表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

おしえてください。

作者: 夏野 篠虫

 突然すみません。教えてください。お願いします。

 私はおかしいんでしょうか。


 ”彼ら”と一緒にいるのはもう耐えられないんです。どれだけの時間を過ごしても理解できない存在と、あなたは同じ空間を共にできますか?

――え、あ、はい。逃げようとしましたよ。当然じゃないですか。

 隙を見て何度も部屋を抜け出して、口呼吸のし過ぎで血が混じるくらい何度も走って。電車を使い何度も乗り換えして知らない街まで行きました。貯金も崩して何度もホテルを変えて身を隠しました。

 でも無駄でした。そこにいました。どんな場所にも彼らはいます。絶対に逃げられません。

 気が狂いそうです。もう狂ってるのかもしれない。だとしたら彼らだけじゃない。私も手遅れです。

 夢を見るんです。彼らと共に歩き、語らい、酒を酌み交わす毎日を甘美に思い、悦楽に浸りながら生きる夢。でもそれは夢なんです。現実じゃない。

 現実の中は、遊んでもご飯を食べてもお風呂に入っても寝ていても、辛いんです。

 なんで私がこんな目にあわないといけないんですか?

 私、何か悪いことをしたんでしょうか。心当たりは一切ありません。28年間をまっとうに生きてきたつもりです。そりゃあ多少の嘘はつきますし、ばれてはいませんが昔に軽い罪を犯したこともあります。

 でもこんなに苦しまなければならない罪でしょうか?

 毎日生きるだけで精一杯の私が、誰かに多大な迷惑をかけているわけでもなく慎ましく大人しく生活している私が、生き地獄のような時間を味わう必要があるのでしょうか?

 一体誰がこんなことをしてくるんですか。それを知りたいんです。

 でもやっぱり心当たりがないんです。拷問に等しい処罰に見合う大罪を犯した心当たりが。

 だから私が狂っていると考える方がまだ自然なんです。

 それも認めたくはありませんが、存在しない罪の意識に苛まれるくらいなら自己に潜む狂気を受け入れたら楽になれると思うんです。だから教えてください。

 私はおかしいんでしょうか。


――すみません。矢継ぎ早に喋ってしまいました。

 これだけで判断しろというのは無理な話ですよね。

 彼らの詳細をお伝えします。

 先ほど嘘をつくこともあると言いましたが、ここで嘘はつきません。担保はありませんが信用してください。

 話を聞いたうえで私がおかしいのか、判断をお願いします。



    *  *  *



 目覚めると顔が見えます。仰向けの私を4つの顔が覗く、毎朝です。

 彼らは笑ってます。常に笑顔です。

 ニコニコではないです。ニヤニヤしてます。ニタニタしてます。それが基本の表情です。

 中学生でさえも飽きて物も言わないようなくだらない話を交わしてはゲラゲラと、箸が転んでも笑っています。

 だから初めはただ馬鹿にされ、おちょくられているだけだと思ってました。

 この通り、私はなんの取り柄もない、稼ぎも少ないぱっとしない会社員ですから。人から馬鹿にされても仕方ない。たとえ何を言われても冗談を浴びせられても笑って流そう。大人だからと耐えていたんです。

