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アルケオン 第二章 「感情の色を探して」  作者: れんP


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9/21

懐かしさの奥に眠るもの

「アルケオン 第二章 感情の色を探して」


彩葉たちの活躍から、十年――。

世界は大きな戦乱もなく、静かな平和を取り戻していた。


日本・大阪府大阪市。

その街に、一人の守護者が存在していた。


イラストから生まれた守護者――ユズ。


絵を描くことを愛する彼女は、

しかしひとつの欠落を抱えていた。


それは――

“色で感情を表現できない”こと。


どれだけ描いても、そこに宿るはずの“想い”が分からない。

色が、ただの色にしか見えないのだ。


そんなある日、ユズは一体の想霊と出会う。


苦しみの上位想霊――

感情体「サファリング」。


感情から生まれる存在である彼女は、

ユズの“欠落”に興味を抱く。


そしてユズもまた、

“感情とは何か”を知るため、彼女と共に歩むことを決める。


タブレット端末を手に、

二人は旅に出る。


喜び、怒り、悲しみ、愛――

さまざまな感情から生まれる“想霊”を探すために。


これは、色を知らない守護者が、

“感情の色”を探し出す物語。


そして――

世界に隠された、新たな異変へと繋がる物語でもあった。

滋賀県――琵琶湖のほとり。


 


やわらかな風が吹き、湖面が静かに揺れている。


 


ノスタルジアは、ゆっくりとユズに手を差し出した。


 


「それじゃあ……行くよ……」


 


「ッ!……」


 


触れた瞬間――


 


世界が、ほどけるように落ちていく。


 


 


けれどそれは、これまでとは違っていた。


 


苦しみに飲まれるような重さでもなく、

希望と絶望に引き裂かれるような激しさでもない。


 


 


――やさしい。


 


 


どこか、包み込まれるような感覚。


 


 


まるで、誰かの記憶の中に沈んでいくような――

そんな心地よさ。


 


 


やがて、ふわりと足が地に触れる。


 


 


目の前には、静かな空間。


 


 


中央には台座。


 


その上には、淡く揺らめく宝玉。


 


 


温かくて、少し切なくて、

どこか遠くを思い出させる色。


 


 


(……触れて?……)


 


 


ノスタルジアの声が、やさしく響く。


 


 


「……はい!」


 


 


ユズはそっと手を伸ばし、宝玉に触れた。


 


 


 


その瞬間――


 


 


 


風景が、流れ込んできた。


 


 


 


――夕焼けの帰り道。


 


 


小さな足で歩く子ども。

隣には、笑いながら話す誰か。


 


 


「また明日ね!」


 


 


「うん!絶対だよ!」


 


 


笑い声が、空に溶けていく。


 


 


 


――古い家の中。


 


 


木の床のきしむ音。

優しい匂い。


 


 


「おかえり」


 


 


「ただいま!」


 


 


温もりが、そこにあった。


 


 


 


――夏の日。


 


 


青い空。

蝉の声。

水の冷たさ。


 


 


「冷たーい!」


 


 


「こっちおいでよ!」


 


 


無邪気な笑いが、響く。


 


 


 


――そして。


 


 


 


「……もう、戻れないのかな……」


 


 


小さな声。


 


 


 


「……あの頃に、帰りたいな……」


 


 


 


懐かしさ。


 


愛しさ。


 


そして――


 


戻れないことへの、切なさ。


 


 


 


「……ッ……」


 


 


ユズの胸が、ぎゅっと締め付けられる。


 


 


(これが……郷愁……)


 


 


ただの思い出じゃない。


 


 


そこには、“大切だった時間”が詰まっている。


 


 


そして、それが“過去”であるという現実。


 


 


だからこそ――


 


美しくて、切ない。


 


 


 


やがて、意識がゆっくりと浮かび上がる。


 


 


 


「……おかえり……」


 


 


ノスタルジアの声が、静かに迎える。


 


 


ユズは、少しだけぼんやりとしたまま呟いた。


 


 


「……ずっとそこにいたいような気がしました……」


 


 


懐かしい時間。


 


戻れないけど、確かにそこにあるもの。


 


 


「……でも……なんだかわかった気がします……」


 


 


ノスタルジアは、そっと問いかける。


 


 


「……どうだった?……」


 


 


ユズはしっかりと頷いた。


 


 


「はい!描けそうです!……」


 


 


すぐにタブレット端末を取り出し、描き始める。


 


 


柔らかい色。


 


温かさ。


 


そして、どこか遠くを見つめるような雰囲気。


 


 


しばらくして――


 


 


「できました!」


 


 


画面を見せる。


 


 


