聖女の初恋
勇者一行が魔王を倒して半年。
連日お祭り騒ぎだった国もようやく落ち着きを取り戻し始めたとある春の日、王城から馬車が連なって南へと出発した。
前後を挟まれた一際豪華な馬車に乗るのは、300年前に突如現れた魔王を討伐した初代聖女、エカテリーナの名を継いだ、この国の唯一の王女であり、今代の聖女でもあるエカテリーナ二世。
穏やかな春の日の、水色の空を切り取ったかの様な美しい髪の、やっと成人になる16歳の少女。
王女にして聖女というあまりに重い名をその細い肩に背負いながらも、自らの歩みでそれにふさわしい存在になろうと、毅然と前を見て歩み続ける少女。
そんな彼女の馬車に乗るのは、たった15歳で討伐隊に聖女として参加した彼女の世話をする為、37歳で過酷な旅にもついて行った、エカテリーナの乳母であり腹心の侍女でもあるマリアンナ。
そんな侍女がうつらうつらと舟を漕げば、エカテリーナは笑みをこぼした。
その笑みは、いつも民の前で浮かべる慈愛に満ちたものとはどこか違っていた。肩書きも使命もすべて脱ぎ捨てたかのように、ただ一人の少女として、春風にほどける花のように、無邪気で屈託のない笑顔だった。
そして、ふと思い出したかのように、大事そうに膝に乗せている宝石箱を優しく一撫でした。
その中に入っているのは、聖剣エクスカリバーに付けられていた星祈りの紐。母親や恋人が、大切な人の無事の祈願を願って織られる飾り紐だ。それと大きくて古い、つぎはぎだらけの布が一枚、大事に宝石箱の中に収められている。
これらは、勇者の遺品だ。
彼が遺したものを、その想いごと、彼の大切な女性のもとへ返すために、彼女はいま、最後の旅路へと足を踏み出した。
胸の奥にひそやかに芽生えたままの想いを、誰にも告げることなく、昇華するための旅でもあった。
エカテリーナは、飾り紐に愁いの視線を送った後、優しくつぎはぎだらけの布を撫でた。
半年にも及ぶ過酷な魔王討伐の旅の間、彼はこの袋に身の回りの物を包んで携えていた。器用に袋の様な形にして、肩から斜めに掛けて歩く姿は、いくら王城育ちと言えど、王都にお忍びで出かけた事があるエカテリーナにとっても腹心の侍女ですら初めて見るスタイルで。エカテリーナはその奇抜な格好を初めて目にした時には、可愛らしい口をほんの少し開けて、茫然と見つめてしまったものだ。
王女である彼女の周りは、高位貴族で埋め尽くされていた。
そして、いつの日かこの国を救う聖女しての彼女の周りには、救いの手を差し伸べるか弱き国民がいた。
だから、豪快で底抜けに明るく、誰にでも手を差し伸べる様なか弱き国民に出会ったのは初めてだったのだ。
そんな事を考えていると、窓の外の景色が変わった事に気付いた。小さな村を抜けたと思ったら、少しだけ開けた町になった。窓の外を見ると、子供達が馬車に向って手を振っている。それに答える様に手を振ると、中に居る人間が誰なのかに気付いた人々が声援と共に手を振って来た。
「聖女様!」
「王女様!」
「聖女様~!」
馬車を追いかけて来る子供達もいる。
「聖女様~!」「王女様~!」
『アンジェ』
頭の中に聞こえてきたのは、もうその名で呼ぶ事の無い人の声。
もう誰も、呼んではくれない愛称。
込み上げてくる寂寞の思いを胸の奥へと押し沈め、彼女はアルカイックスマイルという仮面をそっと被る。そこに宿るのは変わらぬ慈愛。その柔らかな聖女の微笑みを、ただ静かに国民へと向けた。
エカテリーナは魔力が無く生まれてきた。国民は魔力を持たない者が多かったが、王侯貴族で魔力を持たないのは珍しい昨今。王族でありながら魔力を持たないというのは珍しい。
王妃の次子が魔力無しだと魔法師から伝えられた国王は、天使に愛された子という意味を持つ名をお腹の子に付けた。その子の道が厳しい事を知りながら、光照らされる事を願って。
男の子なら“アンジェリーク”。女の子なら“アンジェリーナ”。
そして生れてくるまで、国王と王妃はお腹の子に向けて『アンジェ』と呼びかけ続けた。
そうして生まれたアンジェリーナは、魔力無しと診断されていたが、実際は微々たる魔力を持っており、属性は珍しい“花”であった。どのような魔法を使えるのかと魔法師たちは強い関心を寄せたが、その希少さとは裏腹に、ほとんど魔法を行使できぬことが明らかとなり、彼らは勝手に二度目の失望を味わった。
エカテリーナは嬉しいと、周りに少しの花を咲かせる事しか出来なかったのだ。
アンジェリーナの4つ上の兄である王太子は、アンジェリーナが生まれる前から神童と呼ばれていた。水と光の属性を持っており、それらは次期国王として補っても余りある良い属性だった。
