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第十二話『七不思議その七』

『………………』


『なぜ、無言? そして、なぜそんなに難しい顔をしてるんだ?』


「……人生ままならない」


「急にどうした!?」


 明姫の風邪が治ってから三日後。満を持して、最後の戦い(明姫にとって)が始まろうとしていた。

「…………七不思議を確かめるのもこれで最後。だから、ほっとはしてる」

「……おう」

「でも、七つ目が一番大変って聞いたし」

「…………なんとかなる、と思うぞ?」

「なんとかなってからじゃおそいんだよ!」

 なんか変なところで大声を出された。シンプルな話、気負っているらしい。

「……とりあえず、お茶飲んで落ち着け」

「……うん」

 数分後、落ち着きを取り戻し、てはいないが、いくらかまとも話せるようになった明姫が天井を見上げる。

「……あのしみ、顔に見える」

「現実逃避してないで、待ち合わせ場所に行け」

「…………直人、冷たい」

「冷たくない」

 七不思議自体、別に心配するほどのことはない。明姫がこの様子だったので、七不思議についてはあらかじめリサーチをしている。今までの六つも含めて、危険もなければ怖くもない噂。ゆえにこれだけ恐れている明姫でも乗り越えることが可能だと踏んでいるわけだ。

「……………」

 とはいえ、すごいじと目で見てくる彼女を放置しておくわけにもいかない。さて、どう声をかけたものか。

「……なあ、明姫、最後に残った七不思議って遺跡のやつだよな」

「……うん」

 舞台は島の南東にある遺跡。規模はさほどではあるものの、かつて土器が大量に出土しており、現在は石碑や解説の札が置いてあったりで史跡としては立派なものではある。子どもの遊び場所とはならないため、明姫も行くのは初めて。その不安もあるだろうが、一番は七不思議の内容か。

『島で最も古い土器が眠る場所の地下深くに戦時中の遺産が埋まっている』

 ……色んな不安になるのは分かるが、大人からすれば現時点で特に不気味には感じられない。オチまで知っている直人は恐怖を覚える方が難しいほどだ。

「(……ネタを教えられればいいんだが)」

 ネタバレは一日や鏡花に怒られかねない。何より、貴重な経験を明姫から奪うのは忍びなかった。

「…………頑張れ」

「結局、そこに落ち着くの!?」

 がばっと起き上がり、声を荒げる。ちょっとだけ元気になった。

「……俺は、明姫を信じてる」

「………………………ばか」

 ぷるぷると震えながら告げたと思うと、彼女は一目散に玄関から外へと出ていく。一応、遅刻しそうだという自覚はあったらしい。

「……なんか、予期せぬことが起きそうだな」

 明姫を見送ってから、直人は勝手に不穏なフラグを立てるのだった。



十分後、小学校で合流した三人はさっそく遺跡へと向かう。

「ん~、戦時中の遺産って何~?」

「分かりませんわ。それを解き明かすのが目的ですわよ」

「……変なものじゃないといいけど」

 この遺跡では過去に土器が大量に見つかっている。間違って人骨が大量に出てきてもおかしくはない。

「…………やっぱり絶望だ」

「そんなに心配しなくても大丈夫ですわよ。いわくつきのものなら大人がテッキョしているはずですわ」

「……それならいいけど」

 戦時中というワードがどうにも不気味で、鏡花にフォローしてもらってももやもやは消えない。……今回は霊関係ではないことを願う。

「あ~、見えてきたよ~」

 一日が指差す先を見てみると、ぽつりぽつりと立つ木々の間にほこらのようなものがある。その脇には立て札があり、それの名称と説明が記してある。

「…………せっかくだからじっくり読もう」

「ん~、一日、文字読むの苦手~」

「……明姫さん、時間かせぎしようとしてませんか?」

 じと~っと見られ、観念する。さらっと読み飛ばし、鏡花に導かれるままに奥へと進んでいく。南東部は小高い丘になっており、坂を上るごとに石碑と説明文が視界に入る。その内容にも不審な点はない。この島のなりたちとか石碑などのことをさらっと説明しているだけ。石碑のうしろとか木々の影とかも見てみたが、何も不審なものはない。今回は空振りかと喜び勇み、帰ろうと提案、しようとした明姫が不意につまづく。

