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アルケオン 第二章 「感情の色を探して」  作者: れんP


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3/21

夜を越えて、辿り着く場所

「アルケオン 第二章 感情の色を探して」


彩葉たちの活躍から、十年――。

世界は大きな戦乱もなく、静かな平和を取り戻していた。


日本・大阪府大阪市。

その街に、一人の守護者が存在していた。


イラストから生まれた守護者――ユズ。


絵を描くことを愛する彼女は、

しかしひとつの欠落を抱えていた。


それは――

“色で感情を表現できない”こと。


どれだけ描いても、そこに宿るはずの“想い”が分からない。

色が、ただの色にしか見えないのだ。


そんなある日、ユズは一体の想霊と出会う。


苦しみの上位想霊――

感情体「サファリング」。


感情から生まれる存在である彼女は、

ユズの“欠落”に興味を抱く。


そしてユズもまた、

“感情とは何か”を知るため、彼女と共に歩むことを決める。


タブレット端末を手に、

二人は旅に出る。


喜び、怒り、悲しみ、愛――

さまざまな感情から生まれる“想霊”を探すために。


これは、色を知らない守護者が、

“感情の色”を探し出す物語。


そして――

世界に隠された、新たな異変へと繋がる物語でもあった。

大阪の夜は、静かに深まっていた。


 


淀川河川公園を後にしたユズとサファリングは、

街の明かりに照らされながら歩いていた。


 


ビルの窓に映る光、走る車のヘッドライト、

遠くから聞こえる電車の音。


 


平和な日常の景色。


 


けれど――


 


ユズの中では、確かに“何か”が変わり始めていた。


 


(苦しみの色……)


 


あの感情。


あの重さ。


あの声。


 


忘れようとしても、忘れられない。


 


胸の奥に、じんわりと残り続けている。


 


「……大丈夫?」


 


隣を歩くサファリングが、ふと声をかけた。


 


「え?あ、はい!」


 


少しだけ驚いたように返事をするユズ。


 


「さっきの……初めてだったでしょ」


 


「……はい」


 


ユズは、タブレットをぎゅっと抱きしめた。


 


「でも……ちゃんと“感じた”気がします」


 


その言葉に、サファリングは小さく頷く。


 


「それならいい」


 


それ以上は、何も言わなかった。


 


 


しばらく歩くと、駅の明かりが見えてくる。


 


夜でも人の多い駅前。

笑い声や会話が飛び交い、どこか賑やかな空気。


 


ユズは、その光景をぼんやりと見つめる。


 


(あの人たちにも……色があるのかな)


 


楽しそうに笑う人。

疲れた顔で歩く人。

誰かと話している人。


 


それぞれに、違う“感情”がある。


 


(……まだ、わからない)


 


でも――


 


(知りたい)


 


その想いだけは、はっきりとしていた。


 


 


「こっち」


 


サファリングが、自然な足取りで駅へと向かう。


 


「え?電車で行くんですか?」


 


「うん。その方が“人の感情”も見れるしね」


 


「なるほど……!」


 


ユズは少しだけ目を輝かせた。


 


 


電車に乗る。


 


揺れる車内。


 


夜ということもあり、人はまばらだ。


 


窓の外には、流れていく街の光。


 


ユズは席に座りながら、周囲を見渡す。


 


スマホを見ている人。

うとうとしている人。

静かに外を見ている人。


 


(みんな……どんな色なんだろう)


 


ふと、サファリングを見る。


 


彼女は、ただ静かに座っていた。


 


表情は変わらない。


 


けれど――


 


(あの人の中には、“苦しみ”がある)


 


そう思った瞬間。


 


少しだけ、胸が締め付けられる。


 


 


電車は、夜の中を走り続ける。


 


やがて、大阪の街並みは薄れ――

景色は徐々に落ち着いたものへと変わっていった。


 


建物が減り、

暗闇が増え、

静けさが広がる。


 


 


「もうすぐ着くよ」


 


サファリングが静かに言った。


 


 


奈良県。


 


電車を降りると、空気が少し違っていた。


 


大阪の喧騒とは違う、落ち着いた静けさ。


 


夜の空気はひんやりとしていて、どこか澄んでいる。


 


 


「ここが……奈良……」


 


ユズは、ゆっくりと周囲を見渡した。


 


街灯の光は柔らかく、

遠くには木々の影が広がっている。


 


 


「目的地はもう少し先」


 


サファリングは、迷いなく歩き出す。


 


 


やがて――


 


視界が開けた。


 


 


広大な草地。


 


静かに揺れる木々。


 


そして――


 


暗闇の中でもわかる、いくつもの気配。


 


 


「ここは……?」


 


 


「鹿公園」


 


 


奈良の象徴とも言える場所。


 


昼間とは違い、夜のそこは静寂に包まれていた。


 


 


遠くで、鹿がゆっくりと動く気配がする。


 


自然と人が共存する、不思議な空間。


 


 


けれど――


 


ユズは、気づいた。


 


 


(……何かいる)


 


 


空気が、わずかに揺れている。


 


見えない“何か”が、この場所に存在している。


 


 


「ここにいるの?」


 


 


サファリングは、静かに頷いた。


 


 


「うん。ここには、上位想霊が二体いる」


 


 


その言葉に、ユズの心臓が少しだけ高鳴る。


 


 


「二体……?」


 


 


サファリングは、夜の奥――

鹿たちのいる暗がりの方へと視線を向けた。


 


 


「ひとつは、“希望”」


 


 


その言葉と同時に、どこか遠くで

ほんのわずかな光が揺らめいた気がした。


 


 


「そして、もうひとつは――」


 


 


一瞬、空気が重くなる。


 


 


「“絶望”を司る想霊」


 


 


風が、止まったように感じた。


 


 


対になる存在。


 


光と影。


 


 


(希望と……絶望……)


 


 


ユズは、無意識に息を飲む。


 


 


(全然、違う感情……)


 


 


胸の奥が、ざわついた。


 


 


「どっちも、強いよ」


 


 


サファリングの声は、いつもと変わらない。


 


けれどその言葉には、わずかな警戒が含まれていた。


 


 


「特に絶望は……気をつけて」


 


 


静かな警告。


 


 


ユズは、小さく頷く。


 


 


「……はい」


 


 


怖い。


 


でも――


 


(知りたい)


 


 


その気持ちは、消えなかった。


 


 


夜の鹿公園。


 


静寂の中で、見えない感情がうごめく。


 


 


希望か。

絶望か。


 


 


ユズの“次の色”が、

すぐそこに待っていた。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次回もお楽しみに

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