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閑話 長い一日の終わり

今日で3月も終わりです……


今回はの話は十三話といれてもよかったのですが、締めるならこの方がいいかなと思いましてのことです。

 窓の外はすっかり暗くなったなってしまった。


 様々な家具家電が置かれた壁の白い部屋は、いつになく賑やかだ。窓の外には夕焼けなど見る影もない。部屋のあかりを消せば、星が見えそうだ。


「「はははははは」」


 テレビのついた部屋に、二つの笑い声がしている。ニュースのお姉さんの声がまったく聞こえないほどにうるさい。


 この笑い声は決して俺のものではない。能力の説明を受けて、落胆して、力が抜けて、現実逃避をしているわけではない。俺は終始黙っていた。


 にぎやかなのはいいけど……はぁ、さすがに笑ってられないな。


 目の前のありがたい食料にも、なかなか手が伸びない。


「どうした翔、食わんのか?」


「そうだよ翔君。食べないとビタミンが不足するよ。高校でも習っているだろう? 消化吸収のメカニズムを」


「は、はい。食べます……」


 俺は湯気の立っている白米に箸を伸ばす。隣の白身魚をおかずとして食べるお米はおいしい、凄く。でもさっきの出来事を考えると、胃がきゅ~っと縮んでいくようだった。


 今日二回目の秋乃の家。正しく言えばおじさんの家。


 俺の家の悲惨な食料事情から、今日はこの家でありがたいご飯をいただいている。なかばこの二人に引きずられるようにして連れてこられたけど、ありがたいものはありがたい。


 どちらにせよ、食べないと明日が持たない。明日の朝食と弁当が無いからな……。


 ……食べようか。


 味噌汁を飲み、ポテトサラダを食べる。


「やっぱり若者は食べなければな。遠慮しないでいいぞ」


「はい、ありがとうございます」


 本当は俺の理性の八割が遠慮しろと言ってくるのだけど、本能と残った理性に押され気味である。


 ……明日セール品を買いに行こう。


 こう考えて、八割の理性を納得させた。家には貯金箱があったはずだ。


「そうなのだ。それでだな父さん、こう、赤いものがドーンとなったのだ」


「ほう、それは凄いな。それは熱かったのか?」


「あぁ、暑かった。それが何本もたったのだ」


「ふむ、それは大変だったなぁ。それで、それは大きかったのか?」


「凄く大きかったぞ。私五人でやっと抱えられるぐらいだ。まぁ、実際にはやっていないが……」


「ははははは。それを実際にやったら、今頃ここにいなかったかもしれないな」


「……それもそうか」


「ははははは」


「なはははは」


 もう一度、笑い声が部屋中に広がる。


 この会話を文面で見ると、どちらが何を話しているのか分かりにくそうだな、とよく思う。


 何度も言うけど、俺は笑っていない。てか笑えないからさ……




 秋乃の父親であり、名義上の俺の保護者であるおじさん。どこかで何かを研究しているらしく、まあまあ偉い人らしい。勿論、頭もいい。


 秋乃と親子だというとはなはだ疑わしく感じるけど、納得するには秋乃の母親を見るのが一番だ。口調は違うけど、中身は似通っている。まぁ、秋乃より常識はあるけど。


 ところで秋乃の父親、平斗さんはもともと一人でこの家に住んでいた。単身赴任というヤツか。


 ところが秋乃の母方の仕事が忙しくなり、当時まだ幼かった秋乃はこの家に引っ越すことになった。理由としては、おじさんの仕事は今ほど忙しくなく、この家の方が色々と便利が多かったかららしい。


 単身赴任の関係が、夫婦で逆転したわけだ。


 おじさんの仕事が忙しくなり始めた頃には秋乃は随分と大きくなっていて、わざわざ向こうに戻る必要もなくなった。


 というのがこの二人の今まで。


 いやとにかく、今でも昔でも、俺はおじさんにお世話になりっぱなしだ。


 今日みたいにご馳走になったり、食事に連れて行ってもらったりした。ひと昔なら動物園とか水族館、ある時は旅行にも連れて行ってもらった。本当に頭が上がらない。


 実は今でも、金銭面でも少し手伝ってもらっている。これちょっと恥ずかしい。いや、ちょっとどころじゃない。いつか絶対に返すと誓って、かろうじて受け取っているけど……







「ごちそうさまでした」


 いつもより食が進まなかったけれど、なんとか完食した。おいしくないことは、ぜんぜんない。


「おぉ、食べ終わったか。今日は少し手抜きだったけど、大丈夫だったか?」


「あ、いえ、おいしかったです」


 手抜きだったんだ……。全然分からないんですけど。


 秋乃は先に食べ終わって、とっくに風呂に行った。秋乃はおじさんに、食事中ずっと今日の出来事を話していた。


 能力を受け取って、小春ちゃんと闘って、ガイモンがいなくなって、帰ってきて、女の子が現れて、最後には俺まで能力をもらった。


 俺はその会話をぼんやりと聞いていた。ただ、秋乃が第三者であったおじさんにトーナメントについて話したこと。これは説明しなかった。知らなかった、が正解だけど、俺としてもここは嬉しかった。こういうことで気を使わせたくない。


 俺は食器を大きいものから重ねて、綺麗な台所で洗って片づけた。


 洗い終わった頃、秋乃が風呂から出てきた。上下青いチェックのパジャマ姿で、お茶を片手に立っていた。髪は濡れていて、体からほんの少し湯気がたっている。


 秋乃からテレビに目を移す。芸能人にタライが落とされるなんて古典的なギャグをやっていたけど、あまり興味がわかなかった。そのあと二人から風呂を勧められ、俺はお言葉に甘えることにした。


