十一話
秋乃ちゃんがやっちゃった、その続きがやっと完成しました。
一話を改稿したり、投稿はしないけど短編を書いたりで、すこしバタバタしてたんですが……遅くなりました。
さて、今回また新たな展開を迎えます。ちなみに、少し長くなってしまったので、話を二つに分けることにしました。
携帯からの投稿なので、章管理が出来ないところ……。もし出来れば、十三話から第二章と入れたいところです。
それでは始まります。
秋乃のとんでも発言に、俺はフリーズしてしまった。窓の外は赤く、明かりのない部屋の中は妙に暗い。
さっき知った話だ。トーナメントに参加している秋乃は、パートナーを一人選ぶことができる。
パートナーの特権としては、参加者からトーナメントに関する情報を聞けること。しかし逆を言えば、パートナー以外の人間には、トーナメントに関するすべてを話してはいけないとなる。
それで俺は秋乃のパートナーに選ばれた……なってしまったわけだ。が……
「翔、どうした? 目が死んでいるぞ」
だがしかし、コイツは俺だけでなく自分の父親にまで話してしまった。俺は謎の女の子にトーナメントの説明をされたが、秋乃は何を聞いていたんだ。気づく様子もない。
目の前には、俺を覗く知った顔。殴りたくなる衝動を必死に抑える。そんなことをしている場合じゃない。
秋乃を無視して後ろを振り返った。
青髪の女の子が俺を見ている。秋乃を、かもしれない。
青髪の女の子は、どこか控えめな様子で聞いてきた。
「ちょっと聞くよ秋乃ちゃん。もしかして……お父さんに話しちゃった?」
「あぁ、全部話したぞ。」
その言葉は、俺をさらに地獄へと突き落とした。女の子はため息をついて、手のひらを額にあてている。
いったいどうすればいいんだよ……
秋乃の無邪気な顔は、なによりも罪だと思った。
「あちゃー、こりゃヤバいよね~。さぁ、どうしようか」
「どうしようって、お前凄いんだろ? 何とかしろよ」
「いやぁ、残念だけど私はそんな能力持ってないんだよ。あるといえばあるけど……」
女の子は俺の隣の秋乃を見た。
なるほどね。その能力は秋乃に渡してしまったと。さっきの話では、生命の状態』を戻すとかなりの反動を受けるらしい。この女の子なら反動にも耐えられるかもしれないけど、能力を使用できるのは秋乃だけ。さすがにキツいか……
しかも、記憶を消すには、その二ヶ月前までの記憶まで消えてしまう。
どうしてこうもうまくいかないんだ……
俺が考えている横で、秋乃は首を傾けていた。
「……? 翔、この女の子は誰だ?」
この女の子とは、青髪の子のことを言っているのだろう。秋乃には見えないとか、そういう特殊補正はないみたいだ。
秋乃は初対面だったっけ。……あれ? 秋乃はコンビニで一度会っているんじゃ……? それに、こんな小さな子がバイト?
「……あ、タマちゃん、今の私は店員さんじゃないから。話をややこしくしたくないし、気にしないで」
女の子は俺の視線に気づいたのか、疑問に答えてくれた。
そういえば、変身とかなんとかが出来るんだったか?