非凡な王子と凡庸な王女。
だけど国王夫妻は分け隔てなく、二人を愛した。
そしてアンジェリーナは、いつも笑顔の絶えない、王女と言う肩書が無ければ、彼女はどこにでもいる一人の普通の子供のように幼児期を過ごした。
全てが変わったのはアンジェリーナが5歳の時。
魔塔主が魔王の復活を予言し、教皇が聖女の降臨を神託で得た。
そしてアンジェリーナの髪が一夜にして、初代聖女と同じ、水色の空を切り取ったかの様な髪に変貌していたのだ。
まさしく一夜にして、アンジェリーナを取り巻く環境が変貌を遂げた。
王族に肩を並べる程の権力を持った魔塔や教会によって、アンジェリーナの名は、初代聖女の生まれ変わりとして、エカテリーナ二世に変えられてしまった。
そしてその日から、いつも朗らかに笑って花を咲かせていた末姫『アンジェ』は、王宮から姿を消してしまった。
家族はそれを悲しみながらも、王家の責務をその小さな体で感じ取った末姫を誇りに思った。
そして愛する娘を守るための切り札を、大事な時に使えるようにと、名前を変えられる事に異議を申し立てはしなかった。
そうして10年後、魔塔主、勇者、聖女を筆頭とした魔王討伐隊が組まれた。
「じゃぁ、生まれた時はアンジェリーナって付けて貰ったのに、聖女に選ばれた途端に名前を変えられたの?」
勇者ロンは、不愉快を表すかの様に、眉間に皺を寄せて声を荒げた。
それに対して、その場に居た多くの者も、ロンの発言に眉間に不愉快を乗せる。
その中で、エカテリーナの気持ちに寄り添って不愉快を顕わにし、ロンの言葉に肯定の意を表すように頷いたのは、きっと乳母であるマリアンナだけであっただろう。
エカテリーナを幼少の頃から知っている副騎士団長ですら、聖女エカテリーナの名を貰う事は名誉な事であると、ロンの言い分を嗜めたのだから。
この時に、エカテリーナは心の棘に気付いた。
名を奪われた時は、まだ5歳で意味が分からなかった。
名誉な事だと大人たちが言うから、小さな違和感を感じる事も無く、意味も分からず『めいよなことです』と嬉しそうに笑った。
だけど家族達は、アンジェリーナが花を咲かさなかった事に気付いていた。
300年前の魔王討伐から、王家の力は少しずつ弱くなり、討伐隊のメンバーに居た魔法師や、神の神託を聞く教会の力が少しずつ強くなっていた為、王家は“否”を突き付けられなかったのだ。
8歳の頃に、その違和感がエカテリーナの心によぎったが、形作られる前に心の奥底にしまい込んだ。
それを、勇者ロンの手によって、存在を顕わにされた。
エカテリーナはどんな顔をしたら良いのかわからなかった。
この違和感を、誰かに感じ取って欲しかったのだ。
誰かに、共感してもらいたかったのだ。「ひどい」と・・・。
エカテリーナが自分の気持ちをぐるぐると追いかけている間も、ロンは周りにそれがどれだけひどい事かを熱く語っている。名前を奪われるというのは、自分自身を奪われることなのだと。
「おい! 姫さん! 小さい頃の名前は何だったんだ!?」
ロンの態度に、周りの騎士達は失礼だと怒り狂っているが、彼はお構いなしだ。
「あ、え? ・・・アンジェリーナ」
「じゃぁ、今日からはアンジェだ! 俺はそう呼ぶ! 呼ぶぞ!」
彼のこの言葉が、知らぬふりをして押し込めていた胸の奥に触れ、いつの間にか抜け落ちていた小さな棘に、彼女はふと気づいた。
痛みが消えたはずなのに、そこには代わりに、まだ名も与えられないやわらかな熱が静かに残っていた。
そして、自分の瞳に薄く涙の膜が張った事に気付くと、いつもの様に上手く笑顔を作れなくなって、少し顔を下に向けたのであった。
だけど心は、熱い何かで満たされていた。
*****
勇者ロンが生まれた村は、王都から馬車で3週間ほどの場所にあるが、討伐を終えた聖女が勇者の遺品を家族の元に返しに行く事は国中に知れ渡り、通り道にある領地の貴族から歓迎を受けながらの旅となったため、1ヶ月が経った今でも、行路の半分を超えたぐらいだった。
魔王を倒す旅は2ヶ月にも渡り、戻ってくるのにも1ヶ月を要した。魔王の居る迷宮に近づくにつれて、馬車には乗れないので鬱蒼とした森の中を歩かなければならなかった。
そんな旅を経験したエカテリーナとマリアンナにとって、ふかふかの馬車に乗っての旅なら何も難しい事は無い、筈であったが、先ほどからマリアンナが馬車の中で辛そうに腰を伸ばしている。エカテリーナには分からないが、37歳の子持ちは、毎日どこかが微かに不調なのである。
