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アルケオン 第二章 「感情の色を探して」  作者:


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ささやきの湖畔

「アルケオン 第二章 感情の色を探して」


彩葉たちの活躍から、十年――。

世界は大きな戦乱もなく、静かな平和を取り戻していた。


日本・大阪府大阪市。

その街に、一人の守護者が存在していた。


イラストから生まれた守護者――ユズ。


絵を描くことを愛する彼女は、

しかしひとつの欠落を抱えていた。


それは――

“色で感情を表現できない”こと。


どれだけ描いても、そこに宿るはずの“想い”が分からない。

色が、ただの色にしか見えないのだ。


そんなある日、ユズは一体の想霊と出会う。


苦しみの上位想霊――

感情体「サファリング」。


感情から生まれる存在である彼女は、

ユズの“欠落”に興味を抱く。


そしてユズもまた、

“感情とは何か”を知るため、彼女と共に歩むことを決める。


タブレット端末を手に、

二人は旅に出る。


喜び、怒り、悲しみ、愛――

さまざまな感情から生まれる“想霊”を探すために。


これは、色を知らない守護者が、

“感情の色”を探し出す物語。


そして――

世界に隠された、新たな異変へと繋がる物語でもあった。

滋賀県――琵琶湖のほとり。


 


夕暮れの光はゆっくりと淡くなり、

空は群青へと溶けていく。


 


水面は静かに揺れ、

まるで遠い記憶の断片を映し出すように、

やわらかな光を返していた。


 


 


ユズとサファリングは、湖の縁をゆっくりと歩いていた。


 


風は優しく、どこか懐かしい匂いを運んでくる。


 


 


「……あそこ」


 


 


サファリングが小さく呟く。


 


 


ユズの視線の先。


 


水辺の近くに、一人の少女が立っていた。


 


 


長い髪が風に揺れ、

その姿は湖の風景と溶け合うように静かだった。


 


 


「……あの子が、ノスタルジア……」


 


 


ユズは、ゆっくりと歩み寄る。


 


 


一歩、一歩。


 


 


近づくほどに、空気が少し変わっていく。


 


 


どこか落ち着くようで、

同時に、胸の奥がじんわりと温かくなる。


 


 


(これが……郷愁……?)


 


 


まだはっきりとは分からない。


 


けれど、確かに“何か”を感じていた。


 


 


やがて、少女のすぐ近くまで来る。


 


 


「……あの」


 


 


ユズが声をかける。


 


 


少女は、ゆっくりと振り返った。


 


 


その瞳は、どこか遠くを見ているようで――

けれど確かに、ユズたちを捉えている。


 


 


「……こんにちは……」


 


 


とても小さな声だった。


 


 


風に紛れて、消えてしまいそうなほど。


 


 


「こ、こんにちは!」


 


 


ユズは少し大きめに返す。


 


 


「……来てくれたの……?」


 


 


ノスタルジアは、ほんの少しだけ首を傾げた。


 


 


その仕草は、どこか幼く、

そして柔らかい。


 


 


サファリングが一歩前に出る。


 


 


「……久しぶり、ノスタルジア」


 


 


「……サファリング……」


 


 


その名前を呼ぶ声も、やはり小さい。


 


 


けれど――


 


ほんの少し、嬉しそうだった。


 


 


ノスタルジアは、ゆっくりとユズの方を見る。


 


 


「……その子は……?」


 


 


「ユズです!イラストの守護者です」


 


 


ユズはぺこりと頭を下げる。


 


 


ノスタルジアは、じっと見つめる。


 


 


その視線は、冷たいものではない。


 


むしろ――


 


どこか“愛おしむ”ような優しさがあった。


 


 


「……守護者……」


 


 


小さく呟きながら、そっと一歩近づく。


 


 


そして――


 


ユズの手に、軽く触れた。


 


 


「わっ……」


 


 


驚くユズ。


 


 


けれど、その触れ方はとても優しくて、

怖さはまったくなかった。


 


 


「……あたたかい……」


 


 


ノスタルジアが、小さく微笑む。


 


 


まるで、大切なものに触れているかのように。


 


 


「えっと……」


 


 


ユズは少し戸惑いながらも、

その様子にどこか安心する。


 


 


「……いのち……好き……」


 


 


ノスタルジアはぽつりと呟いた。


 


 


「いのち……?」


 


 


ユズが聞き返す。


 


 


「……うん……生きてるもの……好き……」


 


 


その言葉は、とても素朴で、

そしてまっすぐだった。


 


 


だからこそ――


 


その感情が、この場所に溶け込んでいる理由が、

少しだけ分かる気がした。


 


 


ノスタルジアは、もう一度ユズの手を軽く握る。


 


 


「……優しいね……」


 


 


「え?」


 


 


「……なんとなく……そう思った……」


 


 


ユズは、少しだけ照れくさくなった。


 


 


「そ、そうですか……?」


 


 


サファリングは、その様子を静かに見守っている。


 


 


 


しばらく、穏やかな時間が流れた。


 


 


湖の音。


 


風の音。


 


そして、かすかな声。


 


 


やがて――


 


ユズは、意を決して口を開いた。


 


 


「あの……ノスタルジアさん」


 


 


「……なあに……?」


 


 


小さな声が返る。


 


 


ユズは、少しだけ緊張しながら言った。


 


 


「私……感情を知るために旅をしていて……」


 


 


「……うん……」


 


 


「もしよければ……その……」


 


 


一瞬、言葉に詰まる。


 


 


けれど――


 


 


「感情石に、触れさせてもらえませんか?」


 


 


 


静かな空気の中で、その言葉ははっきりと響いた。


 


 


ノスタルジアは、少しだけ目を瞬かせる。


 


 


そして――


 


 


「……感情石……」


 


 


小さく呟く。


 


 


風が、静かに吹いた。


 


 


水面が揺れ、

光がゆらめく。


 


 


その中で――


 


ノスタルジアは、ゆっくりと目を閉じた。


 


 


まるで、“思い出”を辿るように。


 


 


そして、再び目を開く。


 


 


「……いいよ……」


 


 


その声は、相変わらず小さかった。


 


けれど――


 


確かに、そこには“受け入れ”があった。


 


 


「……でも……」


 


 


ノスタルジアは、ほんの少しだけ近づく。


 


 


「……優しく……触れてね……」


 


 


その言葉は、お願いのようで――

祈りのようでもあった。


 


 


ユズは、しっかりと頷く。


 


 


「……はい!」


 


 


湖のほとり。


 


揺れる光の中で――


 


新たな感情との扉が、静かに開こうとしていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます

次回もお楽しみに

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