表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルケオン 第二章 「感情の色を探して」  作者: れんP


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/21

混ざり合う光と影

「アルケオン 第二章 感情の色を探して」


彩葉たちの活躍から、十年――。

世界は大きな戦乱もなく、静かな平和を取り戻していた。


日本・大阪府大阪市。

その街に、一人の守護者が存在していた。


イラストから生まれた守護者――ユズ。


絵を描くことを愛する彼女は、

しかしひとつの欠落を抱えていた。


それは――

“色で感情を表現できない”こと。


どれだけ描いても、そこに宿るはずの“想い”が分からない。

色が、ただの色にしか見えないのだ。


そんなある日、ユズは一体の想霊と出会う。


苦しみの上位想霊――

感情体「サファリング」。


感情から生まれる存在である彼女は、

ユズの“欠落”に興味を抱く。


そしてユズもまた、

“感情とは何か”を知るため、彼女と共に歩むことを決める。


タブレット端末を手に、

二人は旅に出る。


喜び、怒り、悲しみ、愛――

さまざまな感情から生まれる“想霊”を探すために。


これは、色を知らない守護者が、

“感情の色”を探し出す物語。


そして――

世界に隠された、新たな異変へと繋がる物語でもあった。

奈良県奈良市――奈良公園。


静かな木々に囲まれたその場所で、

ユズは“次の一歩”へと進もうとしていた。


 


目の前には、対照的な二つの存在。


 


「希望」を司る上位想霊感情体――ホープ。

「絶望」を司る上位想霊感情体――デスペア。


 


そして、その隣には、苦しみを司るサファリング。


 


三つの感情。


 


それぞれが違いながら、どこかで繋がっている。


 


 


ホープが、にこりと笑った。


 


「ふたり同時だけど大丈夫かな?」


 


その言葉に、ユズは一瞬だけ息を呑む。


 


ふたり同時――


 


それがどれほどのものか、完全にはわからない。

けれど、きっと簡単なことではない。


 


それでも――


 


「はい!」


 


迷いはなかった。


 


 


ホープは楽しそうに目を細める。


 


「それじゃ、ふれて」


 


 


デスペアは少しだけ不安そうに、しかし丁寧に頭を下げた。


 


「お願いします……」


 


 


ユズは、小さく頷いた。


 


 


「はい!」


 


 


そっと、両手を伸ばす。


 


右手にホープ。

左手にデスペア。


 


 


触れた――その瞬間。


 


 


 


世界が、崩れ落ちた。


 


 


 


光と闇。


 


白と黒。


 


相反するものが、渦のように絡み合いながら、

ユズの視界を埋め尽くしていく。


 


 


(落ちてる……!?)


 


 


重力も、方向も、何もわからない。


 


ただ、落ちているという感覚だけがあった。


 


 


やがて――


 


 


「……っ」


 


 


足が地面に触れる。


 


 


静かな空間。


 


 


前を見れば――


 


二つの台座が並んでいた。


 


 


ひとつは、暗く沈んだ色を宿す宝玉。

もうひとつは、柔らかく光を放つ宝玉。


 


 


絶望と、希望。


 


 


ユズは、ゆっくりと一歩を踏み出す。


 


 


「……これに……」


 


 


(そだよ~)


 


ホープの軽やかな声が、どこからか響く。


 


 


(き、気をつけてください……)


 


デスペアの声は、少し震えていた。


 


 


ユズは、小さく笑って頷く。


 


 


「うん!」


 


 


そして――


 


 


両手を同時に伸ばした。


 


 


 


(ぇっ!?)


 


(2つ同時!?)


 


 


二つの声が重なる。


 


 


 


触れた。


 


 


 


「ッ!……すごいエネルギーだけど……行ける!」


 


 


 


それは、ぶつかり合う奔流だった。


 


 


光が押し寄せる。


 


闇が引きずり込む。


 


 


相反する感情が、容赦なくユズの中へ流れ込んでくる。


 


 


――(おしまいだ……全焼した……)


 


崩れ落ちる声。


 


 


――(そんな……)


 


絶望に沈む声。


 


 


 


――(やったーやったぞ~!!誕生だ!)


 


弾ける歓喜。


 


 


――「大仏様!」


 


祈りと喜びが混ざった声。


 


 


 


「……ッ……」


 


 


体が震える。


 


心が揺れる。


 


 


(さすがに……飲まれそう……)


 


 


光に引き上げられる。


 


闇に引きずり落とされる。


 


 


どちらにも、引き裂かれそうになる。


 


 


(でも……!)


 


 


ここで、止まるわけにはいかない。


 


 


(やらないと!!)