「姫様、辛くはないですか? 疲れたなら休憩を取りましょうか?」
そう言いながら、辛そうに肩をトントンと叩いている。
自分が休憩を取りたいんだなと察したエカテリーナは、含み笑いをしながら助け舟を出した。
「私はまだまだ大丈夫だけど、マリアンナが辛そうね。ふふ。休憩にしましょうか」
そうして馬車の外に出れば、そこは長閑な田園風景が広がっていた。
木陰にエカテリーナの為にマットと飲み物が用意されている。
メイドが日傘をさしながら、エカテリーナに移動を促すが、エカテリーナは目の前の景色に目を奪われていた。
「マリアンナ、あちらで休憩していなさい。私は少し辺りを見て来ます」
ついて行こうとするマリアンナを一人になりたいからと制して、エカテリーナは田園風景を横目に、静かな景色の中を騎士から離れる様にゆっくりと歩き出した。
この風景を守る為に、討伐隊は戦ったのだ。
多くの騎士が亡くなり、勇者も帰らぬ人となった。
水色の髪の少女に気付いた村人たちが、手を振ったりお辞儀をしているのが遠くに見える。
弱き国民を守るために、この景色を、幸せを守るために、少女は聖女として戦った。
そしてその代償に、閉ざしていた彼女の心の扉を無造作にこじ開け、いつしか住みついてしまった青年を、永遠に喪った。
王族として、民の為に立ち上がるのは当たり前の事。だけどまだ、彼女の心はその現実に追いつけずにいた。
喜びも悲しみもほどけることなく絡み合い、彼女の心は行き場を失ったまま、ただ揺れ続けていた。
そうして、ただ田園風景を眺めているようで、誰かの面影を探している主を、遠くの木陰からマリアンナは見ていた。
討伐の旅は過酷で、初めて家族から離れた長い旅路にエカテリーナの身は疲れ切っていた。だがそれ以上に、過度な緊張と恐怖で心がすり減り、静かに軋んでいた。
聖女という肩書があると、人々はエカテリーナがまだ15歳の未成年であるという事実を見失う。
騎士達も、緊張と興奮で、周りが見えていなかったのかも知れない。
当たり前の様に、野宿する事が決まった。事前の相談も無く。
それがエカテリーナにとって初めてである事は、誰もが知っている筈なのに、誰もがそれに気づかない。
そうして手渡されたのは非常食で。干し肉と乾燥して固くなったパンを手に、エカテリーナはごっそりと表情が抜け落ちるのを感じた。
王族として、聖女として、この旅でお荷物になるわけにはいけないエカテリーナと、
湯浴びも出来ずに汚れたままで、狭い馬車の中で眠る事を強いられる15歳の少女が。
胸の奥でほどけぬまま絡み合い、過酷な旅の現実に心が追いつかぬまま、彼女の内側は静かに摩耗していった。
たった15年しか生きていない、重圧を背負わされた少女の、小さく繊細な心を壊すのはいとも容易い。
「アンジェ! お前はまだ子供で育ち盛りなんだから、そんなかっすかすの非常食じゃなくて、こっち食え! 俺は狩りも料理も得意なんだ」
そう言って歯を見せて笑ったロンがエカテリーナに手渡したのは、野ウサギのスープとパン。だけど温かくて出来立ての、心の籠った食事。
「勇者様・・・、我々には・・・、無いんですかね?」
騎士達が羨ましそうに、ロンから手渡されたスープを凝視する。
大きな鍋や調理道具があるわけでは無い。
魔王の住む迷宮の近くまでは、宿に泊まる予定だったのだ。旅が始まってすぐの野営は、大所帯の討伐隊の移動による遅れを取り戻す為の緊急の処置だった。
魔獣討伐の旅に慣れている騎士達にとっても、非常食は味気ないのだ。
「ない! 一人分しか作れなかったんだからしょうがない」
ロンはそう言って、アンジェとマリアンナにスープを渡して自分は非常食の干し肉を齧りだした。
「そもそも、旅慣れたお前たちでさえ辛いのに、何で初めて旅に出たアンジェにもっと気を使ってやれないんだよ。たった1日遅れただけで、魔王と待ち合わせしているわけでもないのに! 手前の街で泊まる事だって出来ただろう? お前たちには姉妹の家族はいないのか? 姉妹にも同じようにわざわざ過酷な旅を味わわせるのか?」
ロンの言葉に、この討伐隊の引導をしている騎士団の副隊長は苛立ちを覚えた。わずかな予定の狂いであっても、大義を前にすれば、それはやがて取り返しのつかぬ綻びとなり、重大な失敗へと連なりかねない。
責任のある立場に対して理解していないようなロンの言動は、職務を全うしようとする彼の神経を逆なでた。
「アンジェは、聖女だけど、王女だけど、まだ未成年の15歳なんだぞ?」
しかしその言葉にハッとした彼は、そっとエカテリーナを窺い見た。
