ぷろろーぐ
皆さんこんにちは。やさきはでございます。本作品、2/27をもちまして大幅改稿いたしました。
それでは、始まります。
「んんっ、いい天気だな~」
ちょっと見晴らしのいい丘の上で、ちょっとひなたぼっこ。ちょっとなだらかな斜面で、ちょっとお昼寝。なんてほのぼの、なんてぽかぽか。
やっぱりこれが五月の醍醐味かな?
私は両足を高く上げて、それを振って上半身を起こす。すると気持ちのいい風が私の顔を撫でて通り抜ける。目に入る風がこそばゆくて、片目だけは閉じた。
残った片目で広がる町の景色を見渡す。明るくて元気な町。私はある一点に視線を止める。
ずっと遠くに見えるのは、車が一台通れそうな一本の道路。日当たりはよくて、車はなさそう。
「ねぇ、ミラ。どっかにいる? ねぇミラミラミラミラ~」
「はい、そんなに呼ばなくてもきちんといます」
スッと、私の斜め後ろに気配が表れた。
「おぉ、相変わらず早いねぇ。さすが堅さナンバーワン」
私の斜め後ろに現れた気配に、振り返らずに話す。
別に早く来てもらわなくても怒らないけど。ミラは真面目すぎるからな。きびきびしすぎ。
「ところで、――なにかご用でしょうか?」
「まぁね。用がなかったら呼ばないしね」
「……それは意外です」
あれ? 私ってそんなにミラのこと呼びまくってる? 意外です、って……
思い返してみても、思い当たることはあんまりない。
「……ま、気にしないのが一番。ところでさ、例のアレのソレなんだけどさぁ……ついにあと四人になったんだよ!」
「それはそれは。おめでたいですね。ようやく八割が埋まりましたか。……まぁ、知っていましたが」
うぅ、寒い……。
陽気なお日様が、雲に隠れた気がした。
「つれないなぁ、そこは知らないフリでしょ。テンション下がる……。まぁいいや。それで、今週中に残り四人も見つけておきたいんだけど、どうかな?」
「今週中に四人、ですか……。そんなに都合良く見つかるでしょうか? ここまでくるのに一年かかったのに」
困ったような声を出すミラ。
一年もかかったのは私がサボったせいもあるんだけど……。もしかして皮肉られた?
「多分大丈夫でしょ。そんなことよりさ、あそこ見てよ、あそこ」
私は今までずっと見ていた場所を指さす。日当たりの良い一本道。左右には一軒家が建ち並ぶ。
「あそことは言われましても。距離が分からないので……」
「確かに分かりにくいね。ここから五キロくらい向こうの一本道。見える?」
「――見えませんね」
そりゃそうだって。ミラにそんな能力ないし。っていうかあげてないし。
私がアハハと笑うと、ミラは黙ってしまった。
我ながら、イタズラがすぎたかな?
「ゴメンゴメン、見せてあげるから。ちょっとこっち来て」
「はい」
ムスッとした声がした。私は後ろを振り向かずに、肩の上から手招きする。
「ほら。私の肩、さわってみ。ほらほら、遠慮せずに」
右手の指で左肩をつんつんとつつく。
「遠慮はしないですけど……。それでは」
トン、と私の肩にミラのてのひらが置かれる。大きな白い手。
「――あ、見えました。あそこですね」
どうやら見つけたみたい。こんなに早く……
「さすが。私の分身なだけあるね」
そう言うと、ミラはまた少し黙ってしまった。
「……そんな高貴なものではありません、私は」
ぼそっと、独り言のようにミラは言った。
……やっぱり堅いかな。
「あの……。あの場所に誰か来るのですか?」
「まぁね。十三分後に来る。んで、ミラミラへの用は分かった?」
「はい。……ミラミラって誰ですか?」
ツッコミが遅かった。
分かってるクセに。にしても照れないな、ミラは。
「そんなことよりさ、あの女の子は凄いよ。泥棒を自分で捕まえるんだから」
これから、あの道に現れる女の子。なんだろう、今回は当たる気がする。
「そうですか。それより、あの女の子とは誰ですか」
「十三、じゃなくて十二分後にあそこに来る子」
気づかないうちに時間が過ぎていた。
私も細かいなぁ……。
「そうですか。それでは、私は行ったほうがよろしいでしょうか?」
「そうだね、お願いするよ。そのために呼んだんだから」
ミラにしか出来ないことだしね。
ミラには見えてはいないだろうけど、私は笑みを作った。
「それでは、あの……」
私に何かを聞くのに、ミラは戸惑っている。
「そうだな~、じゃあ私はこれからバイト行ってくるから」
「バイト……ですか?」
「うん、バイト。だからそっちはよろしく」
「はい、分かりました」
ミラはお堅い返事をすると、ミラが私の肩から手を離す。そして私の前に歩み出た。
「うし。それじゃ、行ってらっしゃい。気をつけてね」
「はい。それでは」
キビッとした返事をすると、私から遠ざかっていった。少し下に降りたミラは、丘の斜面で少し助走をつけて――飛んだ。
私は今日初めてミラを見た。背中に翼はないけど、その翼で飛んでいる。長い金色の髪が二つに束ねられていて、風になびいている。その姿を見送ってから、私は一気に立ち上がる。
行き先は……コンビニがいいかな。
面接で落ちたこととか考えて、それはそれで面白そうだと笑った。
私は周りをぐるりと見回して、澄んだ空気をしっかりと吸い込んだ。
「ふぅ。――さてと、久しぶりにたのしくなりそう」
誰でもない、青空に向けて言った。
お読みいただきありがとうございます。
前書きでも申しました通り、本作品はぷろろーぐから七話(元八話)を改稿しました。ただ、一話~七話までの『前書き』『後書き』は変えていないので、そこは歴史を感じてください。少々黒歴史ですが(笑)
今回は謎の一人称でしたが、次回からは玉石翔の一人称でお送りいたします。