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アルケオン 第二章 「感情の色を探して」  作者:


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2/15

苦しみの色、触れた先に

「アルケオン 第二章 感情の色を探して」


彩葉たちの活躍から、十年――。

世界は大きな戦乱もなく、静かな平和を取り戻していた。


日本・大阪府大阪市。

その街に、一人の守護者が存在していた。


イラストから生まれた守護者――ユズ。


絵を描くことを愛する彼女は、

しかしひとつの欠落を抱えていた。


それは――

“色で感情を表現できない”こと。


どれだけ描いても、そこに宿るはずの“想い”が分からない。

色が、ただの色にしか見えないのだ。


そんなある日、ユズは一体の想霊と出会う。


苦しみの上位想霊――

感情体「サファリング」。


感情から生まれる存在である彼女は、

ユズの“欠落”に興味を抱く。


そしてユズもまた、

“感情とは何か”を知るため、彼女と共に歩むことを決める。


タブレット端末を手に、

二人は旅に出る。


喜び、怒り、悲しみ、愛――

さまざまな感情から生まれる“想霊”を探すために。


これは、色を知らない守護者が、

“感情の色”を探し出す物語。


そして――

世界に隠された、新たな異変へと繋がる物語でもあった。

大阪府大阪市――淀川河川公園。


夕焼けの余韻がまだ空に残る中、

ユズとサファリングは、静かに向かい合っていた。


 


「……感情を、ね……私は苦しみだから上手くできないかも」


 


サファリングの声は、どこか遠くを見ているようだった。

それは、自身の在り方を理解しているがゆえの、淡々とした諦観にも似ている。


 


けれど――


 


「それでも!」


 


ユズは迷わなかった。


 


声は小さく震えていたが、確かに前へと踏み出している。

自分には“何もない”と知っているからこそ、掴みに行くしかない。


 


サファリングは、その様子をじっと見つめ――


 


「……わかった。私に触れて」


 


「はい!」


 


ためらいはなかった。


 


ユズはそっと手を伸ばし、サファリングに触れる。


 


その瞬間――


 


「行くよ……」


 


「っ!?」


 


世界が、反転した。


 


音が消え、空気がほどけ、

視界が光に溶ける。


 


ユズの中へ、何かが“流れ込んできた”。


 


(なに、これ……流れ込んでくる……)


 


冷たいようで、熱い。

重たいのに、逃げ場がない。


 


(あれは?)


 


視界の奥に、小さな光が浮かんだ。


 


ユズは、それに引き寄せられるように手を伸ばす。


 


――触れた。


 


 


 


次の瞬間。


 


 


 


「ッ!……あれ?ここは……」


 


足元には、柔らかな光を帯びた地面。

空とも地面ともつかない、淡く揺らぐ空間。


 


そこは、どこまでも広がる“何か”だった。


 


「サファリングさん!?どこに……」


 


声は、どこかに吸い込まれていく。


 


すると――


 


(……ここは、感情の園……私の心)


 


どこからともなく、サファリングの声が響いた。


 


「え……心……?」


 


(……進んで……)


 


その声に導かれるように、ユズは一歩を踏み出す。


 


足音はしない。

けれど確かに、進んでいる感覚だけはあった。


 


やがて――


 


中央に、ひとつの台座が見えてきた。


 


そこには、不思議な光を宿す宝玉が置かれている。


 


透き通るようでいて、どこか濁っている。

青にも黒にも見える、曖昧な色。


 


(その宝玉に触れて……それは感情石……フィーリングストーン……その色は、苦しみの色の石……)


 


サファリングの声が、静かに響く。


 


ユズは、ごくりと息を飲み込んだ。


 


「はい……!」


 


手を伸ばす。


 


少しだけ、怖かった。


 


けれど――


 


触れた。


 


 


 


「……っ!?……何かが流れ込んでくる!」


 


 


 


それは、洪水のようだった。


 


押し寄せる、感情。


 


映像と音と痛みが、境界もなく混ざり合いながら、

ユズの中へと流れ込んでくる。


 


 


――「苦しみよ……なんでこんなことに……お母さんどこ……」


 


小さな女の子の声。


暗い部屋。

泣き声。

助けを求める手。


 


――「苦しい……苦しいよー……!」


 


男の子の叫び。


胸を押さえ、息を荒げ、

どうにもならない何かに押し潰されている。


 


――「嫌だー!嫌だー!!」


 


逃げ場のない恐怖。

何かに追われ、何かに縛られ、

ただ叫ぶことしかできない。


 


 


(……流れてくる……)


 


ユズの視界が揺れる。


 


(記憶と感情が……)


 


胸が締め付けられる。


 


(これが……苦しみ?)


