十九話
遅くなりました。
最近夏休みが終わって、文化祭の準備やらなんやらが激化してきています。予想以上に大変なのですよ、これが。ヘルプミー(泣)
それと最近はお絵かきにもハマってしまいました。いつかここに載せれるくらいうまくなったらな~、とな思ってます。
さて、今回は変なおじさん、猪守さんとの戦いが終わって家に帰る途中の話です。
ダメなもの、使えないもの、壊れたもの、邪魔なもの……その他もろもろ。一見役に立たなさそうなものも、意外なところで役立つことがあるも。
旧石器時代よりさらに昔、紀元前〇×年の頃には、人間にとって石や岩など障害でしかなかったはずだ。……のはず。
それを道具として使ったのは、まさに天命、才覚ある頭脳、そして進化。石を、岩を削っ――たころはまだサルかもしれないけど、そのおかげでここまで高度な文明を築いてこれたのだ。
炎も同じだ。古来より炎に恐怖するしかなかった動物たちだったけど、それを使いこなした人間、もしくはサルは、開拓者であり、パイオニア、新人類であったはずだ。古来より炎――山火事があったかどうかは知らないけど、炎は邪魔なものであった。
近年では、5Rが有名だ。
リサイクル、リデュース……レストラン、レシート、レジスター。いくつか適当に埋めたけど、ようするに、これらは使えないものに目を付けたのだ。――というのはリサイクルだけだったっけ。
とにかく、これを実行した者はこの時代において新人類へと進化、つまりエコロ人になるのだ。いや、ダジャレじゃなくて。
これが世間に広がらないのは、下校中の小学生が落書きをして、『コ』の部分に縦線を一本を付け足して、卑猥な響きにしてしまう恐れがあるからだろう。なんて恐ろしい。
きっとこれを見越して中止にしたんだ。国家機密機関か、FBIあたりが。
……遠回りをしてしまったけど、つまり俺が言いたいことは、使えないものを使えるようにするのは天才! 神の許さざる権利(ちから)!
俺はあの神モドキにもらった、ありがた~い、とはどう間違えても言えない能力の力を最大限に引き出した。
現在が二時半であるということがわかる。この能力のオマケでついてきたたぐいまれなる計算能力(昨日気づいた)により三時まであと三十分であるという解を導き出した。
これこそ、使えないものを最大限に使い尽くすということではないのか。
ということは、それを実行した俺は天才だ! 神だ! ビバ、新人類だ!
あはははは。全世界の旧人類どもよ、我が前にひれ伏すがいい。あは、あはは、あははははは。
あ~っはっはっはっはっはっは。
とくだらない思考を馳せているのは、サタデーアフタヌーンに現れた謎のおじさんとの戦いに勝ち、一種の安心感を得ていたからなのだ。多分。
いやしかし、突っ込みが入らないということがこうも辛いとは……。誰でもいいから、この俺の暴走もとい妄想を木っ端の微塵に打ち砕いてほしかった。なぜ止めてくれなかったのだろうなどとは、考える意味もない。もしいたらエスパーか宇宙人だソイツは。
とまたどうでもいい思考を馳せていた自分に気づく。自分の中に話し相手があればいいのに、ツッコんで欲しい。
まぁ今までの思考を全て口に出していたとして、隣を歩いている二人にそれができるのだろうか? 俺の認識が正しければ、期待はできないな。
正面から見て右から、俺、秋乃、猪守という名のおじさんという順番で並んでいる俺たちは、スーパーで買い物を済ませ、その帰宅途中であった。
もちろん戦いが終わって直接来たので、公衆電話に金を取られた俺も、部活に財布を持って行かない秋乃も買い物などできない。おじさんがお金を出してくれたのだ。お詫びだと言って。いやぁ、あなたをあなどっていましたよ。
俺は三個入りのプッチンプリンを二つを、秋乃は塩昆布を三袋買ってもらった。右手にはレジ袋がぶら下がっている。
真ん中を歩いている秋乃は、道中で買ってもらったアイスクリームをペロペロとなめていて、いかにも幸せそうだ。
秋乃がさっき学校に取りに行ったエナメルバックにそのアイスが溶けて落ちているけど、俺は拭き取るべきか否か。ハンカチはないし、べたつくのは嫌だし。
そういえば、もう制服に着替えてるな。
そのまた隣で、大きなリュックを背負っている猪守さんは、どこか愉快そうな表情で歩いていた。
いい加減黙っているのも寂しい感じがしたから、俺は猪守さんに話しかけることにした。
「あの、猪守さん。どうでも良いことですけど、現在何をしてる方なんですか?」
猪守さんの身長は高いから、秋乃の頭越しにその顔が見える。
「あぁ。私は今ね、旅人をやっているんだ」
……旅人?