いつも肩に乗った重責など物ともせずに、前を真っ直ぐに見つめていたエカテリーナは、その顔に不安の表情を乗せて、ロンの背中を見つめていた。
彼女のそんな、等身大の少女の様な戸惑いの表情を見た副騎士団長は、自分の誤りにようやく気付いたのだ。
王女であり聖女であるエカテリーナは、それだけで15歳の未成年であるという事実が霧に隠れて、誰の目にも映らない。彼女はその存在だけで稀有な人として、誰とも並べられることがない。
比べる基準を持たぬ周囲は、彼女をただその肩書きのままに見つめ、まだ子供であるはずの彼女を、子供として扱うことを忘れていた。
誰もがその冠に相応しい態度を、その名を頂いた時から身に着けているわけではない。
ただその名に相応しい人間になろうともがいて突き進むのだ。
そして彼女もまた、エカテリーナ二世として相応しい人間になろうと邁進する、ただの少女なのだ。
「アンジェ。俺は水と火の属性があるからな。後で体を拭くくらいのお湯は用意してやれるから。それでさっぱりしてから馬車の中で眠ったらいい。明日は宿に泊まるから。な?」
そう言って、妹にするように、ロンはエカテリーナの頭を優しく撫でた。いつもの様に歯を見せて笑いながら。
大人の目からみたら、ロンは妹とエカテリーナを被せて見ていたのが分かる。
だけど、今まで誰かにそんな風にされた事の無かったエカテリーナには分からなかった。
ロンはエカテリーナの心を勝手に開けて、彼女の心に大きな跡を残したのだった。
*****
1ヶ月半かけて辿り着いた村の入り口で、村長が待っていた。
好々爺な村長は、王女であり聖女であるエカテリーナに、やたらとへりくだる事も無く、にこにこと笑顔で、まるで孫に接する様にエカテリーナに話しかけた。
「ロンが討伐隊に参加するために王都に行く時に、ララを私の屋敷に預けていったんです。勇者の支度金があったので、王都に出て学校に通う道もあったのですが、ララがこの町で兄の帰りを待ちたいというのでね。我が家で預かりました。16歳になってうちの次男と恋仲になりましてね。式はロンの帰りを待つ予定でしたが・・・」
そう言って向かう先は、家族が住んでいた森の麓にあるこじんまりとした家。
そこに妹のララは、村長の次男と二人で住んでいるという。
「あの、ロンの恋人は・・・?」
「恋人ですか? う~ん、私は聞いたことがありませんね。彼は一人で年の離れた妹を育てていましたし、ビックリするくらいシスコンでしたから。
私が知らないだけかもしれませんが・・・」
(あの星祈りの紐は恋人から貰ったんじゃなかったの・・・?)
エカテリーナは聖剣エクスカリバーに付けていた飾り紐を思い出していた。
誰から貰ったのかは聞いていなかったが、彼がその飾り紐にキスを落としていた事は知っていたからだ。
「今でも覚えていますよ。エクスカリバーを引き抜く勇者を探す為に、聖剣が刺さった岩ごと、この村に届いた日を。
こんな小さな村に勇者がいるとは誰も思っていませんでしたからね。
翌日には次の村に送るからと、村人にその日いつでもいいから丘の上の教会に来るように伝えていたんですよ。
夕方になっても聖剣はそのままでね。
騎士さん達は、次の村に行く準備を始めてしまいましてね」
クスクスと笑う村長に、エカテリーナも話の続きに興味を持った。
「もう日も暮れるって時になって、ロンがララを連れてやってきたんですよ。昼間は森で狩りをしていたのでこんな時間になってしまったと悪ぶれもせずに言いましてね。そうやって話しながら、左手はララと手を繋いだまま流れ作業で聖剣に手をかけたんですよ。誰もがあっと思った時にはそのままスルスルっと剣を抜いてね。『ん』と言って騎士に渡した時には、その場に居た皆、口をパッカーンと開けて放心してしまったものです」
その時の状況を想像しただけで、エカテリーナはクスクスと笑い出した。
その様子を見て、副騎士団長も微笑みを浮かべた。
あの旅の途中から、エカテリーナはロンやマリアンナの前では、王女でも聖女でもなく、普通の少女の様な顔をするようになった。
そしてそんな瞬間が、聖女と言う重圧の仮面を外し、ただの“人”として呼吸をする瞬間が彼女には必要なのだと、副騎士団長も今では理解していた。
自分の娘が笑う姿を思い出す度に、そんな風に思う様になったのだ。
ただ、自分がエカテリーナにその様な顔をさせてあげられないという事実に、少し心が疼いた。
烏滸がましい希望だと知りながら。
そうやって話しながら辿り着いた家の前には、一組のカップルがお辞儀をしてエカテリーナの到着を待っていた。