一瞬、ミラミラという金髪の女性店員である可能性も考えたけど、そこで頭を切り替えた。今はもっとやることがあるだろ。
「よかったなぁ、こんなにも友達が増えたのか」
秋乃は感心するように頷いた。
お前は俺のなんなんだ。
「そういえば翔、私はなぜここつれてこられたのだ?」
「ちょっと黙っとけ」
秋乃の肩に手を置いて、静止を促す。そして女の子に近くまで歩いた。近くから見ても、なかなか小さい。
「……どうにか、ならないのか?」
ほかには聞こえないくらいの小声で話す。秋乃に話すとややこしくなりそうだったから、後回しにした。
「残念、ルールはルールだから、破ったら罰を受けてもらうよ。記憶を消すっていうのは、いわばサービスだよ。慈善事業なの」
何かがムカついた。でも、今必要な感情じゃない。考えないと……
「じゃあ、その罰の内容を聞かせてくれないか。最低、俺が罰を受ける」
ない頭では、それぐらいしか思いつけない。
だけど、おじさんだけは犠牲に出来ない。おじさんは俺なんかに良くしてくれるし、そもそもこれは俺と秋乃の問題だ。それに罰とは言っても、それほど酷いものではないだろう。……多分
しかし女の子は、これ以上ないくらいに嫌な笑みを浮かべて言った。
「聞きたい? 罰の内容……」
見下げるその顔の陰は警告の色。外面からは掴めない、内側からの恐怖。
相手はただの女の子ではない。そんなことは分かりきっている。おじさんのためとはいえ、自分が罰を受けるのはやっぱり怖いんだ。
やっぱり、俺は弱い……
自分の顔の筋肉が堅くなったのを感じる。
そんな表情で女の子を見ていると、女の子は仮面でも付けたかのように明るくなった。
「ま、もっと平和的な解決方法もあるんだけどね~」
甘い甘いエサだった。
「なんだ、教えてくれ!」
俺はすぐに飛びついた。そりゃ、飛びつかない方がおかしい。平和的、なんて魅力的言葉だ。
そんな俺の反応を見てか、女の子は薄く笑った。なんだろう。その瞳に答えを探そうとしたけど、真意は読み取れない。
「あはは、簡単簡単。しかも単純でみんなハッピーになれるよ。偶然かどうか、君にはその資格がある」
女の子はそう言うと、その白くて小さな手を俺に差しのべた。
「君もトーナメントに参加しない?」
甘いエサに手を伸ばすように、俺は女の子の手を取った。
ろくな説明も受けずに握ったその腕は、とてもさわり心地が良かった。
トーナメントへの参加は簡単だった。怪しすぎるほどに。
女の子が俺の胸に手を置いて問いかける。それに「はい」と一度だけ答えた。手順はそれだけで、問われた内容は覚えていない。本当にこれで参加出来るのか?
まだ能力は貰っていない。神聖な儀式か何かが必要なのかもしれない。これが一番の醍醐味だと聞いたけど……
というか、なんで俺が参加するとみんなハッピーなんだ? 俺には資格があると言われたけど、それはなんだ?
積もる疑問にはきりがない。俺は考えるのをやめて女の子を見た。
女の子は腕を組んで目をつむり、「う~ん」とうなっている。あからさまに悩んでいる表情だ。あからさますぎて、何を考えてるんだよと思わず聞きたくなる。
女の子はパチリと目を開けると、アイスブルーの瞳が自分に向いた。
「ま~いっか。問題ないよね」
独り言か?
女の子ちょいちょいと手招きをすると、そのまま部屋の出口へと歩いていった。
こっちに来いということか。
秋乃にはここで待っていてくれと言って、俺は女の子について行った。
女の子が来たのはこの家の部屋の中で一番北にある俺の部屋だった。
小学校の入学祝いに買ってもらった勉強机に、質素なベット。横には俺の背丈程のクローゼットが置いてある。
女の子は窓の外を眺めていた。――違う。そこにいたのは青髪の少女。身長は俺より少し低く、その後ろ姿はどこか大人びている。
窓から薄く射す赤い夕日が、少女を染めていた。
どこを見ているんだろうか? ここからだとあまりいい景色は見れないと思うけど……
後ろ姿を見つめていると、少女は振り向いた。
「やっぱりこの年頃の姿が好きなのかなぁ……」
相手の本当の姿はよく分からない。だから、その姿に見とれていたのが悔しかった。
直接見ていると何かを悟られそうで、俺は窓の外に視線を移した。
「それとさぁ、突然なんだけど、秋乃ちゃんってかわいいよね」
確かに突然だった。
「そうかな……」
出来るだけ自然にと思ったけど、かえって不自然だったかもしれない。
いや、そもそも相手が相手だし隠す意味はないか。そう考えると、少し楽になった。
「私、秋乃ちゃんのこと好きになっちゃった」
「はぁ?」
いきなり何を。そう聞きたくなったけど、たぶん違う意味だ。
「小動物的な、っていうのならわかるけど。そういうヤツ多いし」
そう言うと、少女はなるほどと頷いた。
