閑話4『日常』
『…………絶望だ~』
『…………今日は、どうしたんだ、アキ』
『…………』
『無言で見られても分からないぞ!?』
直人が家に帰ってくるなり、例により例のごとく、居候の少女が絶望している。言葉ほど深刻な状況ではないが、放っておくのも忍びない。
「……お兄さん、最近でかけることが多い。だから、わたし一人きりですごくひま」
「……それは、すまん」
ここ最近は平日の日中だけでなく、仕事が終わってからや休日にも家を空けることがあったせいで、寂しい思いをさせてしまっていたようだ。……誘拐犯に対して寂しいも何もないはずだが、妙に懐いているので、そういった感情もあって当然だった。
「……何か、すること、ない?」
「そうは言っても……」
家事分担は現状から動かせないし、勉強だって毎日地道にやっているっぽい。となると、考えるべきは、娯楽か趣味か。
「……男の一人暮らしだから、おもちゃとかないしな」
テレビゲームだって壊れたり、使わなくなって売ったりですでにない。テレビがあるから、ひたすらテレビ番組を見ることくらいはできるかもしれないが。
「……ブルーレイプレイヤーとかないの?」
「残念ながらないな。前に持ってたのが壊れてそのままなんだ」
なので、録画も再生もできない。
「……でも、確かにDVDとか借りてきて映画を観るというのも悪くないかもしれないな」
問題なのは、何かしら再生するデバイスを買う必要があるということ。レコーダーを買おうとすれば、2万円くらいはするだろうし、PCだったらもっと高くなるだろう。
「……いや、再生だけならさほど高くもないのか?」
ネット調べてみると、録画機能もあるレコーダーはそれなりの値段がするが、再生だけしかできない小型の者であれば、六千円ほどで割とリーズナブルだということが分かった。
「…………買うの?」
「買えば、退屈しのぎにはなるだろう」
……誘拐してしまった負い目か、あるいは、可愛い妹の望みを叶えるためだからか、このくらいの費用なら問題ないと腹をくくる。……本当は、レコーダーを買えるだけのお金があったら良かったのだが、今のところ、それだけのお金は持ち合わせていなかった。
「…………DVDはどうする?」
「それは、レンタルショップで…………。あ」
ふと気付く。アキが自由に外に出られる立場ではないということに。
「いや、借りる手段は他にも……」
「……レンタルでたくはいはなかったと思う」
「うぐっ」
「…………映画みるだけなら、スマホでよかった」
「うごっ」
「…………考えてみたら、とくにみたい映画、なかった」
「マジかぁ」
今までの問答はいったいなんだったのか。がっくりと肩を落とす。
「…………ひまつぶしにはなるかと思ってきいてみた、だけ」
「そうか」
そして、話は振り出しに戻った。
「……アキ、何か、趣味は?」
「……あったら、困ってない」
「だよな」
あると言われても、お嬢様がするような趣味じゃ、道具をそろえることはできないだろう。
「となると、何か新しい趣味を探すとか?」
「…………いいかもしれないけど、何する?」
「…………えーと」
咄嗟に何も思いつかなかった。いや、プラモづくりとか筋トレとかは思いついたが、おおよそ女子に勧めることではないから言えなかっただけだ。
「…………アキは何か心当たりあるか」
「…………けん玉」
「初手がけん玉!?」
だが悪くはない。
「大して値段もしないし、今度買ってくるよ」
「…………ありがとう」
ぺこりとおじぎをしてお礼を言ってくれる。礼儀正しいところはさすがお嬢様か。……仕草が微妙に庶民的になってきているのはやはり自分のせいか。
「それにしてもなんでけん玉」
「……一度やってみたかった。…………こまとかめんことか、昔の子どもの遊び。…………けん玉が一番人気、だと思って」
「なるほど」
そういえば、自分も昔、コマ回しにやっきになっていた時期があったような気もする。…………けん玉はまったくできないので、若干申し訳なくなる。…………きっとアキなら独力で上手くなるだろうからひとまず良しとしよう。
「……………」
「…………アキ、他に欲しいもの、あるか?」
尋ねたのは、彼女の表情に少しだけ陰りがあったから。けん玉の件は済んだはずなので、別に話したいことがあるはず。
「………………」
黙って直人を見返すアキ。しばしの沈黙のあと、彼女は上目遣いにそもそもの言いたかったことを口に出す。
「…………お兄さんと遊べるもの、がほしい」
「!」
今日一、ドキリと来るセリフに言葉が出てこない。そうだ、元々彼女は一人が寂しいという話をしていた。重要なのは一人の時の暇つぶし方法ではなかった。早く帰ってきてほしいという思いこそ大切だったわけだ。
「…………分かった。それも買ってくるよ。何がいいとかってあるか?」
……今は何かとやることがあるが、それもじきに落ち着く。そうなれば、家にいられる時間も増えるだろう。…………。
「…………オセロ」
「分かった。そういうボードゲームっぽいのがいいんだな」
「……うん。ルールを覚えないといけないけど、しょうぎとかいごもやってみたい」
「お、おう。それは俺も覚えないといけなくなるが、考えておく」
「…………ありがとう」
「! どういたしまして」
お辞儀の代わりに浮かべてくれた微笑みに癒されつつ、娯楽品の購入リストを着実に埋めていく俺たちであった。