家の中は質素であった。
勇者の家とは信じられない程に。
エカテリーナが教科書で見た、平民の平均的な家だった。
キッチンにいるのはエカテリーナとララだけ。
「これでもかなり修繕したんですよ」
ララはエカテリーナに背を向けたまま、紅茶を入れている。
兄の稼いだお金で、聖女を迎え入れる為の茶器と紅茶の葉を買った。それを村長の奥様に教わった通りに、貴族風のやり方で紅茶を入れている。真剣に。
二人で話をしたいとエカテリーナが願った時、ララは倒れてしまうんでは無いかというくらいに顔面蒼白になって、首がもげる程に顔を横に振り続けた。
しかしエカテリーナは、ただの同い年の少女同士として、無礼講でお茶会をしたいと願ったのだ。
そして今にいたる。
「父が生きていた時はもう少しましな暮らしをしていたのですが、私が2つの時、兄が10歳の時に亡くなってからはもう家計は火の車で。母の稼ぎでは生活が出来なくて、兄は10歳から弓矢を持って森で狩りをするようになりました」
渾身の作である紅茶をお盆に乗せて、ララは零さないようにゆっくりとエカテリーナが座っているテーブルに近づいてくる。
「兄が勇者に選ばれて、支度金としてかなりのお金を頂きました。私はまだ子供だったので、村長が預かってくれていたんですけど」
一仕事を終えたララは、安堵して自分も席に座ると、エカテリーナの表情を見て苦笑した。
「兄は本当に不思議な人で、人を見る目があるんです。びっくりするくらい馬鹿で、両指の数の10を超えると計算ができなくなるんですけど、一目見てその人がいい人か悪い人かわかるんです。
もっとすごいのが、この人は、今はいい人だけど意思が弱いから権力やお金を持たせるとダメになるって事まで分かっちゃって。ふふ。だから村長はいつも、新しい人を雇う時にお兄ちゃんに聞きに来てた程なんですよ」
初めて知る好きな人の一面に、エカテリーナは心の奥がこそばゆく感じた。
「だから、お兄ちゃんが良い人だって信じたアンジェ様と、二人きりで話してもいいかなって、思ったんです」
そう言ってララが歯を見せて笑った時に、エカテリーナは、涙が堪えられなくて、涙の雫を一粒落とした。
ララの笑顔の中に、彼の面影が見えたからだ。
「この家を、兄の支度金でこれからも住める様に修繕しましたが、内装はお兄ちゃんが帰って来てから、相談して決めようと思っていたんです。
私は覚えていないけど、この家にはお父さんとの思い出もあるから」
そう言ってララはくるりとキッチンを見渡した。
「お兄ちゃんの最期を、伝えに来てくれたんですよね?」
ララは、手元のカップを見つめた。
今までの人生で見た事が無い程繊細な模様の描かれた、花柄のティーカップ。
これから購入するだろう品は、こういう物になるのかも知れない。支度金だけでも平民が生きて行くのに十分なお金なのに、更に報奨金が届くのだ。
だけどこの暮らしに、兄はいない。
平和な世界になったのに、兄だけは戻ってこない。
ララは、紅茶の揺れを眺めながらも、それを見ていなかった為に、自分の手が震えている事に気付かなかった。
そしてそんなララを、悲し気に見つめるエカテリーナのことも。
*****
聖女が降臨してから、エカテリーナは聖女の力を使える様に教会での修業が始まった。
それと時を同じくして、討伐隊の編成も組まれていった。王家はエカテリーナが成人するまで討伐はさせないと主張したが、準備は着々と進んで行った。
教会はケガを癒せる光の属性を持っている神官を王都に集め、エカテリーナの傍に使えさせた。
討伐では、聖女が仲間を守る結界を張ると、そこにいる魔法師達の力を増幅させる事が出来る。
その為、後方部隊は聖女の周りに神官を配置し、怪我した騎士を回復させていくこととなる。
騎士団も、全ての騎士を統括しながら国王を守る騎士団長と、城と王都を守る騎士を除いて、討伐に向いた攻撃力の高い騎士を中心に隊が組まれていった。
魔法師が所属する魔塔は、魔王の死骸を研究材料として提供されることを条件に、多くの魔法師が魔塔主と共に参戦することになった。
着々と進む準備に国王は焦りを持ったが、勇者だけが見つからなかった。
王城の背後に伸びる壮大な庭園の端に、厳重に保護されている場所がある。そこに聖剣エクスカリバーが刺さった岩があった。
魔王復活の予言からそこは解放され、誰でも聖剣を抜く挑戦が出来るようになった。
騎士団の全員が挑戦した後も、ぞくぞくと力に自信のある者が訪れたが、聖剣エクスカリバーは、国王の願いを叶えるかの様に何年もそこに鎮座し続けた。
