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二十三話

たいへん遅くなりました。


学校の勉強が忙しくなったことに加えて、最近ゲームにハマっていまして……

執筆の時間はほとんどと言っていいほどとれていません。


この更新スピードでまだ誰か読んでくれているかわからないので、部活か入試(入試はまだ先のはなしですが)かが終わって一段落してから再開、ここまで読んでくださった方がいないなら打ち切り、もしくは合間をぬって執筆をしていく、の三つを考えています。


詳しい話は後書きで。

今回はちょっとした昔話です。泣けるわけでもなく、笑えるわけでもない(笑ってもらえれば嬉しいのですが)、翔くんと秋乃ちゃんが出会って半年ぐらい経ったときの話です。

回想形式のつもりでしたが、どうも崩れてしまいました。


……あ、最初の時間軸は現代です。ちなみに夏です(笑)

 駅をの改札を出て、目的地へと歩き出す。この辺りはまだ店や住宅も多く、車も少なくない。しかし少し遠くには、すっかりと夏色に染まった(前に来たのは冬だった)山々が連なっている。


 駅に向かって来るたくさんの人とすれ違いながら、駅から近くにある、左右に歩道の整備されているトンネルに入った。


 薄暗いトンネルを抜けてさらに歩くと、道路は一車線細くなり、車もまばらになった。


 町並みは歴史をさかのぼるように古くなっていき、木造住宅の割合が半分を越えてきた。ただ一つ新しいのは、つい三年ほど前にできたスポーツセンターぐらいだ。もちろん田舎にふさわしい小ささだけど。


 周りの景色を回るように見ながら歩いていくと、かすんで見えるくらい遠くに目的地の目印が見えた。俺は歩く速度を速める。


 ……半年前に来たばかりだけど、俺には妙に懐かしい風景だな。


 そう感じるのは、俺が物心つく頃にはこういう場所がなかったからだろう。俺の祖父母は――いたんだけど、俺は家に置いてあった昔の写真でしか知らない。それも二十年も前のもの。


 だから俺は、秋乃の祖父母とその家を無意識にそういう場所にしていたんだと思う。最初にここに連れてきて貰ったのは、俺がまだ小学二年生の時だったのだから……


 道中、俺は初めてここに来たときのことを考えながら歩いていた。







 秋乃がおじさんの家にやってきてから半年ほどが経った時のことだ。


 俺達が小学二年の春、もしくは夏。記憶では山の緑が青々としていたから、多分初夏だと思う。


 今からちょうど九年前のこと。俺は白美川一家に連れられて、秋乃の母方の実家、つまり秋乃の祖母の住んでいるこの田舎まで初めてやってきた。俺と秋乃とおじさんと、それからおばさん、秋乃の母親の四人で来ていた。外から見れば夫婦と姉弟の四人家族に見えたかもしれない。


 今では同じくらいの身長だけど、この頃は秋乃の方が一回り大きかったから、秋乃の方が姉に見える。秋乃はショートカットの黒髪を、あめ玉を包む袋のように頭の上で二つに結んでいた。持ち前の明るさと可愛いらしい容姿、それに大きないたずら心を持っていた秋乃は、親戚中のアイドルのようだったそうだ。


 四人で長く電車に乗って、それからバスと徒歩で三十分。だいたいそれぐらいでつく。幼い俺にはずいぶん長旅に感じたことを覚えている。


 あの頃の俺は今より無口だったから、なおさらそう感じたのかもしれない。


 長く感じたけれど、俺を気にかけて優しく声をかけてくれるおじさんとお菓子をくれたほんわか笑顔の秋乃の母親、そしてどんな些細な発見も見逃すまいと、躍起になって電車やバスの窓の外を覗いている秋乃は、心の安らぎだった。


 幼いながらに大変なことも色々あったけれど、この時俺は幸せを感じていた。


 その反面で確かに存在する恐怖に気づくほど俺は大人なではなかったけど、まぁそれはそれで良かった。楽しかったし。もちろん今も。


 俺は自分でも気づかないうちに、立ち止まって青空を仰いでいた。


 このあと……何があったんだっけ……?