 服はたたんでドアの前においておく。風呂に入ると、暖かく湿った空気が体に張り付く。


 壁に張り付けてある鏡は曇っていて、自分の姿は見えない。


 多分、昨日と同じ俺が写るんだろうな……


 そんなことどうでもいいか、と頭からシャワーをかぶった。






 やっぱり、温かい湯船につかるのは気持ちよかった。


 さすがに着替えまで用意してもらうのは悪かったし、さっきまで着ていた服を着ることにした。濡れた頭をタオルでワシャワシャと拭く。


 リビングにでると、秋乃とおじさんはテレビを見ていた。おじさんは椅子に、秋乃はソファーに座っていた。テレビには『今日から使える便利・簡単料理術』という番組がやっている。


 なになに、カレーにフカヒレ? コイツらふざけてんの? ……なんだ、嘘か。


 実際にはカレーにコーヒーらしい。うまいのかな?


「あぁ、翔君。着替えを貸そうか?」


 俺に気づいたおじさんが、体の向きを変えて声をかけてくれた。


「大丈夫です。あ、お風呂ありがとうございました」


「いやいや、気にしないでくれ。それに、そんなに気を使わなくてもいいぞ。そうさ、私のことは今日からパパと呼んでもらっても構わないぞ」


「いえ、遠慮しておきます……」


 なんでパパなんですか……?


 ここで話を聞いていたのか、今度は秋乃がこちらを見た。


「翔、今日から私のことはママと呼んでいいぞ」


 いやだから、お前は俺のなんなんだよ……。ってか、なんでママ?


「いや、それもやめとくよ……。それはともかく、俺はもう帰ります。明日の準備とかもありますし」


 明日は早くなるだろうし。予習とか、完全に忘れてた。


 特に持ってきたものもない。首にかけていたタオルをもとに戻す。


「あぁ、分かった。それじゃあ、困った時は遠慮せずに言ってくれ。秋乃にもな」


「はい、ありがとうございます。おじさんも明日から頑張ってください」


 おじさんの返事を聞いてから、テレビを見ていろ秋乃を横目に玄関へ向かった。






 家に戻った俺は、着替えもせずにベッドに入った。電気はつけないから、ほとんど真っ暗だった。


 予習は……この際いいや。……畜生、今週はと思ったのに。


 まぁいつものことか、と鼻で笑った。


 明日は早く起きなきゃいけない。俺は目覚ましをいつもより早くセットした。


 布団をかぶって、暗闇に溶けるように目をつむる。そうしながら、さっきのことを考えていた。


 女店員に男の旅人。そして青い髪の少女。みんな同一人物らしいけど。俺が能力をもらったのがたまたま青髪の少女だったというだけで、本当の姿がどれなのかは分からない。


 そしてさっきから考えていたこと。能力をもらう資格とはなんだ。秋乃にあって、俺にあって、でもおじさんにはないものって一体……。小春ちゃんも含めた俺達の共通点は……子供の心? それもあるかもしれない。そもそも、それ以外に見つからない。


 でも子供どうしを闘わせて、あの少女にメリットがあるのだろうか? ……まぁ、俺の知ることじゃないか。


 それから、なんで俺がトーナメントに参加することになったのか。理由は分かり切っている。秋乃がおじさんにその話をしたから、俺がやむを得ず参加することになったんだ。


 でも、あの少女の反応は……少し変だ。


 この部屋で俺に能力を渡してから、秋乃とミラミラさんのいる部屋に戻った。その時少女は、やっときたと言わんばかりに秋乃に飛びついた。


 でも……最初に秋乃を見た時は、そんな素振りは一切見せなかった。秋乃を見て呆れたりもしていたし。


 ――演技。


 そんな言葉が頭を横切る。


 でも、だとしたら、最初から俺をトーナメントに参加させるつもりだったのか? ……予想ではあるけど、妙にリアリティがある。


 トーナメントのメンバーを集めるのは、俺を使わなければいけない程に大変のか?


 そういえば少女は、五日間であと一人だとか言っていた。能力はあと二つだからあと一つはあまるのだろうか? ……なら俺のと変えてくれてもいいじゃないか……


 どうでもいいか。スパッと負けてスパッと大切なものをなくして、それで終わりにしよう。……いや、大切なものがプリンかもしれないからダメだ。


 はぁ、とため息を一つ。結局何も分からない。


 分からなくなって、頭の中が暗くなっていく。


 そういえば、青髪の少女のツッコミを、俺は二回見たことがあるなぁ……


 そんなどうでもいいことを考えて、そのあとのことは覚えていない。


 長い一日が終わる……

読了、感謝いたします。


……そうですね。サブタイトルって、やっぱりいいですね。格好いいです。……え? ナルシスト? いいえ、Romanticistです。あんまり変わらないじゃないかと言った人、ロマンは大切ですよ。




はい、こちらはやさきはでございます。


やっと終わった(勝手に)第一章。キリがついたところで、どうか感想や評価の方を、こう、記念という形で……ウソです。記念というより希念です。

……はい、分かりにくいですね。


それから誤字・矛盾等ありましたら、レビューの方から大胆にこっそり教えていただけると幸いです。


そして、評価の方をお願いしますm(_ _)m


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