この時代にもそんな天然記念物がいたのか……。職業じゃないよな、お金さえあれば世界中のほとんどの場所にいける現代で。お金を稼ぐイメージより、浪費するイメージの方がはるかに強いぞ。
探検家でなく旅人……絶滅危惧種だ。
もしくは俺が知らないだけでこの世の中に溢れるほどいるのかもしれないが、そんなことは俺の知るところではない。
なんで旅人なんてものをやっているのか聞いてみて後悔したのは、それを武勇伝を交えて長々と説明されたからだ。
簡単に要約すると、自分探しのためにやってるんだからね! ということらしい。
自分探しのために旅をしている。腐っても文系である俺は、この文をさらに短くできる。つまりはこういうことだ。
『私はニートです』
これはあとで聞いたことだけど、彼に妻と子供がいることには驚いた。ニートって凄い。
「なぁなぁ、翔、おい」
ぼ~っとしているように見えたのか、執拗に秋乃様からお呼びがかかった。
「聞こえてるって。そんなに呼ばなくても」
こぼれるため息と共に秋乃を見ると、アイスはすでに秋乃の腹に納まっているようだった。しかしなにより、俺は秋乃の目が輝いているのが気になった。
そんなにおいしかったのか? 聞こうとしたけど、秋乃は横入りをするように話し出した。
「あそこだ、あそこ。あそこで遊んでいかないか?」
元気だなぁおい……。
あそこというのがどこなのかは、秋乃が妙に興奮しながら指さすものだからすぐにわかった。
秋乃が言っているのは、ちょっとした水場だ。中心に小さな噴水があって、その周りに水がたまてっている。
子供達の遊び場として重宝されていて、深さはとても浅い。なんせ一番深い所でも俺のすねぐらいまでしかない。だからどんな小さな子でも泳ぐのは難しい。
まだ昼時とはいえ、高校生にもなってこんな所で遊べるかよ。しかも子供達が遊んでるぞ。
と言って聞くかどうか。
「言ってこいよ。ついでに口元についてるクリームとコーンを洗ってこい」
「ははは、お前も一緒に行くぞ。照れるな」
照れとらんわ!
秋乃は口周りについたクリームとコーンのかけらを舌でペロリと口に運ぶと、ニヤッと笑って俺の腕を掴んだ。
「いい、いいよ俺はさすがに恥ずかしいって」
「だから照れるな」
そっちじゃない!
腕を強く引かれて、為す術もなく水場まで連行された。猪守さんはというと、これまたニヤッと笑ってゆっくりついて来ていた。この二人のシンクロ率はなんなんだ。
水場で遊んでいた子供達六人の視線は、見事俺と秋乃に集中した。
「さて、靴を脱ぐのだぞ」
「靴下を脱ぎ忘れるなよ……」
秋乃が靴を脱いでいる隙をを見て、俺は水場の横にあった木製のベンチに避難した。猪守さんも横に座った。
ベンチの上には植物でできた屋根のようなものがあり、日陰で涼しい。
「君達は仲が良いね」
聞いてきたのは猪守さんだ。
「悪いよりいいじゃないですか、全然」
「それはそうだ」
ベンチに背もたれはなく、猪守さんは両手を支えにして後ろに体重をかけた。
「一つ聞くけど……」
「なんでしょう?」
猪守さんを見上げると、彼は真面目な顔でこちらを向いた。
「君達はできているのかな?」
……危なかった。今口に水分を含んでいなくてよかった。
てかなんすか! そん藪から棒なことをそんな真顔で……
