78話 命だけはお助けを!
「なぁ、みんな。どうすればいいと思う?」
俺はそう相談した。
暴食竜フレイムドラゴン。
素材は高く売れるし、討伐により冒険者ランクは上がるし、何より存在自体が危険だし。
撃破した時点で、トドメを刺す以外の選択肢はないはずだった。
だが、フレイムドラゴンは人化の術で少女の姿になってしまったのだ。
それも、赤い髪が似合う、ひ弱そうな美少女である。
元男で美少女好きな俺としては、トドメを差しにくい相手だ。
「お、お願いしますっ! 殺さないでください!!」
少女は怯えきっており、俺に対して従順な態度を見せている。
俺の判断一つ次第という感じなのだ。
「ふぅむ。カエデの好きにすればよかろう」
ユーリはそんなことを言う。
彼女も人化した存在であり、元は世界樹の精霊だ。
フレイムドラゴンは人間にとって危険な存在なのだが、ユーリからすればさほど興味はないといったところか。
「無抵抗の相手を斬るのは忍びないでござるな」
「そうですわね。しかし、またドラゴンの形態になって暴れたりすれば、甚大な被害が出る可能性もあります」
桜とエリスがそう言う。
前から思っていたんだが、桜は侍っぽい。
いわゆる武士道というやつだろうか。
弱きを助け強きを挫く、みたいな?
対してエリスは、貴族様ってイメージ。
自分や仲間のことだけじゃなくて、周辺の町に対する影響も考えている。
「うーん。それなら、こういうのはどうでしょう」
「おっ? 何か案があるのか? アイシア」
「はい。要は暴れなければいいのです。その子に、今後は暴れて人間に迷惑をかけないと誓わせて――」
「はいっ! 誓います! 森の奥でひっそりと暮らしますっ! だから命だけはお助けを!!」
アイシアの言葉に対して、食い気味の返事をする少女。
わずかに見えた生への活路を逃したくないといったところか。
相変わらず、俺に対してはビクビクしているのだが。
なんで俺に対してだけ、そんなにビビっているのだろう?
「でもなぁ。信じられるかな? また暴れて人が死んだりすれば、罪の意識を感じそうだなぁ」
黙っていれば、俺たちがフレイムドラゴンを見逃したことは冒険者ギルドや町に住民にはバレない。
だがそれはそれとして、俺たちは罪の意識を感じることになるだろう。
あの時フレイムドラゴンを見逃さなければこんなことには……、みたいな感じだ。
「それに、せっかく撃破したのに報酬金もランク査定も無しかぁ」
元々、降って湧いたようにして得たチートの猫耳装備だ。
それを活かして得た金や名声に、過剰に拘るつもりはない。
だが、結構危ない目にあって何の成果もなしでは、さすがにちょっと残念である。
俺は思わず、そんなことを考えたのだった。