 ふと立ち止まっていたことに気づいて、また歩き出す。


 確かあの時は……





〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓





「おばあちゃん、来たよ~!」


 スライド式で両開きのドアを力いっぱいに開けたのは秋乃だった。


 広い玄関のど真ん中に靴を脱ぎ捨て、靴下が汚れるわよというおばさん、秋乃の母親の声と床が汚れるから靴下を脱いでおくのだというおじさんの声を無視して、全力で家に上がり込んだ。


 俺はというと、おじさんたちのさらに後ろでちょこんと立っていた。人見知りがはげしかったほうだからだ。


「あぁ、よく来たねぇ秋乃ちゃん」


 玄関先の居間で俺たちを待っていてくれたおばあさんが秋乃を抱き止め、後ろに回した手でそっと秋乃の靴下を脱がした。


 おばあさんの背は低いけど、子供の俺から見ればずいぶん大きい。丸顔にパッチリ二重(ふたえ)が特徴的の、優しそうな人だった。おばあさんと言うにはまだ若くて、秋乃の母親だと説明されても違和感がないくらいだった。


 ちなみに秋乃の母親もおばさんと呼ぶには若く見えて、大学生にも間違われるくらいだったそうだ。俺が彼女をおばさんと呼んでいたのは、本人が自分のことをそう呼べと言っていたからだ。そうでなければ、お姉さんと呼んでいたかもしれない。


 俺はおじさんとおばさんの体の影に体半分を隠しながら進んで、おずおずと居間に上がった。


「母さん久しぶり」


「こんにちは、義母さん。」


 おじさんとおばさんがそれぞれの挨拶をすると、おばあさんは二人に微笑んだ。


「平斗も、茜ちゃんも、久しぶりだの。元気そうで何より。それから、その後ろにいるのは……」


 一人余った俺に、ついにおばあさんの意識が向いた。


「こ、こんにちは」


 おばあさんが優しそうだったから、俺はなんとか挨拶をすることができた。


「あなたが翔くんね。ようこそ、ゆっくりしていってね」


「していくのだぞ!」


 笑顔のおばあさんに、その膝に座っている秋乃が続いて言った。


 おばあさんの笑顔と、何より秋乃の言葉を聞いて、俺の警戒心はとけようとしていた。


 おじさんたちの後ろに隠れるのをやめて、俺はペコリとお辞儀をした。


「おお、お前が翔くんか」


 頭を上げた直後に聞こえた低いガラガラ声に驚いて、俺はおばさんの後ろに飛んで隠れた。おばさんの服をシワが残りそうなほど強く握って、顔だけ出して見ると、申し訳程度の白い髪とひげをはやしたおじいさんが歩いてきていた。顔は細長く、目が細かった。


 他の印象と言えば、ふかい笑いじわと、とにかくしつこいことだった。


「いやぁのお、男の子がそんな弱腰じゃあかんだろ。なあ翔くん、空手やらんか空手。入門者探しとるんだよ」


 精一杯笑顔を作っているようらしかったけど、俺は誘拐犯に捕まえられそうになったかのように恐怖して、おばさんが「バレる、太ってるのがバレる」と慌てふためくほどに掴んだ服を自分に寄せていた。


「お前はそれほど太ってないだろう」とおじさんがあきれたようになだめた。実際おばさんのスタイルはよくて、周が聞けば嫌みにしか聞こえないかもしれない。


 俺が誘拐人と心の中で称したおじいさんは、おばあさんと秋乃に笑われたことでこの時俺を空手に誘うのを諦めた。


 とは言っても、これから何度も勧誘を受けることになったのだけど。




 俺たちはその家で一泊して、次の日の昼過ぎに帰ることになった。プリンを食べたすぐあとだから、たぶん三時過ぎのことだったと思う。


 事件が起こったのはその時だった。


「大変よ、お母さんが起きないの!」


 荷物をまとめ終えて玄関で靴をはいている所に、おばさんが血相を変えて走ってきた。


 その声を聞いたおじいさんとおじさんはそろって顔をしかめた。言葉の意味を理解した俺と秋乃は、大変だ大変だと大騒ぎをした。


「おばあさんが死んじゃったらイヤだよ」


 俺はこの滞在の間に、すっかりとおばあさんになついていた。おじいさんのしつこい勧誘から守ってくれたのが大きな理由だった。


 どうしよう、と小声で言った俺の肩に秋乃は手を置き、秋乃は心強い口調で胸を張って言った。


「大丈夫、まだ手はある」


「え? おばあちゃん助かるの」


「もちろんだ!」


 自分の言葉に絶対の自信を持っている時の秋乃を、俺はいつも頼りにしていた。もっと言えば、すがっているようでもあった。


「助からないわけがない。だから泣くな」


 秋乃は俺の頭をぐしゃぐしゃとなでた。


「そうよ、おばあちゃんは死んだりしないからね、翔くん安心して」


 おばさんが俺に目線を合わせて励ましてくれた。でも焦りが隠せないようで、それを敏感に感じ取った俺はさらに不安になった。おろおろと秋乃に目をやると、自信にあふれた顔はまったく崩れていなかった。