「いやぁ、そんな動揺することじゃないよ」
「心配には及びません」
「しかし、その歳で手を握るなんて、なかなかできないよ」
「聞いてくださいよ俺の話を」
猪守さんは笑っていた。それは何かを面白がるようなものではなくて、猪守さんの微笑みは、何かを羨むような、どこか遠くに向いているようだった。
だから、その奥に隠されているものを探るようなことはしない。
しかしまぁ、これは勘違いをしているぞ。
「できてないッスよ。そもそも動揺してないし、手を握るのだって、それがアイツなんですよ。そういう関係ではありません」
ごまかしてもいない、これが本音だ。
「そうなのか」と猪守さんは一言反応して、秋乃に目をやった。
制服の下はもちろんスカートで、濡れる心配はないと思う。転びでもしない限り。脱いだ靴は綺麗に並べられている。
それにしても、秋乃は水着以外なら何を着ても似合うから凄いよなぁ。制服でもジャージでも何でも着こなす。なんで水着がダメなのかは、俺にもわからない。
「お兄ちゃんもこっち来てよぉ」
不意に、小さな女の子から声がかけられた。幼稚園児くらいの身長だ。知らないお兄ちゃんを誘うとは……誘拐されるなよ。
「いや、俺はやめとくよ。見てるだけだし」
絶対に行かないと決めた心も、結局女の子の潤んだ瞳にポキンと折られた。
ま、いいか。
靴に靴下を脱いでベンチの下に置いて、水場のサイドに座って足だけを水につけた。
「おっと、俺に水をかけるなよ。着替えがないからな」
先手必勝。子供達のキラキラと輝く瞳から救われた。残念そうな顔を惜しむことなく全面に押し出しているけど、水をかけてくることはなかった。本当にいい子達だな……
水に入るのを嫌がってはいたけれど、入ってみると気持ちがいい。
この水場は深さこそないものの、面積はまあまあ広い。子供の三十人くらいは立てそうだ。
少し遠くでは、秋乃が子供達と遊んでいる。スカートをはためかせて、水しぶきをあげ、キャピキャピいっている。
……のであれば可愛さもあるのだろうけど、ゴジラのように水を踏んでいる姿は、百歩譲って面白いとしか言えない。
子供達は楽しんでるみたいだし、あれはあれでいいか。制服も少しくらい濡れるだろうけど、まぁ俺には関係ない。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん達は付き合ってるの?」
秋乃の近くで遊んでいる男の子が声の主だ。おい、そこ。ちゃんと聞こえてるぞ。
その子は……小学生だろうか。そういうことに興味を持つのも仕方がないのだろう。よし、許す。
「ほほぅ……そんなに私達がラブラブキャピカャピのバカップルに見えるのか?」
いや待て、何を言ってるんだアイツは。
秋乃は腕を腰に当てて、唇の両端を釣り上げながら子供達を見下ろしていた。悪魔の笑みだ、子供達が吸い寄せられていく。
「お兄ちゃんはどうなの? 好きなら押し倒しちゃえよ」
俺は驚愕した。
おいガキ、お前その言葉の意味を知ってて言ってるのか。母さんは、母親はどこだ、ちょっと話がしたい。父さんは、父親はどこだ、目を覚ましてやりたい。
「って父さん母さんが言ってた」
「親が不純異性交遊を勧めているのか!?」
やはりそうなのか、俺が異常なのか。近頃の子供達にとっては常識なのか?