「あぁ、そうかもしれない。あの時はホントに頑張ってたからねぇ……。私は試練として熊を送ったんだけど」
聞いた話だ。秋乃がコンビニまで行った時、熊と闘ったと言っていたっけ。そのほかにも色々と酷い目にあったとか。……そうか、それらは全部コイツのせい――
「熊を送っただけなのに、自転車や車にぶつかったり、なだれや噴火とかに合ったり……ぷっ」
じゃなかったか。
話している少女は途中で吹き出した。キャハハとかヒーヒーと笑っている彼女を、俺は黙ってみていた。
そんなに面白かったのか……? あとで秋乃に、旅の内容を聞いてみようかな。
少女は笑い疲れて、そのあと息を整えた。笑いすぎて顔が赤い。
「は~あ、疲れた」
「そんなに笑えることだった?」
「うん、面白かったよ。あれはなんて言えばいいんだろうな……。かわいい? かっこいい、じゃなくて……かわいそうかな?」
なんとなく、全部想像できる。
少女はそのあと「まとめて言えば面白いかな」と付け足した。やっぱり、それが一番しっくりくるな。
「見てて飽きないかもね」
少女は楽しげに笑うと、再び窓の外に視線を移した。それから隣にある古いベットにバスンと座り、何かがきしむ音がした。こういうことは、いちいち気にしないことにしてる。
少女の表情が少しだけ真剣なものに変わった。
忘れていた。俺がここに呼ばれた理由はなんなのか。秋乃に聞かれちゃいけないことなのだろうか。
「じゃあ、説明しようか。イヤなことをね」
いい響きじゃないな。それに、そんなことはもっと前に説明して欲しかった。今更気にはしないけど。
俺は勉強机の椅子に座った。机には薄くホコリがつもっている。それは気にせずに、机に手を置いた。
「一つだけ。トーナメントに負けた時、君がどうなるかを伝えるよ。君っていうより、参加者全員だけど」
「負けたらペナルティー、ってやつか。……それって優勝者以外の全員じゃねぇかよ」
「まぁね」
少女は軽く言った。
これは覚悟しなきゃいけないかなと思った時、新たな疑問が浮かんだ
そもそもこのトーナメントは何のために?
聞こうとしたけど、その前に少女が人差し指を立てて話し出した。
「ではまず、負けた参加者からはそれぞれ『あるもの』をもらいます」
うちにそんな物はない、とは言えなかった。そんな雰囲気じゃない。
少女は一呼吸置いて、
「それぞれの、一番大切なものをもらいます」
言葉が頭に響いた。
「………」
一番大切なもの……。俺には想像がつかない。そういうことをあまり考えたことがなかったからかな。今の俺の大切なものってなんなんだ?
考えている俺を見ながら、少女が話し出す。
「城野ちゃんは君達に負けたけど、彼女からもらったものはなんだと思う?」
城野ちゃん――小春ちゃんがなくしたもの……。
ハッとした。それと同時に、なにかスッキリしない感情がこみ上げてくる。
小春ちゃんがなくしたもの。予想が正しければ、俺はよく知っている。
「分かったかな? 正解はガイモン。貰うって言うより、引き離すって感じだけど。それと、君はこの家のドアを開けるのをためらったよね。あれ、正解だよ。私が君の思考回路をちょちょいと、いじってやったんだ。だから気になっただけでも凄い――」
俺は椅子から立ち上がり、少女の肩を掴んだ。
「ことなん、だ……」
少女を思い切り睨みつけた。少し驚いた表情をしているけど、それは違う。楽しんでいるのか、予想通りだったというのか。
「聞いとくけどさ、小春ちゃんの父親が急に変わったのもお前のせいか?」
「まぁそうだけどさぁ、それは」
肩を握る手に力をいれ、さらに強く睨んだ。
だけど少女の表情は変わらず、ため息をついただけだった。
「君さ、人の話聞こうよ。むしろ感謝してほしいね」
「ふざけんな! 誰が感謝なんかするか!」
「だから聞いてって。君達が治そうとした犬はね、今日や昨日に病気にかかった訳じゃないんだよ! それこそ一年くらい前」
「だからなんだ……あっ」
そうだ、そうだった。犬は生物で、その時間を戻せば『生命』の概念を侵すことになる。
確かに、あのままだったら危なかったじゃ済まなかったかもしれない。
肩を掴む手から力が抜ける。重力に任せて椅子の上にに落ちた。
「正直でいいね」
「うるさいな」
はぁ、とため息がもれる。いつもとは違う部屋が静かに、薄い赤に沈んでいる。
無言になったこの部屋。少女は俺に合わせてくれているのだろうか。
一回息を吸い込み、吐き出す。少し気分が落ち着いた。
次の話でやっと一息つけます。……長かった。
それと報告です。こんな小説にも、お気に入り登録してくださったお方が現れてくれました。感想とか評価とか初めて貰ったのですが、凄いです。本当に涙が出そうに……
皆さん、お読みいただきありがとうございますm(_ _)m