 


息が、苦しい。


 


けれど――


 


その中に、確かに“色”があった。


 


暗く、重く、沈んでいくような色。


 


けれどただ暗いだけじゃない。


 


叫び、涙、絶望。

そのすべてが混ざり合った、濁りのある青。


 


(……描ける……)


 


震える指。


 


(描ける……気がする……)


 


 


 


――意識が、浮上する。


 


 


 


「……っ」


 


視界が戻る。


 


「おかえり」


 


目の前には、サファリングがいた。


 


元の淀川河川公園。

夕焼けは、すでに夜へと沈みかけている。


 


「あれ?戻った?……」


 


そこで、ユズは気づいた。


 


「……ッ!?サファリングさん!どうしたのその身体!?」


 


サファリングの腕や首、露出している部分に、

青黒い“痣”のようなものが浮かび上がっていた。


 


まるで、何度も打たれたかのような――


 


「あぁ、気にしないで。ただの模様だから」


 


さらりとした返答。


 


けれど、ユズは思わず息を呑む。


 


(殴りあとが模様!?……)


 


異様だった。


 


その“模様”は、ただの装飾ではない。

確かに“痛み”を感じさせる何かだった。


 


「私は最初に生まれた上位想霊感情体……人間の苦しみから生まれた……」


 


サファリングは、どこか懐かしむように空を見上げる。


 


「平安は……“色んな意味で治安も悪かったから”……色んな事があった……」


 


その言葉には、重みがあった。


 


ユズは、恐る恐る尋ねる。


 


「……例えば?」


 


サファリングは、少しだけ間を置いて――


 


「……暴力、暴言……あと~強〇?」


 


 


「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?せせせセンシティブだよ~!!」


 


ユズは思わず飛び上がった。


 


顔を真っ赤にしながら、慌てふためく。


 


サファリングは、くすりと笑う。


 


「ふふっ!ごめんごめん。まぁ、これでわかったかな」


 


「……あ、はい!」


 


ユズは大きく頷いた。


 


その目は、先ほどとは違っていた。


 


「少し待っててください!」


 


タブレット端末を取り出し、

素早くイラストアプリを起動する。


 


ペンを握る手は、震えていない。


 


さっき感じた“何か”が、確かに残っている。


 


線を引く。


 


色を乗せる。


 


あの苦しみの感情――

あの重さ、あの色。


 


それを、必死に形にする。


 


 


時間が、静かに流れた。


 


 


やがて――


 


「できた!見て!」


 


ユズはタブレットを差し出した。


 


そこには、一人の少女が描かれていた。


 


片目を隠した少女。

青黒い痣。

そして、どこか儚く、それでいて強い瞳。


 


「これは、私?」


 


「うん!どう?」


 


サファリングは、しばらく絵を見つめ――


 


「うん、よくかけてる。でも、」


 


その言葉の続きを、ユズは先に言った。


 


「うん。一つの感情がわかったって、全部の感情は上手く描けないよね……」


 


まだ足りない。


 


これは“始まり”に過ぎない。


 


サファリングは、ゆっくりと頷いた。


 


「だったら、私が感情体のいるところに連れて行ってあげる……」


 


「え?」


 


「少し危険かもだけど、会って感じたほうが良いと思う……どう?」


 


ユズは、一瞬だけ考えた。


 


怖さはある。


 


でも――


 


それ以上に、知りたい。


 


「……わぁ、うん!ありがと!」


 


その笑顔は、まだ未完成で、ぎこちない。

けれど確かに、“前に進もうとする意志”があった。


 


サファリングは、静かに微笑む。


 


「うん。それじゃあ、行こうか」


 


「はい!……あの、どこに?」


 


サファリングは、夜空を見上げて言った。


 


「奈良……」


 


「え!?」


 


思わず声が裏返るユズ。


 


静かな公園に、その声だけが響いた。


 


こうして――


 


色を知らない守護者と、苦しみの想霊は、

次なる感情を求めて歩き出す。


 


まだ見ぬ“色”を探して。

ここまで読んでくれてありがとうございます

次回もお楽しみに

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