エカテリーナの修業を終えても勇者が現れなかった為、痺れを切らした魔塔主が、岩ごと地方に送ってこの国の青年全てが挑戦出来るようにしようと言い出した。幾人かの魔法師と騎士のチームが組まれて、聖剣は岩と共に全国行脚に出たのだ。
そうしてエカテリーナが10歳の時に、南の片田舎の青年が聖剣を抜いたと報告を受けた時、国王はエカテリーナの部屋に行き、ただ静かに涙を流しながら愛娘を抱き締め続けた。
そんな父親の腕の中でエカテリーナは、押し寄せる恐怖に呑み込まれぬよう、ただ必死に足を踏みしめることしかできなかった。
万を持して現れた勇者であったが、彼には10歳の妹がおり、他に家族はいなかった。その為、彼は魔王討伐の旅に出る事を拒否した。正確には延期にしたのだ。
しかし教会からの圧力で、結局2年しか遅らせる事が出来ず、彼は12歳の妹を村で一番信頼している村長に預けて王都に旅立った。
ロンは討伐隊との顔合わせで、妹のララと同じ年のエカテリーナが聖女として同行すると聞き、そして周りの大人たちが、それを当たり前の事の様に伝えた時に、彼はやり場のない嘆きを抱かずにはいられなかった。
そして当の本人であるエカテリーナもそれを、当たり前の事、名誉な事と淡々と言った時に、自身を投げ打ってでも、この小さな聖女を守ろうとその胸に誓った事は、誰も知らない。
そうしてチームが一体となった3年後に、討伐隊は国の東の端にある深淵の森へと旅立った。島国であるこの王国は、国の東側半分が全て鬱蒼とした森に包まれており、そこに入った者は出て来られないという伝説から、“深淵の森”と呼ばれている。
深淵の森に入るまでは1ヶ月。深淵の森の、魔王が居る迷宮を探し出すまではさらに1ヶ月が掛かった。森の中、魔獣と戦いながらの旅は過酷だった。しかしそこまでの間にチームは上手く機能する様になり、想定よりも順調に進むことが出来た。
魔王との戦いは1週間以上にも及び、全てが終わる頃には誰もが満身創痍で疲弊の中にいた。
だからだろうか。
いきなり飛び出して来た小さな魔獣に驚いて、エカテリーナが足を踏み外して崖から落ちそうになった時に、彼女を助けるために動けたのはロンだけだった。
左手で崖の淵を掴み右手でエカテリーナの腕を掴む。二人の体は崖の下。
あっという間の事だった。
気付いた騎士が駆け寄り、ロンの腕を支える。ロンは右手に力を入れてエカテリーナの腕を持ちあげると、騎士がエカテリーナを支えて崖の上に彼女を引き上げた。
次はロンの番だと騎士がロンの腕を引っ張り上げようとした瞬間、彼の姿は崖の下へと飲み込まれていった。
遅れて崖淵に来た魔塔主が急ぎ魔法でロンの体を浮かせようとしても、崖下からは強風が吹き上がってくるだけで、勇者は戻って来なかった。
勇者の体は崖下へと消え、その遺骨すら手にすることは叶わなかった。
痕跡のひとつも残らぬその事実が、まるで彼という存在そのものが、初めからどこにもいなかったかのような錯覚を、彼女に抱かせていた。
しかしエカテリーナの手には、彼が持っていた飾り紐が残っていた。
そして彼女の心の中にも―――・・・
「彼は力尽きて落ちる前に、私にエクスカリバーに付いていた飾り紐を千切って、言いました」
『これを・・・。俺を忘れて、幸せになってって、伝えて』
飾り紐を見たララは、顔を覆って泣き出した。
「その飾り紐は、狩りに出るお兄ちゃんに送ったんです。討伐に出るお兄ちゃんじゃなくて。
私の中のお兄ちゃんは、バカで優しくて、純粋で。ちっとも勇者っぽくなくて、どこにでもいるお兄ちゃんなんです。
だから。
だから、討伐が成功するなんて思ってもいなかった。
だから。
だから、行かないでって」
嗚咽交じりに伝えられる言葉は、あまりに悲しい過去。
「どうせ世界が滅ぶなら、最後の日まで傍にいて、一緒に死んで欲しかった。
2人ぼっちの家族なんだから、一緒に死にたかった。
だから、言ったの。行かないでって。ララの傍に居てって。ララを一人にしないでって。
だけどいつもみたいに『うん』って、言ってくれなかったから・・・、私・・・。
大嫌いだって。
お兄ちゃんなんて大嫌いだって、言って・・・」
エカテリーナは席から立って、ララを強く抱きしめた。
「わたし、自分が恥ずかしい。アンジェ様はその時、討伐隊への参加を余儀なくされていたのに。
わたしは、自分の事しか考えていなくて。
お兄ちゃんがどんな思いで旅に出たのかも、何も考えずに!」
ララは、堪え切れずにエカテリーナに抱き着いて大声で泣いた。
「もっと、大好きって言えばよかった!