 秋乃のこういう顔に、俺は助けられてきたのだ。この時のような非常事態では、俺はおばさんより秋乃を頼りにすることが多かった。結果的に頼りになったかどうかは別問題だけど……。


「おばあちゃんの病気を治すには薬が必要なんだ」


 秋乃が人指し指を立てて言った。当然俺は信じる。


 おじさんはため息をついて秋乃を見る。


「待つのだ秋乃、どうせまたかぜ薬と睡眠薬をの見間違えた――」


「こうなったら急がないとだめなのだ! 裏山でとれる薬草をいくつか混ぜれば完成するはずだ」


「うん、わかった」


 おじさんは諦めたようにもう一度ため息をついた。


 秋乃の話では、おばあちゃんを助けるためなら一刻の猶予もないらしかった。俺は履きかけだった靴ひしっかりと履いて、近くにあった虫かごを薬草を集める袋の代わりとして肩にひっかけた。


 それにしても、いつからおばあさんに瀕死の重体などという設定がだろうか。しかしそんな疑問が浮かんだのはこれから一年以上あとになる。


「行くぞ翔。それから母さんも」


「そ、そうね、急がなきゃね」


 おばさんが焦りながら答える。


「秋乃、薬草のこてを知ってるなんてすごいわね。さすがあたしの子、天才ね」


 秋乃の鼻が高くなった。果てには「はっはっは」と高笑いを始めてしまった。


「ねぇ、秋乃ちゃん……。早く行かなくていいの」


「ちゃんだと? 翔は馬鹿だな、呼び捨てでいいって言っているだろ」


 秋乃が片目をつむって人差し指を立て、さとすように言った。


「そうよ、呼び捨てでもいいのよ。秋乃と仲良くしてあげてね、翔くん」おばさんも同じように言った。


 伝えたいことが伝わらなくて、俺はう~とうねり声をあげた。


「そうじゃなくて……おばあちゃん、の……が……危ないから、早く行かなきゃ……死んじゃうから……」


 俺の言葉に、秋乃とおばさんは雷にでも打たれたかのような驚愕の表情をしていた。


「そうだ、急がなければ! 翔、行くぞ」


 秋乃は俺の手を取って、横開きのドアを乱暴に開けて走り出した。


「大変、急がなきゃ。待って秋乃、あたしにも薬草の特徴とか――」


「茜」


 秋乃を追いかけようとしたおばさんの肩に、おじさんが手を置いた。


「ちょっと離してよ。あたしは早く行かなきゃいけないの! あなたはお母さんが助からなくてもいいの!?」


「……落ち着け」


「落ち着けって、こんな時に――」


 その時の冷め切ったおじさんの目を見て、おばさんはようやく我に返ったらしい。「あ」とふぬけた声を出したおばさんは、おじさんの目をチラリと見てはそらした。


 そして逃げ場がないことに気づき、最後には笑ってごまかしたらしい。


「あははは……。そ、そうだよね、どんな病気も治る薬草あるわけないよね。と、当然分かってたのよ。それであえて合わせてたんだから」


 苦しすぎる言い訳だった。


「分かった分かった。さっさと行くぞ」


「ええ。今度はちゃんと病状を調べてから薬草を集めないとね。秋乃と翔くんより、私たちの方が大人だった……の、よね? ……合ってるわよね?」


「もういい、とにかく一緒に来い。念のために状態を確認して置くぞ」


 おじさんは靴をぬいでおばあさんの部屋に向かって歩き出した。おばさんはその後ろを、体をちぢこめてついて行った。


 この二人のやりとりは、最近なっておじさんから聞いた話だ。






 一方家を飛び出した俺と秋乃は、全速力で裏山まで走って、そのふもとで名前も形も知らない薬草を探していた。


 ここではまだ木はまばらだったから日向の面積が大きく、茂みが多かった。ここで少し薬草を探してみたけど、雑草とタンポポの綿毛しか見あたらなく、秋乃は早々に諦めて山の真ん中あたりまで行こうと言った。


