歩き続ける誇り
「アルケオン 第二章 感情の色を探して」
彩葉たちの活躍から、十年――。
世界は大きな戦乱もなく、静かな平和を取り戻していた。
日本・大阪府大阪市。
その街に、一人の守護者が存在していた。
イラストから生まれた守護者――ユズ。
絵を描くことを愛する彼女は、
しかしひとつの欠落を抱えていた。
それは――
“色で感情を表現できない”こと。
どれだけ描いても、そこに宿るはずの“想い”が分からない。
色が、ただの色にしか見えないのだ。
そんなある日、ユズは一体の想霊と出会う。
苦しみの上位想霊――
感情体「サファリング」。
感情から生まれる存在である彼女は、
ユズの“欠落”に興味を抱く。
そしてユズもまた、
“感情とは何か”を知るため、彼女と共に歩むことを決める。
タブレット端末を手に、
二人は旅に出る。
喜び、怒り、悲しみ、愛――
さまざまな感情から生まれる“想霊”を探すために。
これは、色を知らない守護者が、
“感情の色”を探し出す物語。
そして――
世界に隠された、新たな異変へと繋がる物語でもあった。
郷愁という感情を胸に刻み、
ユズとサファリングは琵琶湖を後にした。
あの静かな湖畔で感じた、懐かしさと切なさ。
それは今も、ユズの心の奥でやわらかく揺れている。
電車は夜を越え、やがて朝の光を迎える。
窓の外に広がる景色は、少しずつ変わっていった。
静かな湖の風景から、
徐々に建物が増え、道が広がり、人の気配が濃くなる。
「……ここが」
「愛知県」
サファリングが静かに言った。
駅を出ると、そこには賑やかな街並みが広がっていた。
行き交う人々。
立ち並ぶ店。
遠くから聞こえる車の音。
奈良や滋賀とは違う、“都市の空気”。
「すごい……人がいっぱいですね」
ユズは少し驚いたように周囲を見渡す。
「ここにいるのが……プライド……ですか?」
サファリングは、首を横に振った。
「いや……あの子は少し特殊でね」
「特殊……?」
サファリングは、ゆっくりと歩き出しながら説明する。
「本来、感情体は“生まれた場所”から離れない」
「え?」
「感情が生まれた場所……そこが“核”だから」
ユズは、これまで出会った存在たちを思い出す。
奈良公園のホープとデスペア。
琵琶湖のノスタルジア。
確かに、皆その場所に“根付いていた”。
「でも……」
サファリングは少しだけ間を置く。
「極稀に、そこから離れて歩き回る個体がいる」
「……え?」
「プライドは、その一人」
「そうなんですか……」
ユズは少し驚いた様子で呟く。
サファリングは、どこか遠くを見るように言った。
「……私も、その一人だけどね」
「えっ?」
ユズが振り向く。
「サファリングさんも……?」
「うん。だから、こうして外を歩いてる」
その言葉は、さらりとしていた。
けれど――
どこか特別な意味を含んでいるようにも感じられた。
「じゃあ……プライドも、どこにいるかわからないんですか?」
「そういうこと」
サファリングは軽く頷く。
「だから……探すしかない」
二人は、街の中を歩き始めた。
商店街。
公園。
路地裏。
人の多い場所も、静かな場所も、
あちこちを巡る。
「……見つかるかな」
ユズが少し不安そうに呟く。
「感情体は、感情があるところにいる」
サファリングの答えはシンプルだった。
「自負……つまり“誇り”」
「誇り……」
ユズは考える。
(誇りって……どんなところにあるんだろう)
強さ?
自信?
それとも――
そのとき。
遠くから、楽しそうな声が聞こえてきた。
「こっちこっちー!」
「すごい!もう一回やって!」
子どもたちの声。
ユズとサファリングは顔を見合わせる。
「……行ってみよう」
サファリングが言った。
声のする方へ向かう。
そこは、小さな公園だった。
数人の子どもたちが集まり、
楽しそうに何かを囲んでいる。
その中心に――
一人の少女がいた。
明るい髪。
柔らかな笑顔。
子どもたちと同じ目線で、楽しそうに話している。
「すごいでしょ?これ、みんなでやったんだよ!」
「うん!すごい!」
「えへへ、でしょ~?」
その声には、どこか自信があった。
けれどそれは、押し付けるようなものではなく――
誰かと分かち合うような、やさしい“誇り”。
ユズは、思わず足を止める。
「……あの人……」
サファリングも、静かに頷いた。
「……見つけた」
「自負」を司る上位想霊感情体――
プライド。
彼女は、その場にとどまることなく、
人々の中で、感情と共に生きていた。
子どもたちの笑顔の中で。
その中心で――
誇りという感情を、やさしく灯しながら。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