 でも違いました。彼らはいつも本気でした。冗談は言わない。何をするのも本気です。笑いの奥に堅い意志がありました。尋常ならざる気配を背後に備えていました。

 彼らは白目が少なくて、黒目が多いんです。両端に見えるわずかな白目は充血してました。黒々した瞳で、瞼が千切れるんじゃないかと思うほど大きく見開いています。

 そして壁の中から手招きするんです。

 いやドアじゃないです。壁の中からです。部屋の壁の漆喰ボードの内側から声をかけてくるんです。嘘じゃないです。

 床の下からの時もあります。

 私の名前を呼ぶんです。耳元で叫びます。潰れた喉が空気を送る度にガラガラ鳴るんです。音の濁った風鈴みたいな音で、高いのに低い音がします。


 今ですか? 聞こえますよ。

 四六時中聞こえてます。風の音、足音、店の音、電車の音、車の音、それらと一緒に聞こえます。右耳でそれらの音が聞こえたら、左耳には彼らの声が聞こえるんです。

 遊びに誘ってきます。すっごく面白い遊びをしています。はい、楽しくはないです。

 彼らは人間ですよ。たぶん普通の人間。平均的な大人の身長と体重です。すみません、男か女かはよくわかりません。

 4人とも、よく似てます。4つ子かもしれません。

 顔が似てるんです。同じみたいな顔。

 でも全員位置がバラバラしてます。何がって顔のパーツがです。

 目も口も、鼻も耳も眉も。頬も額も。ああ、歯もです。犬歯と奥歯が入れ替わったり上の前歯と下の前歯が逆だったり。

 パーツを一つずつマウスで選択して右クリックでコピーして右クリックでペーストしたように、少しずつずれてます。

 あと全身に色がついてます。人種ではないです。朱色とか藍色とか鶯色とか虹色です。そんな人種いましたっけ? 詳しくないので私は知らないです。何も知らないんです。

 だから24時間そばにいるんですよ。私のそばにいます。起きた時から寝る時まで。

 今もいます。


 あ、いないです。家にいます。ごめんなさい。いなかった今はいない。本当に本当です。ごめんなさい。



 彼らは玄関に花を置いていきます。

 花の種類? 色々です。季節ごとに色々。

 菊、百合、睡蓮、薊、曼珠沙華など色々です。

 早朝にドアを開けると、一枚一枚バラした花弁を元に戻すようにそっと、玄関前に丁寧に置いてあるんです。

 何かのメッセージでしょうか。

 意味はわかりません。

 バラバラの花弁は何を表しているでしょうか。

 手足でしょうか。頭でしょうか。高所から自由落下した、重力に潰された五臓六腑でしょうかね。わかりません。よくわかりませんでした。

 たまに花はなくて白い石が置いてあります。太陽を反射してキラキラ光ります。

 晴れの日は傘もあります。

 クマのぬいぐるみは可愛いです。酸っぱい蜜が粒になって空から垂れてきてシャワーを浴びます。においが好きです。



 そういえばベランダには鳥が、夜に来ます。

 手すりのところに4羽来ます。大きいです。人間の子供くらいの大きさ。種類は分かりません。鳥博士じゃないです。4羽は色違いの服を着ていて喋ります。

「出てこい出てこい」

「飛べ飛べ」

「沈め沈め」

「帰ろう帰ろう」

 ずっと話してずっと喋っています。喋らない時はブリキ缶のような嘴で窓ガラスをガンガン叩きます。うるさいです。やぶれそう。

 うるさくて眠れない。昼間も朝も眠いです。最近は毎日です。眠れなくて眠れなくて。くまができました。

 でもほら。今はくまはもうないですよ。なくしました。真っ黒に黒ずんだ皮膚が嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌でずっとごしごし擦ってたら削れました。

 皮膚が赤く赤くなって満足です。でもすぐにこんなに硬く黒くなっちゃう。そしたら何度も擦らないと戻りません。あとでいっぱい擦りますね。


 怪我が増えたと思いますか? そうだと思いますよね。

 これ。腕のところに針でひっかいたみたいな線が何本もある。

 首に小さな穴がぷつぷつ空いてます。ちっちゃなちっちゃなアリが出たり入ったりしてるのを朝に見ました。

 はい。左手の小指が曲がったままなんです。戻したいけど痛いのは嫌い。

 いたいのはきらい。


 爪がない。ぜんぶ剥がれちゃった。髪の毛もボサボサ抜けてくる。邪魔だと切っちゃう。前髪がいっつも邪魔。右の耳も伸びてきてる。左も伸びてるかも。

 パンッて、口の中に鉄の味がたくさん出てきてる。


 お腹に丸いのが何個もあるから。

 むかーしのことだよ。ジュッて火が熱かった。だから覚えてる。臭い煙。臭い息。忘れない。


 かたいほねがばきん、ぼきん。みんなわらってたの。

 立てなくなった。そばにだれもいなかった。

 ひとり。みんなはみんなだ。

 ひとりで死ねなかった。うるさいのに。



    *  *  *



 ふぅ。

 一度に色々と喋りすぎました。疲れましたね。

 冗長な話を聞いてくれてありがとうございます。


 どうでしょう。

 やはり私はおかしいでしょうか。


――え?

「彼らは誰なのか」ですか。


 ああ。これは大変失礼しました。

 喋りに夢中になるあまり、肝心な情報が抜けていましたね。私にとっては分かり切ったことなので始めにお伝えすべきことなのにすっかり忘れていました。すみません。



 両親と祖母と兄です。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
………、うん、何も分からん。暗喩か何かかと、何度か読み返したが、さっぱり理解不能。 無理繰りに曲解すれば、精神疾患持ちでニートな次男を家族がどうにか更正させようとしている…、その次男の独白。そんな気…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