 裏山はあまり高い山ではないけど傾斜がきつく、服を汚さずには登れない山だった。


「おぉ、あった」


 登っていって、葉の生い茂った木々に日が完全に遮られるくらいに木の本数が増えてきたところで、秋乃が急に声を発した。


 秋乃の服は俺が着ているものより高価で新しかったけど、落ちていた枝に引っかかったり、ひっつき豆や泥がくっついたりで俺のよりはるかに汚れていた。


 秋乃の声に駆け寄って背中の後ろからそれを覗いてみると、どうやらキノコのようだった。


「はっはっは。あと三つだな」


「すごいね秋乃ちゃん」


 俺が言うと、秋乃は「呼び捨てにしてもいいって言ってるだろ」と俺の頭を叩いた。とは言われても相当恥ずかしかったし、みんなにヒューヒュー言われるのも嫌だったし、でも秋乃と遊んでいるのは楽しかったというよくありそうな理由で、秋乃を呼び捨てにすることはできなかった。


 俺が秋乃を呼び捨てにするようになったのは小六の時で、あるたわいない事件がきっかけだった。


「また見つけたぞー」


 少し遠くで探していた俺は、その声を聞いて秋乃に駆け寄った。


「……これは?」


「見ての通り、木の枝だ」


 とは言われても、薬草というにはどこかパッとしなかった。しかし、秋乃が言うならと俺はなんとか納得して再び捜索を始める。


 捜索とはいっても俺はどんな薬草を見つければいいのか知らなかったから、それっぽい植物を地面から抜いて秋乃に見せるだけだ。


 目をこらして見ていると、腐った切り株から霞んだ茶色にぼやけた黄色の水玉模様のキノコを見つけた。


 俺はキノコを慎重に摘み取って、秋乃の所に走り寄って見せた。


「ねぇ秋乃ちゃん、このキノコ――」


 しかし言い終える前にそのキノコは秋乃にひったくられ、流れるようなフォームで森の奥に投げられた。


「翔の阿呆! あれは猛毒キノコだ、一分七十秒以上さわっていとしぬぞ!」


「えっ?」


 その始終を呆然と見ていた俺に秋乃は叱責した。


 それは知らなかった。そんなことを知っているなんてと、俺は秋乃に感謝と尊敬の念を向けた。俺は二分あるならまだよかったと安心した。


「見てみろ翔、これが薬草」


 秋乃が何かを地面から抜いて、まぶしい笑顔で振り返ってそれを俺に見せた。


 それはキノコだった。霞んだ茶色にぼやけた黄色の水玉模様。


「あれ、これっておれが取ってきたのと同じじゃ――」


「そんなわけないだろう、どこがだ同じだ?」


「え、えっと……全部?」


「阿呆、お前の目は落とし穴だな。これが薬草に見えないなら、お前には薬草探しは無理だな」


 薬草探しが無理というのは、役立たずということでもあったので、俺はそのキノコを薬草と決めて認識した。


「あと四つだな」


 秋乃が呟き、薬草探しが再会された。


 結局集まったのは、キノコが三つ、木の枝が一本、色形の違う葉っぱが三枚だった。その中で俺が見つけたのは、木から落ちて枯れかかっていた葉っぱ一枚だけだった。


 自分はどれが薬草か分からないから当然か、とその結果を受け入れた。


 帰り際、秋乃は七つの薬草を入れた虫かごを俺からひったくって、そのまま家に走っていった。


 文句は言わなかった。当たり前だ、俺が集めたのは全体の七分の一で、しかも秋乃の方が足が速かった。


 俺はなんとか秋乃の後ろに続こうとして、山を降りた頃には秋乃の三倍汚くなっていた。


 そこから家まで息を荒げながら走っていった秋乃に対して、俺はもうヘトヘトで一日十水を飲んでいない時の、ぼろ雑巾のように、なんとかの走った。


 家の扉はすでに開いていた。


「秋乃ちゃん、おばちゃん大丈夫!?」


 家に駆け込むと、そこにいた全員が俺の方をふりむいた。


 秋乃、おじさん、おばさん、そしておばあさん。


 その姿を確認した瞬間、体中の力が吸い取られるように抜けてその場にへたり込だ。


 よかった、無事だった。





〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓





 そのあと、俺はおばあちゃんに何度もお礼を言われた。こそばゆくて、恥ずかしくて、でも嬉しかった。


 おばあちゃんが元気になったのは、最初は秋乃が薬草を飲ませたのかと思ったけど、どうやら違ったらしい。たしか秋乃は、近くに持って行くだけでも聞いたようだな、と今と変わらない高笑いをしていた。


 おじさんとおばさんは、まぁ夫婦漫才のようなことを自然体でやっていた。この二人はいつもこうだ。ただ不思議なことに、おばさん相手の時はおじさんはツッコミに回るが、おばさんのDNAを強く受け継いだ秋乃に対してはそういう姿はあまり見られない。


