乙女ゲームの世界キタコレ!!
はじめまして
とにかく恋愛に飢えているOLを乙女ゲームの世界に飛ばしたあとがっかりさせたくて書きました。
「はぁ…」
満員電車に揺られ、残業3時間は当たり前の仕事をこなし、帰ったら帰ったで毎晩一人酒、たまに来る電話は親からの孫の顔が見たいという内容。
「孫の前に彼氏すら出来たことないっていうのにどうしろっていうのよまったく。」
こうやって愚痴をこぼすのももう何度目、いや何十度目であろうか。しかし彼氏が欲しいのは確かで恋愛をしたいとは思っている。そう思いはするが行動するまでには結びつかず、趣味の乙女ゲームに熱意を注いで満足してしまう日常である。
「あっ、食パン切れてるんだった買いにいかなきゃ。」
朝食用の食パンがなくなっていることに気づき、コンビニへ向かうことにする。時刻はテッペンを回っているし酔いも回っているので本当は行きたくないのだが、朝食に食パンを食べることが一人暮らしをしてからのルーティンとなっているので仕方ない。
「おっと、流石に夜中に寝巻きは寒いな…」
ジェラなんちゃらとかいうパジャマだったらこんな寒空でもあったかいのかな、などと考えながら歩いている時だっ
た。
「あっ、やば」
酔が回っていたせいか、段差に足をもっていかれ盛大に顔面からコンクリートに打ち付けたーー。
「いった!!…くない。ていうかここ、どこ?」
地面に頭をぶつけたと思ったら目の前が天井になっていることは生まれて初めてのことである。そして自分の声が酒やけをしていないことに気づいた。
「声が若いぞ…?声が若いぞ私!!喉でもぶつけたのかな。それにしてもホントにここはどこなんだろう。」
辺りを見回してみると、どうやら自分の住んでいた部屋ではないことは分かった。広さはさほど変わらないがなんというか全体的に若い、今の若い女の子の部屋という感じだ。この部屋の雰囲気をどこかで見たことがあるような気がする。
「もしかして!」
そう言うやいなやベッドから起きクローゼットを開ける。
「やっぱり!高校の制服!てことは…」
今度はカーテンを開けて外を見てみる、外はオレンジ色になっており、先程見た制服と同じものを着た人たちが歩いている。おそらく下校なのだろう。いや、それよりも…
「ピンク、白、金に銀、この髪色…やっぱりここは!乙女ゲームの世界なんじゃ!!」
何十、何百という乙女ゲームをプレイしている自分には分かる。雰囲気。そうこの雰囲気が乙女ゲームの世界なのだ。
おそらくこの声も自分が高校生になったからであろう。
「もしかして異世界転生っていうやつ…?ホントに乙女ゲームの世界だとしたら私は今から恋に生きれるっていうこと…?嬉しすぎるんだけど!!」
嬉しい。久しぶりに心からこんなにも喜べている。
「これからどうすればいいんだろ。乙女ゲームだったら最初は引っ越してきた、とかがベタよね。なにか情報が分かるものはないかしら。」
そう言って辺りを細かく探すと机の上に日記と生徒証のようなものが置いてあることに気づいた。他に手がかりもなさそうなのでそれを見てみることにした。
「なにこれ、なんか変…」
生徒証の顔の部分は白くモヤがかかっており、名前の部分は空白。日記には明らかに時分と同じ筆跡で文字が書かれていた。書いた記憶はもちろん無い。
「『5月5日 引っ越しの荷物解き完了っ!いよいよ明日からは転向生頑張って彼氏つくっちゃうぞっ!』か、なるほどそういう設定ね、いやそれにしてもこの日記の私キツいわね。日記でこんなキャピキャピできないわよ普通。」
一度椅子に座り考える。
「っていうか明日!?もう明日学校なの?結局何すればいいのか分からないじゃない!!」
「ヴー ヴー」
先程のベッドにあったらしいスマホが突然鳴り出した。この世界にもスマホがあったことに少し喜びつつ手に取る。
「メールだ、なになに『あなたの名前とあだ名を入力してください』と、なるほど。このスマホが私の行動を指示してくれる感じなのね。そして名前か…」
いつもは本名でプレイしているのだが、せっかくの異世界転生というのなら本名は避けたい。
「そうだなぁ、よし『沢城 桜』で、あだ名は…『さっちゃん』にしよう。」
名字は昔から気に入っていたのでもともとのものを使ったが名前は季節を変えた名前にしてみた。あだ名はもともと呼ばれたこともないのでそれっぽいものにしてみた。
入力完了ボタンを押した直後机の上が光った。
「え、なに?!光った!?」
驚いてすぐさま見に行くと先程の生徒証に名前が『沢城 桜』と印刷されている。さらにその隣の日記には『今日は明日に備えてもう寝よっ!』と書き込まれていた。
「どういう仕組みなのよこれ、それに『もう寝よ』って、これ多分1日の活動を終えるときのやつよね多分。日記は1日の終わりとセーブを兼ねてるのかしら。とにかく今は従うしかないのかな。」
とりあえず他にできることもなさそうなのでベッドに横たわる。
「それにしても乙女ゲームかぁ、どの乙女ゲームのせかいなんだろ。やっぱり『ムキムキメモリー』とか『アンケクリック』とかがいいわね。明日が楽しみだなぁ、どんなイケメンと出会えるのかしら……。」
いい笑顔で眠りについたこのときの私は知らなかった。
まさか私が異世界転生した乙女ゲームがただの乙女ゲームではなかったことにーー。
ここだけの話さっちゃんの好きなタイプはキムタクだそうです。