最後の言葉が『大嫌い!』だなんて! 私! うわ~ん!!!」
エカテリーナは椅子から崩れ落ちて床に座り込んだララを抱き締めて、背中をそっと撫で続けた。彼女の中の後悔が流れ落ちるのを手伝う様に。
そうすることで、自分も彼女も、心の燻りを、複雑に絡まった感情を、解くことが出来ると信じて。
泣いて思いを昇華出来たら、きっとまた立ち上がれる。
そう信じて―――・・・
*****
自分の為に用意してくれたであろう紅茶の葉を、エカテリーナは丁寧に淹れる。いつもマリアンヌが淹れてくれる作法を思い出しながら。そして、さっきのララみたいに、真剣にお盆を運んできた。ティーカップを置く腕が振るえ、茶器からカチャカチャと音が鳴る。テーブルに無事に置くことが出来て、エカテリーナはホッと安堵の息を吐いた。カップから零れた紅茶がソーサーに溜まっているが、エカテリーナは気付かない。
それを泣き止んだララが見て、噴き出してしまった。
そうして、想い出を思い出すかのように遠くを見ながら、昔話を話し出した。
「うちは貧乏だったから、お母さんはいつもカリカリしていて機嫌が悪かったんです。
私はお母さんが怖くて、いつもお兄ちゃんについてまわってた。
お兄ちゃんは、家の事をして、狩りをして、そして私の面倒を見て。
だから、お母さんが過労で死んで、お兄ちゃんと二人になっても、わたしは悲しくなかった」
ララはエカテリーナの淹れた紅茶を一口飲んで、美味しいと笑った。
「母が言うには、村の人はお父さんが死んでから手の平を返したように冷たくなったそうです。それを嘆いていた。
だけどお兄ちゃんは、それを憤るのではなく、変わらずに接してくれている人に感謝をしていました」
ロンは、あまり自分の家族の話をしなかった。
だから、ララが話す昔の出来事は、エカテリーナは知らない事ばかりだった。
初めて愛した人の真実を知るたびに、胸の中が温かくなり、そしてその人がもうこの世にいない現実に、喪失感が体を駆け抜ける。
「お兄ちゃんが死んだと聞かされて、それからの日々、私はただ孤独の中にいました。愛する人が寄り添ってくれても、お兄ちゃんの存在が大きすぎて。
世界は平和になったのに。
私だけが家族を失った」
エカテリーナは、ララに申し訳なくて、どの様な言葉を返せばいいのかわからず、ただ目の前の冷めた紅茶を見つめ続けた。
「お兄ちゃんが助けた人が、アンジェ様でよかった」
エカテリーナが顔を上げると、ララが優しく微笑んでいた。
「お兄ちゃんの最期を教えてくれて、ありがとうございます」
エカテリーナは、返す言葉を紡ぐことが出来ずに、ただ目をギュッと瞑って俯きがちに首を大きく振った。
「ごめ、ごめんなさい。私のせいで。私が・・・。わたし・・・」
込み上げてくる感情が激しくて、上手く言葉が話せない。
「今回の討伐で亡くなったのは、お兄ちゃんだけじゃない。いっぱい騎士の方も魔法師の方も亡くなったと聞きました。なのに、私一人だけが大事な人を失ったと嘆くなんて」
自嘲気味に笑うララに、エカテリーナはまた俯きがちに首を大きく振った。
「アンジェ様も、そうですよね?」
ララの一言で、エカテリーナは弾かれたように顔を上げた。
目が合えば、ララは確信を持ったかのように笑う。
「・・・ええ、そう」
十代の少女の、繊細な胸の奥に、大切に封印された、誰にも教えなかった秘密。
アンジェリーナは、何かを吹っ切った光を瞳に宿し、だけど表情は悲しみを纏ったまま。
ララを真っ直ぐに見つめながら、自分の秘密を打ち明けた。
「私も失った。・・・大切な、初恋の人を」
そうして零した一滴の涙は、無垢な少女の心の様に、透明で美しかった。
これからエカテリーナが進む荊の道を思い、ララももう一度涙を零した。目の前の、王女でもない、聖女でもない、ただの少女の為に。
たとえ次に誰かに恋をしたとしても、きっと死んだ人間には敵わない。それが、自分を守って死んだ相手ならなおさら。
そうしてロンは、永遠にアンジェリーナの心の奥、一番大事な場所で生き続ける。風化することなく、美化され続けるだろう。
「自分を忘れて、幸せになってというのは、私だけに送られた言葉ではないのでしょうね」
窓の外を見ると、春の夕日が長閑な田畑をやわらかく染めているのに、ララは気付いた。
馬鹿で純粋な兄を思い出しながら、言葉を紡ぐ。