「あ」

「明姫さん!?」

 幸い転びはしなかった。ちょっとバランスを崩し、石碑触れてしまっただけ。……大分強めに。

 ガガッ。

 不穏な音が響き、石碑がスライドする。歴史遺産を壊してしまったと青くなる鏡花をよそに、下手人であるはずの明姫の方が冷静だった。

「だれも見てないからにげれば大丈夫」

「そういう問題ですのん!?」

「もしくは、すぐにズレた石を元にもどせば」

「お~、しょうこいんめつだね~」

 勝手に了解した一日が石碑に触れる。

「も、もとにもどすのは良いですけれど、大人には言ったほうがいいですわ」

「…………ジョウダンはこのくらいにして」

 本当はまあまあ本気で言っていた。

「…………もどす前に気になることがある」

「? なんですの?」

「……風の流れが変わった」

「ん~、どういうこと~?」

 真剣な面持ちであたりを見渡したあと、ある一点に目を向ける。

「そこ」

 指差したのは、ここまで上ってきた坂道から逸れ、木々で隠された石壁。一見何の変哲もない石壁だが。

「ん~、なんか~、スキマがある~?」

「うん。そこから風がふいてきてる」

 え? と戸惑いの声を上げながら鏡花が指差す方へ近づいていく。

「……確かに入れそう、ですわね」

 隙間はギリギリ人が一人通れるほどの長さしかない。しかし、風が通っていることからこの先がどこかに通じていることは確かだった。

「……でも、さきほど通った時は、何もなかったですわよ」

「そうだよね~、よくは見てなかったから見落としただけかもしれないけど~」

「ううん、なかったよ。……あのせきひを動かしたから開いたんだと思う」

 チラリと石碑を見てから開いた石壁へとピタリと手を振れる。

「…………どうする?」

「ん~、中に入って冒険したい~」

「あ、危ないですわよ。大人の方に確認した方がいいですわ」

 二人の意見が見事に別れる。つまり、決定権は明姫にあるということ、多分。

「…………きっと、これが戦時中の遺産につながってる、はず」

 これまでの七不思議同様、大人たちはこの七不思議を通過儀礼のように扱っている。となれば、話のタネだって知っているはず。……怖いものは怖いにしたって明姫もそれくらいは理解している。……この仕掛けだって、元々遺跡にあった仕込みだったとしても彼らは把握しているのだろうと考えられる。……直人もこそこそ色々調べていたみたいだし、案外この道も隠されているだけでメジャーなものだったりするのかもしれない。

「…………そういうことなら、行ってみましょうか」

「……鏡花ちゃんもきょうみしんしん」

「ん~、一日も面白そ~だと思うよ~」

「わ、わたくしは、七不思議を解き明かしたいだけですわ」

 今日は母親から何も聞いていないらしく、彼女もそれなりにわくわくしているらしい。

「…………行こう」

 頷き、三人で石壁の隙間から中へと侵入していく。自分から提案したということもあり、先頭は明姫。次に好奇心旺盛な一日が続く。しんがりは鏡花がつとめ、もしもの時の退路を確保している。

「…………暗い」

 太陽光が入る隙間は入口しかなく、三人がぞろぞろと中に入っていったせいで、シンプルに光がシャットアウトされてしまい、何も見えないくらいになってしまっている。

「…………仕方ない」

 なるべく道具を使いたくなかったと思いつつ、彼女は文明の力たるスマホのライトを点灯させる。

「…………せまい」

 照らしてみて見えたのは自然のままにされた石の壁。ごつごつとしたそれが方々を囲っており、圧迫感がある。意図的に作った様子がなく、人がやっと一人通れるほどの幅しかない。……石碑を動かすことによって開く仕組みなら、人の手が入っていてもおかしくないが。