 


 


そのとき――


 


 


(落ち着いて……ゆっくり深呼吸……)


 


 


サファリングの声が、優しく響いた。


 


 


(サファリングさん!?……)


 


 


ユズは、目を閉じる。


 


 


「……はい!」


 


 


ゆっくりと、息を吸う。


 


吐く。


 


 


もう一度。


 


 


意識を、整える。


 


 


 


「………………」


 


 


 


(これが……希望と絶望……)


 


 


光は、ただ明るいだけじゃない。

そこには願いがあり、祈りがあり、前へ進む力がある。


 


闇は、ただ暗いだけじゃない。

そこには喪失があり、痛みがあり、沈んでいく重さがある。


 


 


そして――


 


 


その二つは、決して無関係じゃない。


 


 


 


やがて。


 


 


二つの色が、ゆっくりと混ざり始めた。


 


 


完全に溶け合うことはない。

けれど、互いに影響し合いながら、ひとつの流れになる。


 


 


その瞬間――


 


 


世界が、ほどけた。


 


 


 


 


「……あれ?」


 


 


気がつくと、ユズは元の場所に立っていた。


 


奈良公園の、あの静かな場所。


 


 


「おかえり」


 


サファリングの声が、すぐそばにある。


 


 


「なにかへんなとこはない?」


 


ホープが心配そうに顔を覗き込む。


 


 


「おかしなところあったりしたら言ってくださいね……」


 


デスペアも不安げに見つめている。


 


 


ユズは、少しだけきょとんとしてから――


 


 


「……あ、うん!平気だよ!」


 


 


にこりと笑った。


 


 


「あ、良かったです……」


 


デスペアがほっと息をつく。


 


 


「すごーい!2つ同時な上に無事なんて!すっごく強いんだね!」


 


ホープは目を輝かせた。


 


 


「え?」


 


ユズは首を傾げる。


 


 


「で、どう?覚えられた?」


 


サファリングが静かに尋ねた。


 


 


ユズは、大きく頷く。


 


 


「はい!わかった気がします!」


 


 


そのままタブレット端末を取り出し、

迷いなく描き始める。


 


 


線を引く。


 


色を重ねる。


 


 


希望と絶望。


 


その交差。


 


 


やがて――


 


 


「どう……でしょうか……」


 


 


完成した画面を、そっと見せる。


 


 


「わぁ~!」


 


ホープが声を上げる。


 


 


「私たち……です?」


 


デスペアが驚いたように目を見開く。


 


 


「背景もそうだけど、それぞれの感情を表してる~」


 


 


「はい、とてもいい……です」


 


 


「ありがと」


 


 


ユズは、少し照れくさそうに笑った。


 


 


サファリングは、静かに頷く。


 


 


「うん……苦しみがわかって、それに近い二つの感情……上手くかけてる……絶望も希望も、苦しみを味わうから……上手く描けてるよ」


 


 


「ありがとう!」


 


 


ユズの声は、少しだけ明るくなっていた。


 


 


デスペアは、ふと首を傾げる。


 


 


「でも……二つ同時なんて、どうして耐えられたんでしょう」


 


 


「う~ん……神力を帯びてるから?」


 


 


「え?」


 


ユズが目を丸くする。


 


 


「ありゃ?気づいてなかったの?私の見た神力の大きさの中では、上の方に入る質量だよ?」


 


 


「はい、とても大きな」


 


 


サファリングも、小さく頷く。


 


 


「私も気になってた」


 


 


ユズは少し困ったように笑った。


 


 


「私は守護者ですよ?……まぁ、記憶喪失ですが」


 


 


「初耳」


 


 


「あ、話しそびれてました……あはは」


 


 


デスペアは少し考えてから言った。


 


 


「まぁ、神力を帯びてる守護者もたまにいるし……それかも……ですね」


 


 


「うん!そうだ!鹿さんと遊ぼ!」


 


 


ホープが突然、ユズの手を引っ張る。


 


 


「え!?ち、ちょっと!自分で歩けますよ~!!」


 


 


そのまま、楽しそうに走っていく二人。


 


 


デスペアは、その背中を見ながら小さく微笑んだ。


 


 


「新しい子が来て、嬉しい……みたいです……ね」


 


 


「ん、そうだね……デスペア、最近どう?」


 


 


サファリングが静かに尋ねる。


 


 


「はい、昔みたいに暴走したことはありません」


 


 


「うん、良かった」


 


 


少しだけ、空気が和らぐ。


 


 


デスペアは一歩踏み出す。


 


 


「私たちも行きましょ」


 


 


「そうだね」


 


 


二人もまた、歩き出す。


 


 


希望と絶望が交わる場所で、

新たな感情を知ったユズ。


 


 


その心には、確かに色が増え始めていた。


 


 


まだ未完成で、曖昧で、揺らいでいるけれど――


 


 


それでも確かに、“前へ進む色”だった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