そこには、ノスタルジアの姿。


 


そして、背景には淡く重なる“記憶の風景”。


 


 


「……これは……私……」


 


 


ノスタルジアは、静かに見つめる。


 


 


「うん、背景もちゃんと出来てるね」


 


 


サファリングが頷く。


 


 


「ありがとうございます!」


 


 


ユズは、少しだけ嬉しそうに笑った。


 


 


ふと、思い出したように問いかける。


 


 


「そう言えば、ここに来た時、懐かしい気がしたのはなぜですか?」


 


 


ノスタルジアは、小さく答えた。


 


 


「うん……私の能力……フィールド技……私は想霊だから……郷愁の感情を……食べる……」


 


 


「……あ、そうなんですね」


 


 


「……どうかしたの?」


 


 


サファリングが口を挟む。


 


 


「ん、ユズは記憶喪失らしい」


 


 


ノスタルジアの瞳が、わずかに揺れる。


 


 


「……なるほど……私の郷愁の能力……で……どうにかできるか……試してみる?……」


 


 


「え?」


 


 


「いいの?」


 


 


サファリングが確認する。


 


 


「うん……やってみる……よ?」


 


 


ユズは、少しだけ驚きながらも――


 


 


「お願いします!」


 


 


力強く答えた。


 


 


 


「……うん……わかった……ノスタルジー……フィールド……汝の……記憶……探ってみよう……」


 


 


空気が、静かに変わる。


 


 


やさしい光が、ユズを包み込む。


 


 


――けれど。


 


 


 


しばらくして。


 


 


 


「……っ!?……失敗……」


 


 


ノスタルジアの声が、わずかに揺れた。


 


 


「え?」


 


 


ユズが目を開く。


 


 


「この力は自然のものじゃない……神の力だ……私は神力を超えるほどの……力はない」


 


 


「いえ、ありがとうございます」


 


 


ユズは、静かに頭を下げた。


 


 


ノスタルジアは、少しだけ目を伏せる。


 


 


「でも……わかったことがある……」


 


 


「?」


 


 


サファリングが問いかける。


 


 


「……この神力は名のある神じゃない……おそらく、守護神……」


 


 


「守護神?」


 


 


「世界に二人しか確認されてない、神の一種……そんな神がどうして」


 


 


「……わからない……記憶を封印しているよう……ごめん」


 


 


「いえ、それがわかっただけで十分です。ありがとうございました!」


 


 


「感謝するよ」


 


 


ノスタルジアは、ゆっくりと首を振る。


 


 


「ううん……いい……私は私の頼まれたこと……を……しただけ……」


 


 


そして、少しだけ顔を上げた。


 


 


「次は……どこに行くのかな……」


 


 


サファリングが答える。


 


 


「……愛知県……かな……」


 


 


「愛知……『プライド』……」


 


 


「そう……愛知県にはあの子がいるから」


 


 


「プライド?」


 


 


「自負……の上位想霊感情体『プライド』……」


 


 


「どんな子なんですか」


 


 


ノスタルジアは、少しだけ考えてから答えた。


 


 


「……とても優しい……名前にあってないほどに……とてもいい子……」


 


 


「そうなんですね……」


 


 


サファリングが続ける。


 


 


「想霊は感情を食べるために人間に取り憑く……でも、感情体は身体を持ってるから自分の技で感情を引き出したりする……だから性格もその感情に似てくる……けど……あの子は全然似てない……」


 


 


「なるほど……」


 


 


ユズは、小さく頷いた。


 


 


 


しばらくの沈黙。


 


 


湖の音が、静かに響く。


 


 


 


「……それじゃあ……行くね……」


 


 


ユズが、そっと言った。


 


 


「……うん……また……ね……」


 


 


ノスタルジアは、小さく手を振る。


 


 


その姿は、まるで風景の一部のように静かだった。


 


 


 


ユズとサファリングは、ゆっくりとその場を離れる。


 


 


振り返ると、ノスタルジアはまだそこに立っていた。


 


 


変わらず、静かに。


 


 


 


やがて、二人は駅へと向かう。


 


 


夜の空気が、少し冷たい。


 


 


「愛知県……どんな場所なんでしょう」


 


 


ユズがぽつりと呟く。


 


 


「……賑やかな場所……かな」


 


 


サファリングの答えは短い。


 


 


けれど、その先には――


 


また新しい感情が待っている。


 


 


 


電車が、ゆっくりと動き出す。


 


 


窓の外に、琵琶湖の光が遠ざかっていく。


 


 


懐かしさを残しながら。


 


 


 


そして――


 


 


ユズたちは、次の地へ。


 


 


愛知県へと、向かっていった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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