そうだ。世の中の価値観は多様化しているのだ。意味はわからないけど、そういうことなのだ。こんな子供もいましたとさ。めでたしめでたし。
「翔、こっちに来てくれ」
俺がゆっくりと顔を上げると、秋乃が手を差し伸べてくれていた。でなくて、無理やり手首掴まれて立たされた。
「願望じゃなくて強制か」
「どうせ断る理由などないだろ」
その通りなんだけどね。
秋乃の手に引かれ、しゃぴしゃぴと水を掻き分けながら水場の中心まで連れてこられた。
水面に反射している太陽がゆらゆらと眩しく、思わず目を細める。
気づくと、周りは子供達に囲まれていた。なんだなんだと見回していると、秋乃がいきなり肩を組んできた。
「ふふふ、ガキ共よ、紹介しよう。コイツが私の親友、玉木潤だ!」
「玉石翔だ俺は。見え透いたボケはつまんねーよ」
秋乃は意外そうな顔をしてから、そんなものだ、と肩をすくめた。
「あはは、お姉ちゃんおもしろ~い」
黙れガキ! 俺の笑いのセンスをも否定する気かっ。
まぁいいや。
「というわけで、俺はこの変な姉ちゃんの……親友らしい。よろしくね」
尻が水面につかないようにしゃがみ込み、子供達の目線に合わせて自己紹介をする。
子供達はみんな揃ってニヤニヤと笑っている。こちらこそ、というサインなのだろうか。しかしまぁ、ネガにしたらホラーだぞこの絵は。
立ち上がって、ベンチに座っている猪守さんに目配せする。俺と秋乃は、まぁそういう関係なんですよ、と。
「おい翔、変なお姉ちゃんとはなんだ。美人で可愛いピチピチの純情少女と言え!」
何かが変だ。矛盾してそうな単語が並んでる気がするぞ。
「馬鹿言えよ! お前は子供達に嘘を教えていいと思ってるのか!」
「事実だぞ、認めろ」
「……そうか、お前は子供達を目隠しして綺麗なものだけを見せと、苦労をさせずにぷくぷくと育て上げ、わがまま放題好き放題にさせて、挙げ句の果てには嘘までつくのか! 社会が腐るぞ!」
「自重しろ阿呆。要するに現実を教えろと言うことなのだな?」
その通りだ、と頷く。
「では現実を教えることにしよう。私は美少女だ。苦労もしているさ。そしてここにいる玉置優は――」
「玉石翔だっ!」
いちいちリズムが狂わせるな。面倒くさい。
秋乃は表情を変えずに続ける。
「どっちでもいいが」
よくないし。
「これは事実だ。聞け子供達よ、この玉石翔はな、ベッドの下と机の引き出しの一番上とテレビの裏側に――」
「うぉおおおおおおお!」
もはや反射だった。秋乃の手首を両手でしっかりと掴み、体重移動をしながら一本背負い。秋乃の体はひっくり返って水に叩きつけられた。
さらに後頭部を抑えつける。女の子には優しく? そんなの男女差別だし。
秋乃の手足は水しぶきを上げながら必死に抵抗している。
少し唖然としていた子供達も、だんだんテンションが上がってきた。面白がって笑っている。
「わ~い、押し倒した押し倒したぁ」
違ぇよ! どこをどう見たらそう見える!
子供達が俺と秋乃の回りを元気よく走り回っている。その景色は、まるで妖精が飛び回っているような、でなければ悪魔にかこまれているような。
そんな光景に気を取られていたからか、俺は水の中にいる秋乃の事を一瞬忘れてしまった。
俺は油断していた。
秋乃の頭を押さえていた手が、秋乃が首をひねることで手が外されてバランスを崩される。倒れそうになる体を水の中の両手で必死に支え、なんとか止まる。
俺のついた両手の間にいる秋乃が水の中でくるりと回ってこちらを向いた。顔と顔の間には、手のひら一枚ぐらいの距離しかない。
俺はドキッとした。
これが恋愛感情でないことぐらい、俺にでもわかる。
秋乃が、多分笑った。
退却だ! 体に命令したけど、それよりも早く秋乃の手が俺のわき腹を掴んだ。
「ふふふ、捕まえたぞ……」
クソッ、こんなことでやられてたまるかっ。
「離せ、馬鹿野郎!」
暴れて抵抗をするが、秋乃の手はびくともしない。
コイツ、どこからこんな握力が……
次に秋乃の両手を引き剥がそうとする。が、それも叶わなかった。
一瞬体が浮いたかと思うと、一気に視界が一回転した。
巴投げ……?
びゅう、と風を切る音を感じながら、俺は背中から水に叩きつけられた。水のしぶきが飛んでいくのが見える。
その瞬間、水場の噴水が盛大に怒号を上げた。。
勝者、白美川秋乃。ってか。……ちくしょう、ふざけんな。
叩きつけられた痛みと全身に染み渡る水の冷たさ、子供達の笑い声と水が飛び散る音。口の中は、ちょっと冷たい水の味でいっっぱいだった。
最悪なストーリーで、おかしなことも面白いこともなにもなかったのに……なんでだろう、少し笑えてきた。
この感じは嫌いじゃない。けれど俺は、水の中でその表情を隠す。頬の筋肉を固めて、笑いを止める。
もちろん、秋乃に一言文句を言ってやるためだ。
とりあえず、次話ではまた本編を進めます。もう一話この続きを書いているのですが、それはまた次のシリーズが終わってからにします。
いい加減執筆スピード上げなきゃな~、と思っている今日です。頑張ります。