 いままで何時か憶測はしてきたけど、どういう違いがあるのか本当のことはわかっていない。


 本人に聞いてみればいいんだけどな……


 あの時の玄関にはもう一人、おじいちゃんが立っていた。「お前は弱そうだが男じゃねぇか!」と泣きながら抱きついてきたのを強烈に覚えている。ヒゲのジョリジョリが本当に気持ち悪くて……


 まぁここまでならハッピーエンドだ。おじいちゃんが抱きついてきたけれど、そこは百歩譲る。


 しかしこの話はこんな結末を迎えた。


 体の弱かった俺、走りすぎたせいか少し体調が優れなかった。


 それを秋乃にこぼしたのがいけなかった。


 秋乃は「それはいけないな」と言って、集めた薬草をつぶしてかき混ぜた秘薬(・・)を俺に差し出した。


 つぶれたキノコから出た液体に枯れ葉がくっついていて、もう毒キノコに見えた。ていうか毒キノコだ。


 断言できる。今なら絶対に食べない。


 しかし当時の俺は秋乃に強く信頼していて、その薬草に「食べてはいけない」ではなく「良薬口に苦し」ということわざをもってのぞんでしまったのがいけなかった。


 そのありえない食感は今でも思い出せる。キノコのパサパサとヌメヌメで口の中いっぱいになって、鼻の中まで水が入ってくるように侵入してきて、それから枯れ葉のチクチクが喉に刺さった。


 吐きそうになるのを必死に我慢して、十分後にバスの中で見事に倒れた。


 まったく、あの頃の俺は馬鹿だった。


 お腹が痛いと言って同じく秘薬を飲んだ――食べた秋乃は、気絶はしなかったけど終始吐きそうにしていたらしい。今の俺に言わせれば、いい気味だ、というところだ。


 そんなことも今となっては笑い話なのだから、秋乃のことも恨めない。


 おばさんがそのあと、作るならもっとちゃんとした薬を作りなさい、と言ってまたおじさんにたしなめられていたなぁ……


 ……そういえば、おばさんとは最近会っていない。


 おばさんは今単身赴任で、都会で働いている。十年前までは秋乃がおばさんの所にいたので単身赴任をしていたのはおじさんだったけど、秋乃が俺の家の隣に引っ越ししてきてからは夫婦で立場が逆転してしまったのだ。


 それと秋乃自身がが引っ越してきた理由は……まぁいっか。


 目の前には、九年前と変わらない景色。木造の家で、屋根はかわら。横両開きのドアが俺を出迎えてくれている。


 久しぶりだ……


「こんにちはー」


 「ただいま」とは口に出さず、俺は一気にドアを開いた。

ご読了ありがとうございます。



さて、どうでもいいかもしれませんが、この小説は一度、大幅改稿をしました。理由は、まぁつまらないというのもありますが、ストーリー構成が変わったせいでもあります。


この小説を書き始めた頃(ずいぶん前なのが執筆スピードの遅さを物語っていますね)、僕は小説初心者でした。今でも初心者とか言わないでください。ちゃんと知識はつきました。


小説を投稿したのは文章の練習という名目で、あの時は本気で十話くらいで終わらせる気でいました(笑)

結局わかったことは、書くのが遅いことと短く収めるのが苦手なこと……

それに、書き始めたころはストーリーをまったく考えてなくて、ただ勢いで書き始めてしまったのです。昔のプロローグを見たことある人がもしいればわかるでしょうけど、あのシーンが浮かんだから書いたのです。

あ、これ面白い、と思った自分を殴り殺してやりたいです。


ストーリー構成に関しては、だいたい小春ちゃんとの戦いが終わった頃に考えて始めました。その頃は終わり方さえ知らなかったのが恐ろしいです……

そしてなんとか、形のあるストーリー構成ができあがりました。自分で言うのもあれですが、後半の方が自信あります。はい。

しかし、だいたいの流れとキャラの内面、ちょっとしたサイドストーリーまで考えたのですが、まだ決まっていないことがあります。


これも打ち切りしようかどうか迷っている原因の一つなのですが、準決勝、決勝からラストへのもって行き方がいまだに浮かばないのです(オイッ)

ホント、あの頃に戻ってやり直したいですね……



もしここまで読んでくださった方がいたら、お手数おかけしますが、「ここまで読んだ」と言っていただけるとありがたいです。これ以降も読みたいか、もしくはあまり読む気が湧かないか、それも教えていただけると嬉しいです。



ともかく、とりあえず二章の終わりまでは書きます。次の回で戦いが始まります。

三話くらいでおさめたいですが、僕のことですので五話くらい見積もってもいいかもしれませんね。

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