「…………何もない」

 昔に作られて放置されていたにしたって人の気配がなさすぎる。大人たちがこの道をみつけていなとしたら危険がないように何かしらしていてもおかしくないのに。

「……足元、気をつけて」

「はいですわ」

「うん~」

 地面も何の舗装もされていない大きめの石がごろごろとしている砂利道。ゆるやかなり坂になっているようで、足を滑らせないように配慮する必要がある。

「……どこにつながってるんだろう」

「行き止まり、ということはないですわよね」

「……ない、と思う」

 手をかざしてみると、微妙に風を感じることができる。入口からではないから、きっとどこかに出口があるはず。

 そのままスマホのライトを頼りに突き進み、ゆっくりと五分ほど歩いていくと、ついに奥に光が見え始める。同時にザザッとつい先日も聞いた響きが耳をくすぐってきた。

「……まさか、こんなところにつながってるなんて」

「お~、なんか、潮のかおりがする~」

「……本当にこの先に戦時中の遺産があるんですのん?」

 行きつく先を悟った鏡花が首を傾げる。何が眠っているにせよ、この場所だと劣化が早く遺産と言えるような状態であるとは考えにくい。そもそも何かあるとしたら、洞窟とも言えたここまでの道のりの途中のはずだ。暗かったとはいえ、脇道がなかったことは確認できている。

「…………見てのお楽しみ」

 つまり、もしも本当に遺産というものが存在するというのなら、道を抜けた先でなければならない。果たして、どんなものが待っているのか――。

「っ!」

「わ~~~」

「! これは」

 暗い通路を出て横並びになった三人が、視界に飛び込んできたそれを目の当たりにし、息を呑む。

 辺り一面が夕日の放つ鮮やかな陽光で染められ、視界を覆う。水平線の向こうへと徐々に沈む太陽を中心に、オレンジのグラデーションに包まれている。青かった空はパステルカラーに染められ、薄く出た雲は濃いオレンジ色を浮かび上がらせている。加えて、海に反射された光はキラキラとひと際明るく輝いていた。圧倒的で神秘的な雰囲気が醸し出され、時が止まったようになって鮮烈な美しさを現出していた。

「…………すごい」

「こんなところがあったのですわね」

「お~、さすが、戦時中の遺産~」

 三人ともが目の前の光景に魅入られ、ぽつりぽつりと感想を口にする。数分が経つと、光は徐々に弱くなり、オレンジ色も薄くなり、ただの海面と空へと戻っていく。

 小学生三人は気付いていなかったが、相応に運がよくなければこの光景は見られなかった。ある程度雲が出ていないと今回のように趣のあるような色彩にならなかったし、時間帯が夕方の太陽がちょうど水平線に沈むタイミングでなければ、上手く海面に反射することもなかった。

 島の西端には展望台もあるが、海面ギリギリからの景色が見られるこの場所でないと、絶景を拝むことはできなかった。季節によっては海の満ち引きで沈むことがあるので、それも僥倖ではあった。

 そんなこと、露知らず、満足した三人は来た道を戻り、石碑にまで戻る。

「…………一応、もどしておこう」

「そうですわね」

 あの光景を見たことで、これが七不思議の最後を締める『戦時中の遺産』だと信じていた三人は何の気もなく、現場の復元を行おうとする。次に七不思議の検証を行う子どもたちのためにも、あの通路は見えないようにしておかなくれてはいけない。

「ううっ、重いですわ」

「がんばろ~、鏡花ちゃん~」

「…………もう少し」

 ガタッ。

 なんとか石碑を元に戻し息をつく。これにて今日の七不思議検討は終了。さらに七つ目を終えたことで、すべての七不思議を制覇できたことになる。

「…………よかった」

「楽しかったね~」

「そうですわね」

 明姫だけ微妙に安堵をにじませながら、三人は笑顔を浮かべながら、足を街の方へと向けた。その時。

「ん~?」

「? どうしたんですのん?」

「スキマふさがってないよ~」

「え?」

 鏡花が急いで石壁のもとへ走り確認すると、一日が言った通りであると理解する。

「…………大人に言わないといけないですわね」

「ん~、そうだね~」

 鏡花と一日が難しい顔をする。二人を見ながら、ひとり神妙な面持ちをする明姫。

「(ごまかせなかった)」

 風の流れを読める彼女は真相に気付いていたが、ここで言ったら七不思議が長引きそうで黙っていた。……一応、直人には話そうと思っていた。決してトン面ここうとしていたわけではない。

「…………今日は、とりあえず帰ろう」

 現実逃避するように告げると、二人も異議はなかったようでこくりと頷く。いよいよ暗くなってきている砂利道を早足で駆け抜ける三人。最後の最後でシリアスになったが、あの絶景を見たドキドキはそのままで、三人ともが満足そうに帰路へとついた。



 七不思議その七『遺跡』解決、というより事件発生?



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