「お兄ちゃんは、人の機微に聡かったから。きっと・・・」
風に揺れる若草は静かに光を返し、遠くで帰りを急ぐ鳥の影が、穏やかな空を横切っていった。
その景色は、何事もなかったかのように優しく続いていて、今日という一日を終わらせようとしている。
胸の奥に残る傷はまだ消えない。
それでもまた、明日はやって来る。
彼女達の感情を置き去りにしたまま。
別れの時に、ララはふとエカテリーナの髪を見つめた。美しい空の水色。
ロンとララの、幸せの色を。
小さなドアから外に出て見れば、もう村は茜色に染まっていた。
振り返ったエカテリーナはララの視線に気づいて、そっと自分の髪を一房手にした。
「ロンは、私の髪を見る度に、故郷を思い出すと言っていました」
その一言で、またララの涙腺が緩み、瞳に涙の膜が張る。
崖から落ちる時に兄が見たのは、エカテリーナの髪か、それとも・・・。
「明日いつ出発されますか? もし時間があれば、明日、私達の結婚式に、参加してくれませんか?」
思い付きで出た言葉。
驚くエカテリーナの瞳に映るのは、同じ様に驚きの表情を浮かべるララ。
村娘と王女。対極にいる、同い年の少女。
ララは先に一歩を踏み出した。
*****
穏やかな春の朝。
風に揺れる若草は静かに朝の光を返し、王都とは違う澄んだ空気が、心を撫でる様に体に染みわたる。
丘の上の教会に、即席で用意された小さな結婚式。
若い二人の門出を見届けるのは、新郎の家族と、エカテリーナとマリアンナのみ。
誰よりもこの姿を見て欲しかった人はいない。
いつも自分の手を握って、笑いかけてくれた人はいない。
ララは自分の隣に立つ、愛する少年を見上げた。
兄とは違う笑い方をする人。
だけど、兄と同じ様に、後悔に立ち止まり、座り込んでしまう自分に、手を差し伸べてくれる人。
(お兄ちゃんがここにいたら、きっと大号泣していただろうな・・・)
そんな状況を想像して、ララがふっと小さく笑いを零した時、教会の外で豪快な通り雨が窓の外を包んだ。
まるで空が大号泣しているような、そんな大雨。
教会を包む、雨が教会を打つ音が大きく響く中、エカテリーナは急な雨に驚きながらも、水の属性を持つ、あの魔力の塊みたいな人が泣いているようだと思った。
エカテリーナとララの視線が交差した時に、二人が同じことを考えた事をお互いが感じ取り、二人は仲の良い姉妹の様に笑顔を交わした。
通り雨は一瞬の事の様で、今では春の木漏れ日の中を、新郎と新婦を残してみんなで外に出る。
教会の外でライスシャワーを行うためだが、教会の裏手から外に出た事にエカテリーナは驚いた。
「教会の奥には花畑がありましてね。そこはロン達家族の思い出の場所なんですよ」
そう言って、村長がエカテリーナの視線を誘導する。教会の裏手出口から少し歩いた先に広がるのは、一面の青———・・・。
『アンジェの髪を見る度に、幸せなあの頃を思い出す。
その色は、俺にとっての故郷だ・・・』
エカテリーナの視線の先には、空の水色を切り取ったかのように咲き誇る、ネモフィラの花畑。
「まだロンとララの父親が生きていた頃、春にあそこでピクニックをしたそうです。ララを交えた家族4人の思い出だそうです。覚えていないララに、ロンはいつも語っていました」
崖から落ちる時に彼が見たのは、私の髪か、それとも・・・。
雨の雫に濡れたネモフィラの小さな青い花々は、春の優しい陽の光を浴びて、まるでその先に待つものを知っているかのように静かに煌めいていた。
その美しい青の輝きは、彼女達の歩む未来を、そっと祝福しているように見えた。
エカテリーナに伝言を託した彼は、力尽きて崖の下に落ちた。
その顔には、諦めでも悲しみでもなく、
使命を全うしたかのような、満たされた笑顔があった。
昨日から緩みっぱなしの涙腺が崩壊した時、教会の裏から新郎と新婦が出てきた。
振り向いたエカテリーナに、ララは満面の笑みを見せた。
まだ前を見て歩く事は難しいだろう。
だけど、エカテリーナも笑った。
この景色を見せてくれた、彼女の初恋と同じ笑い方をする少女の門出を祝って。
聖女の称号を冠してから初めて、エカテリーナは空から多くの花を咲かせた。
ライスと混じってその花々はシャワーとなってララと彼女の夫を包んだ。
二人の門出を祝って。




