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失敗と成功の味

作者: 宿木ミル
掲載日:2024/03/31

「食事をしていて、失敗したって思ったことはある?」


 学生食堂のお昼時。私は友達のユリと一緒に

 ユリの発言に対して、私はぼんやりと首を傾げる。


「なんで?」

「いや、食べた後に後悔することが最近増えてきたなぁって思って」

「私はそんなことはないけど……」

「えっ、ないの?」

「食べたいもの食べてるだけだし」


 なぜか困惑の表情を浮かべるユリ。

 さっきまで満足そうに食べていたから、食事の内容が気に入らなかったというわけではなさそうだけれども、なにか気がかりなことがあるのだろうか。


「最近食事で困りごとでもあったの?」

「まぁ……そんなところかも? 今日はおいしく食べれたけど」

「話なら聞くよ」

「ありがと、クルミちゃん。私の悩みは結構単純明確なの」


 ふっふっふと笑いながら、ユリが言葉を繋げる。


「定食でうぷってなる問題!」

「日替わり定食のことよね」

「状況によってしんどいんだよね」


 私たちが通っている大学の日替わり定食は安価で美味しいのが特徴的だ。

 しかし、なかなかに量が多い。唐揚げみたいな脂っこいものが出てたりすると状況によってちょっと苦しくなる。


「食べてる時は幸せなんだけどね、こう……食べ終わった後にお腹にずっしり来たタイミングでずーんってなる」

「食べた時に満足感があったならいいんじゃ?」

「それもそうなんだけどね、食べた後にコンディションが落ちたりしちゃったら、なかなか後悔しちゃう」

「午後の講義でぐったりしてることも多いのはそれが原因?」

「あはは、そうかも」


 苦笑しながら答えるユリ。

 食事はおいしく、活力を得る行動でもあるはずだ。それで体調を崩していたら元も子もない気がする。


「残すとまではいかなくても、量について相談するのはいいと思うの」

「ごはんを少なくしてもらうとか?」

「そうそう、自分の限界を試す食事って結構危険だから、控えた方がいいと思う。胃とか強くないなら特に」

「やっぱり大盛チャレンジ定食とかって危険かな」

「やらなきゃよかったってなるんだったら素直に手を出さない方がいいかも」

「そうだよね……うん、やめとこう」


 しゅんとした表情で諦める彼女。

 大盛チャレンジ定食は男子生徒の間でも苦しい表情になってる人がいたくらいのボリューミーなものだ。

 私たちが手を伸ばすのはちょっと危険な香りがする。


「チャレンジ精神は買うけど、気持ちとかに余裕があった時とかに手を伸ばしたほうがいいよ。私は辛い物を食べた時に後悔したことがある」

「どんなの?」

「カップ焼きそば系の辛いやつ」

「あぁ、真っ赤なやつ」

「そう、あれ食べたことある」

「どうだった?」

「一日中くたばってた」

「……壮絶だねぇ」

「まぁ、自分の限界を試すのはいいけど、それで苦しむのは元も子もないってことよ。しっかり辛いやつはそれに対応できる人が食べたりするといい」

「なるほど」


 納得した様子で頷くユリ。

 少しぼんやりしたのち、彼女はまた私に話を振ってきた。


「あっ、そういえばクルミちゃん。サイドメニューで悩んだことってない?」

「ポテトみたいなそういうの?」

「うん、まさしくそれ。ポテトでも悩んだことがある」

「……食べ過ぎてうぷってなった?」

「はい」

「適度に自重するべき」

「で、でも食べたくなるじゃん、ポテト」

「言いたいことはわかるけど」


 考えて、言葉を繋げる。


「ホクホク系のポテトは結構お腹に溜まりやすいから、主食きっちり食べたんならほどほどにした方がいいよ」

「うぐぅ、喫茶店でくたばりそこないになったのはそれが原因か……」

「結構量が出る場所もあるんだから、油断しない方がいいよ。食事が苦しくなったら辛いし」

「気を付けます」


 食事関連の会話はそれなりに真剣に向き合うのが私だ。

 美味しいものを美味しく食べる。それは人生をよりよくする手段のひとつでもあるのだ。


「なかなか食事って難しいかも。美味しいものを食べようって欲張っちゃうと後悔することも多いし」

「欲張るんじゃなくて、ひとつひとつ味わうように、向き合うとかいいんじゃない?」

「どういうこと?」

「人間、一日に食べられる量には限界があるでしょ? だから、後日に食べるとか、そういう選択を取るといいんじゃないかって」


 一日に色々食べたくなる気持ちもわからないでもない。

 だけれども、そうして限界以上の量を食べると間違いなく体調を崩す。

 だからこそ、自分の気持ちに向き合いながら食事を楽しむことが大切なのだ。


「明日食べようっていうやつ?」

「あのお店、美味しそうだから次行ってみようって思ったり、リピーターとして別のメニューを試してみたり。そういうちょっとした楽しみを増やすの」

「一日で味わい尽くすっていうわけじゃないのね」

「もったいないじゃない、一日で終わっちゃうなんて」


 見つめてくるユリに対して、微笑みながらそう答える。


「チョコケーキが食べたい日があれば、モンブランパイでおっとりしたい日もある。カレーを味わいたい日もあれば、唐揚げで満足したい日もある。それでいいじゃない?」

「頬張りすぎちゃうのも危険だから?」

「そう。私たちはハムスターみたいに頬を膨らませられないからね。適量食べて、ほどよく楽しく生きる。それくらいでいいじゃない」

「それもそっか! なんだかすっきりしてきた、ありがとうクルミちゃん!」

「マイペースに食事を味わって、それでも失敗しちゃったなら、それはそれでいい思い出になるはずだからね。成功、失敗も、いろんな味を楽しもうっ」

「うんっ」


 食事を楽しむ。

 日常のなにげないひとときだからこそ、大切にするべきだろう。

 些細な時間が幸せならば、きっと心も豊かになっていくはずなのだから。

 友達と談笑する時間、食事について悩んでいた彼女が笑顔になってくれて、私も心から嬉しくなった。

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