第十三話『記者』
『……………絶望的に人がおらんやん』
『方言出ちゃってますよ』
『ええんよ、カメラ回ってん時は』
『…………関西出身ってこと隠してるにしては、甘くないですか』
『………………(君の前だけやっちゅうねん)』
「だれかいますわね」
「ん~、なんか後ろの人大きなカメラ持ってるよ~」
「…………それよりなんかイチャついてるような」
学校帰り、街を通りがかった三人は、不意に見知らぬ二人組を見つけ足を止める。一人は大柄な男性で、大きなカメラを担いでいる。もう一人が女性で片手にマイクをもっている。着ている服はラフなものだが、どことなく仕事感があり、持っているものからして取材に来た記者ではないのかと思われた。
「おそらく、あの場所の取材に来たんですわね」
「お~、SNSでバズったやつ~」
「……そこまで観光客は増えなかったけど」
この島、実は東京都に属し、アクセスは良い方だ。ただ、例の絶景が見られるのが夕方ということもあり、船がなくなる可能性がある。そのため、少なからず一泊する必要がある。天気の問題もあり、空振りが普通にあり得るということから、元々の観光客数からは微増にとどまるわけだった。
ちなみに、宣伝のために絶景の撮影はすでに行われていて、島のホームページやSNSにアップされている。明姫的にはあの時見た景色ほどではなかったが、一見して綺麗であることに代わりはなく、ネット上ではかなりバズっていた。
「あ」
「……目が合いましたわね」
「第一村人発見~」
「…………これ、もしかして取材される流れ?」
顔をしかめて、スッと一日の後ろへと隠れる。
「明姫ちゃん~?」
「…………取材、はずかしい」
「? そっか~、じゃあ、隠れているといいよ~」
一瞬疑問に思いつつも、一日は素直に頷く。鏡花も明姫を一瞥してから、自分が矢面に立とうと一歩に前に出る。
「あの~、すいません」
やっと見つけた村人、逃がしてたまるものか、そんな意志を感じさせながら、小走りでやってくる。目が合った時点で来ると分かっていた、とばかりに鏡花は人受けの良い笑みを浮かべる。
「ごきげんよう、どうかされました?」
「(ごきげんよう?)」
戸惑いのオーラが漏れたが、そこはさすがプロ。すぐに本題へと入る。
「私は東京のテレビ局から来た高橋と申します。こっちはカメラマンの堀江です」
「…………」
堀江は無言で会釈をする。
「私たち、今、SNSで流行っている『遺跡夕景』の取材に来たんですが、知っていたりします?」
「ん~、知ってるよ~、だって~、もごもご」
これ以上言ったら話が長くなるので、明姫が背後にいることをいいことに口を手でふさぐ。
「見つけられた時にさわぎになったので、もちろん知ってますわよ」
鏡花もおなじことを考えたのか口裏を合わせてくれる。口をふさがれている一日を不思議そうに見ながらも、そこには触れず、取材を続ける。
「そうなんですね。ちょっとの時間だけお話を聞きたいんですけど大丈夫ですか」
「わたくしは大丈夫ですわよ」
鏡花がチラリと一日たちを見る。明姫はもういいかと手を外す。
「一日も面白そ~だからいいと思うよ~」
「…………ちょっとなら」
二人が乗り気なのに水を差すわけにはいかない。それにカメラに映りたくないっていうのは自分が気にし過ぎなだけでもあるし。
「ありがとうございます!」
愛想笑いではなく、本当の意味での笑顔を浮かべ軽く頭を下げる。
「では、早速なんですが、皆さんは『遺跡夕景』を見たことはありますか?」
「ん~、あるよ~」
さすがに明姫の思考は読み取ってくれたらしく、ここまでで発言を止めてくれる。
「! そうなんですか! (やったー、いきなり見たことある人なんてついとるやん!)」
あからさまに嬉しそうな高橋を目の当たりにし、明姫はびくりとして一日の服の裾を握る。……もしかしたら、これも伏せた方が良かったかも?
「それで、その絶景をどんな感じだったんですか?」
後悔しても言ってしまったあとではもう遅い。幸い、発見者であることはバレていないので、辿り着くまでの話は端折ってもらえた。
「ん~、すごくキレイだったよ~」
「ええ。わたくしが今まで見た景色の中で一番でしたわ」
「……わたしも、感動した」
自分だけ発言しないのはなんなので、明姫も本音を明かす。今、思い出しただけでもドキドキとしてくるほどに心を揺るがしてくれた。
「なるほど。私も画像を見ましたが、実際に見るのとはやはり違うみたいですね」
三人でこくこくと頷く。その姿を微笑ましいなと思いながら見ていた高橋は、よしと勝手に決める。
「私もぜひ見てみたいですね。今日とか見れたりしますかね」
時間帯ならば合わせにいける。あとは天気の方。空を見上げてみれば、カラッと晴れていて、一見して観光日和な気がする。
「…………今日は雲が少ないから、オレンジのグラデーションが今一だと思う」
このごろ毎日天気を吟味しているから間違いない。今のところ、あの日を越えられるような雲模様は見つけられていない。すなわち、直人とも一緒に見にいけていない。
「(えらい詳しいなぁ)……それは残念です」
しょんぼりとする高橋。……なんとなく、この人は一応は見に行くだろうなと思った。取材としては間違っていないし、最高じゃなくても展望台から見られるくらいのきれいな景色は拝めることだろう。
「――本日はありがとうございました。気をつけて帰ってくださいね」
二言三言話したあと、彼女たちは街を遺跡の方へと向かって歩き出す。その後ろ姿を見送ってから、三人も気を取り直して帰路に着く。
「…………明姫さん、カメラ苦手だったんですわね」
「……まあ、うん」
「ん~?」
「…………なんかお嬢様っぽいのがおったな~」
「ほんわかした子もいましたね」
「……その子の影に隠れてた子もおったし、個性的な三人やったな~」
雑談しつつ、人に会えば取材をする。そのうち、噂の絶景スポットまでやってきた彼女たちは景色を目の当たりする。果たして、その出来栄えは――。




