使っている自分自身が一番凄いと思っている能力でもある。


 この能力を使うといつも、人間が視覚から取り入れる情報がいかに少ないかを思い知らされる。それぐらいに、視界の隅々までのはっきりとした映像が浮かぶのだ。


 これはなかなか凄い能力だと断言できる。自分でも信じられないくらいに凄い。


 ただ、それがどうしたというのだ。戦いに使えないことに変わりはないじゃないか。


「なるほどですね」


 俺の能力について深く考えていたのか少年はしばらく黙っていて、そしてついに声を出した。


 何かを考えさせるくらいに、俺の能力がすごかったというわけか。


 こういう時こそ、自分の能力をほめてあげないとな。そうでもしないと、俺が能力を貰った意味がない。よしよし、よくやった俺の能力。


「ありがとうございます。では、他に能力はありますか?」


 少年は無感動な声音で言った。


 あらら、俺の能力にあまり危機を感じなかったのかな。まぁいいや。


 四つ目の能力は、それは完全に正確なストップウォッチを有していることだ。でも俺は、それを少年に伝えるか否を迷っていた。


 別に、戦術的な意味はない。


 その理由は最近気づいたことだ。ストップウォッチ能力はさっき少年に説明した能力のうちの二つ、現在の時刻を知る能力と、完全な計算能力の二つで代用できるのだ。時刻から時刻を引き算すれば、それはストップウォッチと同じ効果を発揮できる。 むしろ、ストップウォッチの能力は最初からなくて、二つの能力を使って時間を測っていただけなのかもしれない。


「いや、俺の能力はこの三つだけだ」


 とりあえず、俺はそう結論づけた。


 そしてこの瞬間、何かもどかしい引っかかりが、俺の脳裏をかすめた。


 なんなんだ、この感覚。何か違和感を感じる――


「その言葉は信じていいんですか?」


 少年の声だ。


 俺は雑念を振り払うように首を振った。忘れてはいけない、これは駆け引きだ。


「そんなこと、自分で考えてくれよ」


 顔をにやつかせ、含みをたっぷり利かせた調子で少年に言った。この場面で俺が一番してはならないのは、少年に俺の能力の全てが戦いに向いていない、という事実を悟られること。俺しては、今はせいぜい緊張して、もっと慎重になってくれ。


 少年は今まで通り、簡単には動けないだろう。さて、話は済んだ。次はどこへ逃げようか――


「僕は信じますよ、その言葉」


 ――え? 今何て?


 風が吹いて、背筋がどっと冷えた。夏なのに。


「僕のおばあちゃんの言葉です。『人を疑って後悔するより、人を信じて後悔しなさい』って。なかなか素敵な言葉だと思いませんか?」


 おばあちゃんには悪いけど、今は一ミクロンも素敵だなんて思えない。だって少年は、俺が相手に疑わせるために言った真実を信じると言ったのだから。


「そ、それはダメでしょ。おばあちゃん、詐欺とかに引っかかっても後悔しない、なんて言わないでしょ。疑うことは大切だよ?」


 って俺は何を説いてるんだ!


「それもその通りですが、どっちつかずのままでいるよりはいいじゃないですか」


 少年の言葉の語尾がやけに明るい。


 俺は後悔した。少年の人柄を安易に決めつけてしまうべきではなかったのだ。


 少年は慎重で準備周到。その慎重さが、おばあちゃんの言葉一つでひっくり返るなんて、誰が予想できようか。そもそも名探偵でも切れ者でもない俺が、なれない推理をしたのが間違いだ。どうしようもなく間違っていたんだ。


「では、行きますよ」


 少年がそう言うやいなや灯油のようなガスくさい臭いがして、屋根の向こうから家の周りを囲むようにを飛んできた油が俺を閉じこめた。


 この刹那の中で、俺は二者択一をせまられた。


 このまま待つか、炎に焼かれる危険をおかして外に逃げるか。


 どちらが正解かは明確だが、目の前の恐怖を避ける本能が足を動かすなと命令する。


「行かなきゃ終わりなんだよ!」


 自分に言い聞かせるように叫んで、何も考えずに走った。


 足が油を踏んだ瞬間、左右から炎が迫ってきた炎が足を巻き込んだ。


「熱っ!」


 なんとか炎を越えたけど、それでもまだ右足が熱い。


 靴が燃えてやがる! さっき踏んだ油が靴の裏に残って――


 俺は走りながら右足の靴を脱ぎ捨て、すぐに左も脱いだ。


 家と家の距離は少し離れている。俺は少年のと自分の間に、さっきまで隠れていた家を挟むようにして走った。そしていくつかの家と木々に隠れながら、より遠くの家に逃げようとする。


 ようやくたどり着いた家は、敷地が広くて手作りの木製ブランコが一つあった。いかにも田舎らしい古びた木造の家は、俺の家の三倍以上の広さがありそうだった。


 そのとなりには、ようわからないさびれた鉄の機会と薄茶色の新しげな木材が置いてある、工場のような場所があった。


 奥の方には俺の身長よりも大きい機会がビニールをかぶっている。簡素だけど鉄製の屋根があるおかげで、そこは暗くて目立たなさそうだった。


 工場に入ってその機会の後ろに隠れると、木材の、湿ったような匂いがすぅと体に染み渡った。


 カバンも置いてきたし、いよいよ俺もパンツの一張羅だ。ポケットから半分はみ出しているチャッカマンを取り出して、ロックを解除して眺めてみた。


 これだけで勝てるわけないよな……


 再びロックをかける。


 向こうからは火の玉が飛んでくるのだから、こんなもの子供だましにしかならない。


 そうだよ、このままじゃ勝てないんだ。いったん引いて、何か役に立ちそうな道具を持ってくるしかない。


「そうだ、山を一個越えればアイツも追って来ないじゃないか」


 ……なんてね。


 冗談混じりで呟いた俺は、機会の陰から顔を出して――絶句した。


 山火事だ、山火事が起こっていた。それも小火(ぼや)なんてレベルじゃない。山全体が赤く燃えていて、空がかすかに赤く染められていた。きっと、まだまだ酷くなる。


 絶対に逃がさない、ってか。


 ため息をついて頭を抱え、影に溶けるように機会にもたれかかった。


「ったく、どうすりゃいいんだよ。答えろよあのクソ女……」

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